夜9時、居酒屋の扉が開かれた。
四葉「ごめん、お待たせ」
一花「待ってたよー」
三玖「隣空いてる」
二乃「私たちもさっき集まったところよ」
四葉「そうなんだ。一花が急に外で集まろうなんて言うから急いで来たけど間に合ってよかったよ。五月は?」
一花「五月ちゃんならあそこ」
四葉「わー、本当に男の人と一緒にいる」
三玖「やっぱり四葉も知らない人なんだ」
四葉「うん、初めて見るよ。やっぱりデートなのかな」
一花「こんな現場に遭遇しちゃったら、もう私たちがすべきことなんて一つしかないじゃない?」
四葉「そっか。私が風太郎と初めてデートした時もこうやって見守ってくれてたんだよね……今回も五月のことを見守ってあげて、あわよくば──」
一花・二乃・三玖「あわよくばデートをぶっ潰す」
四葉「やらせないよ!?」
四葉「三人とも何考えてるのさ! 姉妹の幸せは五等分じゃなかったの!?」
三玖「幸せを独り占めした分際で……」
四葉「姉妹の口から分際って言葉を自分に向けられると思ってなかったよ。え、三玖もしかして私の事嫌い……?」
二乃「冗談よ。いくら何でも本気でそんなことするわけないじゃない」
三玖「私たちだってそこまでじゃない」
四葉「そ、そうだよね。一瞬信じそうになっちゃったよ、びっくりしたぁ。一花も本気じゃないよね?」
一花「……」
四葉「なんか言いなよ」
一花「も、もちろん! 邪魔なんてするわけないない!」
二乃・三玖「……」
一花「二人もその目は何かな!?」
二乃「まあいいわ。いざとなれば私たちで止めればいいわけだし」
四葉「まあ何かあっても姉妹の絆は私が守るよ」
三玖「ねえ、五月達の方見て」
四葉「あれ、男の人が席立っちゃった」
二乃「やけに慌ててる様子ね」
一花「こっち来るよ! 顔伏せて」
男性「もしもし柴田です。お疲れ様です……はい、はい……」スタスタ
一花「あっぶなー、真横を通られたからバレたかと思ったけど、大丈夫だったみたいだね」
二乃「電話、職場からかしら」
三玖「あの感じだともしかしたらトラブルかも」
四葉「だとしたら戻って来るなりお開きになるんじゃないの!? せっかくのデートなのに!」
一花「ちょっと私様子見てくるよ」
二乃「見つかるんじゃないわよ」
一花「任せて」
~数分後~
二乃「一花から連絡だわ」
ロケ地札幌ってバレるわよ
二乃「五月」
五月「二乃? それに三玖と四葉まで、なんでここにいるの?」
三玖「あの男の人誰?」
五月「……もしかして覗いてたの? あまり褒められた趣味じゃないよ」
四葉「あはは、ごめん」
一花「お待たせー。あ、五月ちゃんともう合流してるんだ」
五月「呆れた。一花までいるんだね。女優がパパラッチみたいなことをしないでよ」
一花「ふふん、女優だって他人様の色恋は気になるのだ」
五月「自分は無縁なのにね」
一花「なんでそんな切れ味鋭いこと言うの……? もしかして怒ってます……?」
五月「それに、このタイミングであなた達が顔を出してきたってことは……」
三玖「五月と一緒にいた人、帰っちゃったって」
五月「やっぱり。結構焦ってたからなー」
三玖「それで?」
五月「それでって?」
三玖「付き合ってるの?」
五月「ただの職場の同僚だよ」
四葉「なーんだ。てっきり五月にも春が来たと思ったのに──二乃どうしたの?」
二乃「ただの職場の同僚と、二人っきりで居酒屋……妙だわ」
四葉「急に探偵物かなんか始まった?」
二乃「私と三玖は男の同僚なんてものとは無縁だから、ここは経験豊富な一花さん、どうでしょうか?」
一花「好きでしょうね、間違いなく」
二乃「やっぱり……! どうしてこうなっちゃったかなぁ……!」
五月「勝手に決めつけないで」
四葉「今のやり取りすっごい覚えがあるんだけど、バラしたのは誰かな?」
三玖「四葉地味にキレてない?」
四葉「今日の五月のことといい、最近五つ子の間でプライバシーってものが無い気がするの!」
五月「そういう四葉も今日来てるよね」
四葉「それは、まあ?」
五月「何がまあなの」
店員「お待たせしましたー。生ビールと白桃サワーに、グレープフルーツサワーとシャンディガフです。失礼しまーす」
五月「注文いつの間にしてたんだ」
一花「元々向こうの席で頼んであった奴だよ。戻ってくる時店員さんに話して席まとめてもらったんだ」
五月「私に相談は? 勝手すぎない?」
一花「さて二乃刑事、事情聴取を始めようか」
三玖「一花本気で演技してない?」
二乃「自分で始めたノリだけど何か恥ずかしくなってきたわ」
五月「さっきから私のクレームことごとく無視されてるんだけど。え、私が話す時だけみんな聴力失うの?」
二乃「結局、あの男の人とはどういう話してたのよ」
五月「別に大した話じゃないよ」
一花「大した話じゃないなら話せるでしょ」
五月「なんでそんな興味津々かな……本当に普通の話だよ。生徒の情報交換とか、仕事の愚痴とか」
三玖「それだけ?」
五月「後は、産婦人科行かないとね、とか」
一花・二乃・三玖「は?」
四葉「?」
二乃「一花と三玖集合!」
四葉「私も待機なんだ」
三玖「男の人と二人っきりの会話で出てきた話ってことは、そういうことだよね……デ、デキちゃった、とかなのかな……」
二乃「五月ったらいつの間に……! ……あれ? こういうのに一番うるさそうなのが静かだけど。いちかー?」
一花「サンフジン科って……へー、最近の高校ではそんな学科ができたんだねー。サンって太陽のことだよね、天文学とかかなー」
二乃「あんた……ショックのあまり正気を……!」
三玖「壊れちゃった」
二乃「と、とにかく、いくらなんでも私達の勘違いの可能性もあるわ。確認してみないと」
五月「一花達は何を話してるんだろうね」
四葉「さぁ……そうだ五月、さっきの話だけど婦人科なんて何の用があるの?」
五月「健康診断でちょっとひっかかっちゃってさ。それで色々他にも調べられるところは調べとこうかなって。ほら、お母さんも病気でいなくなっちゃったわけだし」
四葉「あれは私達のために頑張り過ぎただけな気がするけど」
五月「でも調べて安心できるならいいじゃん? それで、乳がんの検診も受けておこうかと──」
四葉「それ外科だよ」
五月「え?」
四葉「検診受けるなら外科。楓を産む時に念のため私も受けたけど、同じ勘違いしてたや」
五月「そうだったんだ。おかげで恥をかかなくて済んだよ。四葉ありがとね」
二乃「お、お待たせ―」
五月「おかえり。何話してたの?」
三玖「ちょっとね……ところで五月、さっきの話だけど」
五月「うん」
三玖「その、病院の話はどういう流れで、その、出てきたの?」
五月「今四葉にも説明したばっかりなんだけど」
三玖「大事な話だから、五月の口から聞きたい」
五月「それがね、この前分かったことなんだけど私、(健康診断で)当たっちゃったみたいでさ」
四葉「五月?」
三玖「あたっ……!?」
一花「コヒュッ……!」
二乃「一花しっかり息して!」
五月「これでも結構(健康には)気をつけてたんだけどなぁ」
三玖「へ、へー……五月もいつの間に……それをあの人に相談してたってことは、やっぱりあの人が原因なの……?」
五月「ううん、全然違うよ。だからあの人はただの仕事仲間だって。原因の方は……よく分からないんだよねぇ」
四葉「五月?」
二乃「……よく分からないってあんた、もっと自分の体を大切にしなさいよ!?」
五月「気を付けてたって言ってるでしょ?」
三玖「五月、これからどうするの?」
五月「なっちゃったことは仕方ないから、何とかするよ」
二乃「あんた……! いくらなんでもいい加減過ぎじゃ──」
四葉「待って二乃!」
二乃「何よ!」
四葉「一花が……!」
二乃「え?」
一花「……ヒク……ヒック……!」ボロボロ
三玖「……マジ泣き」
五月「ちょっと、どうして一花泣いてるの!?」
一花「だって……だってぇ……五月ちゃんがいつの間にそんな風になっちゃったなんて……私達、お母さんに顔向けできないよ……!」
五月「──」
一花「ちゃんとした人と幸せになるなら私もおバカなことして賑やかしてあげられるけど、こんなことになったら……!」
四葉「泣かないで一花……五月、ちょっとやり過ぎだよ」
五月「……」
四葉「誤解してるの分かってて、わざとらしい言葉選んで話したでしょ」
一花「……え?」
四葉「これ以上おイタするなら、お姉ちゃんとして怒ります」
五月「……ごめんなさい」
二乃「健康診断って何よもう……驚かせないでよ」
三玖「寿命、三年くらい縮まったかも」
一花「五月ちゃん、本当に嘘なんだよね? 誤魔化してないよね?」
五月「本当に本当だよ。あなた達がここに来てから勝手に振舞ってばかりで少しやり返そうと思っただけなの……ごめんなさい」
一花「よかったぁ……!」
四葉「それにしても安心したよ。一花もいざとなったらちゃんと姉妹のことを心配してくれるってわかったから」
一花「あはは、お見苦しいところをお見せしました」
三玖「そんなことない、見直した」
二乃「そうね。最近のあんたときたら酒飲んでるかフラれて凹んでるかのどっちかのイメージだったしね」
一花「私そんな風に見られてたんだ。これでも現場ではクールビューティで通ってるんだけど?」
三玖「この前バラエティでひな壇に座ってなかった? 芸人に転向したのかと思った」
一花「三玖ー? そういうのは偏向報道って言うんだよー?」
五月「ちょっと違う気がするけど、まあいいよ。仕返しのつもりだったけど今日はやり過ぎちゃったし、一花、一杯奢らせて」
一花「お、なになに五月ちゃんったらしおらしくなっちゃって。これは泣いた甲斐があったってものですなぁ」
五月「もう、からかわないで! ほら、グラス空いてるよ。早く決めて。二乃達も、ついでなら一緒に頼んじゃって──」
(一花のウィッグを付けた)二乃「五月ちゃん、ゴチになりまーす。私カルーアミルクで」
(一花のウィッグを付けた)三玖「私は抹茶サワー」
(一花のウィッグを付けた)四葉「そ、それじゃあ私は黒霧島のボトルを……!」
五月「図々しすぎるでしょ!?」