夜11時、中野家の扉が開かれた。
風太郎「ただいま」
一花「フータロー君おかえりー」
五月「お帰りなさい。上杉君」
風太郎「お前たちだけか?」
五月「ええ、他のみんなはもう寝ています」
風太郎「そうか」
一花「私たち今、一杯やってたんだけどさ。よかったらフータロー君もどう?」
風太郎「俺は四葉に止められてんの知ってんだろ。断る」
五月「まあそう言わずに。飲んだらどうなるかは一花も私ももう知ってるし、間違えたとしても怒らないよ」
風太郎「バレたら俺が後で四葉に殺されるんだよ……」
一花「その時になったら私たちが庇ってあげるから」
風太郎「やけに勧めてくるな。なんか企んでんじゃねえだろうな?」
一花「企んでなんていないよ……三玖はまあ、もしかしたらしないかもだけど」
風太郎「どうだかな。最近のお前らの醜態は四葉から聞いてるからな」
一花「…………」ガタッ
風太郎「どうした一花、急に二階に上がり始めて。寝るのか?」
五月「待って一花! いずれはバレてたことだよ! だから暴力はいけない!」
風太郎「本当にどうした!?」
一花「離して五月ちゃん。これは長女の沽券に関わる問題なんだよ!」
五月「元々無いようなものでしょ!」
一花「…………クスン」
五月「一花のマジ泣き最近も見た気がするけど、何か今日は謝る気になれないかも」
風太郎「いや明らかにお前の失言だろ。俺だってわかるぞ」
五月「あなたは事情を知ってるだけで普段姉妹がどういう会話をしてるか知らないから適当なこと言えるんだよ」
一花「フータローく〜ん! 五月ちゃんが苛める〜!」
風太郎「やっぱりこいつ庇わなくていい気がしてきたぞ」
一花「最近の五月ちゃんったらほんっっっっっとに辛辣なんだよ!?」
風太郎「思ったより大分本気の言い方だな。事情が変わってきた」
一花「何だったらもうフータロー君は喋らなくてもいいからとにかく私の愚痴を聞いてよ!?」
風太郎「面倒くさいやつ出てきたな」
五月「これが今の一花の平常運転だよ。どうする? 本当に付き合ってくれる?」
風太郎「ちょっとだけな」
一花「やった!」
五月「何飲む? 取ってくるよ」
風太郎「あれあったろ、スミノフの小さいやつ。あれでいい」
一花「フータロー君意外とお酒はお洒落なの飲むよね」
風太郎「カクテルは甘いから飲みやすいんだよ」
一花「お、二乃が聞いたら喜びそう。フータロー君1ポイント」
風太郎「何のポイントだよ……それに俺は苦いのが苦手なだけだ。ビールなんてもってのほかだ」
一花「この一口目に喉を通る時の爽快感がわからないとは、まだまだお子ちゃまですなぁ」
五月「ほんと一花ってオヤジくさくなったよね──はい、言われたの持ってきたよ」
風太郎「サンキュ。俺も同じこと思った。うちの古株のオッサンが同じこと言ってたし」
一花「ビールなんて嫌いです。私が大好きなのはカルーアミルクとか甘くてお洒落なやつです」
五月「じゃあ一花は今後ビール禁止で。買い置きも今後はやめとくね」
一花「…………」ブルブル
五月「多分今後のビールがない日々を心配してのフリなんだろうけど、一花がそれやると禁断症状っぽいね」
一花「ねえ本当に五月ちゃんのこと嫌いになりそうなんだけど」
風太郎「とにかく飲もうぜ。ほら、乾杯」
一花「かんぱーい!」
五月「乾杯」
一花「カーッ、たまらんですなぁ!」
風太郎(親父が酒飲む時同じようなリアクションとってること黙っといてやった方がいいんだろうな)
一花「フータロー君とうちでこんな風に飲む日が来るとは思いもしなかったよ」
五月「本当にね。泊まっていったことは何度もあったけど、まさか一緒に住むことになるなんてね」
風太郎「部屋を空け渡してくれたお義父さんにも感謝しないとな」
五月「元々ほとんど使ってなかった部屋だから、荷造りもすぐに終わったけどね」
風太郎「そういう話じゃない。そもそもここに住むことを許してくれたこと自体を言ってるんだ。代わりにあの人、今は実家に戻ってるんだろ?」
一花「おばあちゃんたちの家もこの辺だからね」
五月「お父さんの判断は私も少し意外だったけど、上杉君にも何も言わなかったの?」
風太郎「あー、会話するにはしたけど」
一花「どんなこと?」
風太郎「『四葉と楓を上杉のところにいさせるくらいなら君を迎え入れる方がマシだ』だってよ」
一花「本当に仲悪いね、お父さんたち」
五月「あれはもう様式美みたいなものでしょ」
風太郎「正直俺もそう思う。何だかんだ顔合わせれば憎まれ口を叩き合いながらも話してるしな。それより意外なのは楓と別々で暮らすことを許容したことだ」
五月「四葉があなたの実家に行くことになれば必然的に楓ちゃんもついていくわけだし、意外とあの子私たちにも懐いてくれてるから。私たちから引き離すよりも自分一人が身を引いた方がいいと思ったんだと思う」
風太郎「……今度もう一度礼を言っておく」
一花「素直には認めないと思うけどねー。ところでさフータロー君」
風太郎「ん?」
一花「そろそろ大丈夫?」
風太郎「何がだ?」
一花「出張版五つ子クーイズ! 私は誰でしょーか?」
風太郎「……三玖」
五月「なんでここにいない子の名前が出るの……」
一花「わー、本当に見分けつかなくなるんだ。というか昔だって見分けつかなかったけどアクセサリーとかで見分けてたじゃん。私と五月ちゃんはそんなにかわってないしできるんじゃないの?」
風太郎「そういえばそうだな。ナイスアイデアだ五月」
一花「何も解決してない!」
五月「これはもうなんだか、わざとやってるか不思議な力が働いてるとしか思えないんだけど」
一花「一応聞くけどフータロー君にはどういう風に私たちが見えてるの?」
風太郎「全員同じ」
一花「うわ最悪」
五月「愛のカケラもないね……コホン、風太郎、離婚しようか」
一花「ちょいちょいちょい、飲ましても何も企まないって先に約束したじゃん?」
五月「ジョークだよ」
一花「目が本気だったんだけど?」
風太郎「確かに、お前の言う通り本当に直した方がいいよな」
一花「いいんじゃないかな。今までフータロー君にはお世話になりっぱなしだったんだし、これくらいの迷惑かけられても困らないよ」
五月「本音は?」
一花「新しいオモチャ見つけたし今後なんか面白そうなことが起きそうだからそのままにしておきたい」
五月「だって」
風太郎「お前も中々にオモチャにされてないか……?」
一花「ヤダッ、フータロー君……私のことオモチャにしたいだなんて……!」
五月「四葉ー? 起きてるー?」
一花「ちょいちょいちょい、『今夜は寝かさねえぜ』の内訳が殺伐としたのに変わっちゃうからストップ」
五月「被害者候補なのに凄い落ち着いてるね」
風太郎「前から薄々思ってたんだが四葉の立ち位置どうなってんだ?」
五月「二乃風に言わせるなら『ドメスティックなかのじ──」
一花「それもストップ!」
風太郎「…………」
五月「とにかく、四葉を不安にさせるようなことはしないこと」
風太郎「最初っから気をつけてるよ。俺は四葉一筋だからな」
五月「…………」
一花「はー、人生クソですなー」
風太郎「お前はめちゃくちゃ成功してる側だろ」
一花「芸能界知らない素人は黙っておれ……気晴らしに姉妹がこっそり影でこっそりやってるネット活動でもバラしちゃおうかなー」
五月「ななな何のことです。そんなことやってる子がいるんですね。全然ししし知りませんでした」
風太郎「わかりやす過ぎるだろ。というかM・A・Yって未だに秘密にしてるのか? 二乃と四葉にはバレてるのに」
五月「上杉君! シーッ、シーッ!」
一花「何それ」
五月「え、知らないの?」
一花「私が言ってるのはこれだよ」スマホポチー
風太郎「…………」
五月「…………」
一花「たまに話聞いてるけど結構おもしろ──」
五月「上杉君。これは見なかったことにしましょう。一花も。後チャンネル登録は解除して、痕跡は全て消しましょう」
一花「五月ちゃん、え、何々どうしたの?」
五月「あなた今日は飲み過ぎです」
風太郎「いやでも前から知ってるってことは素面でも見てるってことだよなコイツ……マジで人のことオモチャと思ってんじゃねえのかな……俺、一花のこと本気で怖いと思ったの初めてかもしれねえ」
一花「ねー、どういうことー?」
こう言うギャグ少なめでゆるーく会話だけで過ごすの、どうでしょうか。