夜7時、上杉家の扉が開かれた
勇也「おかえり。風太郎」
風太郎「ただいま。親父が待ってたのは俺じゃないだろ」
勇也「そんなことねえぞ。よく帰ってきたな」
風太郎「調子いいな……ったく。ほら、入れよ」
四葉「た、ただいまです」
楓「……こんばんわ」
勇也「おう、四葉ちゃんと楓もおかえり」
風太郎「四葉、お前時々うちに来てるんだろ。今更なに恥ずかしがってるんだ?」
四葉「風太郎の前でお義父さんに"ただいま"っていうの久しぶりなんだもん……緊張するよ」
風太郎「そんなこといちいち気にしなくていいだろ」
らいは「お父さんお風呂の掃除も終わったよー、あ、四葉さんに楓ちゃん来てたんだ! おかえりなさい!」
四葉「らいはちゃん久しぶり元気してたー!?」
らいは「四葉さん嬉しいけど苦しいよー。元気してたよー」
四葉「は!? ごめんつい力いっぱい抱きしめちゃった。本当に久しぶりだったからつい……最後に会ったのらいはちゃんの結婚式以来だよね」
らいは「ほんの一ヶ月くらい前だよー」
四葉「なんだかんだ下のお店で週一くらいで顔を合わせてたから、一ヶ月でも久しぶりだって。どうかな、向こうでは仲良くやれてる?」
らいは「うん! お兄ちゃんたちに負けないくらいラブラブだよー」
風太郎「今日はお前の旦那は来てないのか?」
らいは「お仕事が忙しいんだって」
勇也「けっ! あんないけ好かない野郎なんざ来なくていいっつーの」
風太郎「親父……お義父さんみたいになってるぞ」
勇也「今ならアイツの気持ちが痛いほどよくわかるよ。アイツにはお前にもっと厳しく当たらせてもいいかもな」
風太郎「勘弁してくれ……この前の傷だってまだ癒えてないんだ……」
らいは「この前のって?」
四葉「風太郎ってば日本に帰ってきてすぐの頃、楓に忘れられちゃってたんだ。そのことでお父さんにマウント取られたみたいで」
らいは「信じらんない! 娘に忘れられる父親なんて普通いる!?」
風太郎「ぐっ……!!」
四葉「そ、そんなに責めないであげてっ。原因の半分くらいはうちの姉妹達にあるようなもんだから」
らいは「あー……確かに喪女街道を爆進してる今の五月さんたちをお兄ちゃんに会わせないようにしてたら電話もできないよねぇ……」
四葉「うん、わかってくれて助かるけどそれ本人たちの前では絶対言わないであげてね。下手するとその場で絶命しちゃう子出るかもだから」
楓「もじょ……? もじゃもじゃ?」
四葉「楓も今の話は忘れようねー? ママと約束だよー」
らいは「それでお兄ちゃんは楓ちゃんにはちゃんと覚えて貰えたのかな」
風太郎「ああ、まあ……一応」
らいは「何その煮え切らない返事。楓ちゃん、このおじさん誰かわかるー?」
風太郎「おじさんって言うのやめろ。割とガチで気にし始めてきてるんだ」
四葉「二乃みたいなこと言ってる……」
楓「ふーたろー、かえでのパパ。ちゃんとおぼえてる」
らいは「名前呼びさせてるの……? きも」
風太郎「ら、らいは……? 兄に向かってその言い方は辛辣すぎないか……?」
勇也「小学生の頃は純粋だったのにどんどんマセやがって……」
風太郎「いや、思い出してみると言い方がマイルドだっただけで割と昔から辛辣だったような」
四葉「五月以外みんな下の名前で呼ぶから楓も移っちゃったみたいなんだよね」
らいは「楓ちゃんに悪影響出始めてるなら本格的に何とかした方がいいんじゃないかな、あの人たち」
四葉「まあ楓の名前呼びもこれはこれで可愛いからオッケーってことで」
らいは「姉妹に甘いのかバカップルなのか親バカなのか区別つかないんだけど」
勇也「というかそろそろ飯にしねえか? いつまで突っ立ったまま話してるんだ」
風太郎「そうだな。もう出来てるみたいだし後は盛り付けるだけだろ。手伝うぞ」
四葉「風太郎は座ってて! 男子厨房に入るべからずだよ!」
風太郎「入るなっつってもうちは居間と台所繋がってるじゃねえか」
らいは「つべこべ言わないの。今日はやってあげるから座ってて。あ、でも日頃から四葉さんに任せっきりのダメな旦那さんになっちゃダメだからね」
風太郎「向こうで三年独り暮らししてたんだ。俺の生活力を甘くみんなよ」
らいは「はいはい」
四葉「楓を見てあげててね」
風太郎「わかったよ」
〜数分後〜
らいは「お待たせ。上杉家特製カレーだよ!」
風太郎「…………」
四葉「風太郎どうしたの?」
風太郎「らいはのカレー、マジで久しぶりだからちょっと泣けてきた……」
勇也「わかるぞ。俺も一ヶ月ぶりなだけでちょっと目元にきてる」
四葉「そんなことで大袈裟な……」
らいは「本当だよ。うちの男達はほんとダメなんだから……ねー楓ちゃん」
楓「ふーたろー、嬉しいの? なら楓も嬉しい」
風太郎「うぐぅ……! 俺、今本気で幸せ噛み締めてるかもしれねえ……!」
四葉「男泣き……まぁ三年ぶりの実家での夜ご飯だもんね。いつもお疲れ様。今日くらいゆっくりしてね」
勇也「四葉ちゃんも本当に良い奥さんになったな……」
一階、喫茶『なかの』にて
五月「カレーの匂いしてきましたね……四葉達ご飯食べ始めたんでしょうか……」
一花「カレーといえば林間学校で学校のみんなとも作ったよね……楽しかったなぁ……」
二乃「あんた達わざわざうちの店に来てお通夜みたいな空気になるのやめてくれない? 迷惑なんだけど」
五月「いいじゃないですか、どうせ今日は私たちが来なくたってそこに──」
三玖「上はあんなに楽しそうなのに、なんで私仕事してるんだろ……」
五月「もうすでにジメジメしてるのが一人いるんですから……」
二乃「だからこれ以上湿度上げるなっつってんのよ。それに五月、あんたこういう時この子達をお尻を引っ叩く側でしょ? なんで今日に限ってそっち側なのよ?」
五月「私だって普段本当は抑えてるんですよ? それなのに今日は私だって一ヶ月も食べられてないらいはちゃんのカレーまであるっていうんですから流石にやってられないです……」
一花「五月ちゃんは色気より食い気か……」
三玖「花より団子……」
五月「ぶち〇しますよ……?」
二乃「ああもう情緒おかしくなってるじゃない。とりあえずその暗い話し方やめる。五月も昔の口調にわざと戻してネガティブに浸らないの」
五月「……もう、しょうがないな。逆に二乃はなんでそんなに冷静なの?」
二乃「私まで挫けたらいよいよ店の中にカビが生えそうだからよ」
三玖「いいじゃん……」
二乃「いいわけあるか」
一花「でも今日は他のお客さんいなくて良かったよー」
二乃「全然良くないし、もしにいたらあんた達今日は出禁よ」
一花「ひどい! 姉妹を出禁にするなんて!」
五月「とりあえず何か食べませんか。お腹減ってるから考えがネガティブになるのは結構信憑性のある話なんですから」
三玖「そう言って本当はご飯食べたいだけじゃないの?」
五月「ぶち殺しますよ?」
二乃「伏字取れてる取れてる」
一花「というか普段なら絶対しない言葉遣いだし、なにげに五月ちゃんの地雷が見えたかも」
五月「とりあえず何かもらえないかな? ちゃんと料金払うから」
二乃「軽食しかうち出してないわよ? 夕飯にはちょっと足りないんじゃないかしら」
三玖「第一今日はフータロー達の幸せオーラに当てられるの分かってたのになんでうちの店に来たの?」
一花「私は五月ちゃんに誘われただけだよ」
五月「やむを得ぬ事情があったんだよ……」
二乃「どうせ下で騒いでたら前みたいに誰かが注意しに来るだろうから、そのままどさくさに紛れてお邪魔しようって魂胆でしょ?」
五月「当てるのやめてもらえません!?」
三玖「意地汚い」
一花「つまり私は利用されたってわけか、なるほどねー。三玖ー?」
三玖「分かってる。一花の分は五月にツケとく」
五月「なんでですか!?」
二乃「あんたこの前も悪ふざけが過ぎて同じようなことあったのに、学習しないわね」
三玖「というわけでお待たせ。とりあえずサンドイッチ用意したよ」
五月「うぅ……せっかくのご飯なのに今の流れだと素直に喜べないんだけど……」
二乃「ていうかさ、そんなにらいはちゃんのカレーが食べたいなら一緒に行きたいって言えばよかったんじゃないのかしら?」
五月「……」
二乃「え、なによその顔」
一花「一応上杉家の集まりなんだし、それは流石に」
三玖「厚かましい」
二乃「なんで私が非常識扱いされなきゃいけないのよ!?」
カランカラン
風太郎「お前らうるせえぞ。下で騒ぐならこっち来いよ」
二乃「あ、ごめんフー君」
三玖「やっぱりフータロー来た」
五月「やはり上の人たちを呼び出すなら──」
一花「二乃を騒がせるのが一番だよね」
二乃「は? 私いつの間に利用されてたの? ていうかいつから結託してたの?」
風太郎「何の話だ?」
五月「何でもないよ。というわけで上杉君からも許可が出たのでお邪魔しまーす!」