中野家if ~アナザーエイジストーリー~   作:真樹

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合コン帰り

 午後八時ちょっと前。居酒屋前にて。

 

女子「二乃ー! 今日の合コン急に呼んだのに来てくれてありがとねっ! 人足らなかったからマジ感謝!」

 

二乃「別にいいわよ。どうせいつも暇してるだけだし。専門校時代からのよしみだもの。いつでも付き合うわ」

 

女子「一緒に働いてる妹さん? も快く送り出してくれたみたいだし、ほんとこんなに優しいのに何で二乃達って彼氏できないんだろうねー?」

 

二乃「私が知りたいくらいよ。ま、それも今日で最後にしてやるわ」

 

女子「他のみんなはもう中入ってるらしいから、もうこのままお店入っちゃお」

 

 カランカラン

 

店員「いらっしゃいませー!」

 

女子「十人で予約の山本ですけど」

 

店員「山本さまですねー! お連れ様が中でお待ちですのでどうぞー!」

 

二乃「さて、良い人いるかしら」

 

女子「二乃面食いだもんねー。あ、ここの和室っぽい個室みたいだね。いい? 開けるよ?」

 

二乃「いつでも」

 

 ガラガラ

 

二乃「(ニコニコ)すみません遅くなりました中野二乃でーす! 職業はパティシエ! 姉はなんとあの女優の────」

 

 

風太郎「────」

 

 

二乃「…………ちょっと面貸せやコラ」ニッコリ

 

 

 

 

 

 午後九時。スイーツショップ『REVIVAL』にて

 

二乃「店長ー、お酒ー」

 

店長「あのさ二乃ちゃん。久しぶりに顔を出してくれたのは嬉しいんだけど来る場所間違えてないかい? ここケーキ屋だよ?」

 

風太郎「カウンター席なんて作られたんですね、ここ……」

 

店長「飲み会から連れ出されたんだって? 上杉君も災難だね」

 

二乃「一番高いやつでいいからー」

 

店長「ただいまご用意いたします。少々お待ちください」

 

風太郎「変わり身はええな」

 

店長「処世術と呼んでくれたまえ」

 

二乃「後、隣の彼にツケといてー」

 

風太郎「あの二乃さん本当にすいませんでした心から反省しているのでそれだけは」

 

二乃「なら四葉に言いつけてやろうかしら」

 

風太郎「それも何卒ご勘弁を……!」

 

店長「上杉君。タラシの君のことだから、いつかはやると思ってたよ」

 

風太郎「知り合いに犯罪者が出た時のインタビューみたいな言い方しないでくれます!?」

 

二乃「所帯持ちのくせに合コンに来てたのは事実でしょ? ほんと信じらんない。フー君はこういうことしないと思ってたのに」

 

風太郎「職場のやつに頼まれて数合わせで行っただけだって」

 

二乃「言い訳するな」

 

風太郎「……はい」

 

店長「上杉君。流石に今回は君が悪いよ。甘んじて受け入れなさい」

 

風太郎「店長まで……」

 

店長「というわけで二乃ちゃんお待たせしました。こちらジョニーウォーカーブルーラベルのロックでございます。あちらのお客様からです」

 

二乃「流石店長! 一度それやってみたかったのよね」

 

風太郎「何で俺のところにも同じの来てるんだ……?」

 

二乃「そりゃ一人で飲むのなんて寂しいからよ」

 

風太郎「……ちなみに俺に来た酒の代金は?」

 

店長「もちろん君持ちさ」

 

風太郎「俺は注文してないのに……!?」

 

店長「全て二乃ちゃんの要望通りにしているからね」

 

風太郎「え、ということはこれってこの店で一番高いんじゃ……」

 

店長「…………」プイッ

 

風太郎「なんで目を合わせてくれないんですか。せめてメニュ―表見せてくださいよ……!?」

 

店長「うち時価でやってるから」

 

風太郎「ボッタクリの店でよく聞くやつ!」

 

二乃「というわけでカンパーイ♪」

 

風太郎「はは、きっとこれは悪い夢なんだろうな、かんぱい────駄目だ、値段が気になり過ぎて味が分からねえ」

 

二乃「ていうかウイスキーなんて滅多に飲まないからぶっちゃけ美味しさとか分からないわ。これ味薄いし」

 

店長「君の店でも最近はお酒を出し始めたと聞いているが、自分で味見とかしないのかい?」

 

二乃「なんで店長がうちの店のこと知ってるんです? 最近来たことないでしょ」

 

店長「それはM・A・Yちゃ────ちょっとしたツテでね」

 

二乃「ふーん」

 

風太郎「あいつまだこの店通ってるのかよ」

 

二乃「まあ店長の言う通りうちにもウイスキーありますけど仕入れた時試しに飲んだっきりだし、そんなに高いのも置いてないですから」

 

店長「君たちに出してるのだって別に普通ぐらいの値段だけどね」

 

風太郎「店長……やっぱりジョークに付き合ってくれただけだったんですね……」

 

店長「うちで一番高いのは本当だけど」

 

風太郎「店長ぉ……!」

 

二乃「あーもーフー君うるさい。分かったわよネタ晴らししましょ。これおいくらなんです?」

 

店長「二人ともワンショット*1だから、合わせて四千円くらいだね」

 

二乃「げ、非常識じゃないけど地味に現実的な高さね……」

 

店長「ただのケーキ屋でそんな非常識に高い酒置いてあるわけないじゃないか」

 

風太郎「嘘だろ……こんな水溜まりみたいなのが一杯二千円……!?」

 

二乃「言い方」

 

店長「完全に趣味で仕入れてるやつだしね。他のケーキ屋だったらこのレベルすらないよ。普通は(瓶取り出し)このラベルの赤いのか黒いのじゃないかな」

 

二乃「あ、うちの店に置いてるの赤いやつだわ」

 

店長「一番カジュアルなやつだね」

 

風太郎「店長の青いやつは?」

 

店長「このシリーズでは一番グレード高いやつだね」

 

風太郎「何で俺初めて飲んだやつが一番良いやつなんだ……? ウイスキーの味なんて分からねえのに」

 

店長「男はいつだって気づけば大人になってるものさ」

 

風太郎「すいません何言ってるかちょっとよくわからないです」

 

店長「おかわりお待たせしました」

 

風太郎「マジで勘弁してください本当に俺が悪かったですからお引き取ってください」

 

店長「次はないよ」

 

二乃「捨てちゃうんですか?」

 

店長「まさかもったいない。これは僕の分だよ。もう遅いし他にお客さんも来ないだろうから、君たちに付き合うさ」

 

二乃「流石店長、気が利きますね。かんぱい♪」

 

店長「乾杯」

 

風太郎「店長とこんな風にするのも初めてですね」

 

店長「言い方悪いかもだけど、所詮バイトだけの関係だったからね。むしろ高校生だった君らがここまで立派になったのを見ることができて僕は嬉しいよ」

 

二乃「店長は全然変わらないですもんねー」

 

店長「いつまでも若いままって意味で受け取っていいかい?」

 

二乃「もちろんじゃないですかー。店も店長も変わらずにいてくれるのって同じ飲食店やってる身として結構心強いんですよ?」

 

風太郎「そういや日本に返ってきた時気づいたが、『こむぎや』*2の看板なくなってたな。一応向こうの店長にも世話になったんだが」

 

二乃「フー君ってば自主映画とか言って一花雇うためにバイト掛け持ちしてたわよね」

 

店長「そういえば」

 

二乃「どうしたんです店長?」

 

店長「彼女から預かりものをしてたのを忘れていたよ。これだ」

 

二乃「ハンディカメラ?」

 

風太郎「それ、俺がなくしたと思ってたやつ!」

 

二乃「フー君のなの?」

 

店長「向こうの店の控え室に置き忘れられていたのを、しばらくしてから見つけたらしいよ。次に姉妹の誰かか上杉君が来たら渡そうと思っていたのを、今までずっと忘れていたよ」

 

二乃「なんで今思い出したんです?」

 

店長「これ、上杉君が二乃ちゃんのお姉さんと一緒にいるのを撮ったやつだろう?」

 

二乃「え、ってことはホテルで二人っきりのフー君と一花が……?」

 

風太郎「ただ勉強してただけだぞ」

 

店長「これはパンドラの箱を開けてしまったかもしれないね……」

 

風太郎「だから勉強してただけだって! つーか持ち出してきたのあんただろ!?」

 

二乃「バッテリーは?」

 

店長「ギリ残ってるね」

 

風太郎「聞けよ!?」

 

二乃「フー君、これ今から再生するの許してくれたら今日のことは四葉に黙っててあげる」ニッコリ

 

風太郎「…………」

 

二乃「後ろめたいこと何もないなら、いいわよね?」ゴゴゴゴ

 

店長「女というのは恐ろしいね上杉君」

 

風太郎「後でこの店のレビュー星1付けてやる」

 

店長「おかわりがほしいってことかい?」

 

風太郎「今日マジでどこにも逃げ場がねえ……!」

 

二乃「じゃあ再生するわよっと────映ったわ……うわー、昔の一花じゃん超若い!」

 

 

 

一花『フータロー君、どう? 取れてる?』

 

風太郎『ああ、今録画開始した』

 

一花『別に建前なんだから律儀にいつまでも撮影し続けなくていいのに』

 

風太郎『そういう訳にもいかん。一応金を払ってお前の事務所と契約してるんだ。やると宣言したからにはやるさ』

 

一花『ふーん、やることねぇ。確かに撮り始める前にも、しっかり"ヤったもんねぇ"』

 

 

 

店長「ストップ」

 

二乃「────」

 

店長「上杉君、僕が軽率だったかもしれないから確認するが、これ続けていいやつかい?」

 

風太郎「大丈夫、のはずです」

 

店長「曖昧な返事だね。やましいことがあるなら今のうちに────」

 

風太郎「ないです! 神に誓ってないです!」

 

二乃「四葉にも誓える?」

 

風太郎「もちろんだ」

 

二乃「いいわ、続けましょ」

 

 

 

一花『ねえフータロー君。せっかくだしさ、もう一回やろうよ』

 

風太郎『なんでだよ。一回で十分だろ』

 

一花『撮りながらヤってると思った方が気分も盛り上がるじゃん?』

 

 

 

店長「上杉君、今のうちにこれを書いておいた方が良い」紙をスッ

 

風太郎「何ですか離婚届でも書いておけっていうんですか?」

 

店長「いや、遺書」

 

風太郎「俺殺されるんですか!?」

 

二乃「二人ともうるさい!」

 

 

 

一花『それに後で見返せるじゃん? ただつまらない勉強風景撮るよりよっぽど有効活用だって』

 

風太郎『ったく、恥ずかしいんだからな……?』

 

 一花の前で片膝を着く風太郎

 

一花『ではでは、主演フータロー君、助演兼監督は私、中野一花で……よーい、アクション!』

 

風太郎『見てくれ四葉。今はまだブランコからのジャンプぐらいだが、こうして俺はお前の隣に並ぶことができた。俺はこれからも、お前の隣に居続けられるような男であり続けるよう精進する。正しい道も、間違った道も、一緒に歩いて行こう。だからお前がよければ俺と……好きです。付き合ってください』

 

一花『おっけえええい! いいねフータロー君サイコーだったよ!』

 

 

 

風太郎「思い出した……四葉に告白する日の前の日、あいつに練習させられたんだ」

 

二乃「つまりさっきのやった云々も同じ……?」

 

店長「ふぅ、君にはヒヤヒヤさせられるね。危うく僕のせいで一つの家庭の崩壊を見ることになると思ったよ」

 

風太郎「俺は誓って四葉を裏切るような真似はしねえよ」

 

 

 

一花『ね! ね! フータロー君、もっかいやろうよ!』

 

風太郎『なんでだよ!? 今OKって言ってたろ!?』

 

一花『今のやつをもう一回、一花バージョンでお願いします!』

 

風太郎『ふざけんな! 何で四葉より先にお前に告らなきゃいけないんだよ!?』

 

一花『ただの練習だから! それにやってくれないと今日の勉強はもうしてあげないよ!?』

 

風太郎『てめっ、きたねえぞ……! ……はああぁ、分かった一回だけだぞ…………見てくれ一花──』

 

 

 

二乃「ここまででいいわ」

 

風太郎「…………」

 

二乃「四葉を裏切るような真似が、何だって?」

 

風太郎「いや、あの、今のはですねただの練習で──」

 

二乃「ふーん、練習だったら告白できちゃうんだ」

 

店長「僕は急用を思い出したから少し裏に引っ込むね」

 

風太郎「店長待ってくれ俺を一人に──」

 

二乃「待て」

 

風太郎「はい」

 

二乃「後で一花は張り倒しておくとして、フー君にもう一つ四葉に合コンの件黙っておくための条件があるんだけど」

 

風太郎「嫌な予感がしてきた」

 

二乃「今の、私にもやってよ……」

 

風太郎「つっても一花のだってただの練習で──」

 

二乃「やれ」

 

風太郎「はい」

 

風太郎(あ、これ、しばらくこいつに逆らえなくなるパターンだ……)

*1
リキュール一杯分で30ml

*2
三玖と風太郎がバイトしていたパン屋




今回は趣味が出て酒語りちょっと多めになりました
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