先日、名古屋と京都の方に聖地巡礼に行ってきました。
名古屋港水族館とかめっちゃ凄くって、ずっと二人ならどんな会話をしながら回っただろうと考えながら巡ったので、それを書き出してみました。
学園祭に向けて東奔西走の日々を送る中、風太郎にしては珍しくいそいそと外出の準備をしていた。
上着の袖に腕を通しているところで、トイレから出てきたらいはがこちらに目を留めた。
「お兄ちゃん出かけるの?」
「ああ、ちょっとな」
「どこ行くのー?」
「その……ちょっと港の方に……」
「もしかして水族館!?」
聡い妹はエスパーの如く当ててきた。
行き先を当てられるだけならば別に構わないのだが、外出する理由のことを考えると吹き出すように脂汗が流れ始めた風太郎。
むしろその反応のせいでらいはは途端に目を輝かせた。
「いいなー! お土産買ってきてね! あと、ペンギンさんの写真もいっぱい! あーあ、私も行きた────」
い、と最後の一音までらいはからは発せられなかった。
どうしたのかとらいはの方を見て見て、ギョッとした。らいはの目からはハイライトが消えていた。
まるでコンピュータがフリーズしたかのようにたっぷり数秒そのままでいると、再起動を終えたらいはは短く一言だけ言った。
「もしかして、五つ子の皆さんと?」
「その、三玖と二人で……」
「ふわぁ……!」
まるで夢でも見ているかのようにうっとりとした表情を浮かべるらいは。
しかしそれもわずかの間で、一転して神妙な面持ちに切り替わる。
「お兄ちゃん」
「なんだよ」
「例の恋愛講座の本はちゃんと最後まで読めた? 復習もした?」
恋愛講座の本とは夏休みの間にらいはに発見されてしまった風太郎の本である。
「車道側はお兄ちゃんが歩いてあげるんだよ。ドアは自然な感じに開けてあげるの。水族館の中の展示は三玖さんが次に行こうとするまで進んじゃダメだからね?」
「なんで書いてあったことをらいはが知ってるんだ?」
「私のことはどうでもいいでしょ!」
例の本は普段から持ち歩くような真似は流石に恥ずかしいので家に置いてあるから、らいはが読もうと思えば読めはする。
だから内容を知っていたとしてなんらおかしくはないのだが、風太郎の恋愛のいろははあの本に書いてあることが全てだったので、らいはにも読まれているとなると自分の恋愛レベルは妹と同じレベルなのかもしれないと思うと少し情けなくなった。
「いい!? 最近お兄ちゃんは学校のことで忙しいみたいだけど、それを理由に疲れてるとか言っちゃダメだよ!」
「わかってる」
「大丈夫かなぁ……」
なおも心配そうな顔で顔に手を当てるらいは。顔つきは乙女というより子供の面倒を見る時の母親のようだった。
時計を見た。まもなく家を出る頃合いだった。
「そろそろ行くからな」
「あ、待って! ハンカチは持った? 後────」
「大丈夫だから」
「後々! 三玖さんがもしびっくりするようなこと言ってきたって、すぐに否定しちゃダメだよ! グッと飲み込んで、まずは共感してあげるんだからね!」
「やけに具体的なアドバイスだな」
告白されるとでも思ってるのか。
別に三玖とはただ水族館に行くだけであって、別にデートってわけじゃ…………
(あれ、これってもしかしてデートか?)
「…………!」
「あれ、お兄ちゃんどうしたの?」
「なんでもねえ! もう行かねえとマジで電車に遅れる」
「はーい、行ってらっしゃい。三玖さんによろしくね」
「悪い、待たせたか」
「ううん、今来たところ」
「そうか、ならよか────なんだよ急に笑って」
「ううん、なんでもない。その、ちょっとよくある会話みたいだなって」
「そうなのか?」
「風太郎はあんまりドラマとか見ないもんね」
「見たくてもテレビがないからな。ほら、さっさと行くぞ」
「うん…………あれ、フータローなんで反対側に回ったの?」
「いや、その…………」
「…………! そっか、車道側……ありがと」
最寄りの駅から電車に乗って、十数分。
環状線から脱出するように飛び出た路線の終点が目的地の駅だった。
港沿いに建てられている水族館なので、駅に出るとすぐに海が見えた。潮の香りはあまりしないが、この駅の周辺には水族館の他に観光用の巨大な船なんかも停泊しているため、一目で海に来たなという実感を感じさせてくれた。
他にも遊園地などもあるのだが、流石に三玖と二人で遊園地に行くほど浮かれてもいなければ、純粋に入場料ももったいなかったので入る予定はなかった。
「大人二枚お願いします」
建物前のチケット売り場でそう言ったのは三玖だった。
他の五つ子の時もそうなのだがこういう時、風太郎は後ろで待ちがちなのが少し恥ずかしかった。
『博物館などの入場チケットとセットのものもありますが、どちらになさいますか?』
「水族館のだけでいいです」
『かしこまりました。大人二人で4,060円です』
「クレジットで」
『お預かりします…………はい、カードとお控え、それからチケットです。チケットは中で係員にご提示ください』
「はい」
『それでは行ってらっしゃい』
チケットを持って三玖は風太郎の元へ行くと、一枚を手渡した。
「悪いな、出させちまって」
「誘ったのは私だから。行こう」
「ああ」
二人で歩き始め、チケット売り場のすぐ横にある入り口に入ると、入場ゲートを超えた先でいきなり目の前には巨大な水槽が目に飛び込んできた。
中では数頭のイルカが遊泳していた。
ぐいっ、と三玖に腕を引っ張られる風太郎。
「フータロー! みてみてイルカ!」
「落ち着け。今日は時間もあるんだ。一つずつ見ていこうぜ」
「うん……!」
水族館は北と南、二つの建物で分けられており、それぞれテーマが分けられていた。
風太郎達が先に入った北館は海洋系の進化や鯨類にフォーカスしており普通の水族館にはないような展示物が多かった。
「イルカにも結構種類いるんだね」
「らしいな。イルカだけでこんなに水槽が分けられてるのは少し意外だった」
「あそこの子見た!? 水面に跳ねたよ!」
「うお、落ちた時の泡がすげぇ」
「ショー以外でもやるんだね。楽しいのかな?」
「単純な遊びって説もあるらしいが、他にも生きるために必要だからやるって話もあるらしい。例えば日光を浴びて乾燥させるのが目的とかな」
「お魚なのに日の光が必要なの?」
「…………フータロー?」
「理科で教えたろ……イルカも鯨類。哺乳類の仲間だ」
「げいるい……?」
「そこからか……」
「白黒でパンダみたい。かわいい」
「シャチってこんなにデカくなるのか……?」
「こっちの紹介に五メートルあるって書いてあるよ」
「人なんか丸呑みだな」
「サメじゃないんだから」
「…………」
「フータローどうしたの?」
「三玖、こっちの紹介を読んでみろ」
「『世界中の海に生息し、海洋生態系の頂点に立つ海の王者』……海の王者ってサメとか鯨じゃないの?」
「らしいな」
「じゃあ、海で人間がもし会ったら……」
「丸呑みだな」
「…………」
「この白いのもイルカなのかな?」
「ベルーガっていうらしいな。そのまんまシロイルカとも呼ばれてるらしい。北極に住んでるんだと」
「おでこ、ぷっくりしてるね。太ってるのかな」
「というよりはそういう生き物らしいな」
「そうなんだ。フータロー、これくらいなら私だって一つ、想像できたよ」
「なんだ?」
「きっとこの子達が住む場所は外敵がいないから安心して栄養と蓄えやす────」
『ベルーガ達が住む北極では、皆さんご存知のシロクマが常にこの子達を狙っています。ベルーガも哺乳類の仲間なので、呼吸のためには水面から顔を出す必要があるのですが、北極は厚い氷の大地に覆われているので顔を出される場所が少なく、狙われやすいのです』
「…………」
「こいつらが住む場所は外敵が、なんだって?」
「フータローのいぢわる……!」
「見ろ三玖、鯨の進化についての歴史の展示があるぞ。ここは勉強にもってこ────」
「…………」スタスタ
「あの、三玖? なんで素通りするの?」
「ここの水槽、凄い大きいね」
「こっちに上の中継があるな。どうやら上は上で観覧エリアになってるらしい」
「つーか賑やかだと思ったらショーの最中らしいな」
「ほんとだ……! フータロー! あそこのイルカすっごい早く泳いで──飛んだよ!」
「イルカにとっての助走みたいなもんだったんだな」
「あっちで見た時より全然早かった。凄いね、いくら頭が良いからって教えたらここまでやらせられるんだ」
「お前らも初めからこのぐらい聞き分けが良ければあんなに苦労しなかったのに……」
「私は結構早いうちからフータローの家庭教師に協力してた」
「お前だって最初は逃げてただろ。五十歩百歩だ」
「あれ、ペンギンがいる。ペンギンって南極に住んでるんじゃなかったっけ。こっちって北極のエリアだと思ってたけど」
「つーかどっちだろうが外飼いって大丈夫なのか?」
「なんか見た目もフサフサしてるし…………あ、調べてみたらケープペンギンってアフリカに生息してるんだって」
「……へえ」
「フータローもこれは知らなかった?」
「そんなことまで調べられるって、スマホって便利なんだな」
「そっち……!?」
南館。
「ここの水槽も大きいね。いろんな魚が泳いでるし」
「ほとんどイワシだな」
「見ただけでわかるんだ」
「特売の日にらいはがよく買ってくるからな。ここにいる奴らを使えれば何日分の食費が浮くか」
「…………」
「三玖? 冗談だぞ?」
「……………………」
「不謹慎なこと言ってすみませんでした」
「よろしい」
『まもなく、マイワシのトルネードのお時間です。ご覧になさいますお客様は、そのまましばらくお待ちください』
「ここでも何かやるみたいだな」
「トルネード……名前だけだと全然想像つかない。ちょっと待ってね調べてみる」
「いやいい、どうせすぐ始まるんだろ。せっかくだし見ていこうぜ」
「フータローがそう言うなら」
「…………」
「…………」
「そういえば」
「ん?
「来週はもう学祭。三日間楽しみだね」
「素直に喜べなくなってきたがな。たこ焼きとパンケーキ二つともやることになるとは……正直どっちだっていいだろ」
「それだけ皆真剣なんだよ。忙しいだろうけど、フータローも食べにきてね」
〜〜〜〜
「カレイとヒラメの展示って珍しいね」
「隠れててどれかわかり辛えな……」
「フータローは見分け方って知ってる?」
「あー、右向きか左向きで区別できるってのは一応だが、どっちがどっちかまでは」
「左向きがカレイで、右向きがヒラメだよ」
「へえ、よく知ってるな」
「うん、色々作ってみてるうちに覚えたから」
「作ってる?」
「あ…………な、なんでもない…………!」
「あ、エイだ」
「下から見ると寝起きの一花みたいな顔だな」
「……………………」スマホをスッ
『フータローが一花はエイみたいだって』
『フータロー君、今度会った時お姉さんとお話しようか?』
「チクるのやめろ!」
「あ、タコだ」
「タコって二乃みたいに顔赤くすることあるよな」
「……………………」スマホをスッ
『フー君、次会った時覚悟しておきなさい』
「だからチクるな!?」
「学習しないよね、フータローって」
「あ、アロワナだ」
「なぜかこいつが一番見慣れてる気がするな」
「うちで飼ってるしね。でも」
「でも?」
「うちの子の方がかわいい」
「アロワナでもそういうことって思うんだな」
「お疲れの中呼び出しちゃってごめん……」
「気にすんな」
「でも私、学園祭前にフータローに言っておきたいことがあって……」
「そうか、俺も言いたいことがあるんだ」
「! え……それ先に聞いてもいい?」
「ああ、聞いたぞ三玖。大学の入試判定の結果だ。"A"だったらしいな。やったじゃねーか」
「…………」
〜〜〜〜
「最後がペンギンなんだね」
「悪い三玖、頼みがあるんだが」
「何?」
「携帯渡すから、それで俺とペンギンを撮ってくれないか?」
「フータローが自撮り!? ど、どうしたの!?」
「らいはが欲しがってるんだよ……! 恥ずかしいから早くしてくれ」
「なら私ので撮ってあげる。そのほうが写真綺麗だし」
「つっても俺の携帯じゃ解像度上がったってよくわからねえけどな」
「それに待ち受けにもできるし」ボソッ
「何か言ったか?」
「な、なんでもない!」
『そしてこっちが兄ちゃん。その後ろにいるのがサンちゃんです。さて皆さんに問題です。この子の名前はなんだったでしょーか?』
「当ててあげたい……!」
『あー正解! 似てるのも当然でこの五羽は姉妹のペンギンちゃんなんです』
「まさにお前らだな。言われてみるとあれ、二乃っぽい」
「じゃああいつが三玖か?」
「フータロー……!」
(……調理学校に行きたいってこと、言いづらくなっちゃった。ガッカリさせちゃうだろうな。ひとまず大学に行ってからでも遅くないかも。あの時、二乃の言ってたことに少し憧れた。私ももしかしたらフータローと同じ大学に行けるのかも)
直後、一羽のペンギンが、翔んだ。
「私、料理の勉強したい」
……………………
…………
……