中野家if ~アナザーエイジストーリー~   作:真樹

8 / 25
21才_定点カメラのアロワナさん(オリ主)
風太郎さんのご帰宅


 皆さまお久しぶりです。アロワナです。

 え、誰かって? いやいやご冗談を、何度もお目にかかってるじゃないですか。私ですよ。

 知らない? ……よもや本当に? ……左様ですか。その仰りようからして本当のご様子ですね。

 悲しいですが、それでしたら改めて自己紹介をさせていただきます。

 既に申し上げた通り、アロワナでございます。あの魚のアロワナです。名前はございません。

 ご主人である中野様のお家の一階の、階段の隙間でひっそりとしている者でございます。

 者ではございませんか。私、魚ですので。

 何故、こうして皆さまとお話をできているかって? ははは、分かるわけがないではございませんか。だってアロワナですもの。ただの魚が頭が良いわけがございません。

 今年で御年8歳となります。寿命の短いアロワナなら、そろそろお迎えの覚悟が必要となってくる年でございます。

 私は旦那様がお嬢様方をお引き取りになり、今のお家へお住まいになる時に合わせて、稚魚の時に引き取られました。

 ですからお嬢様方が可憐な少女から麗しい女性へとすくすくとご成長される様を、ずっと見ておりました。

 何せ、あの風太郎さんよりお嬢様方より長い付き合いですから。

 

 そんなアロワナでございますが、近ごろ悩みがございます。

 一時期は賑やかでしたこの家が、最近は静かなのです。

 旦那様であるマルオさんはいつも通り、お仕事に熱心でございます。

 長女の一花さんは女優のお仕事で旦那様と同様、中々ご帰宅されなくなりました。

 次女の二乃さんと三女の三玖さんは、近ごろ風太郎さんのご実家でお店を開かれたとのことで、朝早くに外出されては夜にご帰宅されます。

 四女の四葉さんは高校生の頃と比べればお忙しいようですが、姉妹の中では一番面倒を見てくださいます。

 五女の五月さん四葉さんと同様の境遇でございますようですが、些か就職活動に苦労なされているご様子です。

 そんなわけで、私が見える世界の全てである水槽の外、一階のリビングはここ最近は無人の寒村のごとく侘しいものとなってしまいました。

 今、夕暮れのこの時間もやはり、家の中にはどなたもいらっしゃいません。

 ですがめげません。何故なら私は、帰ってきたご主人様達にこの身を晒して癒しを与えるアロワナでございますから。いつでもお出迎えできるようにあらねば。

 おや、そのような一人語りをしていたところ、どなたか帰ってきたようですね。

 

「ただいまー」

 

 やはり四葉さんでしたか。常に明るいこのお方、いつも一番に帰っていらっしゃるせいで出迎えてくれる人間のご家族はおられないにもかかわらず、このようにご帰宅の言葉を仰られながらリビングへ入ってきます。

 それもそのはず。

 

「アロワナさんただいまー」

 

 このお優しい方は私にもお言葉をかけてくださるのですから。

 四葉さんは今日もいつものごとく、まっすぐ私の方へいらっしゃいますと給餌をしてくださいました。

 ありがたく頂戴いたします。

 それでは私、今日もお仕事をいたします。めいいっぱい泳いでご覧にさしあげます。

 見てください四葉さん。今日の私は鱗の調子が少し良いのです。

 

「アロワナさん今日も元気だー」

「そいつ、まだ生きてたんだな」

「風太郎! この子も家族なんだから、そんなこと言わないで」

「あ、すまん」

 

 おや、風太郎さんもいらしていたのですか。先に入ってきた四葉さんに目を取られ気づきませんでした。

 風太郎さんもお変わりないようで何よりです。まあ、私の声が届くわけがないのですが。

 ですが四葉さん。風太郎さんを怒らないでください。私にはそのように仰っていただくだけでも、少し嬉しかったりするのです。

 何せ私の住む水槽は元々、他にも同居人……いえ、同居魚が何匹かいました。

 しかし、アロワナは私だけ。他は皆、私より短命の魚ばかりでした。ですので今は私一匹だけ、とても寂しいのです。

 ですから、風太郎さんにお言葉をかけていただけるだけで嬉しいのです。

 何だかこうして人に懐いていることばかり申し上げると、私、犬みたいですね。魚ですが。

 

「皆びっくりするだろうなー。今日はサプライズで風太郎がこっちに来てるんだもん」

「言ってないのか?」

「うん!」

 

 四葉さんの仰っていることは本当でございます。

 今でも五つ子の皆さんは毎日夜ご飯をここでご一緒に食べられます。時々一花さんはいらっしゃいませんが。

 当然、私にも話は聞こえてくるのですが、ここ最近の会話の中で風太郎さんのお話は出ませんでした。いえ、出るには出るのですが、現在は東京の大学に通われている風太郎さんと遠距離恋愛をなさっている四葉さんの、風太郎さんがおらず寂しいという愚痴を姉妹の皆さまへ漏らされたり、逆に良いことがあれば共有されたりという話はございました。

 ただ、風太郎さんが帰ってこられるという話は一度も出ておりませんでした。

 

「でも、最近みんな遅くに帰ってくるから結構待つと思うよー」

「ならあいつらが帰ってくるまで時間を潰すか」

「それでなんだけどさ、風太郎」

「ん?」

「最近会えてなかったし、夜はきっとみんなと遊ぶだろうから……その、今のうちに……」

「……ああ」

 

 何の話でしょうか? 

 風太郎さん、やけに顔を赤くしていらっしゃいますが。

 

「先、シャワー浴びて来いよ」

「……うん」

 

 ああ、何という事でしょう! 

 皆さま、大変申し訳ございませんが本日はここまででございます! 

 今日の残りの時間、私はただ物を考えず水槽の中を泳ぐだけのただの魚へと成り果てます。

 決してこのままだと、意外と防音性が低いこの家では四葉さんの部屋から声や物音が聞こえてきてしまうからというわけでは────ああ、四葉さんお脱ぎになるなら脱衣所でなさってください! 

 風太郎さんもいるんですよ、はしたない! 

 すみませんが本日は本当にこれで終わりです! 

 今後は五月さんが美味しくご飯を召し上がっているだけの時間とか、そんな時間を共有できたらと思います。

 それでは皆様さようなら! 

 さようなら!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。