基本一話約4000文字以上を意識して書いてます。が、やはり短くなったり逆に長くなったりするかもしれないので、ご理解いただけると幸いです。
「……ダンジョンが見つかった」
「「っ!?」」
カスミから告げられた言葉に俺とソウタは大きく目を見開く。
ダンジョンとは世界各地に点在しているモンスターの巣窟で、中では様々な種類のモンスターが湧いており、お宝が入った宝箱や魔王や七大ボスについて書かれた碑石が存在する。中にはダンジョンボスと呼ばれるエリアボスともレイドボスとも違うユニーク個体という他とは違い特殊な力を持ったものがいる場合もある。また、ダンジョンの中は見た目通りではなく内部構造が入る度に変わり、迷宮と呼ぶに相応しい空間になっている。
そして何よりフィールドモンスターとの違いはモンスターの生産速度だ。
ダンジョンは兎に角侵入者を殺そうとモンスターを送り込んで来る。逃げることなんて出来ない。逃げればモンスターは増え続け、行き止まりにでも当たればそこでおしまい。数百のモンスターの群れに蹂躙される。かなり危険度の高い場所だ。
それが何も無いと思われていた銀色の雪原に存在していた。
「発見者は私とノアだけ。ここに来たのは……」
「……俺達も同行して欲しいって事か」
「ああ」
カスミがこくりと頷く。
過去にダンジョンで一人取り残され絶望を味わった経験が有る身としては、そんな危険な場所には行きたくないというのが本音だ。が、過去に何度も共に戦った戦友からの頼みならば安直に断るわけにも行かない。
俺は額に手を当てて、カスミ達とダンジョンに潜った場合の損得を考える。
ダンジョンを探索する場合のメリットは先ずは宝箱が挙げられるだろう。
見つかったばかりのダンジョンならば宝箱は他のプレイヤーに取られてないと見て良い。もしかしたら既に実はダンジョンが存在していることを知っていてひた隠しにしていたプレイヤーがいるかも知れないが、完全攻略はされてないだろう。もし、されているとするならワールドアナウンスが流れるはずだ。流れてないならば最奥の宝箱は確実に残っている。
二つ目は通常のモンスターよりも経験値が美味しい事。
フィールド産のゴブリンとダンジョン産のゴブリンの経験値量を調べた人物によれば、フィールド産とダンジョン産でおよそ1.1倍の差があることが証明された。
それだけかと思ったなら大間違いだ。このデスゲームの世界ではその差が命取りになったりする。あと1レベルあれば耐えられた。あと1レベルあれば倒せた。という場面は頻繁にある。少しでも経験値を多めに獲得してレベルを上げるのは生存率を上げるのと一緒だ。怠慢や油断したやつから大体死んで行く。
三つ目はデメリットとも取れるボスモンスターの存在だ。ダンジョンならば必ず最奥の部屋にはダンジョンボスと呼ばれるボスモンスターが存在していること。
ダンジョンボスはエリアボスのような通常のモンスターからの派生進化した個体以外にも、突然変異と思われる特殊モンスターが見つかっている。
派生進化したボスは勿論ボスの名に恥じぬ強さを持っているが、俺達にとっては大した脅威ではない。厄介なのは特殊能力を持つ突然変異のボスモンスターだ。
過去に戦った『最速』の名を持つ吸血鬼のボスモンスターはその名の通り超スピードと言える速さで俺を翻弄してきた。敵の攻撃は避けられず、俺の攻撃は全く当たらないなんて事態が何度も発生して死を覚悟したくらいだ。倒せれば莫大な経験値やユニークスキルやユニーク装備が手に入ったりするが、個人的には二度とその手のモンスターとは戦いたくない。
デメリットは先述したように、内部が複雑で迷宮と化している事、モンスターの生産速度が速く、逃げ難い事だ。
一歩間違えれば死に一直線、ダンジョンには絶対に入らないと言う攻略組プレイヤーもいる。
「……何か分かる範囲でダンジョンこと教えてくれないか?」
取り敢えず、現状わかってる範囲のダンジョンの様子を知りたい。何があるか分からないと、事前準備も出来ない。
カスミは口に手を添えて、雪原で見たダンジョンの様子を思い浮かべた。
「私達は入り口をチラッと見ただけだが、見た目は氷の洞窟だな。白熊やアザラシに似たモンスターがいた」
「氷の洞窟に、未確認モンスターか……」
「うへぇ、面倒臭そうだね」
余計に行きたくなくなった。
未確認程恐ろしいモンスターは居ない。なにせ、どうな行動を取るか分からないのだ。攻撃方法も魔法もレベルや体力も。斬撃、打撃、刺突は効くのか?火、水、風、土の基本属性のうち何に強くて弱いのか、そもそも物理、魔法攻撃は効くのか、見た目である程度分かっても未知のモンスターとは戦わないのが生き残る鉄則だ。
でも、新しいフィールドに行けば知らないモンスターは必ず居るひ、ボス系のモンスターは基本一匹しか存在しないので未知のモンスターとの戦闘は避けられない。
俺ははぁ……とため息を吐く。
「この事、誰かに言ったか?」
「『黒鉄の戦士団』のリーダー、『暁の光』のリーダー、『自警団』のリーダーにはノアが報告していた。が、前者二名は断られたし、そもそも『自警団』は街の治安維持で忙しいから無理だった。となると、私達の知り合いで頼れるのがエス達しか居なかったのだ」
カスミは困った表情で言う。
既に相談できる相手には相談している。でも、誰も取り合ってはくれない。そんな中で唯一頼れそうだったのが俺達だったのだと目を潤わせながら言った。
デスゲームになって皆が皆協力して攻略しているわけではない。どうしても反りが合わないプレイヤー同士がいるようにクラン同士の対立や、悪質な『引き籠もり』の連中、さらにはそれぞれ目的を持った殺人鬼集団等が存在している。
月に一度攻略に意欲的なクランやパーティの代表者が集まって情報交換等の会議も存在しているが、誰もが重要な事は話さない。有益な情報を独り占めにし、他者の情報を引き出させようとする牛の糞にも劣るような下らない雑談会と化している。
前回の『嫉妬』とのレイド戦だって、『暁の光』がギリギリまで情報を隠していたのを『黒鉄の戦士団』のリーダーが口を割らせたから分かった物だ。自分達のクランだけで討伐して報酬を独り占めにしようとしたのだろう。
唯一、殺人鬼集団に対しては全員が協力的な姿勢を取る。彼奴等のせいで少なくない人数が死んでいる。許すことは出来ない。
話が逸れたが、他の誰もが行かないなら俺達が行くしかないだろう。七大ボスや魔王に対しての必要情報が有る可能性もある。
隣にいるソウタに見つめられる中、冒険することを決断した。
「分かった。行くよ」
俺は不安そうに見つめるカスミの願いを承諾した。
「ありがとうエス」
カスミは散々断られた依頼を漸く頷いてくれた人物がいてくれたことに喜びを顕にした。
「エスさん、マサムネさんとシオンさんに相談しなくて良かったの?」
「一週間、森の中、全力疾走」
「あ、はい。…………まだ根に持ってるのか」ボソッ
「なにか言った?」
「イイエナニモ」
ソウタが何かボソッと言っているが、聞こえなかったので笑顔で聞き返すとカタコトで返事を返した。何も言ってないなら別に良いんだ。
きっとあの二人もお話すれば快く引き受けてくれることだろう。
「それともう一つ言わなければならないことがあるのだが……」
「ん?他にも何かあるのか?」
カスミは少し眉を下げ、先程よりも憂悶とした表情で言いづらそうに口を開いた。
カスミのことは大切な友人だと思っているし、俺に相談できる事なら何でもして欲しいと想っている。
「その……言いづらいのだが……」
「友達だろ?何でも言ってくれ。俺に出来ることなら協力する」
「勿論僕も!」
ソウタも任せてくれと言わんばかりに、自信たっぷりな顔で胸をドンと叩いた。
「…………実は」
「「……ゴクリ」」
「ノアがまた街中でNPCの女性を口説いて騎士団に捕まったんだ」
「「………………はぁ〜〜〜〜っ!!?」」
その下らない珍事に俺とソウタは揃って声を上げた。
正直、驚愕というよりまたかといった呆れのほうが強い。
ノアは一見金髪碧眼のイケメン美少年なのだが、中身は厨二病を患ったナンパ師だ。目の前に綺麗な女性や可愛い女の子がいるとうひょーとか言いながら近づいてカッコつけたセリフで口説き出す。
恋はいつでもハリケーンとか某海賊漫画のコックみたいなことを言う。
俺も初めて会ったときに一度口説かれたことがある。
ノアはこれまで様々な女プレイヤーやNPCを口説いて騎士団や自警団に何度も捕まってたりする。今回もそれだろう。
「すまない。ノアは暫く謹慎だからダンジョン探索には行けないだろう」
「はぁ、了解」
「ノアさんそんなんだからレベルが全然上がらないんじゃ……」
カスミは身内の恥だと頬を染め、俺はため息を吐いてノア無しでのダンジョン探索の方針を考え直す。ソウタは苦笑いしていた。