基本はエスが主人公なのですが、今後他の三人に主軸をあてたものも書いていく予定です。まだ暫くはこのままですね。
正直言って俺は油断していたのだろう。たかがエリアボス、最初の街からも近いし、そこまで強くないだろうと慢心していた。目の前の利益に目が眩み、万全の準備をしたと言いつつも、気を抜いて何処か適当になっていたのかも知れない。
怒気が溢れる激声に気圧され、戦わないとと心の中ではそう思っているのに、力が入らない。
今にも膝を折って崩れ落ちそうだ。
「ブヒィ!そうだな……うーん、まずはオメェだ」
「……っ!?」
まるで品定めでもするかのような視線は五人全員に向けられ、その切っ先が一人に向けられる。
ただ、ドスドスと音を立てて歩く姿に畏怖してしまう。自身より圧倒的な巨体に、背の小さなが子供が背の大きな大人を怖がる様な当たり前の恐怖心を駆り立てられる。
その巨躯に似合うような巨腕が倒れ伏して動かないパーティ内でも一番小さいエルフの少女へと伸ばされる。
「……ぁ、ぁぁ!」
まるで壊れかけの人形を壊さないかのようにそっと掴んだそれをオークキングは拾い上げ、自分の眼前まで持ってきた。
「っ!」
止めろ、と叫びたいのに喉が掠れてしまったかのように声が出ないし、足も動かない。他のメンバーもこれから何が成されるのか、恐ろしいはずなのに目が離せなくなっていた。
「……ペロ」
「ひぃ!」
お互いの顔を強制的に近づかせ、少し観察したあと、舐めた。
オークキングは口の中からピンク色の大きな舌を出して、ソウタの白磁のようなその白い肌を、顔面を一舐めした。
弱々しくも必死に抵抗していたソウタはその行為にか細い悲鳴を上げる。
「オデ、女の中でもエルフが好きだ!特に小さい女が恐怖に怯えている姿が大好きだ!」
そう宣言したオークキングは、ソウタを地面に叩きつけて両腕を掴み、子供のような細い脚の上に跨る。
「重い!痛いっ!」
その並外れた大きな体がソウタの足を潰し、叫声を上げる。何とか抵抗しようと暴れるが、腕を動かそうとしてもガッチリと掴んだ手はびくともしない。
「ベロベロベロベロベロベロベロベロ」
「いやっ!やめて!助けて!」
オークキングは顔を目と鼻の先まで近づけてソウタの体中を舐め回す。
全身をオークキングの唾液まみれにしたソウタは必死に抗うが、ブヒブヒと笑うオークキングは気持ち悪い顔でカップアイスの蓋についたアイスクリームを舐め取るようにソウタを味わい舐め続ける。
「ブヒィ!ブヒヒヒヒヒィ!」
オークキングの醜い笑い声が響く。
そのショッキングな光景にシオンは茫然自失となり、マサムネは心がポッキリと折られ、カスミは次は我が身かと恐怖に震える。
何でこうなった。何がいけなかった。どうして、何で、そんな言葉が俺の中で繰り返される。
安直に依頼を受けたのがいけなかったのか?
お金欲しさに利益に目がくらんで情報収集を怠ったのがいけなかったのか?
違う。それらも駄目だが、一番駄目なのは己の弱さだ。
俺がもっと強ければ良かった。Lvが高ければ、技術があれば、心が強ければ、こんなことにはならなかった。
俺は俺自身に怒りを抱いた。たった一回負けたくらいで足が竦んで動けなくなるのかよ!仲間を助けようとは思わないのかよ!現実とは違う、果てしない夢を見てこの
武器を取れ!勇気を出せ!そして駆け抜けろ!
敗北一つで怖気づいてんじゃねぇ!ここで屈辱に塗れて死ぬくらいなら最後まで戦って死ね!
「行けよ!臆病者!」
「フガ?」
「おおおおおおおおおっ!!!」
俺は地面に落ちた剣を掴んで全力でオークキングへと駆けだした。
決して足を止めないためになけなしの勇気を振り絞って雄叫びを上げる。
オークキングが気づいてこちらを振り向く頃にはすでに至近距離まで駆け抜けていた。
「『ファイアスラッシュ』!」
「ブギィイイイ!!?」
剣から焔が走り、オークキングの醜い顔面を斬り裂いた。
完全に不意を突かれたオークキングはソウタを離して、その場から離れようと飛び退いて顔を抑えて絶叫する。
その隙に俺はソウタを抱き上げて距離を取る。
幸いなことにソウタはオークキングの唾液まみれにはなっていたが、死んではいない。足がひしゃげていたが他は傷らしい傷は見られなかった。HPはかなり減ってるが、0じゃないなら大丈夫だ。
「回復して下がってろ!」
「エ"ズざん"!ぼぐ、汚ざれ"ぢゃっだ!」
「ああ、汚いから街戻ったら風呂入れよ」
「うわあああああん!!」
涙も鼻水も垂れ流しのソウタは唾液にまみれながら泣き叫んでいるが、これなら問題ないと思った。泣ける余裕があるなら心は完全に折れきってはいない。
オークキングは俺が与えた傷を抑えながら、憤怒に満ちた表情で俺を睨む。その目からは敵と認識されたのか、殺意がひしひしと伝わってくる。
殺したいのは俺も同じだ。あいつの存在を絶対に許す訳にはいかない。仲間の為、そして、俺の貞操を守るためにも!
「お前を殺す!」
「雑魚のくせに!女のくせに!生意気なんだど!!!」
激しい怒りに包まれ猛り狂うオークキングはその巨腕を出鱈目に振るうが、心に冷静さを取り戻した俺は一挙一動を見逃さず、最低限の動きで回避する。
そして、隙を見せれば腕、足、胴体に切り傷を刻んでいく。その愚直で雑な動きはたった一ヶ月しか剣を振ってない俺にでも容易に読み取れてしまった。
そして、一撃、二撃、三撃と、俺が攻撃を当てる回数が増えていく。
一発当たれば俺の身体など簡単に吹き飛ばせるだろうに、その強襲はことごとく空を切り、見え透いた軌道は逆に利用され、カウンターを決めるチャンスとなる。
「ふんっ!」
「ブギィ!?」
そしてついに普通の人間なら致命傷になるような傷が、オークキングの首に深々と刻まれた。
「……エスさん」
「エス」
「オークキングを……圧倒してる?」
戦いの様子を眺めていたシオン達は、正気に戻れたソウタの回復魔法によって復活していた。だが、二人の闘乱に混じることは出来ずにいた。
下手に入れば足を引っ張るのは確実、遠距離からの援護もエスを巻き込んでしまう可能性があった。
右に左に何度も動き、しゃがみ、ジャンプし、攻撃を避け、与える。
その交戦模様に足踏みしてしまっていた。
オークキングは焦っていた。雑魚だったはずだ。速さこそあれど、自分を追い詰める程の攻撃力は無かったはずだ。
自分の技一つで吹き飛び、簡単に恐怖するようなただのメスのはずだ。
それが何故か自分と対等に、いや、圧倒されている。己の振るう攻撃を全て見切り、斬撃を何度も何度もこの身体全体に刻みつけられる。
間違いなく自分のほうが強い。力も耐久も圧倒的に自分のほうが高い筈なのに!
どれだけ
たった数分目を離しただけなのに、この僅かな時間で何があった!?何がこのメスをここまで強くしたんだ!?
先程まで怒りを抱いていた筈なのに、今はこの未知の現象に恐怖していた。
しかし、焦っていたのはオークキングだけではなかった。
(ダメージは確実に増えてる。けど、倒し切る前に俺の体力が切れるほうが早い!)
脂肪や筋肉が重なり合う分厚い肉は斬りにくく、更に再生力を持つオークキングの耐久力は異常だと言えるほど高い。
オークキングに攻撃を当てるには、回避しながら剣を振るい続けるしかない。
しかし、どれだけダメージを蓄積していっても、オークキングのHPを削り切るには時間がかかりすぎる。
(どうする?このままでは負ける!何か手は無いのか……!)
打開策が思いつかないまま体力だけを消費していくエスに焦りが生じる。
「ブヒィ!『ボディスタンプ』!」
「『ムーブステップ』」
高く跳び上がるオークキングは前回と同じように落下の勢いと体重を乗せた一撃をエスへと繰り出すが、一度見た以上対処する方法は簡単だ。
移動スキルで攻撃範囲外へ出て回避する。その後、落下したオークキングへと向き直り、今持っている最大の攻撃力であるスキルを放つ。
「『レッドブレイクブレイズ』!」
俺の持っているスキルの中でも最大の火力を誇る炎を一撃。剣から溢れ出る炎の奔流は尻を付き隙を晒すオークキングに襲い掛かる。
この技の欠点は火力が高いが、数秒の溜めが必要で、撃った後に直ぐに動くことが出来ないし、クールタイムが長く、連続で使うことが出来ない事だ。
だが、このタイミングなら確実に当てることが出来る。
「ブギャァアアアアア!!!アヂぃ!アヂィイイイ!!!」
オークキングは全身が燃えて苦しむが、あれ程の爆炎を食らったにも関わらず、原型を残し、未だに生き延びていた。
恐ろしい程の耐久性に俺は舌打ちする。
だが、一つだけオークキングに勝つ打開策が浮かび上がった。『レッドブレイクブレイズ』は『ファイアスラッシュ』と同じように炎が剣から発生する。
オークキングは外側こそその分厚い肉で守られているが、内側はどうだろうか?物語でよく高い耐久性を誇る敵は何人もいた。その一部、主人公が攻撃を浸透させ、内側を破壊することで倒した物語があったはずだ。当然俺に攻撃を浸透させるなんて技術はないが、四つ目のスキルに剣を貫通させる攻撃ができる技がある。
オークキングを葬るには剣を突き刺し、内側から最大火力で爆発させる。
これで駄目なら皆に泣き付こうと俺は覚悟を決めた。