地の文て難しくない?
「ブギギィ!何でオデがこんな目に……なん何だオメェは!」
「言ったはずたろ?お前を殺すって」
オークキングは全身に火傷を負い、満身創痍といった様子だったが、やはり再生は続いており、時間をかければ復活してしまうだろう。
「く、くそぉ部下がいればオメェなんか…………あっ、ブヒィ、ブヒヒヒヒィ!その手があったど!」
不味い!何をするつもりが分からないがろくでもないことを思いついたに違いない。
オークキングは下卑た笑みを浮かべ、目一杯空気を吸い込む。そして、鼓膜が敗れるかと思うほどの大声で叫んだ。
「オデを助けろ!野郎共!『
「なっ!?」
生物が出したとは思えないほどの爆音が響き、俺は反射的に耳を塞いだ。故にオークキングの放ったスキルを止めることは不可能だった。
ドドドドドッ!
「「「「「ブヒィ!!!」」」」」
東西南北、木々の隙間から、茂みの中から、岩の影から、四方八方からオークキングの呼び掛けに答えたオーク達が集まってきた。
ボロボロの剣、錆びた槍、刃こぼれした斧、形の歪んだ棍棒等の武器を携え、大勢のオークが俺達を囲んだ。
「野郎共!こいつ等をぶっ殺せ!」
「「「「「ブヒヒヒヒィ!」」」」」
汚い鳴き声と共にオーク達は一斉に俺達に襲いかかってきた。
状況は最悪だ。オークキングは自身の体力を回復するために後ろへと下がり、追いかけようにもオーク達が邪魔で進めない。オークは通常のモンスター故に、首を切り落とせば即死する。オークキング程の肉質の分厚さは無いし、再生能力もない。一対一なら余裕。一対二でも問題ないがそれ以上になってくると立ち回りを考えながら正確に処理していく必要がある。範囲攻撃でもある『レッドブレイクブレイズ』を使えば纏めて倒せるかもしれないが、隙が多く使ったあとの硬直が怖い。倒しきれなかった場合を考えて使用するのは無しだ。
そうなると使えるのは残り三つのスキル。
「『ファイアスラッシュ』」
「ブギィ!?」
炎を纏った剣が一閃。
オークキングよりも柔らかいオークの身体はバターのように簡単に刃を通し、一撃で絶命させる。
「『ムーブステップ』」
「「「フガ?」」」
三対以上に囲まれれば移動スキルでオークとオークの隙間を糸を縫うようにすり抜けていく。
「『スラストショット』」
そして、首を切れないと判断した敵は同じように即死判定がある心臓や頭を狙って目に見えないほどの速度で刺突する。硬い岩だろうと問答無用で貫通するこの技はクールタイムは短いが、使いこなせないと、突き刺さった剣が抜けなくなるといった間抜けな現象が起こる。使用してからの攻撃も速く、火力も高いが、プレイヤー間で使用する人は少ない。
オークキングより小さいくせに鈍間なオークの攻撃等当たるはずもなく、俺は一撃必殺の
だが、オークは段々と減っていってるが、肝心のオークキングは高みの見物で自分の傷を癒やすことに集中していた。
俺の体力も無限な訳がない。オーク達を倒し切る頃には疲労困憊、対してオークキングは全回復しているだろう。
「クソっ!」
このままオークを無視して進んだとしてもそれは前方にオークキング、後方にオークの群れという状況に変わり余計に事態を悪化させる結果にしかならない。結局俺が今できることはオークを片付けてからオークキングを倒すしか無いのだ。
●
マサムネ達はオークの大群に囲まれていた。冷静さを取り戻した今、オークの一匹や二匹簡単に倒して見せる事ができるが、何十匹という数をまとめて相手にした経験など皆無だった。
それに、シオンは十分に戦えそうだが、カスミはまだ完全にオークキングの恐怖から立ち直れてないし、ソウタは魔法でひしゃげた足を治したが、カスミ同様にオークに対して怯える様子を見せていた。
遥か前方ではエスが一人でオークの集団を相手取っていたが、防御特化の自分がスピードアタッカーのエスと同じことができるわけがなかった。
「シオン、俺が惹きつけるから援護を頼む」
「うん」
「カスミとソウタも行けそうなら魔法を撃ってくれ」
「あ、ああ」
「……」コク
マサムネは大盾と斧を構えて一番前に立つ。
俺がこのパーティのタンクなんだ。誰よりも前に出て敵の攻撃を受け止める盾なんだ。それなのに呆気なくやられてどうすんだ?俺がやられたら誰が攻撃を受け止める?
エスはずっと前で戦ってる。本当なら俺は彼処であいつの盾にならなくちゃならなかった。
自分に憤りを感じていたのは何もエスだけではなかった。マサムネも己の情けなさに歯噛みしていた。
オークが四匹、纏めて襲ってくる。
その内の二匹はシオンがしっかりと矢で牽制してくれているので、マサムネは残りに対処すれば良かった。
一匹目の棍棒を右に受け流し、次の攻撃を左手に持っている盾で防ぎ、斧を振るって一撃で仕留める。そして直ぐに二匹目が襲いかかってくるがそれを最小限の動作で回避し、斧を叩き付ける。
よろめいたオークがシオンの矢を額に受けて白目を剥く。
三匹目が剣を振り下ろしてくるが、見え見えの攻撃等恐れることもない。盾でしっかり受け止め、弾き返す。でっぷりとした腹を切り裂き、思いっきり蹴り飛ばす。
四匹目は槍を突き刺そうとしてきたが、当然これも盾で受け流せる。槍を持った腕を斧で切りつけ、武器を落とさせる。タックルで横にふっ飛ばし、脳天に向かって斧を振り落とした。その時、蹴り飛ばした三匹目が再び襲ってきたが、シオンの放った矢が首を貫き動きを止めて倒れた。
戦える!
パーティの中でも一番背が高く、ガッチリとした体躯を持つ俺よりも大きなオーク相手でも戦えている。 そのことが自分に自身を与えていた。
だが、そんな一抹の傲りが一瞬の油断を生んだ。
「ブギィイイイ!!!」
「っ!?」
しまった。と思うには遅すぎだ。盾を構えるよりもオークの剣が自分に届くほうが速い。
落ちてくる剣が急迫するなか、防御態勢も取れず、自身の死が徐々に迫るのを知覚できるくらい眼の前がスローモーションになる。
「――『ウインドストーム』」
「ブギャッ!?」
「っ!?」
俺の目の前でオークが突如巻き起こった暴風に吹き飛ばされるのを目の当たりにする。
何が起こったのか分からない俺は一瞬その場で呆然としたが、はっと後ろを振り向けば杖を前に伸ばすカスミが立っていた。
「私は、私は立ち止まる訳にはいかない……家に帰るためにも!」
今まで挫折という挫折をしてこなかったカスミは初めて絶望に陥った。一人でモンスターを狩れる。一人で生きていける事が、自分に自身を与え、知らず知らずの内に慢心へと変わっていった。
今回、オークキングというボスを見つけたのも一人で未知の領域を探索し、
これまでソロで活動していて、モンスターから殺されなかったのも、暴漢から襲われなかったのも、全ては今まで運が良かったから。
カスミという少女はこの世界がデスゲームの世界に変わってから
オークキングと戦い、敗北し、女としての尊厳を奪われるかもしれないという恐怖を感じ、絶望していた少女はたった一筋の光に魅せられた。
自分より背の低い
そして、ふと自分は何故戦おうと思ったのかを思い出した。ソロでの戦闘と成功に優越感に浸ってすっかり忘れていた家族のこと。
最初は自分を心配してくれているだろう家族の元へと帰るために強くなろうと努力していた。学校に通う自分のために朝早く起きてお弁当を作ってくれる母、クラスメイトとドラブルになり、喧嘩した時に慰めてくれた父、一緒に遊んでほしいと笑顔を向け、自分を慕ってくれる弟。
大切なことを思い出したカスミはもう敗北に震え、絶望していた弱者ではなくなっていた。武器を取り、立ち上がり、家に帰るため戦うことを覚悟した冒険者へと変わっていった。
「……我が与えるは孤独の道、平原を行き、森を抜け、その光の先へと歩み続ける……」
カスミは迫るオークの大群を見据え、魔法を歌い出す。
「……されど影は落とされる、地に迷い、知に迷い、智に迷う……」
たった今、絶望から立ち上がり、
「……故に森を駆ける緑風よ、どうか私を導いてくれ」
スキルはレベルアップで取得しない。
スキルの取得方法は主に二通り、スキルの記載されたスクロールを入手して使うか、己の行動によっていつの間にか取得しているか。
スクロールのスキルは専用のお店で
そして、当然スタンダードよりもユニークのほうが強い効果を持っている。
ただ一つ欠点があるとすればスタンダードは予め効果が分かるが、ユニークは使うまでどんなものか分からないという点だ。魔法なのか技能なのか、攻撃なのか回復なのか、
危機的状況において、何もわからない魔法を使うなんて他のプレイヤーは愚行だと言うだろう。だが、カスミは確信している。この魔法が皆の力になってくれることを。
「『エアロルクスロード』」
黄金の風が流れた。
優しく、そして荒々しい風はオークの攻撃を盾で受けるマサムネと矢を何度も連続して撃つシオン、未だ震え戦う意思のないソウタ、遥か前方で果敢に戦うエスを包み込み優しく撫でる。
「これは?」
「力が上昇した?」
「風の加護……なのか?」
動きが目に見えて良くなった。何時もより速く動ける。何時もより力が出る。何時もより耐えられる。全ステータス上昇魔法。それも、魔法を行使したカスミを含めて全員に。
だが、魔法はそれだけじゃなかった。
黄金の風はオーク達にも向かって行った。
それは仲間へとかけるバフ魔法ではなく、敵に殺さんとする必殺の攻撃。
鋭い風が何度も旋回し、群がるオーク達へと襲い掛かる。腕を、足を、体中を駆け巡りまるでナイフで傷をつけたように切り傷が刻まれていく。
「「「「「ブギャァァァアアア!!!」」」」」
気づいたときには全てのオークが黄金の風に包まれて攻撃を受け続けていた。
オークの醜い絶叫がリズムのズレた音楽のように鳴り響く。
次々に粒子となって消えるオークに誰もが呆然とし、風が止む頃には一匹たりともオークは残っていなかった。
オークキングもまさか魔法一つで全ての部下達が消えてしまったのを唖然としていた。
「バカな……ありえねぇ、こんな巫山戯た魔法ありえねぇだ……」
「エス!やれ!今だ!今がチャンスだ!」
今の魔法一つで全てのMPを失ったカスミは全力で声を上げた。
次呼ばれたら今度こそ終わりだ。
エスははっと我に返り、驚愕に包まれるオークキングに向かって駆け出した。
「や、やめろ!くるな!」
気づいたオークキングは必死に懇願するが、エスは止まらない。黄金の風を纏い地を駆ける姿は怪物に止めを刺す英雄そのもの。
「『スラストショット』」
「ブギィ!?」
オークキングのそのまんまるとしたお腹にブロードソードの柄の部分まで突き刺さる。
「これで終わりだ!」
「やめてくれ!やめてくれー!!!」
「『レッドブレイクブレイズ』!」
「ブギャァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」
全力で吠えた声とともにドカンとオークキングの体内が爆発する。凄まじい勢いで体が倍以上に膨らみ、まるで風船のようになる。だが、それも一瞬。
過去一番の絶叫を上げ、目や鼻、口や耳から炎を吹き出しついには体が絶えられなくなり、大爆発を引き起こした。
爆砕し木っ端微塵に砕け散ったオークキングは跡形もなく消え、灰が雪のようにちらちらと降り続けた。