みんなの冒険譚   作:DCT

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 過去編終了、少し短めです。


無かった事にしたい思い出ほど残る

 

 爆散の勢いに吹き飛んだ俺は地面に座り込みオークキングがいたであろう跡地に目を向ける。

 地面が抉れ、黒焦げとなり、煙を上げているそこには大量のドロップアイテムがあちこちに転がっていた。

 

「勝った……」

 

 ポツリと呟く。

 正直、信じられない気持ちが強かった。まるで夢でも見ているかのように本当に現実かどうか疑わしい気持ちがあった。

 だが、体は爆炎を間近で受けた影響で熱く、吹っ飛ばされた痛みも感じている。紛れもない現実だと教えてくれた。

 そうなると次に感じるのは激しい喜びだった。

 自然と口元が綻び、嬉しさで頬を染め、両手を上げて歓喜の叫びを上げた。

 

「勝ったぞーーーっ!!!」

 

 その様子につられて後方で佇んでいたマサムネ達も状況を理解し、破顔した。

 

「はは、ははは!」

「やったのか!私達が勝ったんだな!」

「ふぅ~、良かった〜」

「……ゔぅ、結局僕だけ涎まみれ……ぅぅぅ」

 

 マサムネは口を開いて笑いだし、カスミはガッツポーズを何度も取り、シオンはホッと胸を撫で下ろし、ソウタは涎でベトベトになった顔を服の裾で拭い涙を流した。

 

 暫く勝利の余韻に浸った俺達だが時間が経つにつれ冷静を取り戻した。だが、やはり喜びが勝り、笑っているのを誤魔化せなかった。

 俺達はオークキングと死闘を繰り広げて勝ったのだ。気づかなかったが、レベルも上がっていた。

 落ちているドロップアイテムを拾い、それぞれ分配する。

 

 前線で戦い、オークキングに止めを刺した俺は他の皆よりも多めに貰い。激レアドロップである『オークキングの核』まで貰った。

 エリアボスの落とす『核』系のアイテムは売れば何百万(ゴールド)にもなるアイテムだ。これで目標だった家を建てる事もできるだろう。

 

「エス、少し良いだろうか?」

 

 今後の展望に思いを馳せていた俺にカスミが声をかける。

 

「どうかしたか?」

 

 その表情は先程まで勝利に浮かれ嬉々としていた顔ではなく、真剣味を帯びる真面目な顔だった。

 

「この戦い、エスがいなければ私達は負けていただろう」

「何いってんだ?カスミだって凄かったじゃないか。あんな魔法持ってたなら速く行ってくれよ」

「すまないがアレは戦闘中に手に入れたものだ。それよりも礼を言いたい。助けてくれてありがとう」

「戦闘中って……俺達も大概だけど、カスミも相当だな。ソロでやってる時点でヤバいか。まあ、礼は一応受け取るよ」

 

 カスミは軽く頭を下げて感謝を伝えてきた。だが俺としてはオークキングとの戦いで活躍したのは俺だけじゃないと思っている。カスミの魔法もかなり凄かった。あの魔法があったからこその勝利だと思った。

 

「私は今回の事で自分が井の中の蛙だったことを知った。何でも一人でできると思っていたのだが、違ったのだな……」

 

 カスミは俯いて自分の弱さや未熟な心に悔しさを抱いていた。ただ運良く生きていただけなのにそれが自分の実力だと疑わなかった己の滑稽さに皮肉に笑う。

 

「……そうだな。俺もそう思う」

 

 それに俺は同意した。

 カスミはふっ、と自嘲し目を逸らした。

 

「一人でできることなんて高が知れてる。俺だってマサムネやシオン、ソウタが居なければ街の近くの平原でちまちまと弱いモンスターだけ狩って誰ががゲームをクリアするのを待ってたと思う。だからカスミも仲間を作ったら良いんじゃないか?一緒に過ごして、一緒に戦って、一緒に悩んでくれる。お互い助け合える仲間を……。何なら俺達だって良い。カスミなら大歓迎だ」

 

 俺はカスミに向けて手を差し出した。

 俺も一人では何もできなかった。今でこそ、こうして仲間と一緒に戦うことができるが、一カ月前は突然のデスゲームに狼狽え右往左往していた。

 もし、あの時三人が居なければ、街で引き籠もってるかとっくに死んでいただろう。

 だからカスミが俺達の仲間になりたいと言うのなら喜んで受け入れる所存だ。

 

「……エス。お前の言うとおりだ。だが、仲間は既に何度も誘われている相手がいる。いつも一人で騒いでアホみたいな奴だが信頼できる相手だ」

「そうか」

 

 カスミの目に微かな輝きが生まれる。

 きっとそいつはカスミにとって大切な相手なんだろう。

 それならば大丈夫だと思い俺は手を下ろした。

 

「帰ろっか」

「ああ」

 

 俺は立ち上がり街のある方角へと歩き出す。そして、カスミもそれに頷き後を追う。

 

 マサムネもシオンもソウタも今回で戦い続ける覚悟を決めた。弱くても、力がなくても、怖くても、この先を歩み続けること決意した。

 

 

「ほへぇ、エスさん達にも弱かった頃があったんですね」

 

 オークキングとの戦いの話を終え、俺は三杯目のエールを飲み干す。

 リリムは俺達が語った話に一喜一憂し、内容に感情移入して、悲喜交々しながら聞き入っていた。

 余りにも反応が良く、相槌も良かったので、すらすらとあの時の話を長々と語ってしまった。

 

 当時のリリムは俺達と知り合って間もない頃でまだ、お客と店員の関係だった。あの後街まで帰ってもいちいち安否を報告したりする仲ではなかった。

 今はお互い友人だと言える関係を築いている。

 

「……ぅぅ」

 

 話の途中からずっとテーブルに顔を突っ伏しているソウタが何度目か分からないか細い泣き声を出す。

 

「そんな気にするなよ。俺だって涎まみれになった事はあるぞ」

「あー、ドラゴンに食べられそうになった時だっけ」

「ドラゴンとオークじゃ全然違うでしょ!!!」

 

 ポンポンとマサムネがソウタの肩を叩いて慰めようとするが、結果は火に油を注ぐだけだった。

 バッと顔を上げ怒りの形相でマサムネを睨みつけ、直ぐに元の体勢に戻り、大きな溜め息を吐いた。

 その様子にマサムネとシオンは苦笑した。

 

「実を言うと俺もちょっとトラウマ何だよな〜。貞操を奪われそうになったのはあの時が初めてだったし」

 

 あの時は本当に女性アバターでプレイしていたことを後悔した。童貞よりも処女を先に喪失してしまう所だった。

  

「貞操…キス…初めて…うっ、頭が!」

 

 ソウタが頭をテーブルに打ち付けながらまたも呻き声上げた。

 実際に存在する記憶だから思い出したくないのだろう。オークキングはソウタの顔を満遍なく舐めていたから、あれをキスと表するならソウタのファーストキスの相手はオークキングになる。

 流石に可愛そうなのでこれについてはイジらないでおく。

 

「この世界はゲームなのでノーカンじゃないですか?」

「んー、それはまあ個人によるかな」

 

 少なくともソウタは完全になかった事にはできないのだろう。

 いやいやと頭を振って嫌な記憶を忘れ去ろうとしているソウタにシオンは背中をトントン叩いて微笑み「ドンマイ」と

慰める。

 

「私はエスさんとならアリですよ」

「――っ!?ゲホッゲホッ!」

 

 突然の告白に四杯目のエールが口から吹き出そうになるところを気合で我慢する。醜態を晒すことはなかったが、気管に入って咽てしまう。

 まるで小悪魔のような妖艶な笑みに顔が紅潮する。もしかしたら飲みすぎたのかも知れない。

 

「……悪いけど、現実じゃ俺は男でリリムが期待するほどイケメンじゃないからむしろその逆と言ってもいい」

「ぶー、私は別に同性愛者じゃないですよ。それに、例えエスさんが現実でおデブだろうが、ブサイクだろうが関係無いです。私はあなたの優しいところが好きだから……」

「っ!……」

 

 照れたような笑みに心臓が高鳴る。まるで彼女に好かれているんじゃないだろうかと思うような錯覚に陥る。

 いや、実際「好き」と言われたのだから気に入られているのは間違いない。初でも、これで勘違いだったらかなり恥ずかしい。

 

 ……やっぱり飲みすぎたかな?頭がぼーっとするし、顔も熱い。なんだかリリムの顔がまともに見れない。

 俺は顔が茹でダコみたいに真っ赤になっているのを誤魔化すようにエールをぐいっと一気に飲み干した。

 その行動にシオンとマサムネがニヤニヤと笑みを浮かべ、ソウタは話を聞いていなかったのか頭に疑問符を浮かべていた。

 

「もし、この世界から解放されたら絶対に会いに行きますからね」

「……後悔しても知らないからな」

「後悔なんかしませんよ」

 

 ニコニコと微笑む彼女の魅力に耐えられなくなり視線を合わせられなくなった俺は恥ずかしげに捨て台詞を吐いた。

 リリムは最後までその笑みを絶やさなかった。

 

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