【悲報】どうやらワイらは世界の敵らしい…。 作:掲示板ものが書きたい
時間が出来始めたので書きますた。
あと63話「転覆」と69話「終局の混沌」の内容を一部変更しています。例の如く技とかが増えただけで展開は変わってないので見たい人はご覧ください。
「ふむ、もうこんな時間か」
夕刻を知らせる鐘の音が、遠くの空気を震わせる。
夕暮れの庭園は、色を失いつつある花々の香りをわずかに漂わせ、空気の中に一日の名残を抱えていた。
広く伸びた芝は沈みゆく光に斜めから照らされ、長く引き伸ばされた影がテーブルの足元で絡まり合う。
「堕ちゆく時間というのは早いものだよ。人がそれを望んでいるからね」
「魔物の刻であるか。確かに、黄昏が長くては
「ああ、いつの間にか陽が沈んでいるくらいが丁度いい」
メアリスの瞳が薄闇を見つめ、そこに沈みゆく光の筋を追う。
空を茜に染める眩い光が十字に煌めいている。
「さて……では大変名残惜しいが、吾輩はこの辺りでお暇するのである。この景色に加え、貴公に出会えたことは実に幸運であった」
「そうかい。私も存外、良い話が聞けたように思うよ。ただ、もし次に会うことがあるなら事前に言っておくれよ。鎮めの結界くらいは準備しておきたい」
「是非とも魅せてくれ。楽しみにしているのである」
皮肉に対して真面目に返答するグレッド。
これにはメアリスもため息しか返すことができなかった。
彼は荷物をまとめると、長時間座っていたとは思えないほど軽快に腰を上げ、席を立つ。
そうして、陽の光を浴びながら正門へと向かう。
メアリスもまた、侍女たちと共に見送るべくついて行った。
「そういえば貴公、帝国に行くのであったな」
「?…ああ、そうだが……どうかしたのかい」
ふと、正門を前にした時、彼がそんなことを問うた。
メアリスは怪訝に思いながらも頷く。
「勇者アリア・アルブレイズは傭兵と伺っている。もし依頼を受けるのであれば気をつけた方がいい。どうにも王国以上に魔物の動きが活発だそうだ」
「…そのことか。お気遣い感謝するが、承知しているよ」
「であるか、余計であったな。それでは、貴公らの行く道が美麗たらんことを」
それだけ言い残すと、彼は門を越え、背を向けて何処かへ去って行ってしまった。
残されたのはメアリスと侍女、そして際立った静寂だけだ。
「変異種のことを言っているのだろうが…」
近郊の森に続き、帝国でも魔物が活性化していることはメアリスを含め、王都の人間なら誰しも小耳には挿む話である。
しかし、態々グレッドがそんなことを忠告したことが妙に引っかかる。
彼女は正門の前で立ちすくみ、堂々巡りの思考を暫し繰り返していた。
「やはり奴らの…いや、ならばあの剣は———」
「———メアリスさん、ただいま!」
脳裏にチラつく虹色の瞳、その奥に潜む真意を探
る中、正面から聞き慣れた明るい声が掛かる。
「…ああ、お帰り。任せてしまって済まなかったね」
「ううん、ボクの方こそお客さんのこと任せちゃったしね。グレッドさんはもう帰ったの?」
「つい先程ね。入れ違いだったようだ」
件の彼が去っていった方を見るが、既に影も形もない。
どうやら自分ば随分と考えに耽っていたらしいと省みる。
「もう夕食の時間だろうから、積もる話は後にしよう。私も話したいことがあるしね」
——————
————
——
そうして食事も終え、太陽も沈み切った数刻後。
アリア、ジーク、メアリス、アインスの四人は対話のしやすい客室に集まり、メアリスとアリア、アインスに分かれて腰を下ろす。
ジークは変わらず、アリアの側に控えている。
アリアは下水道にて起こった一連の出来事を、ライルとの出会いや未だ血痕が残っていたことなども含めて事細かに伝えた。
一通り聞き終えるまで、メアリスは静かに耳を傾けた。
「ふむ、そのライルという傭兵はどこへ?」
「パーティの拠点にしてる宿屋だって。別れる時もメンバーの人たちに引きずられて行ってたよ」
聞けばどうやらライルはパーティを組んでいたらしく、尾行は本人の独断専行だという。
彼とはメンバーに偶然出会った際に別れたが、彼の所業と相手がアリアであったことを知ってか、その際には血相を変えた彼らに殴られていた。
突然のことに驚いたアリアが止めるまで制裁は収まらなかったらしい。
苦笑まじりに答えるアリアの様子に、メアリスも呆れるしかなかった。
「貴族を相手に尾行……相手がアリアくんで良かったね、彼」
「他国の工作員って疑われても仕方ないだろうね。首の皮一枚ってとこかな」
「別に何かされたわけじゃないし、むしろライルさんのお陰で色々見つかったしね」
結果論的ではあれど、あれの働きにより重要な手がかりも手に入った。
アリアはそう言いつつ、例の契約書を取り出した。
受け取ったメアリスは隅々まで目を通す。
「これは……」
「内容は人身取引だよ。勿論、違法なね」
「二枚あるのは偽装用かな」
「みたいだね。一枚は質屋の店主の名前が書かれてるみたいだけど、底板の下にあったのがもう一枚」
「……彼がねぇ」
悩ましげに唸るメアリス。
そんな様子を見ていたアリアもまた、改めて不安に近い感情が心中に湧いてくる。
アリアは件の対応について彼女へと話す。
「印章の鑑定、筆跡とインクの調査はこっちの書記官にお願いしてるよ」
「助かるよ。私は門外漢だからね。どうにも役に立てそうにない」
「ううん。コレは貴族の問題だかね。出来る限りボク達で解決しないと」
申し訳なさそうにするメアリスに、アリアは首を振る。
側に座るアインスはその仕草を一瞥し、逡巡した。
「賢者ちゃんがほほいのホイで解決できないの? ほら、魔術で暴くとかさ」
「聖国の邪法でそれらしいものはある。だが精神に強く干渉するものは総じて使い勝手が悪い上、リスクもある。意識を奪う必要もあるし、とても貴族相手に使うような物じゃないよ」
「ふーん…賢者ちゃんにも手心ってあるんだね」
「……ん?」
「あんまりメアリスさんにばっかり頼る訳にも行かないよ」
「ふーん、勤勉だなぁ」
「アインスくん?」
只ならぬ雰囲気を纏ったメアリスを、アインスは努めて無視する。
「………まあ、良い。では、この件に関してはそちらに任せても良いかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう。では、今度は私からだね」
切り替えた雰囲気の中、快く頷くアリアに感謝を述べつつ、メアリスが早速といった風にとあるものを取り出す。
「———ッ」
するりと抜かれた剣身に、大きく目を見開いたのは他でもないアリアだ。
普段冷静に努めているジークでさえも瞠目している。
強くも鋭くもない。
むしろ穏やかで、澄んだ水面を通して差し込む月明かりのような光だった。
アリアは僅かに身を乗り出し、その光景を見つめていた。
ただ一振りしか存在しないはずの剣。
しかも、その一本は既に自らの手元にある。
信じがたい現実が、確かにいま目の前で示されていた。
メアリスが鞘を抜いた瞬間、刃はひそやかに空気を照らし出し、室内の陰影をひとつ残らず洗い流してしまう。
「グレッドくんから譲り受けたものだ。見ての通りだが、偽物だよ。だが、贋作というにはあまりに完成度が高いように思う。担い手である君から見てどうだろうか」
「……うん、すごくよく出来てるね。見た目だけじゃ分からないくらい。ちょっと、持ってみても良いかな」
頷いたメアリスから剣を受け取る。
ズシリとした重みが両手に存在を示した。
「そっくりだね……でも、重さも握り心地も違う気がする」
「あの万屋が言っていた勇者の宝具とはこれのことかもね」
グリップを数度握ったアリアはそう表した。
調べるまでもなく、コレは偽物に違いは無かった。
「これは何処で?」
「彼が言うには、商店街の武器屋の店頭だそうだよ」
「武器屋の、店頭…」
「単に私たちが気がつかなかったのか、置かれて間もなかったのか……後者なら随分な偶然だが」
グレッドが嘘を吐いている可能性も否めない。
ただでさえ掴み所のない男である。
その内に何を抱えているかなど量れたものではない。
メアリスから見て、彼は奇人なれど徒に虚言を吐くような狂人には見えなかった。
しかし、意味があればその限りではない。
「……痕跡を辿らないといけないけど、とりあえず、まずは王都に届けないといけないね」
「そうだね。これに関しては私が可能な限り調べておくよ。明日の朝まででいいかい?」
「うん、お願い」
「…え」
両者が話を合わせる中、思わずと言った様子でアインスが声を溢す。
「……宝具って王都に届けちゃうの? せっかく手に入ったのに?」
「そうだね。王国の宝具は全部王族かボクらが管理することになってるんだ。だからこのまま本邸に届けることになるかな。詳細はそっちで調べられるしね」
これみたいにね、と己の剣を撫でるアリア。
「……ちなみにいつ?」
「早ければ明日の朝かな。早く管理下に置かないと危ないし、持ち主がいるなら早く見つけないといけない」
「そうだね。こんな曰く付きなものは野放しにしてはおけない」
話を聞き、妙に発汗量の増えたアインス。
そんな彼の様子もつゆ知らず、早速とばかりに動き出し始める。
部屋に一人残された彼を、夕闇から覗く茜色が照らす。
彼はそれを鬱陶しそうに眺めると、小さく溜息をついた。