【悲報】どうやらワイらは世界の敵らしい…。 作:掲示板ものが書きたい
「…ねぇ、デューク君…これどこに向かってるの?」
デュークと男は長い長い、それだけで人が住めてしまいそうな程に横にも縦にも奥にも広い廊下を二人並んで歩いていた。
あまりにも長いもので、黒髪の男はついそんなことを溢してしまう。
「言っただろう、訓練場…正確には《闘神の円庭》だ。」
闘神の円庭。
それは以前アリアとデュークが御前試合を行う際に使用した会場…基、宝具である。
一度発動すれば、その結界中にいる間は何があろうと死ぬ事はなく、全てが終われば傷も何もかもが綺麗さっぱり消え去っているという、戦う者にとってはなんともお誂え向きな代物である。
彼は今そこへ向かっているという。
「確か、試合するのに便利な宝具なんだって?」
「ああ、アレがあればたとえ真剣による試合であろうと強力な魔術を用いたものであろうと決行できる。」
ただし大きさは発掘された場所によってまちまちであるため、それによって技や魔術の規模は抑えられる場合もあるが。
そこまではいい。
だが男が聞きたいのはそんなことではない。
「…なんでそんなとこに行くの?」
そう、何故そんな野蛮極まりないところにただの侵入者でしかない己が行かねばならないのか。
男がそう問えば、デュークは呆れた様子で答えた。
「…貴殿が俺に一度稽古をつけると言ったんだろう?」
「言ったけどさぁ…」
何言ってんだコイツ、と言わんばかりの彼に、男は男で呆れている様子であった。
「名前も知らない男の言葉鵜呑みにするのはどうかと思うよ…?」
「名を名乗りたくないのだろう?」
「まぁね。」
「なら別にいいだろう。知って何が変わるのだ。」
「俺が君を殺した時に身元が判明しやすくなる。」
「名前と顔で追えるものなど知れている。そもそも、それで何か変わるとして
堂々と不審者について行くことを肯定する王国第二王子。
これには
「何より、強くなれるのであれば誤差だ。」
「…君、なんか自暴自棄になってない?」
「今必要だと感じているものを求めるのがそんなにおかしいことか?」
「…ダメだこりゃ。」
己の意思決定権は
それを体現するような今の彼に男も諦めたのかそれ以上追求はしなかった。
「今回は俺だから良かったけど、他の悪い大人———」
———その時、彼が不自然に半身を翻す。
同時に、寸前まで彼がいた場所をキラリと閃く何かが通過する。
目的を果たすことなく通り過ぎたそれは、過ぎ去った先で魔力の粒子となって空間に溶けた。
デュークは目を見開き、男は横目で背後に視線を遣る。
「…殿下、今すぐその男から離れてください。」
普段とは比べ物にならない程底冷えした声音は相対するものを芯から震え上がらせる。
「…ユラ、彼は客人だ。」
「…」
彼等の背後に立つユラは手を翻したまま油断なく主人の隣に佇む男を睨む。
対する男は何を考えているかもわからない無表情で己の背を狩り取ろうとした女を眺める。
両者の間に痺れるような静寂が響く。
「……失礼致しました。」
そうして先にその口を動かしたのはユラであった。
彼女は翻す手を下ろすと胸の前に添え、洗練されたお辞儀をする。
「ハハッ、全然大丈夫だよ。俺が怪しいのは誰が見たって同じだろうし。」
「そう言って頂けると幸いです。」
男は頬を緩ませるとなんら気にしていないといった様子で手をヒラヒラと揺らす。
「…従者が失礼した。」
「気にしてないって。というか、彼女の反応が正解でしょ。君こそもっと警戒すべきだ。」
一連の原因となった男が苦言を呈する。
ユラは一通り男を観察し終えたのか、そこに害意が潜んでいないことを確認すると二人の傍へと寄る。
「…改めまして、先程は大変な無礼を…デューク殿下の付き人、ユラと申します。」
「ん、よろしくね。」
懇切丁寧なユラに対し、まるで友人に接するかのようにフランクな態度の男。
とても寸前まで命を狙われたとは思えないやり取りである。
「…して、客人様と殿下はこれから何方へ?」
「彼に一度稽古をつけてもらうのでな。《闘神の円庭》を使いたい。」
「かしこまりました。では何人か術師をば———」
「———あ、それなら問題ないよ。」
《闘神の円庭》の使用には短時間でもかなりの魔力量の補填が必要である。
しかし、ユラが数人の術師を呼びその準備に取り掛かろうとすると、それを目の前の男が止める。
「…問題ない、とは?」
「魔力を補うだけでしょ?」
「ええ、そうですが…」
ユラは眉を顰める。
彼の言わんとしていることが理解できないらしい。
そんな彼女に男は何でも無いかのように言う。
「なら、俺が補填するよ。」
「…はい?」
「俺、魔力の量には自信あるからね。任せてよ。」
通常数人の術師を必要とする作業を一人で行うと言う男。
ユラはその言葉に困惑するも、一瞬何かを考える様子を見せる。
「…流石にそれは———」
「———では、お願いいたします。」
「…ユラ?」
断ろうとしたデュークとは反対にそれを了承するユラ。
「失礼致しました殿下。しかし、私は彼ならば可能では…と思った次第にございます。」
彼女はいつものように感情の読み取れない、俄然とした態度でそう忠言する。
「…まあ、お前が言うならば良いだろう。…すまない、頼んでもいいだろうか。」
デュークはそんな彼女の様子を不審に思うも、会った時から感じる男の浮世離れした雰囲気に何かを見出し、同じく男の提案を呑む。
「うん、任せてよ。じゃあとりあえず案内してもらってもいい?」
「ああ、行こう。」
何と表現して良いか分からない、不思議な音を響かせながら《闘神の円庭》が起動する。
「…まさか、本当にできるとはな。」
「…」
側に立つデュークは驚愕に目を見張り、ユラは視線を鋭くする。
《闘神の円庭》が設置されてある訓練場に着いた彼等は宝具を起動しようとそこへ向かった。
そうして円庭へと近づくと男が徐に屈み込み、宝具へと触れたのだ。
『これに魔力を流せば良いのかな?』
そう呟くと同時、空間を揺らすような魔力の波動が男を中心に発せられた。
『ッ!!?、ク…ッ!』
『———ッ!』
いっそ宝具ごと破壊するのではないかと思う程の魔力の濁流は一切の無駄なく円庭へと吸われて行く。
そうして———
『……起動、したのか…?』
『…そのようですね。』
———次の瞬間には宝具は起動していたのだ。
まさに一瞬の出来事であった。
思い返してもなお現実味の無い光景であったが、それを成したのがこの飄々とした男であると言う事実もまたその非現実性を加速させている。
彼は一体何者なのか。
王都は、王国は未だ先の事件によって動乱の最中にある。
そんな中現れたこの男は間違いなく警戒すべき存在なのだろう。
だが———
「———おーい!デューク君!これでいいの!?」
———男の纏う、異様とも言える、人畜無害を体現するかのような不思議な雰囲気がそれを阻害する。
口に手をやり反対側から大手を振ってそう呼びかけてくる男を見てデュークはそう感じる。
「ああ、それで問題無い!」
同じく声を張り上げ返答する。
「…よし、では始めようか。」
そうして結界の存在を確認したデュークは早速といった風に舞台へと続く階段に足を掛ける。
「お待ち下さい、殿下。」
しかし、寸前で背後からユラが止める。
そうして一歩前へ出る。
「ここはどうか、私めにお譲りいただけないでしょうか?」
「…何?」
それは、従者が口にするにはあまりにも不敬、あまりにも不相応な台詞であった。
しかし、彼女が彼に対して無礼なことを口走るのは今に始まった事ではない。
そんなことをいちいち指摘していては彼女の首が細切れになってしまう。
「理由を聞かせろ。」
デュークは目を細めその真意を問う。
「…あの男が信用ならないからです。」
その瞳に強い警戒心を浮かべて彼女ははっきりと言う。
名を名乗らないだけでは無い。
背後に立った時から
己の一撃を視界に入れることも無く身を翻すのみにて避ける身のこなし。
先程見せた超常なまでの魔力量とその密度。
そして何より———視界に入れた途端己の身を包んだ悪寒。
何を取っても怪しい、どころか恐ろしいと言うべきその存在性。
そんな者を己の主と相対させるわけにはいかない。
如何に宝具に守られていようと、あの存在はそれさえも———
「殿下、どうか…卑しき身でこのようなことを口走るのは大変恐縮ではございますが…」
そう、ユラが訴えかける。
デュークは未だかつて見たことがない程に強い意志を宿した彼女を瞳を見つめ返す。
「…分かった。だが問題無いと判断したならばもう一度彼に頼むぞ。」
「…感謝致します。」
そう言ってデュークが掛けていた足を下ろしその身を引けば、ユラが一礼をして階段を登り始める。
「…っ」
階段を登り切れば向かい側にはあの男が立っていた。
「あれ?デューク君じゃないの?」
小首を傾げ心底不思議そうにする男。
「流石に、出会って間も無い客人様と殿下が剣を交えるというのは此方としても許容できることではございませんので…どうかご理解を。」
そうしてユラは真っ直ぐに整えていた姿勢から脱力する。
体に沿って伸ばされた腕はダラんと下がり、呼吸はより深いものとなる。
「成る程ね。そういう事なら仕方ない。」
「感謝致します。」
左右で首を鳴らし、魔力を纏った彼女は腰を落とす。
「じゃあ…良いかな?」
「はい、では———」
脚に力を込める。
全身に伝う力の波と魔力の波動が調和する。
「———参ります。」
瞬間、地面が爆ぜた。
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