【悲報】どうやらワイらは世界の敵らしい…。 作:掲示板ものが書きたい
ホンマはもうちょっと密度高めたいんやけど…くどくなっちゃうのであっさりめに
「おお、やってますねぇ…」
月明かりだけが頼りの仄暗い平野で、小綺麗なローブに身を包み無機質な仮面で顔面を覆った『統括』なる男は、緋く照らされた王都上空を眺めながらまるで花火でも鑑賞するようにそう呟く。
瞬間、火花を散らす数本の糸が正面からの一撃を防いだ。
まるで空間に固定されているかのように強靭なその糸は、遥かに幅の広い刃を受けて尚切断されない。
「…余所見とは、随分と余裕だな」
凶悪なまでに厄介極まりないその極細剣を表情無く睨み付け、その視線を男へと向ける。
凍えるその眼はそれだけで斬り殺せてしまいそうな程に鋭い。
「まあ、気を割く程でもないというのは事実ですね」
まるで今の今まで忘れていたとでも言いたげな様子で至極退屈そうに答える男。
そうして虫でも払うように数本に束ねた糸を薙ぎ、彼女を弾き飛ばす。
「それに、そろそろでしょうし」
「何———」
———男がそう呟いた瞬間、今までとは比べ物にならない速度で糸が振るわれる。
反射的にユラは跳ねるようにその場を退き、その一閃を回避する。
「———ただの足止めだと申しましたが…もう、用事も終わりそうですから」
「(っ…速い…!)」
だが———更なる加速を孕んだ無影の一閃がユラの脚を刎ねる。
「ク…ッ!」
突然失われた両脚の感覚と重心のズレによりバランスを大きく崩す。
ユラはまともに着地することも出来ず地面へと投げ出されるように転がった。
「貴女は部位欠損を治せるほどの聖魔術は習得されていませんね。薬も私が割ってしまったようですし…それなら暫くは動けないでしょう」
初めからこうすれば良かったですね、などと言う男はもう戦いも決したとばかりに彼女への意識を散らし、妙に明るい王都へ視線を遣る。
「さて…」
男は踵を返し王都へその足を向ける。
鋭く展開されていた糸に流していた魔力が消えればダランと地面へと垂れ瞬時に男に回収された。
そうして二つの刃が交わった名残の散りばめられた荒れた平野に背を向けその一歩を踏み出す。
「待て…ッ」
そんな男をユラは呼び止めた。
彼女は腕で上半身を持ち上げ、二本の赤を引きながら男へと近づく。
砂利や雑草と擦れる音を立てながら這いずるその姿は宛ら墓場から這い出た亡者の如く、憎悪さえ込めた眼で男を絡め取る。
「…止めた方が良いのでは?どうせ、その出血だとその内気絶しますよ」
切断した瞬間程ではないが、それでも脚は半ばより絶たれた白と赤の混ざった断面から未だ溢れ出す血液は生命の消耗を思わせる。
引き摺れば引き摺る程その裂傷を増やすだけであり、これ以上男へ喰らいつくのは無謀のように見えた。
「問題、無い…ッ!」
嘲笑するようなその言葉を聞いたユラは、しかしその痛覚の存在を思わせない人形のような表情を変えることもなく己の脚へと意識を集中させる。
本来の肉体の形を失ったことで乱れた魔力を統率し、脳内に保管された脚先を構築する術式へ落とし込んだ。
すると傷口を中心に反映された術式へ魔力が流され、同時に脚に纏わりつくように鋼が生成され始める。
「おや…おやおや」
やがて形作られるそれは———鋼の義足。
しかし生物的なものではなく、どちらかといえば鎧のレギンスに近い。
接触部に直接杭を打ち込むようにして固定され、一瞬血が噴き出した。
その光景を男は奇怪な生き物でも見るような眼で見下ろす。
「…血管を締め、断面を固定した上で組織を分解し義足と融合させましたか…飛んだ力技でございますね」
画面の奥から呆れたような視線を飛ばす男は翻していたつま先を彼女の方へと向ける。
ユラは覚束ない様子で立ち上がり、切り傷だらけの上着を脱ぎ捨てると乱れた髪の隙間から覗く暗く光る眼で男を捉えた。
鋼の脚の鈍色が既に垂れた血で赤く装飾される。
「…貴様のお陰で良い脚が手に入った」
「いくら融合させていると言っても、最悪壊死しますよ」
「それで腐り落ちるのならばその程度だったというだけだ」
新品の靴の履き心地を確かめるように脚をプラプラと遊ばせる。
無理矢理固定されたその接触には相応の痛みが伴っているはずであるが、彼女からはそんな様子も見受けられなかった。
「…その表情と言いソレと言い…本当に人形のようだ」
「声から意志の読み取れん貴様に言われたくはないがな」
仮面を被る男はともかく、両者はその声に抑揚が無く、そんな両者によって交わされる会話はまるで機械同士で話しているかのような無情さがある。
ユラはそう吐き捨てると地面を震わす程に踏み締め腰を落とした。
「…どうやら手っ取り早く達磨にして地面に縫い付けてしまった方が良いようですね」
「奇遇だな。私もさっさと貴様を串刺しにして突き立ててやりたいと思っていたところだ」
投げやりに放り出された無数の糸が淡く光る。
瞬間、空気を切り裂くような音と共に鞭の如く振るわれた糸が飛来した。
視界の中央を閃くそれを捉えるユラは手刀を構え掌外沿に魔力で覆った鋭い刃を纏わせる。
「それはもう見慣れたッ」
真正面から襲い来る斬撃を弾き、続く数本を翻す。
そうして水中を泳ぐ魚の如く流れるような軌道で極細剣の檻を掻い潜る。
そうして僅か数歩にてその距離を埋め、首目掛けて刈るような上段蹴りを放つ。
男は糸を張るようにしてその一撃を受け止め鋼と衝突する。
「ッ!」
だがその一合に競り合いは生まれることなく、その横薙ぎが男を蹴り飛ばした。
横合いに弾かれた男は回転に合わせて地面に手をつき身を跳ね上げ着地する。
男はユラリと首を起こす。
「…先程よりも硬く、重い」
鋼の質が上がっている。
男は今の一瞬で起きたその変化を捉えた。
「丁寧に練った脚だからな、当然だ」
身を伏せる男に構わずユラは悠々とした足取りで地を踏み締め男へと歩を進める。
闘志に燃えたその身は蜃気楼の如き気を放ち、歩む出す毎に殺気が増す。
「…コレは、あまり手を抜いていられませんね———ッ」
零距離まで踏み込んだユラが結界のように複雑に、且つ高密度に展開した糸に刃を這わせた貫手を撃ち込む。
視界が劣悪とはいえ、どれだけ細かろうと光を反射さえすればを闇の中ではよく見える。
隙間を縫うようにして差し込む連撃は、しかし男へ届く前にその奥にて伏兵のように構える糸で弾かれてしまう。
「———フ…ッ!」
だがユラは追撃を止めない。
四方八方より突きを放ち、相手にカウンターの隙を与えない。
反撃の隙として最も顕著となるのは息を吸うタイミングである。
故に戦闘、或いは武においては隙を作らぬようへその奥に位置する丹田へと呼吸にて息を送り込み、吐き出す瞬間に鋭い一撃を放つ。
たった一呼吸にて放たれるユラの連撃は次第に加速し始める。
断続的に鳴り響いていた衝突音はまるで一続きの悲鳴のように引き伸ばされ、インパクトの瞬間は常人の視覚には映らない。
「おっと…っ!」
やがて加速の限界へと到達すれば糸の防御も追いつかなくなり始める。
男もその回転を早めるべく指先にて指揮する。
———。
それと同時、影も姿もを捨て去った無意識をも撫でる一線がユラの腕を切断する。
だがユラは振りかぶる肩を引きはしない。
生まれた隙間は決して見逃さない。
そうして彼女が腕を限界まで引き絞ると同時、
展開された術式によって生まれるのは———ガントレットの如き義腕。
「———ハァ…ッ!」
男が瞠目する間も無く、一秒間にも満たない一瞬の内に展開された戦略を経て、ユラが狙い澄ました弾丸のような一撃を送り込む。
加速という概念をぶち破り、初速から最高速度へと達した貫手は男の鳩尾へと突き刺さる。
それと同時、彼女の一撃が背後へと流される力の流動を感じ取った。
「逃さんッ!」
ユラは最小限の動きで男の懐の更に深くまで潜り込み、《
「———グ…ッ!?」
逃しきれなかったエネルギーが鳩尾を中心として波のように男の肉体の内部で暴れる。
男は肺の息全てを吐き出すような呻き声を漏らす。
そこで初めてユラは明確な手応えを感じ取った。
空気の輪が波動の如く広がると共に、背までを突き破る勢いで刺さる剣先のような貫手が男を吹き飛ばす。
「フゥゥ…ッ!」
ユラは力を解放するように空気を吐き出すと同時、足元を爆ぜさせ男へと続く一直線上を突進するように詰める。
金属を足にぶら下げながら超人的な跳躍を見せた彼女は潜り込むように身を縦に回転させ《
それをとらえた男は腕を交差させ胸への直撃を防ぐ。
骨が軋むような重厚な一撃が男を重なる腕ごと地面に叩きつけた。
大地を掻き分け、男の肉体が判子のように埋め込まれる。
内側から爆発したように周囲の地面が隆起した。
「お前は此処で仕留めるッ———」
ユラは男を挟んだ向こう側の地面に術式を構築し展開する。
魔力が流れ、その波紋が大地を駆け巡った。
「———《
上から掛かる剛脚による質量に加え、それによって男を縫い付ける下の地面からの殴りつけるような衝撃が男を襲う。
そうして上下からの逃げ場のない一撃により、男の胴をユラの鋼が
———瞬間、ユラの視界が大きくブレる。
「は———」
何が起きたのか認識する間もなく意識を置き去りに高速で流れる視界を捉えるしかないユラは、突如やって来た衝撃が全身を殴りつけるまで呆然としていた。
「———ガ…ァ…ッ!」
そこでやっとユラは自身が投げ飛ばされたことに気がつく。
足首に残った締め付けるような感覚から足を糸に取られたのだろうということまで理解した。
状況を冷静に把握する戦闘的な思考と純粋に何が起きたのかに混乱する人間的な思考が混濁する。
遅れて全身を駆け巡る痛みがよりその思考を掻き回した。
その時、籠る聴覚の中に霜を踏むような音が響き渡る。
「———正直、舐めていました。えぇ…本当にお恥ずかしい限りでございます」
その声を聞いた瞬間、ユラは一帯の温度が一段階下がったと錯覚する。
「流石はあの王子の護衛を務めるだけはある…どうも私は人を見る目が無いらしい」
しかし明滅する視界の端に漂う白い冷気を捉え、それが決して錯覚ではないと確信した。
ユラは仰向けになった身体を寝返らせ、起き上がろうと腕を立てる。
地を這う冷気は深緑を侵し、脆いガラス細工のように崩してしまう。
「故に、此処からは『統括』として全霊を以てお相手致します」
正面に立つ男を見上げる。
貫いた筈のその胸に穴は無く、代わりに己の義足が霜に侵されていた。
———霧を踏んだ。
そんな感覚だった。
「ご安心下さい。たとえ氷像になろうとも、必ずや美しく飾って見せましょう」
ソレが仮面の奥で、確かに嗤ったのをユラは見た。
【悲報】ユラさん、一瞬にして義足義手になる。
欠損タグでも付けよかな()