【悲報】どうやらワイらは世界の敵らしい…。   作:掲示板ものが書きたい

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今思い出したけどこの作品ってイッチ達がメインやから主人公達側の視点っておまけでしかない事に最近気がついた。


終局の混沌

 縺れ合った臓物、飛散する肉片にばら撒かれた白い骨。

 獣の声は静まり返り草木のせせらぐ夜の深緑の中、花の蜜や青臭い香りを覆い隠す鉄の匂いが一帯を満たす。

 

 まるで禿鷹に啄まれた死体、あるいは子供が飽く迄遊び続けた古人形の如き様相の男は、涅色の髪を褐色に染め、眼下に膝を付く少女を見る。

 

 その間には———強固な蔦の絡まる、彼女を殺さんと振り下ろした筈の腕があった。

 

 

「…しぶとい奴だ」

 

 

 左脚の付け根、その内側から右肩と首の境辺り迄を走り胴を斜めに二分する断面。

 

 男の容態もさることながら、最早肉体の損壊と言うべき重体の少女は、しかし残った左手に持つ杖を右側に突き、僅か二点、そして地面から生える数本の蔦によってその身を支えていた。

 

 洪水のように溢れるはずの血も如何なる術か、垂れ流されることなく変則的な流動を以て体内を循環している。

 

 

「わかって…いたこと、だろう…に」

 

 

 法則の錯乱する混沌とした魔力が流れる中、削がれた肺から漏れ出す空気さえ操作し、軽くなった身体に酸素を送る。

 

 メアリスはぼんやりと死相を浮かべた顔をしてやったりと歪ませ、目を細めるギーリークを見上げる。

 

 

「魔術が制限されれば今度は森が味方になるとは…流石は世界に愛されているな、森人」

 

 

 彼女を守るように伸びる森の手足を忌々しげに睨み付け、彼は皮肉を言う。

 

 

「日頃の、行い、というヤツ…かな」

 

 

 つい先刻まで術式の構築さえままならなかった中、徐々に順応しつつある彼女は気丈に振る舞う。

 

 ギーリークはそんな彼女を鼻で笑った。

 

 

「…強がる必要は無い。さしもの賢者とてその身体ではさぞ辛いだろう。潔く死んだ方が良い———」

 

 

 不敵に笑ってはいるものの、本来在るべき形を失った肉体は確実にその活力を削られていることをギーリークは見抜いていた。

 

 もう十分生きただろう、と死地へと追い込んだものが宣う。

 

 そうして、つま先で地面を小突く。

 

 

 

「《———永石の檻(ギアド=レィズ=パルダム)》」

 

 

 

 魔力の波動が森へと広がる。

 間も無く、メアリスは足元から伝わる変化を感じ取った。

 

 

「森の一部を擬似的な剛体にした。壊れることもないが、同時に植物は動くこともできない。その小賢しい助力も———」

 

 

 ———手を仕向けた直後、腕が刎ねられる。

 

 

「……驚いた。ソレは生体(おまえ)の一部のようだ」

 

 

 瞠目するギーリークを横目に、募る蔦がメアリスをまるで割れ物でも扱うかのように優しく包み込むと、欠けた肉体を蔦が補うかのように絡まり合う。

 

 その姿はまるで継ぎ接ぎのぬいぐるみのよう。

 あるいは魔物と言われても鵜呑みにしてしまうであろう、本来のものとはかけ離れた姿。

 元の姿の名残から、彼女を知っているものならば辛うじて識別できるかもしれない。

 

 

「…だが、どれだけ取り繕おうと所詮はハリボテだ。お前の肉体は帰ってこないぞ」

 

「構わないよ、自然と一体になるのも乙なものだしね…さぁ、これで終わりにしよう」

 

 

 互いに満身創痍。

 既にこの場で切れる手札もそう多くは残されて居ない。

 

 

「こちらの台詞だ…英雄の残骸が」

 

 

 戦いは間違いなく———終わりへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

85:名無しの悪党@荒らし活動中

いけ!そこや!刺せ!

 

86:名無しの悪党@荒らし活動中

おっしゃあ良いの入ったでェ!!

 

87:名無しの悪党@荒らし活動中

主人公がんばえ〜!

 

88:名無しの悪党@荒らし活動中

魔術盗むとはたまげたなぁ

 

89:名無しの悪党@荒らし活動中

流石引きニキの自信作そこいらの消耗品とは格が違う

 

90:名無しの悪党@荒らし活動中

うーむ手助けしてやれとは言ったもののまさか助っ人二人も連れて来るとは

 

91:名無しの悪党@荒らし活動中

YA☆RI☆SU☆GI感

 

92:名無しの悪党@荒らし活動中

どちらかと言えば従者ちゃんだけかと思てた

 

93:名無しの悪党@荒らし活動中

>>91

戦力差的にこれくらいが丁度良い希ガス

 

94:名無しの悪党@荒らし活動中

むしろそれでも苦しいぐらいやろ

あのバーサーカーモドキにコピー能力あるとかワイらでも聞いてないし

 

95:名無しの悪党@荒らし活動中

主人公組の成長が目覚ましくておじさん感動しちゃった

 

96:名無しの悪党@荒らし活動中

強すぎっピ!

 

97:名無しの悪党@荒らし活動中

従者ちゃんはイッチのこと警戒してた筈なのにどうやって連れてきたんやろ…?

変装しとったとか?

 

98:名無しの悪党@荒らし活動中

>>94

コピー系は本家の劣化って相場決まってるから…

 

99:名無しの悪党@荒らし活動中

>>94

そんな簡単に覚えれたらワイかて苦労せえへんのに( ; ; )

 

100:名無しの悪党@荒らし活動中

>>97

イッチって変身とかできたっけ?

できたとしても魔力とかでバレるんなんじゃね?

 

101:名無しの悪党@荒らし活動中

一撃でもまともに食らったらワンパンやのによー持ち堪えるわ

ワイなら最初の蹴りで天に召されるわ

 

102:名無しの悪党@荒らし活動中

>>95

期待してたよりも順調に育ってる感

 

103:名無しの悪党@荒らし活動中

>>101

お前が行くのは地獄なんだよなぁ

 

104:名無しの悪党@荒らし活動中

>>100

干渉できない肉体領域内で術式が完結+魔力の扱いが相当巧かったらワンチャン…

いやでもやっぱイッチに変身能力なんか無かったはずや

 

105:名無しの悪党@荒らし活動中

いいね

賢者の補助有りとはいえハイエンドに噛み付けるなら準幹部クラスとの直接対決もそう遠くはない

 

106:名無しの悪党@荒らし活動中

ガーレイ君、渾身の舐めプ

 

107:名無しの悪党@荒らし活動中

うーんこの鎧カス

 

108:名無しの悪党@荒らし活動中

>>105

賢者の補助有りで黒獣の攻撃が紙一重じゃ団長とか相手にした時ちょっと不安残るわ

 

109:名無しの悪党@荒らし活動中

>>106

そりゃワイらの中でも選ばれしワイらである幹部がお創りになったさいきょうのもんすたーやぞ

煽りムーブは呼吸に決まっとるやろ

 

110:名無しの悪党@荒らし活動中

王子君の回復が有能すぎる件

 

111:名無しの悪党@荒らし活動中

>>109

ペットは飼い主に似るってハッキリわかんだね

 

112:名無しの悪党@荒らし活動中

これ割とマジで王子君が回復覚えてなかったら詰んでた説濃厚やな

 

ハッ∑(゚Д゚)まさか引きニキはこのために…?(名推理)

 

113:名無しの悪党@荒らし活動中

>>108

イベントの度にこのレベル成長見せるならワイらが煽ればそこまで不安要素は無いと思うけどな

 

114:名無しの悪党@荒らし活動中

>>112

アレのことやしそこまでは考えたなかったんやろうけど、基本余計なことしかせん好奇心が幸いしたか

 

115:名無しの悪党@荒らし活動中

ハイエンド出してる時点でお察し()

イッチの介入無かったら余裕で死んでたやろ

 

116:名無しの悪党@荒らし活動中

くぉれは折檻ですわ

 

117:名無しの悪党@荒らし活動中

>>116

イッチがウォーミングアップを始めました

 

118:名無しの悪党@荒らし活動中

あ、ふーん

 

119:名無しの悪党@荒らし活動中

サラダバー引きニキ

 

120:名無しの悪党@荒らし活動中

これは引きニキが悪い

 

121:名無しの悪党@荒らし活動中

引きニキ「結果オーライ…という言葉がある」

 

122:名無しの悪党@荒らし活動中

 

123:名無しの悪党@荒らし活動中

結局死なんかったし、峠は越えとるやろし、引きニキ単体の戦力ならハイエンド程じゃないやろうから心配無し

結果的に成長できましたで終わって良いんじゃない?

 

124:名無しの悪党@荒らし活動中

そうこう言っているうちに黒獣戦も終盤を迎えて引きニキ戦も佳境に入っている模様

 

125:名無しの悪党@荒らし活動中

>>123

殺したとしても死体が残ってるなら何とかなるし、主人公の死(仮)も物語的には良い味出すかもしれんけども…

 

126:名無しの悪党@荒らし活動中

>>123

ここにきて引きニキが見たことない技使ってるんですがその…

 

127:名無しの悪党@荒らし活動中

フラグって知ってる?

 

128:名無しの悪党@荒らし活動中

余計なこと言うなよ

 

129:名無しの悪党@荒らし活動中

>>127

フラグっていうのは主人公組が建てる者で悪役であるワイらにライセンス取得は不可能

 

130:名無しの悪党@荒らし活動中

くだらんこと言ってないで観戦しよーぜ

 

131:名無しの悪党@荒らし活動中

あらー賢者ちゃんも化け物みたいになっちゃってもう

 

132:名無しの悪党@荒らし活動中

引きニキ割と死にかけやん

 

133:名無しの悪党@荒らし活動中

ポーカーフェイスで隠しきれない焦り具合で草

 

134:名無しの悪党@荒らし活動中

何であんな消耗しとんの?

 

135:名無しの悪党@荒らし活動中

何かと思ったら蔦かアレ

 

 

いや何で?

 

136:名無しの悪党@荒らし活動中

>>134

途中で副団長の時と同じ結界みたいなん張られて、その後ぶっ壊れたと思ったらああなってた

 

137:名無しの悪党@荒らし活動中

賢者ちゃんも体半分無くなっとったし、多分引きニキが何かしたんやろうな

 

138:名無しの悪党@荒らし活動中

異形娘っぽくて可愛い

 

139:名無しの悪党@荒らし活動中

ロリ…蔦…

 

 

 

閃いた

 

140:名無しの悪党@荒らし活動中

>>137

引きニキは良いとして何でそっちは生きとんねん

 

141:名無しの悪党@荒らし活動中

>>138

実際一部の層には需要ありそうだからオタクは怖い

 

142:名無しの悪党@荒らし活動中

>>140

魔力の流れが見えんから何とも言えんが…多分魔術で諸々の生命活動を再現してるっぽい

 

143:名無しの悪党@荒らし活動中

ワイの考えとることが正しいなら引きニキも相当消耗しとるが、賢者ちゃんの方は魔力量の上限が何割か削とんな

 

144:名無しの悪党@荒らし活動中

きっしょ

 

145:名無しの悪党@荒らし活動中

魔術のオンパレードが過ぎる

 

146:名無しの悪党@荒らし活動中

おい誰だよフィジカルでゴリ押せば勝てるとか言ってた奴

 

147:名無しの悪党@荒らし活動中

イッチとか引きニキ程ではないにしろ、身体能力は見た目相応やのに技巧がキモ過ぎてバランスが崩壊してる感

 

148:名無しの悪党@荒らし活動中

MP最大値減少

強制マルチタスク

隻腕隻脚

無条件で頻発する防御貫通攻撃キャンセル

瀕死

 

デバフ祭りで草

 

149:名無しの悪党@荒らし活動中

引きニキさっさと再生すれば勝ちでは?

 

150:名無しの悪党@荒らし活動中

>>148

手数は増えただろうが感謝しろよ(横暴)

 

151:名無しの悪党@荒らし活動中

>>149

ワイもそう思ったけど何か事情があるんやろ

此処に来て舐めプは流石に無い

 

…無い…よな?

 

152:名無しの悪党@荒らし活動中

前も言ったが不死身でも無けりゃ無敵でも無い

限度ぐらいあるやろ

 

153:名無しの悪党@荒らし活動中

ガンバっ(黄色い声援)

 

154:名無しの悪党@荒らし活動中

うわぁめっちゃ動き回るやん

 

155:名無しの悪党@荒らし活動中

スピードの賢者ちゃん

タフネスの引きニキ

 

156:名無しの悪党@荒らし活動中

進○の巨人かて

 

157:名無しの悪党@荒らし活動中

良い感じに死んでくれ

 

158:名無しの悪党@荒らし活動中

もうこの際死んでも逃げても良いから中途半端にだけはせんとってくれ

 

159:名無しの悪党@荒らし活動中

半身の少女がゾンビみたいな男を嬲るとか何処のB級映画ですか?

 

160:名無しの悪党@荒らし活動中

>>158

命題:生き死にの中途半端とは

 

161:名無しの悪党@荒らし活動中

>>159

美少女が出演しているので買いです(オタクの鑑)

 

162:名無しの悪党@荒らし活動中

ジャンルはホラーコメディかな

 

163:名無しの悪党@荒らし活動中

おーい早くせんと黒獣戦終わっちゃうぞー?

 

164:名無しの悪党@荒らし活動中

押しきれー!

 

165:名無しの悪党@荒らし活動中

>>160

解:ワイら

 

166:名無しの悪党@荒らし活動中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血管伝う骨肉の鞭の強襲を筋繊維の如く束ねられた頑強な蔦が撃ち落とす。

 

 骨が刃の如く鋭く変形し一瞬にして蔦を切り裂くも、自然が怒りを露わにする様に蔦が地面を突き破り迎撃する。

 

 伸ばした蔦を手足の如く利用し、手繰り寄せる様にして高速で飛び回るメアリスは、大きく旋回しギーリークの背後から迫る。

 

 

「随分と軽快に動くな。軽くなったお陰か」

 

「キミも口だけは軽いね。虚勢のつもりかい?———ッ」

 

 

 構えるメアリスの手のひらに熱が宿り、業火が産声を上げる。

 

 

「《弔火(とむらひ)解法(げほう)——— 火葬三昧(かそうざんまい)》」

 

 

 不死殺しの火が花を咲かせ、ギーリークを巻き込み花弁を散らせる。

 

 火柱が円形に広がり、火の手が一帯を包み込む。

 彼女はその中心で再生し続けるギーリークを見据え、燃え広がる火の畑に手を翳した。

 

 

「《———聖咒(せいじゅ)・エミーリアの黄火(ごうか)》」

 

 

 直後、赤が黄へと移ろい代わる。

 

 火柱は一回り高く、肉が焦げる匂いは腐臭へと転じ、怨嗟の炎が地獄を再現する。

 

 

「…ッ」

 

 

 轟轟と燃える炎の中で剥き出しになった眼球が彼女を睨む。

 骨の上に張り付く筋繊維が苦悶を表すように痙攣し、それを隠すように皮膚が覆った。

 

 その上空で、黒く圧縮された冷たい山が頂を地へ向けて創造される。

 

 超質量が不壊の森林へ落下し、滅びの影をその地へ落とす。

 ギーリークはその鋒を見上げ、《淵眼》で見定める。

 

 

「聖人の鉄か…贅沢だな———ッ!!」

 

 

 一際大きく見開かれた《淵眼》が黒鉄(くろがね)の山を消し飛ばす。

 

 そうして森を覆う影が消えた時、現れたものをギーリークはその瞳に映す。

 

 

「《(デトラ)———(オーブ)———(ロムト)———(ヴラドア)》」

 

「《契に従い、深き永夜に朝を齎せ》」

 

 

 太陽よりもなお眩く、太陽よりもなお熱く。

 夜を照らす小さき黎明が泥色の中で燦々と輝く。

 

 一瞥する彼女は宙に印を刻み、音を奏でる。

 そうして現れた契証の光へと触れ、唱えた。

 

 

「《霊約———黎朝の火(イグヌート)》」

 

 

 瞬間、黄火が散り、空気が焦げ、真空となった闇夜に天を分つ曙光が指す。

 

 万象へと向けられるはずの一条は、しかしただ一点へ向かい、生きた屍へと注がれた。

 

 

「ッ————!!!」

 

 

 刹那の朝が王国を照らし、黎明の中で苦悶の声が掻き消される。

 

 

「ガ…ッ…ァア゛…ッ!」

 

 

 焼失と再生を繰り返すギーリーク。

 

 その皮膚は、すでに存在を保てないほどに焼かれ、骨が露わになっていた。

 白く輝く骨格すらも、次の瞬間には黒く炭化して崩れ落ちる。

 

 だが、黒煙の奥で赤い血潮のような光が滲み出し、炭となった骨の断面に肉が芽吹く。

 筋繊維が幾重にも絡みつき、再び形を成そうとする。

 

 

「中々に…痛いぞ…ッ、賢、者…ァ…ッ!!」

 

 

 声とも呻きともつかぬ響きが、熱に歪む空間を震わせた。

 皮膚が焼け落ちる速度と、再生が進む速度が拮抗する。

 一瞬、炭と肉とがせめぎ合い、次の瞬間には再生が勝る。

 

 焼かれながら再び蘇り、焦がされながらも幾度となく覚醒する。

 

 痛々しい赤が視界を舞う中、メアリスは勢いを殺すことなく次の攻撃へと移行しつつ、勝利への道を探り続ける。

 

 

「(———攻撃の手を止めてはならない…!!)」

 

 

 突き刺した足先へと鋭い風の魔力を集中させ、巻き込むように胴を寸断する。

 

 胸部から上を失った肉体が膝を着き、斬り飛ばされた胴が宙を舞う。

 

 糸が切れたような下半身とは別に、上半身からは分たれた二つの肉体を繋ぎ止めんと脊椎が、筋繊維が飛び出し、縫い合わせるように食らいつく。

 

 メアリスはそれを阻止すべく蔦を捩じ込み、脊椎をへし折ろうと巻き付けた。

 

 

「(———奴は、不死身などではない!!)」

 

 

 しかし万力の力を込めようとした瞬間、連なる脊椎からカットラスの如き湾曲した刃が生え、蔦を細切れにする。

 

 

「《契に従い、訪れぬ安息を呼び覚ませ》」

 

 

 恐らくは彼の持つ不死性と脅威的なまでの再生能力は別の原理が働いている。

 

 だが肝心の術式の規則性も無い、幾つもの性質を煮詰め合わせたような異常な魔力の海の奥に埋もれ、僅かな魔力の流れさえ読み取れなかった。

 

 何もかもが不透明な中、メアリスに残された道は数える程も無い。

 

 術式の破壊による再生能力の低下、あるいはリスクを負った上で再度《解天真界》を発動し畳み掛ける。

 

 しかし一つ目は術式が分からない以上現実的ではなく、二つ目は彼女自身の出力が大幅に落ちている為にリスクが大き過ぎる。

 

 意を決した彼女は、相変わらず不完全な肉体で無理やり体を維持する怪人を睨む。

 

 

「《———霊約・黄昏の霜(ガルトーマ)》」

 

 

 灼熱の森が極寒へと転じる。

 

 異形の腕が醜く膨れ上がった見た目に反し、崩れそうな程に弱々しく蠢く。

 しかし、霜は指先から包み込み、一瞬にして一体の氷像を仕立て上げた。

 

 それに対しギーリークは体内温度を加速度的に上昇させ、自らの沸騰する肉体ごと氷を溶かす。

 

 メアリスは筋繊維と骨の塊と化した巨腕へと蔦を絡ませ、いっそ潰さんとする程に締め付けながら引き寄せるように間合いを詰める。

 

 未だ原型を止める片腕を前へ、飛び込んでくる彼女の首を掴み取ろうとするも、残った左足によって回し蹴りの要領で払われる。

 

 そうして突き出した杖の底がギーリークの喉を貫き地面へと縫い付けた。

 

 

「ッ!」

 

 

 少女らしからぬ形相で血を浴びる姿は憎悪に還った死霊、あるいは魂を刈り取る死神の如く鬼気迫る。

 

 

「ゴプ…ッ」

 

 

 人の身を捨てた故か、変色した血がギーリークの喉、そして口から溢れ出る。

 

 

「———」

 

 

 対するメアリスに言葉は無い。

 

 ただ隻腕に力を込め、宝具としての特性を活かすわけでもなくその不壊にも思える程の強度の棒で肉を抉る。

 

 そうして相手へ再生させる暇を与えることなく地面から隆起した蔦で打ち上げ、脚を捉え、地へと叩き付ける。

 

 

「《聖咒———》」

 

 

 蔦で絞め殺すにも一歩届かず、況してや今彼女が扱える魔術など知れている。

 それでも肉を削ぎ、骨を削り、内臓を潰すしかない。

 

 だが、やはりこの男を殺し切るには足りないだろう。

 それは両者がよく理解していることでもあった。

 

 

「《———ファルサールの灰塩(かいえん)》…ッ!」

 

 

 瞬間、ギーリークの肉体が突き刺した喉から白い灰へと染まる。

 

 まるで時の流れを数百倍に早められたかのように、ひび割れ、剥がれ落ちていく。

 皮膚は灰色に乾き、筋肉が脆く砕け、骨が音もなく崩れていった。

 

 風がひと吹きすれば、指先ひとつ動かす間にも、粒子となった灰が宙へと舞い上がる。

 

 やがてその姿は、影すら残さず空気に溶けていった。

 灰はゆっくりと渦を描きながら消え、魔術の残滓がほのかに光って消える。

 

 

「……」

 

 

 世界は再び静寂を取り戻し、残されたのは、冷たい空気と、魔力の余韻だけだった。

 

 メアリスは最後の灰が消えた一点を見つめる。

 

 未だ森はざわめいていた。

 

 

「……これでもダメか」

 

 

 ———沈黙する世界の中、彼女の目の前で肉が芽吹く。

 

 

『———あ゛ァ…』

 

 

 二つの眼球が宙に再生されると同時、存在しない喉から合点が言ったような声を上げる。

 

 鳴りを顰めていた泥色の魔力が墓場から蘇る屍鬼のごとく息を吹き返し、彼女の視界を覆った。

 

 彼女と同じくして瀕死であったはずの彼は、浴びれば生ける屍にでも化えられてしまうと錯覚するほどの瘴気を放出し、彼女を弾き飛ばす。

 

 片足で地を蹴り、操る風で勢いを殺し、再度左足と杖を付いて着地をしたメアリス。

 

 

 

「やれやれどうして———小賢しいな賢者」

 

 

 

 瘴気に埋もれる景色の中央から、先程までのダメージからは想像も出来ないほどの速度で腕が伸び、メアリスの喉元を掴み上げる。

 

 苦しそうにする彼女ではあったが、その表情に驚愕や困惑といったものは無かった。

 

 締め上げられる喉から吹き抜けるような呼吸音が溢れる。

 

 

「魔力切れか…それとも———ストック(・・・・)の消費を狙ったと言ったところか」

 

 

 彼女の蔦の如く首へと伸びる腕の先、瘴気の雲海からユラリと現れたギーリークはまさに蘇ったというに相応しい姿をしていた。

 

 腐り落ちた顔の半分は原型を取り戻し、零れ落ちた内臓は定位置へと収まり、全身に見え隠れした骨や神経は肉に隠れる。

 

 全快とまでは行かないだろう。

 

 だが———両者の間に、決定的な戦力の差が生まれたと言える瞬間ではあった。

 

 彼女は風の刃で己を掴む腕を切り飛ばし、その場から離脱する。

 

 

「切り札は最後まで取っておく…というのが戦闘における心得だったか。すまない、本職ではない故詳しくはないんだが…この様子では合っていそうだ」

 

 

 奪われていた喉を再び得た彼は、先程までの時間を取り戻すかのように語る。

 

 即座に体制を整えるメアリスは、防壁を構築し、同時に火球を放った。

 

 

 

「《———崩れ征く世界(アッゾート=ヴァロフラッガ)》」

 

 

 

 ———直後、不可視の歪み(・・・・・・)がその全てを貫く。

 

 そしてそれはメアリス自身も例外ではなかった。

 

 

「ッ…ァ゛…っ!」

 

「よくもここまで減らしてくれたものだな」

 

 

 そこでメアリスは漸く、先の一撃———《解天真界(エメティア)》による魔力の簒奪を見てから抱いていた疑問、あるいは可能性———今となっては知りたくもなかった答えと納得を得ることとなった。

 

 

「…や、はり…」

 

「…大方お前の考えている通りだろう。俺はこれを《痛みの代行人( ゾズ=ゲデヒトニス )》と呼んでいる。確率で偏在する非実体の身代り(ストック)だ」

 

 

 即ち———生贄。

 

 あらゆる事象の等価交換を体現する錬金魔術の行き着く、最も残酷な業の一つ。

 今もきっと何処かにいるのであろう彼の言う被験体達の肉体、あるいはその命そのものを対価として己の命を繋ぎ止める、不遜極まる所業。

 

 それこそが彼の———ギーリークという男の不死性、一見無敵に見えたその能力の絡繰であった。

 

 メアリスはあまりに恐ろしく、許し難いその事実に弱々しくも顔を怒りに歪ませ彼を睨みつけた。

 

 

「おま、ぇは…何処、まで———」

 

「———堕ちるのか。あるいは外道とでも言うか」

 

 

 彼は彼女の言葉の続きを被せるように呟く。

 

 

「だがな賢者。思うに、善悪や正義不義とは正解不正解ではない」

 

 

 そうして人の命を握っているとは思えない、不気味な程に落ち着いた声で説いた。

 

 

「では何なのかと言えば———幸福と欲望の追求だ」

 

 

 戦闘時とは違う———無貌に思える彼にとっての本質が浮かぶ瞳。

 

 色や構造、虹彩の動きや滲んだ魔力さえ塗り潰す、本能を撫でるような一方的な視線が覗き込む。

 

 

「人は生きる為ではなく幸福の為に欲望を優先する動物だ。だが…欲望に専念し過ぎれば、何時いつしか幸福を忘れる」

 

 

 探究心に生きる研究者という生き物は時に己や他者の命を顧みず、答えを求めて奔走する。

 

 理性という名の獣性。

 好奇心という名の狂気。

 

 それらを大なり小なり孕んでいるものだ。

 

 

「幸福を求めるべく欲望を満たすか、欲望を満たすべく幸福を求めるか…それが善悪の違いだろう」

 

 

 故に、倫理という枠を取り払えば、ある種彼こそが探究者の末路———理想的な姿と言えるのかもしれない。

 

 

「詰まる所何が言いたいかといえば…お前が気に入るかそうでないか、というだけのことだ」

 

 

 ギーリークが彼女に歩み寄る。

 

 

「聞かせてくれ賢者。お前は俺の何を悪だと言う。何がそんなに気に入らない———」

 

 

 そうして眼前まで迫った彼は、息の掛かるような距離にまで顔を寄せ、金緑を覗き込んだ。

 

 

「———俺にとっての幸福(せいぎ)が、お前にとっての欲望(あく)に映るのは何故だ?」

 

 

 底の見えない奈落、御伽に語られる冥界、魑魅魍魎の跋扈する深淵。

 

 そんな異界を幻視する二つの凶眼が闇世の中妖しく光る。

 

 

「…キミに…語る、に値し、ない…さ」

 

 

 メアリスに彼の深淵を目にしたアリアが見せたような怯えは無く、最奥に鎮座する確固たる意志が悪意の侵蝕を防いでいた。

 

 ギーリークは瞳の奥に見えたものを消し飛ばそうとするも、やはりと言うか、無駄であると理解するとため息を吐く。

 

 

「…己の考えに理解を得る機会を棄てるとは…賢者とは思えん愚かさだ」

 

 

 彼は眼下で転がる強かな少女を期待した程では無かった、そう語るかのような失望の目で眺める。

 

 

「…思った以上に手間取ってしまったな…あの王子くらいは持って帰っても文句は言われんか…?」

 

 

 そうして蔦を支えに起き上がろうとした彼女を脚を払うと、もう全てが終わったように予定を練り始める。

 

 実際、血溜まりの中地に伏せる彼女と、継ぎ接ぎながら仁王立ちで彼女を見下ろす彼とでは勝負は決したと言えるだろう。

 

 メアリスは顔を伏せたまま、臨戦体勢を既に解いていた彼へと抗うように言う。

 

 

「…彼らは…まだ負けていないよ」

 

 

 彼女のそんな言葉をギーリークは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「『今』はな。だが奴等では俺の傑作には勝てん」

 

 

 彼の死霊術、そして錬金術の組み合わせによって作り出された複数の魔物———混合魔(アルギオ)

 

 その中でも突出して高い能力を発揮した個体を彼は『傑作(ハイエンド)』と呼んでいる。

 

 

「今回呼び出した《黒獣(ガーレイ)》は十三種五十三体の魔物の肉体と二十三人の人類の肉体を融合させ、殉職した戦士達の残留思念と魔物の戦闘本能を一体化させた、正面戦闘に特化した個体だ。(パワー)耐久(バイタリティ)も《戦車》の劣化だが…所詮子供二人を捻り潰すなど造作も無い」

 

 

 ———戦闘への意欲は戦士の常在戦場の呪い。

 ———凶暴性や残忍性は殺された魔物の怨み。

 ———強靭な肉体は各種族特性の混合した結果。

 

 つまりはあの獣もまた身勝手な犠牲の末に生まれた怪物であるということだった。

 

 それを、彼はまるで自慢をする子供のように悠々と語る。

 

 

「———」

 

 

 不屈の光を宿す金緑を、勝利を確信する混沌が覆う。

 

 

「もう、良いか?遺言くらいは聞いてやるぞ。グラム・アルブレイズのように、英雄らしい最期を与えてやろう。死は質も機会も平等にあるべきだ」

 

 

 気まぐれか、そんな似合わないことを尋ねる。

 

 嘲笑か、あるいはこの状況を楽しんでいるのか、彼は口の端を小さく傾けた。

 

 

「…」

 

 

 応えは———沈黙。

 

 動揺も何も見られないその姿にギーリークは不満そうに、つまらなそうに見下ろした。

 

 

「…そうか…年代物の遺言は聞いてみたいものだったがな」

 

 

 メアリスはただ浅い呼吸を繰り返す。

 彼は退屈を吐き出すように口を開いた。

 

 

「《———回律(エヒ・ト・ラ)》」

 

 

 ギーリークが静かに唱えると、彼女の背後に左右対称にそびえ立つ二つの白い石造の門柱が現れる。

 その中央には屋根や扉がなく、空間がぽっかりと割れたように開かれていた。

 

 門柱の間に歪みが生まれ、白く細い誰かの腕が現れる。

 

 メアリスはその気配に寒気を感じ、反射的に結界を張った。

 しかし何者かの指先は幾重にもなる結界を少しづつすり抜けて行く。

 

 

「(正体は分からない…だが、コレ(・・)には触れてはならないッ!!)」

 

 

 未知の存在に対抗すべく、少ない体力を注いで行く。

 その間にも指先はメアリスに接近してゆく。

 

 そうしてその拮抗を終わらせるべく、ギーリークが手を翳した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間———異質な魔力が彼方から放出される。

 

 

「———」

 

 

 突然の事に目を見開いたギーリークの視線が発生源へと向けられる。

 

 あまりに見え過ぎる(・・・・・)彼の眼は、木々を隔てた彼方の魔力の根源を正確に捉え———無意識のうちに追った。

 

 

「…黒獣が———」

 

 

 ———消滅した。

 

 そう理解した彼が意識を逸らすと同時、彼を巻き添えにその広範囲を爆炎が消し飛ばした。

 

 骨肉が焼ける音と臭いが爆音に掻き消され、彼の姿がその場から消える。

 

 その隙を狙い、メアリスは纏わり付くギーリークの魔力を祓うべく全身から金緑の魔力を放出する。

 

 

「…ぅ…ッ」

 

 

 此処へやって来て数度見せたように、森人である彼女の魔力は自然的なエネルギーと強い調和を見せるという特異性を持っている。

 

 故に彼女の魔力は撫でるだけで緑を潤し、草花を甦らせるなどといった芸当さえ可能であった。

 

 しかしだからこそ目の前の男の自然を冒し、蝕む、自然とは対極にあるような造られた魔力は彼女にとって何よりも恐ろしい毒と言え、彼女が彼へ感じる忌避感や嫌悪感の正体もまた其処にある。

 

 猛毒の内側で侵食を打ち破るべく、淡く仄光る魔力が大気の如く層を形成し流出する。

 

 しかし決定打が無く澱みを払うには至らない。

 

 苦闘する彼女の視界の端、尚も原型を維持する木々の奥から溢れるような触腕が飛び出す。

 

 

「———悪運の強い…奴だ…」

 

 

 まるで蜘蛛のように、四方八方へと伸びた触腕が土埃に埋もれた彼の爛れた肉体を持ち上げる。

 

 姿を現したの皮膚は大きく削がれており、ゆっくりと再生していくのが靄の隙間から映った。

 

 

「だがお前と対峙し、確信したぞ…アイツらが煩いだろうが、構わん…」

 

 

 ギーリークは再生も儘ならない中、血が噴き出す程に束ね上げた触腕を構え、宛ら攻城槍の如き一撃を繰り出す。

 流線型を描く切先は大気を打ち、音エネルギーを爆発的な衝撃へと還元する。

 

 槍は空の星が数度瞬く間も無くメアリスへと到達する瞬間、彼女の結界と衝突し、女の悲鳴にも似た不協和音が絶叫の如く響き渡る。

 

 

「不確かな変数ならば———造り替えて仕舞えばいいッ」

 

 

 金属同士が削り合うように発光する火花が散り、両者を照らした。

 

 メアリスの踏ん張る脚が結界ごと後退する。

 背後の圧力がより一層強まった。

 

 しかし彼女はそれに抗うかのように闘志を灯した瞳でギーリークを睨み返した。

 

 

「———…すまない…勝てなかったよ」

 

 

 ———結界が砕ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———私、一人では」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間———ギーリークの首を白銀の刃が貫いた。

 

 

「ガハ…ッ!」

 

 

 驚愕に目を見開いたギーリークの視線が己の首筋へと集中する。

 

 剣の柄を握る者はおらず、木々の隙間より飛来したことを悟った彼は即座にその柄を荒々しく掴み取り、引き抜かんと力を込める。

 

 

「———ッ!?」

 

 

 だが———それは叶わない。

 

 何故らならばその剣はこの世に蔓延る数打物などとは訳が違う———選ばれし者だけが振るうことを許されし聖剣なのだから。

 

 

「グラン…トリア…ッ!」

 

 

 本来ならば抜き放つどころか握る事さえ不可能な代物を乱雑に掴み上げんとするギーリーク。

 

 だがほんの僅かにさえ動くことの無い刃は彼の血を掻き出しながら肉を灼く。

 

 

「———グ…ォ…ぉぉおオオ゛…ッ!」

 

 

 爛れる煙を立ち昇らせながら内部から再生させ、抉る聖剣を押し返す。

 

 そうして完全に競り勝ち聖剣が首から抜け落ちた瞬間、頭上から振り下ろされた黒曜の如き拳が彼を釘の如く地へと打ち付ける。

 

 同時にメアリスに迫る存在に亀裂が入り、門諸共魔力の粒子へと還元される。

 

 舞い上がる土砂の中、メアリスを守るように現れた少女が桃色の髪を振るわせながら叫ぶ。

 

 

「———殿下、アリア!この子お願い!!」

 

「———任せろ!」

 

 

 その隙にメアリスの元へとデュークが舞い降り、カローナの一撃によって吹き飛んだ聖剣を掴み取ったアリアが駆け出す。

 

 

「ソレッ!!」

 

 

 アリアが剣を縦に振るい、メアリスに纏わり付く魔力の澱みを左右へと薙ぎ払う。

 

 二人は彼女の変わり果てた姿に驚愕しつつも危険な状態であると察し、即座に回復に移る。

 

 だが———

 

 

「———何だ…コレは…!?」

 

 

 外見は勿論のこと、その内部構造は最早元の物とは大きく乖離していた。

 

 残された内臓はそのままであるものの、巡る血液は植物との接合部で純粋な水分へと変化し、また同様に植物からの栄養も接合部を境に血液として還元されている。

 

 また植物そのものと神経が繋がっているわけでは無いが、魔力のパスは繋がっており、ソレによって失われた魔力を補うという荒技の痕跡が見えた。

 

 

「———…アリア、くん」

 

「メアリスさん!この体は———」

 

 

 この短時間の間にあの男に何かされたのか。

 そう思い込んだ彼女は怒りと焦燥を募らせたような表情で問おうとする。

 

 だがメアリスはそれを制するように彼女を肩を掴むと、弱々しく欲しい溢した。

 

 

「どうやら、その剣は…応えてくれたよう、だね」

 

「…っ、どういう———」

 

 

 彼女の言葉に対し、困惑を見せるアリアが問い返そうとした時だった。

 

 

 

 

「———ナ故、生きテイる」

 

 

 

 

 心臓を撫でるような怖気を催す声が響く。

 その刹那、男を押さえ込んでいた巨人の腕に亀裂が走り、その隙間からスライムのように肉塊が溢れ出る。

 

 肉塊は一瞬にして無数の鋭い触腕へと変貌すると、四方よりメアリス達を襲った。

 

 だがそれらは届き得ることなく、目の前に現れた鋼の障壁によって防がれる。

 

 それと同時にユラがカローナの隣へと降り立った。

 

 

 

 

「何故、黒獣をコロせタ」

 

 

 

 

 身の毛も弥立つような声と共に現れたギーリークは、その頭部の半分程を切れ長の瞳に覆われており、背部から鎌状の触腕を生やし蠢かしていた。

 

 その足元からは霧のような瘴気が漂っている。

 

 

 

 

 

「何ゼ———お前達ガ居る」

 

 

 

 

 

 まるで蜂の巣のように羅列した薄気味悪い眼球達がカローナとユラを睨み付ける。

 

 彼とは違えど、メアリスもまた呆気に取られたようにユラを見つめていた。

 

 その視線に気がついたのか、ユラは何処か気まずそうに瞳を閉じた。

 

 

「…あれだけの言葉を頂きながら…申し訳ございません」

 

 

 悔しげに顔を歪めるユラ。

 

 その表情に拭いきれない不安や忠誠、悔恨や羞恥、己の預かり知らない背景からの葛藤を上間見たメアリスは、あの時と同じく頬を緩め、優しげな表情で返す。

 

 

「…構わないさ。何が、あったのかは、分からないが…キミを動かすに足るものを見たのだろう。私も、こうして助けられているしね…むしろ、感謝するさ」

 

 

 ユラは彼女の言葉に少し安心したように余計な緊張が解ける。

 そうして彼女は障壁を解除し四肢に鋼の鎧を纏うと、居直すように臨戦体制へと移行する。

 

 

「…お前が、殿下を惑わした者か」

 

 

 射殺すような殺気を込めた彼女の視線を向けられるギーリークは受け流し、答えることはない。

 

 彼はまるで周りの音が聞こえていないかのように無視し、呪いを唱えるように一人呟く。

 

 

 

「———あアそうカ…まタ、アイツか…ホン当に、余計なことバかりシヤがって…ッ」

 

 

 

 押しつぶすような威圧感を放ちながら、ギーリークはカローナへと睨みを効かせる。

 

 

「…ッ」

 

 

 彼女は———カローナは沈黙を貫く。

 その代わりのようにその身に魔力を巡らせ、ユラ同様に戦意を見せる。

 

 沸々と湧き上がる苛立ちからか、片手で顔を覆いながらタールが染み出すように徐々に魔力を吐き出すギーリーク。

 

 異様な雰囲気から何かを察したメアリスは目を細めた。

 

 

「喋らない…あるいは喋れない(・・・・)、か。まあ今は…この瞬間だけはその力に感謝しなくてはならないのかもしれないね」

 

 

 メアリスは立ち上がり、そっと地面へと杖を付く。

 

 

「ギーリーク、お前の問いに答えよう」

 

 

 そうして、この状況———そして、それを生み出した者への憤怒を露わに今にも暴れ出しそうな触腕を畝らせるギーリークへと告げる。

 

 

「私にとって…より多くの人類を救う事———それこそが私にとっての幸福(せいぎ)だ」

 

「…そう、カ」

 

 

 身を削られ失われた限りある魔力を募らせる彼女に、ギーリークもまた泥色の魔力を全身へと纏う。

 

 

「———私は、お前が気に入らない」

 

「ソうカ…ッ」

 

 

 彼女の感情の高ぶりと共に溢れる魔力に、何が面白いのか覆っていた顔に喜色を浮かべる。

 

 

「———故に、お前を消す」

 

「…そウカ…そうカそうかッ、ゴウ慢なエルフらしイ良いカイ答ダッ!」

 

 

 その瞬間、箍が外れたように滲み出る瘴気が地を駆け、緑を呑み、死の領域を創り出す。

 だがそれを阻止するように溢れ出る金緑の魔力が衝突し、二つの魔力が弾け飛ぶ。

 

 

「こんな姿では格好も付かないが———お披露目しよう」

 

 

 瞬間的に爆発したメアリスの魔力が瘴気を消し去り、彼女の足元に巨大な術式陣を創り出す。

 

 

「アリア君、これはキミが至るべき…いや、通るべき(・・・・)道だ———」

 

 

 メアリスとギーリークの視線が交差する。

 

 そうして彼女は瞳を閉じ、その詩を綴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———傾聴せよ(エル・デーゼ)傾聴せよ(エル・デーゼ)———

 

 ———閉じた瞳よ(ロ・マリス・アーレ)傾聴せよ(エル・デーゼ)———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———その詩を聞くと同時、瞠目するギーリーク。

 

 瞬間、彼を起点に再び発生した雲海の如き死の領域から怪物の軍勢が這い出でる。

 

 

 

 

絶えぬ胎動は覚醒を兆し(アフ・レイル・オ・フラーマフ・ルファーラ)

 

満ち満ちる世界の血に訴る(ディオー・ド・ラ・シーユ・ゼルルーフェ)

 

 

 

 

 魑魅魍魎の群は彼女を阻止すべく、まるで彼自身の焦燥を表すように無造作に襲いかかる。

 

 

「ハァッ!!」

 

「《火炎灼(ヴォル=ファウ=ディエス)》!!」

 

 

 だがそれを許すはずもないアリアの《栄光の剣(グラントリア)》が一振りで一直線に駆け抜ける魔物を寸断し、デュークの魔術が羅なる群を撃ち抜く。

 

 

 

 

我こそは不変貫く(くさび)なり

 

天地の境、時の道、魂の転輪、人の情

 

一条、二道、三界、四法、以て(ことわり)、即ち永遠

 

 

 

 

 魔物達で戦場を撹乱する中、高速で触腕を這わせ己の魔物諸共薙ぎ払いながらメアリスの下へと突き進むギーリーク。

 

 しかしその眼前へと手に黒炎を灯したカローナが踊り出で、真正面から彼を迎え撃つ。

 

 

「———ソコを退ケ、出キ損ないノ人形ガァ!!」

 

 

 彼の怒号と共に振るわれた触腕が彼女の腕を抉り飛ばすも、その瞬間に爆ぜた黒炎がギーリークを呑み込む。

 

 だが暗い炎の中無数の眼球が見開かれ魔力が渦巻くと同時、彼を覆う黒炎が掻き消される。

 

 触腕は彼女の脚を掴み上げ握り潰すと、そのまま地面へと叩きつけんとする。

 

 

 

 

吼える獣と(さわ)ぐ白痴の踊る波紋を打ち砕き

 

(ただ)一つ此処に(さだ)める

 

 

 

 

 その刹那、触腕が瞬く間に輪切りにされる。

 

 

「イト、か…ッ!」 

 

 

 ギーリークがか細い銀の線を視認すれば、その担い手の手元まで伸びる線がガラスの如く砕け散る。

 

 そうしてその無数の死の視線が彼女———ユラを、その「核」を捉えた。

 

 

「———させるかァ!!」

 

 

 その怒声が聞こえると同時、彼の視界から見えていたはずの「核」がまるでノイズが走るように消え去る。

 

 

「な———」

 

 

 直後、彼の胸から神々しい———彼にとってはあまりにも忌々しい輝きを放つ剣身が生える。

 

 

「喰ら———え!!」

 

 

 そして剣身の纏うは(ほむら)の如き白銀の魔力が爆ぜる。

 

 ギーリークの口からは血さえ溢れることなく、吹き抜けるような空気が吐き出される。

 

 

 再生は———しない。

 

 

 

 

光の混沌分かたれば、悟りて行先示したり

 

見えざる道理の渦の臍、迷える赤子の愛おしき

 

 

 

 

「ゴ、ァ…———ァァアア゛゛ッ!!」

 

 

 だがギーリークは、全身を爛れさせ、胸に穴を開けながらも、最早生物から逸脱したとしか思えない生命力を以て嵐の如く薙ぐ。

 

 まるで巨大な龍が暴れているかのような脅威が其処にはあった。

 

 質量の嵐は魔物の軍勢諸共四人を薙ぎ払い、最後の標的までの道を開く。

 

 

 

 

霞む景色の蒙昧の、妄りなる声の優しさの

 

醜さ覆う虚言にて、闇より昏き闇在らず

 

 

 

 

 ギーリークは脚を変形させ、地を抉り、メアリスの下へと跳ぶ。

 

 そうして彼女を貫かんと触腕を放つ。

 

 

「待———」

 

 

 その後方で、全身を打たれながらも立ち上がったアリアが全霊の魔力を込めた剣を構える。

 

 

「———てェッ!!!」

 

 

 振るわれた剣身からは大地を切り裂く斬撃が放たれ、ギーリークへ向け弧を描いて(・・・・・)迸る。

 

 駆け抜けた斬撃はメアリスへ向け伸びる触手の全てを一撃で刈り取った。

 

 

「———」

 

 

 だが———ギーリークは残された己の腕を彼女へと伸ばした。

 

 

 

 

———流れゆく者よ(エィン・レン・ディーエス)———

 

()は在るべく、()は在るが儘に

 

外なる者を繋ぎ止めよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして———メアリスの心臓を彼の腕が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『《無常廻天・不変ノ宿命(ルディネドラク)》』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、ギーリークの腕が光の粒子となって散り散りになる。

 すると貫通していたメアリスの肉体をすり抜け、胸に風穴を開けた彼女がその場に倒れ伏す。

 

 

「…間ニ…アわナカった…カ」

 

 

 ギーリークは己の腕を視野に入れる。

 半透明になった腕からは気泡が湧き出るようにゆっくりと粒子が溢れ、神秘的な雰囲気さえ感じられた。

 

 彼は先程の激昂が嘘の如く消沈した様子で眼下のメアリスを見下ろす。

 

 

「…コンカイは…お前ノ勝チダ、メアリス=テア=ウェリタヴェーレ」

 

 

 次第に彼の肉体は腕と同じように、まるで魔力に還元されるが如く、崩れ、粒子へと変わって行く。

 

 ———彼はもう、この場にいる何者にも触れることはできない。

 

 

「———アリア…アルブレイズ」

 

 

 突然名を呼ばれ、膝を突きながらも警戒するアリア。

 そんな彼女へ、彼は薄気味悪い程に冷静な声で告げる。

 

 

「———どれダけ取り繕おウと人ビトの為だト吠エヨうと、オマエの内側ニは独り善ガリな復シュウの念ガ渦マイていル」

 

「ッ…」

 

 

 彼の言葉に反論しようとするアリアは、しかしその意思を告げることができなかった。

 

 彼は構わず続ける。

 

 

「ソレが狂い咲ク日ヲ———オレは楽シみにしてイる」

 

 

 そう言い彼は嗤う。

 

 

「———まタ、あオウ」

 

 

 その直後、彼の肉体は一気に弾けるように粒子へと散り、まるで何処かへ飛ばされるように軌跡を描いて消えていった。

 




 最後のシーンはジョジョ四部のチープトリックが連れて行かれるシーンみたいな感じをイメージ

 正直流れが前回の引きニキVS賢者の時と変わらん気がするけど…まあ必要なので許してちょ(´・ω・`)

 もっかい読み直してみて微妙やったらその都度色々修正入るかも。
 まあまだこの章終わりじゃないんですけどね


○《無常廻天・不変の宿命(ルディネドラク)


傾聴せよ(エル・デーゼ)傾聴せよ(エル・デーゼ)

閉じた瞳よ(ロ・マリス・アーレ)傾聴せよ(エル・デーゼ)

絶えぬ胎動は覚醒を兆し、(アフ・レイル・オ・フランマフ・ルファーラ)満ち満ちる世界の血に訴る(・ディオー・ド・ラ・シーユ・ゼルルーフェ)

我こそは不変貫く(くさび)なり

天地の境、時の道、魂の転輪、人の情

一条、二道、三界、四法、以て(ことわり)、即ち永遠

吼える獣と(さわ)ぐ白痴の踊る波紋を打ち砕き、今(ただ)一つ此処に(さだ)める

光の混沌分かたれば、悟りて行先示したり

見えざる道理の渦の臍、迷える赤子の愛おしき

霞む景色の蒙昧の、妄りなる声の優しさの

醜さ覆う虚言にて、闇より昏き闇在らず

———流れゆく者よ(エィン・レン・ディーレス)———

()は在るべく、()は在るが儘に、外なる者を繋ぎ止めよ

無常廻天・不変ノ宿命(ルディネドラク)



 …詳細は後程
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