【悲報】どうやらワイらは世界の敵らしい…。   作:掲示板ものが書きたい

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ちょい短め
一応三章とはしていますが、もしかすると間話に近い章として置き換わるかもしれません


第三章「英雄の虚像」
少しの日常、少しの夢


 心地よい風が頬を撫で、優しく彼女の覚醒を促す。

 

 水が滲んだようにぼやけた視界はまるで波紋が広がるように鮮明に開け、馴染んだ風景をその目に映す。

 

 木々に覆われた森林の中では感じることのできない生き生きとした微風は、目の前の野原に放たれた子犬がはじゃき回っているかのようだ。

 

 

『知ってるかな。人間はね、人間讃歌が大好きなんだ』

 

 

 己であるが己でない、そんないつかの面影から見える景色に懐かしい姿が入り込んだ。

 

 これから先、どれだけ永きを生きようともきっと忘れないであろう優しげな声が風と一緒に耳へと届く。

 

 あの頃の己は、何と返しただろうか。

 

 確か———と、口を開く。

 

 

『…傲慢だな。人間らしい』

 

 

 今よりも一段と低い己の声がまるで吐き出すように口元から発せられる。

 

 自分でも何と無愛想で可愛げの欠片もない答えなのだろうか、と思う。

 恐らくは人目も憚らず露骨に不機嫌そうに顔を顰めているのだろう。

 

 けれど隣に座る者はそんな答えに対して特に気を害したような様子も無く、寧ろ答えが返ってきたことに喜んでいるようにさえ見えた。

 

 

『———違うよ。むしろ、自分達が非力な存在だとよく知っているとも』

 

 

 だからその言葉に同意するかと思えば、返って来たのは確固たる否定であった。

 

 己の眉がピクリと動いたのを自覚する。

 

 

『…』

 

 

 何か言い返そうとして、しかしその口から反論が出ることはなかった。

 

 今だからこそ言えるが、それはその心中を知りたいと、ほんの少しだけ思ったからなのだろう。

 

 探究者としての本能のような、ある種の病気のようなもので、あの頃の自分ならきっと気の迷いだと切り捨てただろう。

 

 

 

 

『だからこそ、そうやって取り繕うのさ。そして仲間を作り、心の繋がりを生み、皆で自分の弱さを補い合う。それが僕たち弱い人間に力を与えるんだよ』

 

 

 

 

 だが、そんな何でもない言葉が己の中にこうして残り続けているのは———

 

 

 

 

『きっとそれは誰でもできる、けれど真似は出来ない(・・・・・・・)———優しい「魔法」なのさ』

 

 

 

 

 ———きっと間違いなんかじゃなかったからなのだと、そう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっすらと意識が浮上するのを感じ取る。

 

 二度目の覚醒とはいえ慣れなのか性分なのか、こうして夢現な状態でさえ頭は状況を分析しようと躍起になるのだから研究者という生き物は手が付けられない。

 

 上質なベッドは彼女の体を離してなるものかと吸い付くように沈ませるも、少女はそれをものともせず身を起こ———そうとした。

 

 

「…ああ、そうだった」

 

 

 毛布に隠れた己の半身、何とも言えない喪失感からその状態を思い出した彼女は、器用に蔦を動かして覆い被さる毛布を退かし、ベッドから降りる。

 

 手足が増えれば日常生活が楽になるのではないか、などと考えたことも多かったが、いざ増えてみるとこれはこれで不便であると理想との落差にガッカリする。

 

 

「肌の綺麗さは褒められたものだったんだが…台無しだね」

 

 

 指を振るい、一瞬にして衣服を纏った彼女は姿見の前に立つ。

 

 昔から友を含む他者からよく容姿を絶賛されたものであったが、鏡に写っていたのは魔物と見紛うトンデモ生物であった。

 

 試しに聖魔術や、その場で行使可能な魔術を掛けてみるも一様に成果は無い。

 己の肉体を治そうとした瞬間に魔力が霧散し、術式は崩壊する。

 

 まるで己の創り出す神秘無き結界に囚われているかのようである。

 

 

「全くやってくれたものだ」

 

 

 溜め息と共に元凶へ向けて呪詛を吐く。

 自らの手で消し飛ばした存在に届く訳もないそれは、部屋を木霊することもなく儚く消え去った。

 

 その時、部屋の扉がノックされる。

 

 

「入っていいよ」

 

 

 彼女の返事の後、僅かな間を置いて開かれる扉。

 

 

「———気分は如何だろうか、賢者殿」

 

 

 入ってきたのは———第二王子、デューク・クラディアスであった。

 

 昨晩のような戦闘用の外套を脱ぎ去り、礼服ではない比較的ラフなシャツとスラックスを身に付ける彼は、部屋に入ると彼女から数は離れた場所へと立ち竦む。

 

 そうして———深く腰を折る。

 

 

「まずは———此度の我が国へ訪れた災いを払って頂いたこと、深く感謝申し上げる。そして、オレの身勝手な行動の結果、我が国の問題に巻き込んでしまい大変申し訳なかった」

 

 

 頭一つ小さい少女へ向け頭を下げるデューク。

 

 その眼下へと下された後頭部を見ながら目を点にして一瞬呆けたような様子を見せたメアリスは、我に返ると一つ咳払いをし返答する。

 

 

「顔を上げたまえ。仮にも一国の王子がそんな風に軽々しく頭を下げるものじゃないよ」

 

 

 此処は王国である。

 王政国家において権威、面子というものはその良し悪しによって国の未来を大きく左右する重要な要素である。

 確かに民衆からすれば、相手がかの賢者ともなればあくまで王に次ぐ存在である王子が謙虚に対応するのも納得することはあるかもしれないが。

 

 何より、メアリスからすれば自分が気にしていないことに対して人間の、それも子供が謝罪するのは忍びないのである。

 

 頭を下げたまま、彼女の言葉に数秒考え込んだデュークはゆっくりと頭を上げる。

 

 

「…そう言っていただけると幸いだ」

 

「私が勝手にやって来ただけだしね。巡り合わせが悪かったのさ」

 

 

 だから気にしないでくれ。

 そう言う彼女は部屋の隅へと目を向けると、驚く程無造作に立てかけてある《秩序の大樹(ルディネドラク)》を手元へと引き寄せ、床を突いた。

 

 

「…その身体はもう治らないのか」

 

「どうにもね…こんな事は初めてだよ」

 

 

 如何なる原理かは分からないが、己が体を失う瞬間見たのは光や闇さえも存在しない、正真正銘の『無』が異界を飲み込む光景であった。

 

 ———法則の崩壊。

 

 奴は確かそう言っていた。

 

 

「そう、か…」

 

 

 その残酷な事実を耳にし、雰囲気を暗くするデューク。

 表情には出すまいと努めているようではあるが、重苦しい効果音が聞こえてきそうな程には落ち込んでいた。

 

 

「気にしないでいいと言っているだろうに」

 

 

 そんな様子に、不謹慎にも笑ってしまいそうになるメアリス。

 彼女からすれば実験や戦闘で肉体を失い、一時的に義体に頼ることなど茶飯事である。

 

 今回は少し特殊ではあるが、原因さえ突き止めて仕舞えば治療とてそう難しくはないだろう。

 

 

「さぁ、もうこの話は終わりにしよう。いつまでもこんな話をしていては折角の朝が気怠くなってしまう。私に何か用があってきたのだろう、そちらを話したまえ」

 

 

 彼女は一つ手を叩き、露骨に話題を変える。

 

 空は青く、二度寝してしまいたくなる程に気持ちの良い朝の清々しさを素直に享受したいというのは本音である。

 

 

「お気遣い、感謝する。では、要件を話させて頂くが…明日、森で起こったことについての話を詳しく伺いたいそうだ」

 

「今日じゃなくても良いのかい?」

 

「病み上がりの者にいきなり…というのはな」

 

 

 王都を混乱の渦に陥れた大規模な魔物の侵攻、そして第二王子の失踪は月の傾く間に収束した。

 

 町の被害は主に人的なものが大きく、寧ろ不自然な程に町の建造物に対する被害は小さかった。

 

 最終的には景観は損なわれては居ないものの、目に見えて人が減ってしまうという結果だけが残ることとなる。

 

 主犯格である凶悪な錬金術師、ギーリークなる存在と対峙し生還を果たした四人は、いち早く騒動の収束を伝えるべく真っ直ぐに王城へと向かった。

 

 そうしてその先、彼等を目にした者達は目を見開いて驚愕した。

 

 何故ならばそこには三人の容態もさることながら、瀕死となった怪物の如き姿となった少女が居たのだから。

 

 更には三人の口からその正体がかの英雄が一人、《賢者》メアリス・テア・ウェリタヴェーレであると伝えられれば、最早一国に収まり切らない可能性さえある大問題へと昇華する。

 

 それを耳にしたヘリウス王もまた大きな動揺を見せたものの、彼女が騒動の収束に大きく関わっている知るや否や「彼女の証言が得られない以上、己の決定の質が落ちる」としてデュークの処遇への判断を一時的に見送るとしたのだ。

 

 ただ、近年続いていた森の異変から前回との相似点やタイミング、複数見られた作為的な要素から、デュークの失踪も何者かによって意図的に引き起こされたものであるという意見が強く、それが彼の擁護へとつながっているのである。

 

 現在、その決定が為されるまでは敷地内での謹慎処分という形で処理されている。

 

 ともあれ短期間の内に二度も大規模な強襲を受けた王都は経済的に安定するとも考えられず、少なくない都民の移住も憂慮される。

 

 どの道、勇者という強大な戦力を失った王国は、他国との経済的、政治的な交流に大きな変革をもたらす必要も出てくるという結論は変わらなかった。

 

 

「今日はどうか身体を休めていただけると幸いだ。故に、自由に動いていただいて構わない。…こちらの都合としては、出来れば王都からはあまり出ないで頂きたいが…」

 

「あい分かった。では、私は王都の観光にでも赴くとするよ」

 

「ああ、存分に楽しんでくれ。詳しい内容に関しては直ぐに連絡する」

 

 

 そう言って彼は踵を返し、部屋を後にした。

 

 残されたメアリスは彼が扉を閉めるのを見送ると、その視線を窓の外に広がる城下町へと移す。

 

 悪夢のような光景の広がっていた町は、しかしそこまで壊滅的な様子には見受けられなかった。

 

 建物はその殆どが元の姿を保ち、砕けた地形もまた人が歩ける程度には均されている。

 

 

「…謝罪したとはいえ…申し訳ないな」

 

 

 だがそれも当然だろう。

 なにせ、王都での戦闘を終えた際にその殆どを修復してしまったのは彼女自身なのだから。

 

 いくら防衛兼殲滅という免罪符があろうとも土地を掘っくり返してそのままというのは彼女の良心が許さなかった。

 

 お陰で王都は地形的な被害だけで言えば最小限に抑えられたと言えるだろう。

 

 釈然としない様相のまま彼女は裾から大きく伸びた蔦を隠し、外出の準備をする。

 

 

「さて…グラムの墓は何処にあるのかね」

 

 

 そうして窓を開け、枠へと手を掛けると———そのまま外へと身を投じたのだった。




なんか書けば書くほど某エルフ味が増してしまった…ちゃんと差別化しないと怒られる(震)

モブの戦闘シーンについて

  • 折角やし増やしたげて
  • 引っ込んどいて、どうぞ
  • ぶっちゃけどっちでも良い
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