トレセンの搬入業者は今日もちょっぴり大変です 作:ゴリ押しこそ至高
搬入業者の朝は早い。比喩抜きに早い。
作り置きの半玉分の千切りキャベツに和風ドレッシング。
大皿に盛られた大量のスクランブルエッグとベーコン。
牛丼屋であれば特盛のサイズに分類されるだろう器にどっさりとふやかしたオリジナル味付けのオートミール。
ジョッキの如しマグカップにポタージュスープ。
これを日が昇る前に食べ切る。
ウマ娘としてはちょっと多いかな?くらいの量だが、道路状況によってはお昼抜きの時もあるので多めに食べている。
作業服に着替えてから走って出勤する。
汗をかかない程度に流しで走って十分で到着だ。
「おはようございま〜す」
「おはようさん。今日からトレセン、よろしく頼むなー」
「わかりました〜。とりあえずトラックの簡易点検してきますね!」
やはりボスが挨拶を返してくる。
実はこの男に対抗して早起きをしているのだけど、一度たりとも後から来たのを見たことがない。
最近はもはや本当に寝てるのかすら疑っている。
〜駐車場〜
タイヤやらの点検を終えて、グッと伸びをすると冷たい風が無防備な顔を襲う。
「寒う〜!3月中旬って一応春扱いじゃないのぉ?」
逃げるようにトラックの鍵を開けて運転席に滑り込み、助手席に置いてある積荷一覧の紙を取る。
ウチでは前日の昼に野菜を入荷して検品&振り分け、夕方から夜にかけて荷台に積み込む。
運転手は昼過ぎに配送を終えて帰ってきたら、簡単に報告だけやってから明日の配達に向けて休む為早めに上がる…というシステムで動いている。
そのため運転手は夕方からの積み込みには居ないので、こうして積荷一覧で今日の荷物を確認するのだ。
他の会社はどんなシステムで動いているのかはわからないが、少なくとも運転手に疲れを残さない努力って感じがして僕は好きだ。
ただ最近印刷機の調子が良く無いっぽいので、これを機にタブレット端末とかを使ったちょっとしたIT化に移行しようかという話が出ている。
正直電子機器が得意ではないのでちょっと不安を感じ………うん?
「なんか多くない…?」
なんかあらゆる野菜が普段の5倍くらい入っている。
「いやいや……こんなの入力ミスでしょ。結衣ちゃん(入力担当の事務、後輩)もこんなミスするんだな〜。まあこんな事態に対処できるのが早起きの利点、僕がサクっと集計直ししておこうじゃないか!結衣ちゃんには今度コンビニスイーツでも奢ってもらおう!」
後輩のミスにつけ込んでスイーツを得ようとしている先輩というちょっとアレなムーブをかましつつ、荷台を開けてみる。
明らかに普段の5倍のプラボックスが入っていた。
……おっけー。結衣ちゃんのミスじゃないのはわかった。
「もしもしボス?トレセン行きの荷台、イカれた量入ってますけど」
『うん、俺も昨日岸ちゃん(結衣ちゃん)から発注メール見せられて相談されてびっくりしたけどそれであってるんだよね。持ってきた農家の皆もドン引きしてた。フードロスが無くなる点ではすっごい喜んでたけど』
「わあ〜エコロジーに気を使った思考〜!取引先として誇らしい〜でもドン引きはしたんだぁ」
『アレは引かない方が変だろ…』
「はい、僕も自分の方が正常だと信じてます。……まあでもそうだよねえ。僕の在学中にもすっごい量食べる娘いっぱいいましたもん」
『育ち盛りかつアスリートだもんな。めちゃくちゃ食うといえばこないだテレビでやってたドキュメンタリーで、地方のオグリキャップ?って子がとんでもねえ量食ってる映像があって戦慄したよ』
「それ僕も見ましたけど、アレはレアケースですよ。あんな食べる子がいたら運ぶ量2割は増やさなきゃいけなくなっちゃいますって。…ともかくミスじゃないなら大丈夫です。行ってきますね〜」
『おーう気をつけてな。俺もそろそろ行かねえと』
「はい!………あ、通話終了このマークか。やっぱりスマホ未だに慣れないなあ。ガラケーでLINEとか使えないのかな?このネットニュース?とかも早朝ニュースとほぼ内容一緒だから正直メリット皆無だし」
〈URAニュース:オグリキャップ、中央への移籍検討。4月から転入か〉
ボス:本名『如月 千秋』
ハピネスキャリーが今所属している会社の社長。
「かっこいいから」という理由で社員に自分を「ボス」と呼ばせている変な人。一応本名が顔に似合わず可愛い感じだからというのもあるらしい。
顔が怖く、自分も気にしているくせに「ボス」なんて呼称でさらに怖さ度を増してしまっているのだが、社員達は面白がってそれを指摘していない。
ウマ娘の奥さんがおり、息子が去年から中央でトレーナーをやっている。
最近の悩みは息子が担当の扱いに困って奥さんに相談してきた時に、いちいち自分の恥ずかしいエピソードを交えたアドバイスがされていること。