スターライト学園、編入試験。その受付を無事に済ませて、学園の校舎内に入った夕哉は、案内看板に従いながら一次試験の筆記試験会場へと足を進める。
ほどなくして会場である教室に到着した夕哉。ここの教室は男子受験生のみが集められており、すでに全員が席についている。夕哉も、急いで指定された席へと向かい、腰を下ろした。
(みんな、かっこいいなぁ......)
目線を動かして周囲を見渡してみると、どの受験生もルックス、スタイルが良い。爽やかとした雰囲気の者もいれば、俺様系といった雰囲気の者もおり、その他にもタイプは様々だった。そのビジュアル面のレベルの高さに、夕哉の緊張はさらに強まる。
(って、ダメだダメだ! 俺だって絶対に、合格するんだ!)
自信を失いかけるも、無理やり自分を鼓舞するように、夕哉は心の中でそう言った。
そして始まった、スターライト学園編入試験。一次試験の筆記試験は国語や数学、社会などといった必修科目のほか、アイドルにおける基礎知識や歴史なども筆記試験の内容に含まれている。アイドルを知ってから日が浅い夕哉は、これに頭を悩ませつつも、なんとか勉強したことを思い出しながら解答を埋めることができたのだった。
(ふぅ。次は二次試験......面接かぁ)
一次試験を終え、続く二次試験の面接。
夕哉は自分の番が来るまで、教室で待機していると───
「おいおい聞いたか? 男子の方の面接官、学園長だってよ......!」
「っ!」
近くでひそひそと会話する声が、夕哉の耳に入る。
「聞いた聞いた。こりゃ下手なこと言ったらおしまいだな」「実質ここが落とされるかどうかの瀬戸際じゃん!」「
不穏な空気が、漂い始めた。
(学園長が面接官......うぅ、余計に緊張してきた)
その空気に感化されてしまった夕哉は、縮こまり、膝の上で両手を握りしめる。
不安な気持ちのまま、順番が回り、面接の会場へと足を踏み入れた夕哉。面接は集団形式で、夕哉の他に2人の受験生がいる。夕哉はその中で最後の3番目に位置する席に座った。
向かいには、面接官である女性が1人。
(この人が......スターライト学園の学園長、
女性相手に年齢を考えてしまうのも失礼だが、自分よりもひと回りもふた回りも歳を重ねているはずなのに、老いを感じさせないその美貌に、夕哉は目を丸くして驚いていた。
「では、面接を行いたいと思います。それぞれ名前と今の所属校を教えてください」
それから面接は進行していき、趣味や特技など、夕哉たちは自己PRを繰り広げる。そして最後の質問は、志望動機。
「僕は───」
夕哉の隣に座る受験生がハキハキと言葉を紡ぐ。他の2人はダンスの経験があったり、昔からアイドルに強い憧れがあったことなどを口にする。それを聞いていた夕哉は、自分にはそんな大それた動機はないと、改めて自分のちっぽけさを実感してしまう。
それでも、この想いを隠すわけにはいかない。
「では、次は......天海さん」
「は、はい!」
名前を呼ばれ、夕哉は返事をする。
「自分は......笑顔にさせたい人がいるから、です」
覚悟を決めて言い放った、夕哉がアイドルになりたいという、ただ一つの理由。
「自分はドジで地味な人間です。まるで輝きを失いながら、沈んでく夕日みたいに......冴えない」
自己PRとは思えない、己の弱さを吐露する夕哉。しかし、織姫は眉をぴくりとも動かさず、真剣に耳を傾ける。
「でも。それじゃ、その人を笑顔にできないなって思って、自分を変えたくなったんです。そのきっかけが、アイドルでした」
俯いていた視線を、夕哉は織姫に向ける。
「編入試験があると聞いた数日前、自分は初めてアイドルのライブを見に行きました。ライブと言っても、一昔前のアイドルの上映会ですけど......」
現在はもう引退の身であるアイドルだったが、その上映会のライブを見て、夕哉の中で何かが動き出した。
「そこで見たアイドルは、すごく輝いてて。眩しくて。上映会に来ていた周りの人たちもすごく笑顔で、自分もアイドルになれたら、輝けるのかなって。人を笑顔にできるのかなって、そう思ったんです」
今も忘れはしない、あの時の情景。あれほど輝いた存在を、夕哉は知りもしなかった。だから、アイドルになりたいと志すようになったのだ。
そしてそんな時、このスターライト学園の編入試験の情報が、夕哉の耳に入り込んできた。
やるなら今しかない。その想いで夕哉は受験を決意した。
「きっと、知識も技術も自分はまだまだかもしれません。アイドルが好きって想いも、昔から好きな人に比べたら微々たるものかもしれません」
想いが止まらない。絶対にアイドルになるという想いが。
「それでも! 自分はアイドルになりたいんです! 自分を変えるために! 大切な人を笑顔にするために!」
そこで言葉が途切れ、室内は静まり返る。
織姫はひとつ、コホン、と咳をして口を開いた。
「わかりました。ひとまず、落ち着いて席に戻ってください」
「あ......」
言われてから夕哉は気づいた。あまりにも熱が入りすぎたために、いつの間にか席から離れ、面接官の目の前まで近づいていたことに。
「す、すみませんっ! 失礼しました!」
あたふたとしながら、自分の席へ座る夕哉。
(ややや、やってしまった〜......!)
完全にやらかしてしまった。よりにもよって学園長の前で、醜態を晒してしまった。そんな気持ちが夕哉の中に溢れ、どんよりとさせる。
「ありがとうございました。では、次の三次試験会場に向かってください」
織姫は何事もなかったかのように仕切り直し、次の指示を夕哉たちに与えると、夕哉たち受験生は言われるがままに席を立ち、部屋を出ていく。
2人の受験生に続き、部屋を出ようとトボトボと歩く夕哉の後ろ姿を、織姫は焼き付けるように見つめていた。
******
1人残った面接室。織姫は編入試験を受けにきた受験生たちの履歴書を、一枚ずつペラペラとめくる。それぞれの履歴書の余白部分に、実際に受けた印象、話し方や仕草、質問の回答がまとめられており、織姫はそれを再度確認しているのだった。
正直言って、見どころがあるような受験生がいたかといえば、微妙だ。これまでに多くの生徒や受験生を目にし、その経験からアイドルの素質があるのかどうかがわかってしまう。故に残念ながら、それを認められるような受験生は、現時点ではいない。
───ただ、1人の少年を除いて。
(......あの子だけは、他の子たちとは違う気がする)
夕焼けのように赤みがかった髪色の、眼鏡の少年。彼の我を忘れてしまうほどの熱弁と、自分を変えたいという真っ直ぐな瞳に、織姫は少年から微かな煌めきを見出していた。
「天海夕哉......あなたの想いが本物かどうか、三次試験、ライブオーディションで見極めさせてもらうわね」
これから巻き起こりそうな波乱の予感に、織姫は不敵な笑みを浮かべた。