ゼウスにそっくりなジジイはダンジョンに用がない   作:ゼウスの髭

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師匠

 

「………」

「ル……く……」

「ぅ………」

「ベルくん」

「………?」

「ベルくぅぅぅぅぅん!!」

「神様……?」

 

 まず、ベルは自分を必死に呼んでいるヘスティアを認識した。

 

 しかしここで混乱した。

 ヘスティアは一体なぜ、こんなにも必死なのか。そもそもいつ、自分は本拠(ホーム)に戻ってきたのか。昨日、何があったのか。

 

「ッいッ"!………あ、昨日は」

 

 

 

 瞬間、ベルの脳裏に戻る情報の渦。

 それに伴い忘れていた感情も蘇る。羞恥、後悔、絶望―――そして、決意。

 

 ―――そうだ。あの人に相応しくなれるぐらい、強くなりたい。

 

「心配したんだよベル君! 朝になっても全然帰ってこないから外で待ってたら色んな意味で有名人のジュートス君に会って――」

「――神様」

「それからッ……ベル君? どうしたんだい?」

「神様、僕――強くなりたいです」

 

 ヘスティアは知らない。

 ベルがなぜダンジョンに行っていたのか、昨日何があったのか、何も知らない。だから本当は知りたかった。

 

 しかし、今のベルの姿を見てどうでもいい事だとも感じた。

 情けなく、不安定で、純粋なだけの少年だったベルが、雄の顔をしているから。彼が成長しているから、どうでも良くなった。

 

「………なれるよ、君なら」

 

 

 

「あれ〜? もう起きたかのぉ?」

「今いいとこだっただろぉッ! 空気読めよ!」

「ロリ神って理不尽じゃのぉ〜。儂、またなんかやっちゃいましたぁ??」

「きぃぃぃぃぃ!! 本ッ当〜にキミはゼウス(アイツ)そっくりだな!」

 

「あ、あなたは……」

「おう(わっぱ)、元気になったかのぉ?」

 

 

 

 

「ええええええ!!? じ、じゃあおじいさんがあの有名な【雷帝】ジュートスさんなんですか!!!」

「おぉう、いきなり発情期のウサギ並に元気になったのぉ。うぉっほん――如何にも。儂こそが迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)にて『最強の英雄』と謳われる、ジュートス・ケラウラである!」

「ふぁああああああああ!!! ぼ、僕あなたの英雄譚を何度も読んでました! 小さい頃からあなたの話を聞いていて、すごくカッコいいなって!」

「ぐわはははははははははッ!!!」

 

 ―――ナニコレ! 久しぶりに純度100%の尊敬の視線受けて、気持てぃぃいいいいい!!! 

 

 ジュートスはしばらくカッコつけ、飽きたなと思うタイミングで元に戻った。

 ベルはただの変態老人のように見えるジュートスをずっとキラキラした目で見ている。

 

「まぁ童――ベルの事情は分かった。ならば、儂が稽古をつけてやろうではないか!」

「えええええッ!? いいんですか?!」

「モチ☆」

 

「て、展開が早すぎるぜ。それに〜、ベル君を独り占めするなんて! ぬぬぬ〜……ジュートス君、恐ろしい子……!」

 

 

 

 あれから少ししてベルも落ち着き、ステイタスの更新を終わらせ現在シャワーを浴びている頃。

 

 ジュートスは暇そうなヘスティアをチラリと盗み見る。

 

 ―――頃合いか。

 

「ロリ神、少し聞いてもいいかのぉ?」

「どうしたんだ〜い、というかボクのことロリ神って呼ぶなよ!」

「……なぜ、ベルにスキルのことを話さなかったんじゃ?」

 

 ぴくりとヘスティアの肩が浮く。

 

「何のことだい?」

「まぁ儂はお主の眷属ではないからのぉ、信用ならんのは分かる。しかしそれはそれじゃ。それがベルのためになると思ってやったのか? それとも別の理由か?」

「……もしかして、神聖文字(ヒエログリフ)が読めるのかい?」

「勿論じゃ、長生きしておると色んな知識を覚えてしまうからのぉ」

 

 ヘスティアはいつもの締まりのない顔に、これまでにないほどの真剣味を帯びる。

 

 ヘスティアは思索する。

 自分の意思を語ってもいいか、ベルのことをどこまで話すか、この英雄がどこまで信用できるか。子の為に、冷徹な神の側面を曝け出す。

 

「儂、こう見えても他人(ヒト)とした秘密を漏らしたことはないぞ」

「嘘……じゃないね。分かった、キミを信頼できる英雄と見込んで話すよ」

 

 

 

「ベルよ、好きな女はいるか?」

「うぇえええ?! いきなりなんですか『師匠』!」

 

 ベルが装備を整え、いざ稽古をつけてもらおうとジュートスに向き合うと、唐突に恋バナが始まった。

 因みに、ベルが師匠と呼んでいるのは「師匠って呼ばれると気持ちいいんじゃ!」とジュートスに言われたからである。少しだけ、憧憬が崩れ始めるベルである。

 

「大事なことじゃ! 儂が英雄に成れたのは8人いた妻たちのおかげと言っても過言じゃない! 好きな女がいれば元気100倍、成長は無限大じゃああああ!!!」

「む、無限大ッ!?」

「そうじゃ! だからこそ問う、好きな女はいるか?」

 

 途端にベルの頬が赤らみ、モジモジとする。

 

 その反応はもう言っているようなものだが、ジュートスは初々しいその姿をニヤニヤと眺めるだけだ。この質問にはジュートスの私情が多分に含まれている。

 

「い………」

「い〜? なんじゃ、『い』ってなんじゃああああ???」

「いま、す……います!! 僕は、アイズ・ヴァレンシュタインさんが好きですッ!!!」

 

「よくぞ言ったベルぅぅぅ!!! もう一度だ! さぁ、想いを叫べ! 天上に座す神々が顔を顰めるぐらい、男子(おのこ)なら叫んでみせよ!!!」

「僕は、アイズ・ヴァレンシュタインさんが好きでえええええええすッ!!!!!」

 

「うるさあああああああい!! 近所迷惑を考えろぉ! あと、ヴァレン何某のことは忘れるんだベルくぅぅぅぅぅんッ!!!」

 

 

 

「さて、稽古についてじゃが」

「師匠、切り替えが早いです」

「稽古についてじゃが!」

 

 たん瘤を作ったジュートスは、ベルに自身の剣を見せる。

 その剣は、短刀より長く片手剣より短い微妙な長さで、肉厚、刃の反り、そして黒く輝いた剣という――ベルが見たことのない形状をしていた。

 

 ―――剣の長さが中途半端だ。まるで子供用のような……?

 

「ベルも知っての通り、儂の主武装は“剣”じゃ。剣であれば長かろうが短かろうが、達人以上に扱う事ができる」

「はい、知ってます! 『ジュートスの剣戟は音より疾く、雷のように鮮烈に、そして紙のようにしなやかである』……って、英雄譚の一説に書いてありますから!」

「よぉく知っておるの、その通りじゃ。しかし、困った事に儂は今年242歳になって、大剣などは振るだけでもキツくてのぉ。若い頃のようには中々いかんのじゃ」

 

 そう言って、不思議な形状をした短い黒剣を見せる。

 

「だからこそ、衰えた儂は軽くて短い剣しか扱わん。昔の儂は『剛よく柔を制す』をモットーにしていたが、今は『柔よく剛を制す』じゃ」

 

 ジュートスはベルに見本をみせるように、軽く構える。目の前には子供並みに大きな石。

 

 それに、ベルでも見えるようなゆっくりとした動作で、スッと石に刃を当て――そのままあっさりと両断する。

 

「ま、こんなもんじゃ」

「…………え、えええええええ!!!? ど、どうやったんですか今のッ!!」

「なに、簡単なこと。当てるべき場所に、刃を通しただけのことよ」

 

 説明を受けても、ベルは全く納得できなかった。というか普通に考えておかしい。

 勢いをつけて切るのではなく、ゆっくりとバターでも切るように。滑るようにして硬い石を斬ったのだから、とても現実だとは思えない。

 

 斬られた石を触ったりしても納得できなかったベルは、自分がぎりぎり納得できる答えを思いついた。

 

「……もしかして、剣がものすごい切れ味とか?」

「よく言われるのぉ、それ。ではベルよ、そこの石をこれで斬ってみよ」

 

 ぽいっ、とジュートスは剣を放り投げ、ベルはそれを慌てて掴む。

 

 ―――! 軽い、僕のナイフよりちょっと重いぐらい?

 

 黒く輝く剣を見て、ベルは思う。

 いい剣だ、これなら簡単に斬れそうだと。ジュートスの姿を自分なりに真似て、ゆっくりと刃を当てる。

 

 しかし、ベルの剣では石にどれだけ当てても刃が通ることはなく、むしろこれでは絶対に斬れないと痛感させられるだけだった。

 

「なんで……」

「そうなんじゃよなぁ〜。儂の剣術はアルフィアでさえ、って言っても分からんか。あのアイズでさえ習得は『無理』じゃった」

「え……アイズさんが?」

「そうじゃ。だから、儂の剣は誰にも教えられん。というか、誰も出来ないんじゃ。不思議なことにのぉ〜」

 

 ―――そんな真似、貴様以外だれも出来るわけがないだろう。クソ爺め。

 

 その時、ジュートスにはアルフィアの声(空耳)が聞こえた気がしたが無視した。なんで出来んのじゃあ?

 

「そこで話を戻す――儂は剣術を教えられん、しかし組み手ぐらいは出来る。そこでベルは、儂の『技と駆け引き』を盗め………長くなったが、ナイフを構えよ」

 

「ベル――今からボコボコにするゾイ☆」

 

 

 

「今日はこんくらいにしとこうかのぉ」

 

 ジュートスは軽く汗を拭う。また体力落ちたな、と思いながら。

 

「ふ、ふぁい……」

 

 そしてジュートスが立つ下に、地面にハグするようにして倒れているのはベルである。何度も叩かれ、地面に身を投げられたのであろう。服、顔、全身が土埃に包まれている。

 

「ほれ、若者ならこの程度で音を上げるでない。回復薬(ポーション)はくれてやるが、頼りすぎるのも良くないぞ。ある程度痛みに慣れることも大事だからのぉ」

「わ、わかりました……あの、師匠はこれからどちらへ」

「…………」

「し、師匠?」

 

 ベルは困惑した。

 

 今日会ったばかりだが、ジュートスは基本温厚でよく笑う太陽のような男だ。そんな男が、無表情で自分を見据えている。その代わりように驚いた。

 

 ベルの喉がゴクリと鳴る。

 

 

 

「……いいじゃろう、お主も男じゃ。連れて行ってやる」

「ど、どこに行くんですか?」

「男の、いや――漢の浪漫(ロマン)へ行く」

 

 

 

 

「あら、少し太った?」

「そんな事ないわよ、神は不変なんだから余裕よ! ……多分ね」

 

「私もちょっと太った気がするのよね〜。ダイエット頑張ろうかしら?」

「デメテルのそれは贅肉(にく)じゃなくて乳肉(にく)だろう。死ねッッ!」

 

 ここは神聖浴場。オシャレに気を遣う女神だけが入れる特別な浴場。

 

 数多の男神達(おとこたち)が覗こう、忍び込もうとしても不可能だった。絶対不可侵、神聖な場所(※ゼウスを除く)。

 

「ふぅ……やっぱり神聖浴場(ココ)は男の視線を気にしなくていいから楽でいいわ〜」

「ふふっ、なんだかフラグみたいで面白いわね」

 

 

 

「ホントホントぉ〜。でもぉ、フラグは回収しなきゃダメだもんねぇ〜♡」

 

 そんな女神達の耳に良い美声が響くこの場に、野太い声を頑張って高くしたような気持ちの悪い声は良く響き、目立った。

 

「え」

「ん?」

「あら……? 今のはだれの声?」

 

 

 

「やっぱり、疲れた日はデメテルたまにぱふぱふしてもらうに限るのぉ〜。のぉ、ベルよ?」

「はふぇ? ………………………………え?」

 

 カチリ と場が凍る。

 

 女神達が、ベルが、多すぎる情報を処理するためにかかる絶対時間。咎人に対する、審判の時間。

 

 ここに一つ、釈明を述べるのならばベルは気づいたらここにいた。

 近くの大きな建物を見て、アレはなんですか師匠。と尋ねようとした時には襟首を掴まれそのままジュートスが疾り、急激な視界の変化に酔い意識が暗転。

 そして気づけば、全裸の女神様の乳の上に頭を乗せているという状況。

 

 ベルは、悪くない。

 

 そして、女神達も悪くない。強いて言えば、美しすぎてムラムラさせるのが悪い、とジュートスは笑いながら宣うだろう。コイツに釈明の余地はない。

 

「すぅ…………………………」

 

 

 

 

「きゃああああああああああああああああッ!!!!」

 

 

 

「え……こらベルッ! 逃げるでない、ここは漢の浪漫ぞ!」

 

「ごめんなさあああああああああああい!!!」

 

 脱兎の如く逃げるベル、略して脱ベル。

 逃げるが勝ちだとでも言うように、ベルは女のような悲鳴を上げ、Lv.1の敏捷(アビリティ)を最大限振り絞り走る。

 

 残されるは元凶、諸悪の根源、変態爺神(ゼウス)の再来であるジュートスただ一人。援軍は来ない。

 

「うふふふふふふ………ジュートス、遺言を聞きましょうか」

「―――デメテルの陥没ち◯び、儂は好きヨ☆」

 

 

 

 

 その日、神聖浴場はいつもより早く閉まった。

 その中には、ボコボコにされた裸の変態男が倒れており、清掃員()は唾を吐き捨ててからそれをゴミ処理場に捨てたらしい。

 

※ゴミ処理場に変態(生もの)の不法投棄はやめましょう。

 

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