ゼウスにそっくりなジジイはダンジョンに用がない   作:ゼウスの髭

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英雄冀望

 

「ぅーん……神様、苦しぃ……」

「ベル君のアホぉ……むにゃ」

「むほほぉ、眼福眼福〜」

 

 ベルの身体の上でぐにぐにと形を変えるヘスティアの胸を、舐めるように見るジュートス。その顔は言いようのないほど気色の悪いものだった。

 

 つい、ヘスティアの胸に手を出しそうになるが、ヘスティアの幼すぎる外見から躊躇し、断腸の思いで見るだけにした。

 

「それにしても、三大処女神(ヘスティア)を惚れさせるとはベルもやりおるのぉ。まるで、昔の儂を彷彿とさせるわい」

 

 ―――それはない。お前の方が万倍クズだ。

 

 どこからかそんな声が聞こえた気がするが、ジュートスは気にしない。何事もスルーって大事だよネ!

 

 

 

 

 師匠との鍛錬は早い。

 

 師匠は普段ダイダロス通りにいるはずなのに、僕が目覚める時には既に本拠(ホーム)にいて神様の胸を視姦している。

 それについて諫言をしたことはあるけど、「ベルよ……処女神の胸を見ることは超☆希少(スーパーレア)なんじゃぞ」と逆に諭されてそれからは何も言っていない。

 

「ふッッ!」

「はァ!」

「でやァッ!!」

 

 そして僕はナイフ一本を手に、師匠は曲刀(シミター)を手に取り、組み手を行う。

 師匠との稽古は正直これだけだ。ひたすら実践形式で『技と駆け引き』を身体に理解(おぼえ)させる。

 

「よっ」

「ふむ」

「いやぁぁぁん//」

 

 因みに、僕の攻撃は当たらない。掠りもしない。全て“流される”。避けられるのではなく、曲刀で力を受け流される。

 まるで流れる水を相手にしているみたいに手応えがない。まぁ最近はずっとこんな感じだから、師匠の非常識さにもだんだん慣れてきた。

 

 むしろ、こんな非常識な存在だからこそ英雄と呼ばれるのだと理解させられる。

 

 

 

 人間の臨界をさらに超えた、神業の極致。選ばれた者の中の最高峰。人類最強。

 

 それは大昔の話なんかじゃない、師匠は“生きた伝説”なんだ。

 

「ぶへぇ……」

 

 だから当然、いつも僕がボロボロにされる。でもこれすら嬉しいんだから、僕は生粋の英雄大好き小兎(バカ)なんだろう。

 

 

 

「行くぞベル――秘密のシークレットミッションじゃ」

 

 僕は英雄(師匠)が大好きだ。でもたまに、いや頻繁に困ることがある。

 

「ほっほぉ! たまらん乳じゃのぉ! 溢れそうではないかぁ〜」

 

 それは女性に対してのセクハラが非道いこと。

 今日は女性ばかりのファミリアに潜入し、小さい穴から師匠と僕は覗きをしている。

 

 

 

 ………いや、僕は嫌だったんだ。

 でも師匠が、「弟子とは師匠の命令に逆らってはならない、逆らえば死ぬッ!」と言って強引に共犯者に仕立て上げられるのが毎日だ。

 

 

 

「このクソジジイが、そんなにムラムラするなら家畜とヤってろカス」

「っぺ、粗大ゴミが」

 

「んっんぅ〜ッ! たまらん……その美脚(あし)美声(くち)でもっと儂を罵ってええええええええ!!」

 

「君は悪くないからね。さぁ、お姉さんとお家に帰ろうか?」

「え、いやあの、僕も同罪なので……」

「大丈夫、君は悪くないよ。疲れたでしょ〜、ちょっとそこで休憩しようよ♪」

 

「Foooooo!! おねショタ展開来たああああああ!! 頼むから儂の見える範囲でヤって!」 

 

 ………えっと、最近の僕はこんな感じです。命と尊厳をゴリゴリ削られていますが、なんとか無事です。

 

 

 

 

「誤解ないように私情を抜きにして、君の担当アドバイザーとして正直に言わせてもらうね――ベル君はジュートスさんと縁を切った方がいいよ」

「エ、エイナさぁぁん……」

 

 エイナは激怒した。

 必ず、かの誨淫導欲(かいいんどうよく)の男を除かねばならぬと決意した。エイナには叡智(エ◯チ)がわからぬ。エイナは処女である。父には、子供はコウノトリが運んでくると教えられた。けれども、不潔に対しては人一倍敏感であった。

 

 ―――ベル君の為にもあの狒々爺(おとこ)をギルドのブラックリストに……いやむしろ恨みを買っている【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】を伴って討伐に行った方が……。

 

 

 

 エイナが不穏な計画を練っているのを敏感に察知したベルは、話題を変えるために頭を回す。

 

「そ、そういえば今日、ダンジョンから帰ってくる時にモンスターが地上に運ばれているのを見たんですけど、アレはなんですか!?」

「ん、あぁ怪物祭(モンスターフィリア)のこと? あれはねー」

 

 やった! 話を逸らせた!

 

 心優しきベル(少年)は、師匠の死亡フラグを防ぐことに成功した。

 

 

 

 ―――そういえば、師匠はダイダロス通りにいるって言ってたけど、普段は何をしてるんだろう? 今度会ったら聞いてみようかな。

 

 

 

 

「――英雄(ツワモノ)共は、いつになったら現れる……」

 

 湿った無音の暗闇に、その声はよく響いた。

 

「ゴホッゴホッ……“俺”の命も長くはない。力も衰えるばかり――もう、“俺”がやるしかないのか……?」

 

 老人よりもさらに(しゃが)れた声、眉間に皺を寄せた沈痛な表情――彼を知ってる誰もがこの光景を信じられないだろう。

 

「……もう少し、もう少しだけ待とう。待って、『最後の英雄(希望)』が見つからなかったその時は――『黒竜』を、『最強の英雄(“俺”)』が殺す」

 

 

 

「例え、この命尽きようとも……必ずだ」

 

 彼は、何物よりも堅い決意を瞳に宿らせる。

 

 その瞳を見たものは誰であろうと足が竦み、逃げ出すことすら叶わない。まるで神々が『神威』を解放したかのような独特で抗いがたい威圧感を放つ。

 

「“役目”を果たせ……それしか、お前はできんだろう」

 

 

 

 ―――『英雄』ジュートスは、曲刀に写る己を心の底から嫌悪する。

 





 *英雄譚より1部抜粋*

 『英雄』ジュートスには子がいた。

 ダイヤ、ハルファ、ベータ、エシル―――

 ライン、ツァナ、モルベル、アゾクス―――

 子ができた8人の妻とジュートスは大層喜び、オラリオも新たな英雄が来るだろうと予感させ、大いに賑わう日になった。

 そんな時に、『隻眼の黒竜』は絶望を届けにオラリオへやってきた。

 ジュートスはオラリアを守るために空を駆け、たった独りで『黒竜』に立ち向かう。

 ジュートスと『黒竜』の衝突は天を割り、地を砕き、オラリオを混沌へと誘った。

 『黒竜』がジュートスをブレスで攻撃すれば、雷が奔り―――ジュートスが剣を振れば、『黒竜』はその爪牙をもって相殺する。

 お互いに千日手だったが、時が経つにつれジュートスは『黒竜』の動きを読み始め、戦闘開始から10時間が経つころには『黒竜』の攻撃は一切当たらなくなっていた。

 最後の一撃は妻たち、そして冒険者たちの“魔法”で増幅された力で、『黒竜』の半身と一つの山を消し飛ばし、これを撃退した。

 世界が歓喜した。『最強の英雄』が誕生した、と。

 ジュートスは絶望した。『黒竜』の“呪い”により、彼以外の妻と子供たちがどんどん衰弱していったから。

 ジュートスに“呪い”は効かなかった。なぜならば、『最強』だから。



 その後、彼は独りで三大クエストを受けた。世界の誰もが、それを後押しした。

 しかし結局、彼は何一つクエストを達成することは出来なかった。

 魔物たちが、彼の存在を認識した途端に逃げ出すからだ。

 彼が三大クエストでオラリオを出ていた期間は、5年。その間、道行く場所でジュートスは英雄的行動をした。

 そうして5年後、彼がオラリオに戻った時―――家族はジュートス独りを残し、全員天へ逝っていた。

 *英雄譚より*


 少しだけ、筆者の話を聞いてほしい。

 これを書いている私は、ジュートスとは何の関わりもない者だ。

 だからこそ客観的に見れる、ジュートスは悲劇の英雄である。

 ―――だってそうだろう? もしも私がジュートスならば“世界”を呪っている。

 成果も上げられず、忸怩たる思いをして家へ帰ると、家族が死んでいた。

 家族の死に様すら見れず、墓標だけを見せられて、誰が納得できる? 誰がまたお前を救おうとする?

 だから私は願う。

 嗚呼、『最強の英雄』よ。どうか―――どうか、“世界”に復讐しないで欲しい。貴方がその気になってしまえば、世界は簡単に滅んでしまうのだから。

 嗚呼、『優しき英雄』よ。どうか―――どうか、貴方だけは家族を悼んで欲しい。“世界”は貴方を祝福するばかりで、死んだ人間なんて覚えていないのだから。

 故に、私は想う。この世界がまだ存続できているのは、彼の優しさに救われた結果でしかない。

 だから、世界よ。どうか―――どうか、もう彼に“役”を与えないでくれ。もう彼を、家族のいる場所まで逝かせてあげて欲しい。

 切に、私はそう願う。
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