ゼウスにそっくりなジジイはダンジョンに用がない 作:ゼウスの髭
それは年に一回開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催のイベント。闘技場を一日使用して、ダンジョンから連れてきたモンスターの調教を行うショー。
その祭りはオラリオでも屈指の人気イベントで、その日は一日中熱に浮かされた者たちで騒がしく賑やかしい。
「Hey!! そこのレディー、ちょっと儂とお茶しない?」
「え、結構です」
「おぎゃああああああッ!! 儂、超迷子じゃあ! 誰か優しい美人が儂をギルドまで、手を引っ張って送ってくれんかのぉ??」
「死ねエロジジイ」
「え、なに?」
「ギャルは土下座すればヤらせてくれるって
「いや、無理だから。あとキモい」
そんな中でも人一倍騒がしいジュートスは、ナンパ(?)をしていた。
イベントには毎回、神々がウザいほどナンパをしてくるのがウザい(※大事なことなので2回言った)、というのがオラリオに住む者たちの共通認識だが
「むぅ〜、中々釣れんのぉ。ベルはダンジョンじゃから儂に構ってくれんしぃぃ? 暇じゃのぉ」
「――師匠?」
「む? ……おぉ、アイズか! 久しぶりじゃのぉ」
「久しぶり、じゃない……酒場で会ってた」
「? そうじゃったか?」
ジュートスは偶然にも、ロキと一緒にいるアイズに会った。ロキは嫌そうな顔をしているが、2人は明らかに嬉しそうな顔をしている。
「けっ、ジュートスと会うとか今日はついてないわ〜。しっしっ! ウチは今日アイズたんとデート中なんや、どっか行け!」
「なぬ、デート中じゃと!? あのロキが! アイズにセクハラをしようとして毎回失敗している、あの
「
「しとらんぞ
「師匠は、何してたの?」
「見ての通りナンパ中じゃ」
「? うん、そっか」
アイズは何となく頷いた。特に意味はない。
実を言うと、このアイズ・ヴァレンシュタインという戦闘狂は昔ジュートスの弟子であった。
出会い頭に「剣を、教えて」と幼女に睨まれながら教えを請われたジュートスが「んぅぅぅ//、そういうのも
そして、周囲にいた者たちは【ガネーシャ・ファミリア】に「幼女があのジジイに喰われる」と通報してボコボコにされたという裏話もある。
「師匠、私と戦って」
「え、
「? うん」
「えぇええええ……儂ぃ、今忙しいんじゃがのぉ」
「ちょいちょいアイズたん! 今日はウチとデートの約束やんか!! 1日中付き合うって言うたやぁ〜ん!」
「あ、そっか……それじゃあ、明日戦おう」
「おう、ええよー」
そんな話をしながら一行は
曰く、怪物祭用のモンスターが逃げた。犯人は捕まっておらず。逃げたモンスターの退治を冒険者一同に【ガネーシャ・ファミリア】が協力を持ちかけているとのこと。
そしてそれを現在、【剣姫】が迅速にモンスターの退治を遂行中である。
「え、儂は?」
「アイズたんの足手纏いやから着いてくんなや雑〜魚ッ」
「すみません、クラウラ氏。貴方が現在『冒険者』と言って良いのか私では判断できず、今回は避難誘導だけでも手伝っていただければと……」
「あー、まぁ確かにダンジョンには全然潜っとらんしのぉ。おけ、じゃあ行ってくりゅ」
瞬間、ロキとエイナの視界からジュートスが消えた。
「じゃあ行くかのぉアイズ」
「! 師匠……うん。じゃあ、全力で行くよ」
そのまま
「……相ッ変わらず規格外やな。アイツにモンスター退治依頼せんで良かったん、エイナちゃん?」
「あははは……まぁ、冒険者の手は足りていますし問題無いかと」
あそこまで動けるのは予想外だったけど、と心の中で付け加えるエイナ。
※
「ふぅ……はぁ……」
「……大丈夫、師匠?」
「何のこれしきッ! 儂の心配はよい、お前はモンスターを退治せよ!」
「うん、わかった」
―――また、体力落ちてる。
アイズは客観的に今のジュートス単体の戦力を、第一級冒険者にも勝てるかもしれないと評する。しかし、それは短期決戦でという枕詞がつく。今のジュートスには、第一級冒険者と10分以上戦うようなタフネスはないだろうと。ダメージを負えばその分、さらに継戦時間が短くなるとも考える。
―――でも、師匠が負ける姿は想像できない。
それでもなお、ジュートスが誰かに負けることはない。
ジュートスと戦いたいと言う者は多い。『最強の英雄』と呼ばれる彼と、衰えていてもいいから戦ってみたいと今でも声を上げる
挑戦者の中には第一級冒険者も数多くいた。しかし、攻撃をするジュートスなら隙をつけるかもしれないが、“護り”に徹したジュートスは不可能だ。どんな攻撃をしようと受け流され、捌かれる。
その『技と駆け引き』だけで数多いる第一級冒険者たちに不敗を重ねる彼は、まさに英雄。元『最強』。
「ああああああッ! アイズだ! あとジュートスもいる〜!!」
「アンタ達も【ガネーシャ・ファミリア】から依頼受けてたのね。それじゃあ、アイズ1人だけで事足りるわね」
「あ、あああああああアイズさんッッ!!
「リヴェリアからの風評被害がエグい件について」
大体、ジュートスから被害を受けた女性はそのような認識を持っている。もしジュートスが被害届を出しても、その後彼の方が数多いる
「うーん……モンスターも少なくなってきたし、物足りないなぁ〜」
「て、ティオナさんッ! 無神経ですよ!」
「でも確かにそうよねー。歯応えなさすぎてやる気になんないわ……あと
「ぐっふぉおおおおおッ!!」
ティオネの みぎストレートが さくれつした
ジュートスの HPが ゼロになった
おお! ジュートスよ しんでしまうとはなさけない!
ジュートス・ケラウラより『遺言』
「! なんか揺れてない?」
ぴくりとティオナの耳が反応する。ぴくりとアイズ達がティオナの言葉に反応する。ぴくりとジュートスの心臓がまた動き始める。よかった死んでない。
ティオナは地面に耳をつけ、慎重に音の出所を探る。
そして―――地面から『花』が咲いた。
「えぇ!? 何あれ何あれ! また『新種』ッ?!」
「とりあえず叩くわよッ!」
ティオナとティオネが阿吽の呼吸で飛び出し、その蛇のような『花』のモンスターに鉄をも砕く剛拳を打ちつける。
しかし―――
「かったぁっ!」
「ッ!」
そのモンスターの表皮には傷すらつける事ができなかった。
それを見たレフィーヤは判断する。そんな『強敵』は、『魔法』で倒すしかない。
―――
「【解き放つ一条の光、聖木の
自身の持つ魔法の中で詠唱の短い魔法を選択したレフィーヤは、ティオナやティオネのために少しでも早く、早く魔法を唱えなければと心に焦りを持つ。
「【汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手】」
しかし、詠唱に集中する姿は無防備であり―――周囲の警戒をおろそかにしていたレフィーヤは、自身に忍び寄っていた『花』に気が付かない。
「【穿て、必中の】……っあ」
レフィーヤは『
詠唱、中断。
『花』は弾丸のような速さで、その妖精の柔らかい腹を突き刺す―――
「――全く……儂、戦わないつもりじゃったんじゃがのぉ」
「……え」
レフィーヤの視界に新たな人物、ジュートスが加わる。
それは残心の構えで、既に攻撃が終わっていることを表す。
数秒もせずに、レフィーヤの視界に映っていた『花』は粉々に砕け散ってしまった。
―――助かった……。
「いや、そう思うのは早すぎじゃ」
「え」
レフィーヤの詠唱は、中断された。
それによって起こる、
レフィーヤ自身の多過ぎる魔力も相まり、大規模な暴発が今、市民を巻き込んで起きようとしていた。
「ッ、ここから離れてください!」
「ほい」
「――え」
「もうこれで大丈夫じゃぞ」
ジュートスが剣を一振りすると、魔力だけが抜けていく感覚があった。それは、
「……なにを、したんですか」
こんな危険な場所で、こんなことを聞いてる暇がないことを重々承知しながら、レフィーヤは聞いた。
自分の常識が、今、完全に塗り替えられたような気がしたから。
「え、お主の
「な……どういうことですか? 斬った? 目には見えもしない
「剣に魔力を流せれば魔法は斬れるぞ。儂も昔はよく斬ってたしのぉ。あと、
―――な、なんて出鱈目なッ! 魔法を斬るってだけでもおかしいのに、目には見えない
レフィーヤは、その時自分の師であるリヴェリアが言っていたいつかの言葉を思い出していた。
『レフィーヤ、これはお前以外の団員にも言い聞かせていることだが……これから冒険者をやっていく上で、“自分”と“ジュートス”を比べるなよ』
『アイツは冒険者としておおよそ全てができる。前衛、中衛、後衛は当たり前にこなせる』
『アイツはフィンよりも最善の指揮を取れる』
『アイツはガレスよりも硬い
『アイツは……私よりも魔力の扱いが上手く、魔法の“深淵”を識っている』
『いいか――“人”と“神”を誰も比べたりはしないだろう』
『アイツはそういう存在だ。比較しても、冒険者をやめたくなるのがオチだ』
『だから、お前はお前のまま頑張ればいい』
―――今ならわかる。リヴェリア様もきっと、この出鱈目さを見た事があるから、あんな言葉が出たんだ。この人と“自分”には、一体どれだけの差があるのか……私には分からない。
「ふぅ……やれやれ、今日はとんだ厄日じゃなぁ。せっかく
それまで畏怖する視線を向けていたレフィーヤは、一瞬でゴミを見るような目に変貌した。この変貌の早さは
神は言っている、『両方だ』と。
「師匠っ! レフィーヤは、大丈夫?」
「
「? レフィーヤ、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です……あの、迷惑をかけてすみませんでした」
「いいよ、何度でも守るから」
「ッ! ……はい」
―――やれやれ、それは悪手じゃろう。アイズ。
離れたところから見守っていたジュートスは、その内心を溜め息に変える―――ところで、ジュートスに『花』の攻撃が迫った。
「アレ見てまだ儂を襲っちゃうかぁ? それとも『花』だから考える頭はないのかのぉ」
しかし、
ジュートスは鞘に納剣し、再び視線を『花』、そして周りへと向ける。
「……儂が倒す、のは野暮か」
「こンのクソ『花』がァアアアアアアッ!!」
「いっっくよぉおおおおおお!!!」
「アイズさん! 私を守って下さい! だから、今度こそ私が皆さんを助けますからッ!」
「レフィーヤ……うん。守るから、助けてね」
「なんじゃ、儂いなくてもよかったのぉ」
いつもは見せない、ジュートスの朗らかな笑みだった。
ジュートスは迅速に、市民の避難と誘導を行った。彼が市民の安全を守っている間に、どうやら彼女達も『花』を倒したようだ。
それは、きっと神でさえ分からない。
―――分からないなら、分かるまで生き続けるまでだ。
そうやって彼はずっと、孤独な
その後
「え、ベルってダンジョン行ってなかったの?」
「え、あのモンスター騒ぎに巻き込まれてたの?」
「え、単独でシルバーバックの討伐?」
「………え、アイツ儂より成長早くね?」