狸と牛とキヴォトスと   作:聖成 家康

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別離ⅱ:武刃が悪を薙ぐ

 

 仮面ライダータイクーン ブジンソード。

 

 理想の世界を追い求める、漆黒に身を売りし戦士が、キヴォトスに顕現した。

 

「あ、あれは……」

「新しい敵!?」

 

 ミモリとカエデは驚愕し、ツバキは落ちかけていた目蓋を開き、その漆黒に包まれた武士の姿を目に焼き付ける。

 

「な、なんだよ! こんなの知らないぞ!」

「撃て撃て!!」

 

 一度は射撃を止めたオートマタだったが、その異様な存在を前に、出し損ねた弾丸の数々を一斉発射する。

 

 しかし、弾丸は装甲を貫くどころか、傷一つ付けることなく粉々に砕け散っていき、タイクーンにダメージを与えることは叶わなかった。

 

「嘘だろ!?」

 

 盾を構えた突撃するオートマタたち。前線にいたツバキは、迫りくる大群を前にして思わずそれを避けてしまう。

 彼女には目もくれず、武刃を悠々と構えながら近づいてくるタイクーンを討たんと駆けた。

 

 

 至近距離でも結果は変わらない。

 タイクーンを包み込む“ブジンアーマー”による重装甲の多重化は、弾丸など諸共しない防御性能を誇る。

 

 防御を取る、という行為すら必要ないほどに。

 

 打撃を喰らわせようとしたオートマタ達が、次々と武刃によって切り払われ、一刀両断されていく。

 颯爽と、斬るべき箇所を正確に見極めて一撃で仕留めるその様は、無礼者を斬り倒す武士そのものであった。

 

 残像さえ残るその斬撃。敵の黒き装甲を偽物とばかりに切り砕いていき、オートマタ達は成す術なく爆散していった。

 

 成す術がないのは、ミモリ達も同じであった。

 

「榴弾砲をぶち込め!! 中に人が入ってるんだ。クルセイダーが放つ攻撃になど、中身が耐えられるはずがない!!」

 

 クルセイダーの標準がタイクーンへ向けられると同時に、不良生徒達はその後ろへと後退する。もうその一撃に全てを賭けている様子であった。

 

 

 バックルの刃が納められる。

 

 鳴り響く三味線の音。溢れ出る漆黒。

 武刃に供給されてゆくエネルギーで、円月のように軌道を描く。

 

 

 クルセイダーの砲身から、榴弾砲が放たれる。

 

 

『BUJIN SWORD STRIKE』

 

 

 無慈悲に鳴り響く声。

 一度納められた武刃が再び抜刀される。

 

 

 次に不良達が瞬きをする頃には、音もなく斬られた榴弾砲が地面に散らばっていた。

 

 

「うそ……だろ」

 

 

 二度(にたび)納められる、バックルの刃。

 

 赤き閃光と共に抜刀されれば、武刃に凄まじいエネルギーが纏われる。

 

 恐れ慄く不良生徒を顧みず、タイクーンは刃を振るう。

 

 

『BUJIN SWORD VICTORY』

 

 放たれた円月の斬撃波。

 

 水面を駆る石かのように空気を薙ぎ、クルセイダーをいともたやすく斬り裂いた。

 

 解き放たれる爆風が不良生徒達を吹き飛ばす。

 逃げようとした彼女らを、ミモリらが放った弾丸が逃さなかった。

 

 不良生徒は全員戦闘不能。

 街に多少の被害は出たものの、不良生徒による反乱行為は、ほんの僅かのうちに鎮圧された。

 

 

 シャキン。

 

 武刃がゆっくりと、鞘へ納められる。

 

 

 ◇

 

 

「なるほど……桜井ケイワ……一体何者なんやろな」

 

 夕暮れの光が差す陰陽部の部室。他のどこよりも和風な部屋で、その空間に似合わぬホログラム映像を眺める少女が一人。

 百鬼夜行で最も力を有する陰陽部の部長 天地ニヤ。目を細め、もはや映像が見えているのか分からないが、真剣な顔つきで凝視している。

 

 漆黒の武士――タイクーンの戦い。

 瞬時に装甲を形成し、あれだけの力を発揮する謎のテクノロジー。千年難題に挑むミレニアムでも、あれ程の発明は不可能だろう。

 

「記憶喪失……そして謎の技術……むぅ、考えただけで頭が痛なるな」

 

 不良生徒を矯正局に預けた際、本当は、彼もヴァルキューレに預けようと彼女は考えていた。

 しかし、結果的に彼は百鬼夜行を助けている。そんな人間を独房に送るのは、彼女であれ悩みどころであった。

 

「修行部が上手くやってくれるとええけど」

 

 

 ◇

 

 

 日が沈み始めた。

 

 結局、景和は修行部で一日を過ごすことになる。

 元の世界へ帰る術も、何一つ見出だせないまま。

 

 永遠と縁側に座り、沈みゆく日を眺める景和。

 仄かに香ばしい香りが漂ってきて、腹が鳴ったのに気づく。

 

(何も食べてないな)

 

 此処に来てから、何も口にしていない。

 

(よく作ってあげてたよな)

 

 景和はふと、あの頃の思い出に耽る。

 

「ケイワさーん! 夕飯の準備ができましたよ!」

 

 ミモリの声がして、景和は視線だけ後ろに向けた。

 机に並べられた湯気が昇っている和食の数々。

 

 景和はそれを見て、誤魔化しようの無い腹の音を鳴らしてしまった。

 

「なんだ、お腹空いてるんじゃん!」

 

 カエデがそれを聞いて笑い飛ばし、ツバキが眠い目を擦りながら手招きをする。

 

 景和は虫の居所が悪かったが、空腹には抗えず、彼女らの輪の中へ入った。

 

 箸を手に取り、行儀よく「いただきます」と言ってから食事に手を付けた。

 

 三人は景和が居ても、笑顔で楽しそうに食事をしていた。時折、景和にも会話を投げかけてくれた。

 

「……君たち、俺が怖くないの?」

「え、どうしてですか?」

 

 ミモリが聞き返す。

 景和は味噌汁を飲んでから言う。

 

「いや……だって」

「あの侍の事? そりゃあ、最初見た時は驚いたけど、私たちを助けてくれたわけだし!」

「私、あの時もう限界だったから、助かったよ」

 

 カエデとツバキが続けて言った。

 当時の彼女らは、凄く驚いた顔をしていたから、怖がらせてしまったと心配していたが。それは杞憂だった、と景和は安堵する。

 

「ケイワさんも、修行、するの?」

「え」

 

 ツバキは独特な話し方で景和に尋ねた。

 

「……そっか。ここは修行部、だもんね」

「私は素敵なレディーになるため修行してるの! ツバキ先輩は究極の睡眠のため、ミモリ先輩は大和撫子になるために!」

 

 カエデが元気良く言う。

 ――修行なのか、それは。と景和は疑問に思うも、至って真面目そうな彼女らにそのような詮索をすることはできなかった。

 

「ケイワさんは、記憶を戻すことが最優先ですよ。きっと……あなたを心配している人がたくさんいますから」

 

 ミモリの言葉を聞き、景和は情景に耽る。

 

 

 ――姉ちゃん。

 

 

 桜井沙羅は、もういない。

 

 

 だから、もう一度――

 もう一度叶えないと。

 

 

「ケイワさん……?」

 

 

 箸が止まっていたのを気にかけたのか、ミモリが声をかける。

 

「もしかして、あまりお口に合いませんでしたか?」

「い、いや。そんなことないよ! すっごく美味しい」

「そうですか。良かったです!」

 

 彼女にお淑やかで、優しい笑み。

 楚々とした雰囲気を感じさせる、包容力のある彼女は、あの人とは似ても似つかないな、と景和は思う。

 

 

 

 

 

 食事を終えた景和。年下の少女と同じ部屋に寝るわけにはいかないので、空き部屋を借り、そこに布団を敷いて寝ることになった。

 

 寝転がると、要因の分からぬ疲労が一気に襲いかかってくる。

 すぐにでも眠りに落ちてしまいそうだった。

 

(……姉ちゃんがいない世界か)

 

 この世界は、明らかに自分のいた世界とは違う。

 桜井沙羅という人間は、そもそも存在しないということになる。

 

(でも俺は……)

 

 ――取り戻さないといけない。

 

 理不尽に奪われた、あの人を。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あれから一瞬にして眠りに落ちた景和は、まだ外が薄暗い、早朝に目覚めてしまった。

 

 だが、都合がいい。彼女らは、流石にまだ眠っているようだ。

 

 

 景和は修行部の部室を出て、薄い紺碧の空の下に佇むその建物を見据えた。

 

 

「俺にも、叶えたい願いがあるんだ」

 

 

 

 桜井ケイワは、百鬼夜行から忽然と姿を消した。

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