『BUJIN SWORD STRIKE』
一体、百鬼夜行からどれくらい歩いたのだろう。
仮面ライダーに変身し、疲労を感じにくい状態になっている為か、感覚が狂いつつあった。
薄暗い、廃墟になった町中。
標的を見つけ稼働してしまった巨大なロボット――ゴリアテに向けて、タイクーンは渾身の後ろ蹴りを喰らわせる。
漆黒のエネルギーを受けて爆散したゴリアテの吐き出した爆炎を背に、タイクーンは武刃を鞘に納めた。
暫く休もう。
そう決意した景和は長時間に渡った変身を解除し、どこか休めそうなところを探そうと決意する。
飛散したゴリアテの破片を蹴り、すぐさま爪先を引っ込めた。
「硬い……」
こんなにも強固な装甲で覆われたロボットや戦車に、ここに至るまで何度も襲われた。
キヴォトスという世界は、治安があまりにも悪すぎる。
その欠片に描かれたマークも、これまで戦ってきたロボット達と酷似――否、全く同じものである。
「かいざー……? 会社の名前かな」
景和はぼそりと呟いてから、休めそうな場所を求めて彷徨う。
冷たい道路を踏みしめながら歩いていると、丁度良さげな、程よく綺麗な建物を見つけた。倒壊もしていないし、雨漏りも多少は防げそうだ。
景和はその建物に入り、次は休めそうな空間を探す。
中は少し埃被ってはいるものの、まだ使えそうというくらいに綺麗な内装だった。
まるで誰かが定期的に掃除にでも来ているみたいだ。
仄かに草の匂いが漂う広い部屋を見つけ、景和が足を踏み込んだ次の瞬間であった――。
「うぇぇぇぇっ!?」
「うわぁぁぁぁぁっ!!??」
部屋にいた存在と鉢合わせ、景和は思いもよらぬ大声を出してしまう。
その存在とは、一人の少女。紫の髪で、軍服を思わせる服で着飾った、ヘイローを持つ少女だった。
「だだだだだ、誰ですか貴方は……!! どどどどど、どうして、ここを……!?」
少女は顔を青ざめ、怯えた様子を見せながらも、ショットガンを精錬された手付きで彼に向けていた。
「お、落ち着いて。ご、ごめん。俺が悪かった、俺が悪かったよ」
「ししし、信用できるわけないじゃないですか……!! こ、この子たちをどうするつもりで……」
「お、俺はたまたまここに入ってきただけで――……この子たち?」
景和は少女の言葉に違和感を覚えて、彼女が背を向けている方向へと視線を寄せた。
そこには金属の棚に並べられている、ふかふかの土に植えられた雑草が幾つもあった。
「……とにかく話を聞いて。俺は君になにかするつもりはないよ」
「……あ、貴方もしかして外の世界の人ですか……? 先生のご知り合いとか……」
「先生?」
少女が徐々に武器を下ろしていくのを見て、警戒を解いてくれたのだと、景和は安心する。
面倒を起こすのは御免だった。
しかし、そんな景和の願いとは裏腹に事件は彼の元へやってくる。
「!?」
部屋の壁を突き破って、何者かが侵入してくる。
その正体は、武装した兵士。装甲の肩部分には、ゴリアテにもあった軍事企業のマークがついていた。
「あわわわ……! なんて事を……!」
兵士の単眼のようなセンサーが景和を見定めて、鈍く光る。
「”漆黒将軍“を確認。確保する」
「……俺のこと?」
兵士の目的が自分だと知り、景和はすかさず臨戦態勢に入る。
「容赦なんてしないぞ」
『SET AVENGE』
『BLACK GENERAL BUJIN SWORD』
彼が黒き装甲を纏う様を見て、少女は冷静に驚いている。
『READY FIGHT』
武刃を引き抜くと同時に、武装兵に斬撃を喰らわせ、建物の外へ一瞬のうちに追いやったタイクーン。
「あの姿……本当に“漆黒将軍”……」
外には大量の武装兵が待ち構えており、本気で自分のことを狙いに来たのだと察したタイクーンに、”手加減“の二文字は存在しなかった。
『BUJIN SWORD STRIKE』
バックルから抽出された全エネルギーを武刃に乗せて、タイクーンは自身の周りに円月を作り出す。
斬撃波によって瞬く間に殲滅させられた武装兵たち。
しかし、そんな彼にさらなる敵がやってくる。
「……っ!?」
どしん、どしんという鈍い音と共に現れたのはさっき倒した筈の巨大兵器 ゴリアテと、大量のオートマタ。
エネルギーを消耗した彼にとっては、少し後ろめたい気持ちになる相手。
しかし、容赦するわけにはいかない。
『BUJIN SWORD VICTORY』
彼の刀に纏われる漆黒のエネルギー。
刃を撫で、その力を増強させると、タイクーンはマントを振るった。
マントから放たれたジャミングが、ロボット達の目を晦ませ、たちまち行動不能にまで追い込んだ。
その一瞬の隙を突いて刀を振るい、集めたエネルギーを一気に放出した。
半月の如く、空気を切り裂きながら突き進んだ漆黒の月はロボット共を殲滅し、ゴリアテに多大な損害を与える。
「まだ立つのか……!!」
タイクーンが再び力を解放しようとした、次の瞬間。
ドガァァァン!! というけたたましい銃声の後に放たれた紅の弾丸がゴリアテに突き刺さり、刹那の後に爆ぜる。
爆発はゴリアテを瞬く間にスクラップに変えてしまった。
疲労と困惑からタイクーンは思わず変身を解除して背後を見る。
「ふふ……貴方が噂の”漆黒将軍“ね」
迫りくるのは一人の少女。コートをマントのように着こなし、不敵に笑いながら悠々と歩み寄ってくる。
その背後には、彼女の部下らしき少女二人が居る。
景和が最後に見たのは、そんな景色だった。
◇
陸八魔アル。
ゲヘナ学園の二年生で、違法な部活“便利屋68”を使って会社ごっこをしている生徒。
風紀委員会からは目をつけられているため、ゲヘナ自治区から遠く離れた地で活動している。
そんな彼女は、常に不敵に笑い、傍若無人なハードボイルドな社長。
お金を貰えばなんでもやる。それが便利屋のポリシーにしてルール。今回も廃墟街を徘徊する企業ロボ達の殲滅を依頼されたため、それを熟してきたまでだったのだが――。
「くふふ。寝てる。いたずらしちゃってもいいかなぁ?」
「やめときな。何されるか分からないよ」
笑うムツキと、彼を警戒し続けるカヨコ。
そして、アルの側でショットガンを抱きかえているハルカ。
全員がこの便利屋の社員――たったの四人。
「で、どうするの社長。今、この”漆黒将軍“をどこかの企業に売ればかなりのお金になると思うけど」
「そんな外道みたいなことする訳ないでしょう!?」
アルはバン、と机を叩きながら立ち上がる。
加えておくが、彼女は普段自身を『生粋のアウトロー』とか自負しているような生徒である。
「……彼には私達の仕事を手伝ってもらうわ。売ってしまえばそれまでだけど、仕事を手伝って貰えば継続した収益が見込める」
「でも、快く受け入れてくれるかどうか分からないよ」
「うぐっ……」
せっかく考えに考えた案を、カヨコにあっさりと否定されたアルは苦汁の声を漏らす。
「アルちゃーん? この人が使ってたのって、私が拾ったこれと同じような物かなぁ?」
ムツキがちらつかせたのは、黄色いバックル型のアイテム。工事現場の巨大な機械を彷彿とさせる。
「それ……確か暴れてた企業のロボットが持ってたやつだよね。この人と何か関係が……」
カヨコが言い終わらぬうちに、アルが宣言する。
「とにかく!! そのアイテムを出汁にして、私達はこの漆黒将軍を手中に収める!! これこそ、究極のアウトローよ!!」
アルの高笑いが部屋中に響く。
カヨコのため息、ムツキのくすりと笑う声、ハルカの苦笑いがそれに続いた。