便利屋68に拾われた景和は、暫くの間、彼女らの仕事を手伝うことになった。
気を失い、匿われていた恩もあるわけで、断ろうにも断れなかったからだ。
この世界で戦うことに、何か意味があるのかは分からないが。
元の世界に戻る方法の検討もつかない以上、こうやって、自分にあった事をするのが一番だろう、と景和は考える。
それに、企業は”タイクーン“を狙っている。
ニュースなどで度々報道されている漆黒将軍――すなわちタイクーンの姿が広まった影響か、そのテクノロジーを求めて企業達が彼を狙っていた。
キヴォトス中で軽い騒ぎになっている。
自分のせいで、本来あり得るはずのない問題が起こっているというのは見過ごせない。
帰れる手段を見つける間、それを鎮圧することを、景和は決意し便利屋の刃となったのだ。
今日も今日とて、依頼を受けてとある企業の重要人物護衛のためにキヴォトスの僻地にあるオフィスを訪れた。
「景和さん。今日の依頼は、この会社の社員を護衛することよ」
「護衛って……その人は何か襲われるようなことでもしたの」
「さぁ。それを知るのは、私達の仕事ではないわ。私達は便利屋――受けた依頼を熟すだけだもの」
目を細めながら囁くように、されどきっぱりと言い放つアル。
「アルちゃんかっこいい!」というムツキの野次が飛んできて、少し不機嫌そうな顔をした。
この四人はふざけた様子ではあるものの、戦いに関しては一級品の腕前を持っている。景和が自分など必要ないのではないか、という疑問さえ持つくらいだ。
「ア、アル様。あちらに見えるのがそうなのでは?」
ハルカの問いかけで、全員の視線がオフィスの入口に向いた。
そこには、アタッシュケースを抱えた機械人間の姿が。
景和は特にそれには触れず、彼を遠くから伺うように歩くアル達の後を追う。
今回は敵に悟られてはいけないし、護衛対象が負傷してもいけない。
丁度いい距離を保つこと。これが依頼成功の肝だ。
暫く警戒しながら歩いていると、護衛対象の右側に聳えるオフィスの窓がパリン、と大きな音を立てて割れた。
するとそこから、三人の武装兵達が飛び出してきて、護衛対象を取り囲む。
彼女らが銃を取り出す前に、彼は裏路地へ連れ去られてしまった。
「くっ……追うわよ!!」
目を血走らせるハルカを先頭に、彼らは武装兵を追跡した。
◇
「ぐっ……うっ!! か、返せ!!」
機械人間が抱えていたアタッシュケースを強奪する武装兵。
中を確認すると、そこに入っていたのは二つのバックル型アイテム。
金色に輝くスロットのような物と、鍵盤のついた物。
それが中に入っていることがわかると、武装兵達はすぐさま撤退準備を始めた。
しかし――。
『SET AVENGE』
どこからともなく聞こえた心胆を凍らせる声に足を止める。
そして、突如現れた漆黒将軍に胸部を切り裂かれてしまった。
その反動で転げ落ちたアタッシュケースを、後から続いたハルカが拾い上げ、中身を落とさないようにカヨコへ投げ渡した。
「き、貴様らは……!」
タイクーンの背には、銃を構える便利屋が。
三人では分が悪いと判断した武装兵は、目標のアタッシュケースを放棄して撤退していった。
機械人間はほっとして、抜けた腰に力を入れてそっと立ち上がった。
「き、君達が護衛だな……助かったよ」
彼に近づいたアルは、不敵な笑みを崩さずにカヨコから受け取ったアタッシュケースを彼に手渡す。
機械人間は悠々と立ち尽くすタイクーンを一瞥するも、いないものだと考えているのか話を続行する。
「これは我が社が見つけた物でね……あの会社に取られるわけにはいかないんだ」
「最後までお守りしますので、ご安心ください」
路地裏を抜けてから、あの兵士たちが彼を襲うことは無かった。
無事に依頼は終わり、依頼人から報酬を受け取った彼女らは、何故か人が変わったように歓喜していた。
「や、やったわ!! 報酬金よ!!」
「こ、これで四人分のご飯、食べられるんですよね」
依頼が終わると、彼女らは毎回こうだった。
玩具を与えられた子供のようだ。
「景和さん! 何か食べたい物はある!?」
「え……そうだな」
アルに尋ねられ、景和は悩む。
――過ぎし日の記憶が頭に蘇ってきて、それを掻き消すように、景和は提案した。
「君たちが食べたいものでいいよ」
◇
夕食を食べに向かった先は、砂漠の地 アビドスにある柴関というラーメン屋台。
そこでは犬の大将と、猫耳少女がせっせと働いており、どこか懐かしさを感じる光景があった。
大盛りにしてもらったラーメンを、幸せそうに食べるアル達。
景和のラーメンはまだ作っている途中のようで、腹を鳴らしながら彼女らが食べる様子を見ていた。
「あいよ、ラーメンお待ち」
「あ、ありがとうございます」
「大将からのサービスで、チャーシュー追加してもらってますから、ごゆっくりどうぞ!」
犬の大将と猫耳少女が元気よくそう言い、景和の目の前にラーメンが置かれる。
割り箸を割って、スープとよく絡めながら麺を啜った。
「君たちって……ご飯食べれてなかったの?」
がっつくように食べる彼女らを前に我慢できなくなり、景和は思わず聞いた。
「えぇ……何せお金が無かったものだから」
アルが消えかかった声で言う。
景和が来てから、仕事は成功続きで、頻繁に依頼が来るようになったという。
何だか、一昔前に戻った気分になれて、景和の心は少しばかり穏やかになった。
「ほんと、景和さんが来てくれて良かった。私達あのままだったら、飢え死んでたかも」
「私はカップ麺生活も好きだったけどなぁ」
「あ……あの生活に戻るなんて私は嫌です……」
他の三人も口々にそう言った。相当過酷な生活をしていたらしい。
「そういえばさ……景和さんの武装って、どうやって手に入れたの。どこの製品?」
「そう! 気になるわ! あんな物見たことないもの」
カヨコの問いに、景和は目を伏せた。
この際、言ってしまおう。
「……どこの物でもない。俺はこの世界の人間じゃないから」
景和がそう言うと、暫く辺りが静まり返った。
何を言われるか構えていたところ、次に飛んできたのは予想外の言葉。
「キヴォトスの外から来た人、って事? 先生と同じなのね」
アル達はすんなり受け入れてくれた。
外から来た人間は、普通警戒すると思うのだが。
「先生……?」
”先生“。それが彼女らを、外からの人間への警戒心を無くしている要因であると考えた。
自分と同じ、
その人に会えば、何か分かるのでは?
景和はそう考えて、すぐにやめた。
キヴォトスは広い。そう簡単に会えるはずはない。
兎にも角にも、今は空腹を満たすことを第一に考えよう。
「熱っ!?」
冷ましもせず麺を啜り、景和はそう叫んだ。
◇
キヴォトスの何処かにある、カイザーコーポレーションの本社。
テーブルの上に並べられた無数のバックル型アイテムたち。
プロペラ、ハンマー、弓。そして一際大きな、バイクのブースターを彷彿とさせる真紅の物まで揃っている。
「そうか……回収には失敗したか」
巨大なロボット――プレジデントは通話を切り、ため息に似た息を漏らした。
「くっくっく……どうです、プレジデント。そちらのアイテムは」
暗闇の中から姿を現したのは、人とは思えぬ、頭が闇で覆われた男。
黒いスーツで身を包み、闇に入る亀裂は笑った顔に見える。
「凄まじいエネルギーを秘めているが……恐らく、あの漆黒将軍専用の武装なのだろう。我々の技術力で完全再現することは
「ほう……というと?」
プレジデントは硝子張りの先に広がる、夜のキヴォトスを見据えながら言った。
「あの将軍を捕えて、あの技術を完全再現する。そうすれば、連邦生徒会が支配するキヴォトスはおしまいだ」