廃墟街と都市部を繫ぐ、閑散とした野原の上で、アリウススクワッドはもう見えなくなってしまった異界の人間の姿を、呆然と立ち尽くしたまま思い浮かべていた。
「牛さん、行っちゃったね」
「あぁ……彼には行くべきところがあるのだろう」
アツコの言葉に、サオリが答える。
「サッちゃんは、これからどうするの」
彼女がそう聞いて、ヒヨリやミサキの視線までサオリに集中した。
まるで何かを望んでいるかのような眼差しで、彼女を見つめた。
「……“願い続ける限り”……か」
◇
「うぉ……ビル高」
今まで訪れてきた街とは全然違う、かなり近未来的な景観の街に、道長は圧倒されつつあった。
歩く人々は皆、頭に輪っかが浮かんでいたり、犬だったり機械人間だったりと、改めて自分が異世界に来たのだということを実感させられる。
「……とは言っても、俺はどこを目指せば」
歩きながら、道長はこれからの事を考え続けていた。
タイクーン――。
元の世界でも自暴自棄になっていたのだから、この世界でもそうなっていたって可笑しくはない。
だとしたら、止めなければいけないのは自分であると道長は確信していた。
でも、彼のもとに辿り着く手段がない。
サオリの話を聞くにキヴォトスという都市はかなりの大きさがある。
闇雲に探すのは、海原から針を探すような難易度。そんな作業を彼が熟すのは、酷以外の何ものでもない。
「うわぁぁぁっ!! なんだこいつはぁぁ!!」
聞き慣れた――といえば不謹慎だが、思わず身体が動いてしまうような声に、道長は突き動かされた。
道の真ん中へ視線を寄せると、大渋滞を起こす車の列の先に、見覚えのある影が見えた。
「あれは確か……!!」
植物のような武装が施された、禍々しい戦士――ジャマトライダー。
少し嫌悪感を覚えるその姿は、彼とっては見慣れた物で、違和感のある物だった。
「色がおかしい……」
奴の色が、何とも形容し難い色に変貌していたのだ。
次々と、人を見境なく襲っている。
「くそっ……お前のせいだからな、ギーツ!!」
道長はバックルを取り出し、変身する。
『SET』
「変身!」
ギャア! と一匹の眠り子が目を覚ました。
『MONSTER』
『READY FIGHT』
モンスターフォームに変貌したバッファは、猪突猛進を体現するが如く、異様な色のジャマトライダーをぶん殴った。
「早く逃げろ!」
「ひぃぃぃっ!」
機械人間は一目散に逃げていく。
「なんでこの世界にまで……」
そう口走り、道長は珍しく答えに辿り着いた。
「俺のせい……」
バックルがあるのも、ジャマトライダーが現れるのも全て、自分やタイクーンがこの世界に来たせいだと言うのなら――。
「なら、俺がぶっ潰してやる!」
『SET』
『MAGNUM』
『REVOLVEON』
バッファの身体が、回転する円により空中に持ち上げられ、上半身と下半身の装甲が入れ替わる。
白き拳銃――マグナムシューター40Xの銃身を伸ばし、ジャマトライダーの頭を思い切りぶん殴った。
「こっちのほうが使いやすい!」
勢いに任せて敵を蹴りつければ、星型のエフェクトと共に、ジャマトライダーが吹っ飛んでいく。
吹っ飛んだジャマトライダーにトドメを刺そうと、一歩前に踏み出したときだった。
ドゴォォォン、という爆音と共に、どこからともなく飛んできた榴弾砲がジャマトライダーを穿つ。
致命傷にはなっていないようだが、目眩ましにはなったらしい。
「何だか知らねぇが、トドメだ!」
『MONSTER』
マグナムシューターへモンスターレイズバックルを装填。ギャア、と音を鳴らし、慣れない手付きで銃を構える。
『MONSTER TACTICAL BLAST』
充電されてゆく蒼き清浄なるエネルギーが球体を作っていき、やがては解き放たれる。
球体は敵を捉えると星型に弾け、凄まじい爆炎を撒き散らした。
炎が晴れる頃、ジャマトライダーは塵となって消えていき、バックル一つ落とすことはなかった。
「……?」
何か違和感を覚えながら変身を解除しようとすると、再び榴弾砲が飛んできてバッファの眼の前を通過する。
「うぉっ!!?? 危ねえなおい!!!!」
本気で焦りながら、飛んできた方角を向く。
そこには予想通り戦車が鎮座しており、操縦席のハッチから、一人の少女が顔を覗かせている。
「あなた……話せるんですか。話せるならそうと先に言ってください」
本をパタン、と閉じた赤髪の少女は、なんとも気怠そうに戦車から降りてきて、バッファに恐れること無く近づいてくる。
顔の良い少女を前に、バッファは少し引き下がりそうになるも、戦車がチラついて動けなかった。
「“漆黒将軍”……ですね」
「いや……違う」
道長がそう即答すると、少女はふかーくため息を吐いてぼそぼそ何かを呟き始める。
「やっぱり違うじゃないですかマコト先輩……どこをどう見ても狸でも将軍でも無いと言ったのに……」
「イロハーっ!! その牛さん連れて帰るのぉっ!?」
戦車からもう一人、やけに小さな少女が手を振って叫んだ。
「……とにかく、その装甲を脱いでください。怖いですので」
脱ぐ、という表現は合ってはいないが、道長は変身を解除した。
少女は少し驚くような仕草を見せるも、すぐに切り替える。
「私達は
「……お前、その”漆黒将軍“って奴のことどれくらい知ってるんだ」
イロハと呼ばれた少女は、気怠そうでありながら、何処か根強い芯の見える瞳で彼を見上げる。
「やはり……あの類の存在で間違いないのですね。キヴォトスの外からやってきた、謎の装甲を纏う人間」
どうやら、キヴォトス中で話題になっているらしい。目立つ彼も大概だが、キヴォトスの情報網も恐ろしい。
「とにかく乗ってください。一度あなたを、万魔殿に案内しろと言うので……」
はぁ、と余計なため息を付け加え、イロハは背を向けた。
信用して良いのか……。
いや、たとえそうでなくとも、今の道長にはついていく以外の選択肢は無かった。
◇
人生で初めて乗る戦車に揺られて、道長は広大な土地を有するゲヘナ学園に招かれた。
尻尾や角を持った、文字通り悪魔のような生徒たちが沢山見える。キヴォトスという所は、やはり異質だった。
「ねぇねぇ牛さん! さっきの変身ってやつ、もっかいやって!」
「牛って呼ぶな! 危ないからここでは駄目だ」
「えぇ〜」
イブキに絡まれる道長。イロハの冷ややかな視線が、少し怖かった。
「こっちです、ミチナガさん。」
イロハに案内され、ゲヘナ学園の一画にある、万魔殿の本部に向かった。
宮殿のような景観。歩く度になるコツコツという乾いた音が、変に緊張感を煽ってくる。
神――は言い過ぎだが、貴族にでもなった気分だった。
「漆黒将軍は今、このゲヘナ学園からは遠く離れた、アビドス高等学校の自治区辺りで目撃されています」
「ネットニュースね! 黒い狸さんの写真ばかりなんだよ!」
イロハとイブキから、タイクーンの情報を多数仕入れることができた。
目撃されたというだけであり、本当は既に違う所に居るかもしれないし、自分たちがこうしている間にも移動しているかもしれない。
「貴様が漆黒将軍モドキだな!!」
随分と高圧的な声が聞こえてきて、道長は身構えた。
ズカズカと歩きながらやってきたのは、一人の少女。キキリと尖った三白眼に、大きな角が特徴的な白髪の少女だった。
「うわ……マコト先輩が出てきた」
「マコト先輩〜! この人、牛さんだよ〜!」
マコトと呼ばれた少女は、道長を見るや否や悪そうな笑みを浮かべる。
「瞬間的に装甲を形成するシステム……それを我々万魔殿の矛とすれば、今度こそ風紀委員会に――いや、キヴォトス全土に万魔殿の恐ろしさを伝えられる!!」
高笑いするマコト。
道長はそれをじっと見て
(アホそうだな)
と思っていた。
「キキキ……私の前に怖気づいているのか……それもまた良いだろう」
「……この人は羽沼マコト。万魔殿の議長です」
イロハは冷めた声で彼女の紹介をする。
「何でお前たちは俺を呼んだ? ……ただ道具に使われるだけなら、帰らせてもらうぞ」
「待ってください。マコト先輩の話を真に受けないでくださいよ」
「そうだ! 話は聞け!」
「どの口が言ってるんですか」
二人の制止を受け、道長は帰ろうとしていた足を止める。
「牛さん、私ね。あの狸さんを助けてあげたいの」
静かになったところで、イブキが真面目な声音でそう語りかけてくる。
「……どうしてだ」
「だって、だってね。狸さんって、どんな絵本でも悪者扱いされて……きっとあの狸さんも、いろんな人達から悪者扱いされてると思うの」
「……悪者か」
彼には似合わない言葉だった。
――以前の彼には。
今の彼は、他人を蹴落とし、自分の幸せを叶えようとするような人間に成り下がってしまった。
“彼”に突き動かされ、色々な事を学んできた道長からしたら、タイクーンの行動は見過ごせないし、野放しにしておくわけにはいかなった。
「そうだな……きっとそうだ」
「そんなの可哀想! だから、助けてあげたい!」
――この少女は何者なんだろう。
ニュースで得た情報だけで、彼の心境を見極めている。
タイクーンは今、自暴自棄になっているだけだ。それで悪人に染まっているだけで、きっと、心の奥底には優しい彼が眠っている。
それを救い出してやらなければならないのは――自分だ。
道長は固い決意を、その場で結んだ。
「……イブキがこう言うので、我々万魔殿は、”漆黒将軍“の救援へ向かうことにしたのですが……あなたはどうしますか」
イロハの問いに、道長は即答した。
「当たり前だ。ついて行く」