二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(09)試行_四月馬鹿って……

 

 

 したがって、われわれの結論を言うと、エネルギーや人脈によって本をベストセラーにしたり製品をヒットさせたりできるほどの影響力の強い人物は、十中八九タイミングと状況の偶然によって生まれる。*1

 


 

 VTuberを推す楽しみのひとつは、「推しを育てる」ことだ。

 VTuberは推しやすく、成長がわかりやすい。リアルでのイベントが少なく、活動拠点も限られている。そして、VTuberの成長は登録者数や再生回数などの数字にしっかり現れる。

 本人たちは気がついていないかもしれないが、ファンの打つコメントは確かに推しを育てている。視聴者のコメントによって初めてわかる自分の強みはあるし、「清楚」だというコメントが多数あれば活動方針も自然と変わってくる。

 それに、特定の発言の際にチャット欄が加速すれば、「こうした発言が受けがいい」と学ぶこともできる。

 センスは配信を通じて磨かれてゆくのだ。

 

 反対に、VTuberが苦労するのも「ファンを育てる」ことである。

 ファンは推しの反応によって、自分のコメントがどんな意味を持つのかを学習する。配信に慣れたVTuberは、配信のコンセプトに沿ったコメント()()を拾う。面白さを強みにするVTuberは「可愛い」というコメントは拾わないし、逆にアイドル売りをするVTuberは「可愛い」というコメントを積極的に拾っていく。実際に面白い必要はないし、実際に可愛い必要もない。配信者の属性は実際の能力を超えて増幅される。

 チャット欄には配信者が拾うタイプのコメントが増え、拾わないタイプのコメントは減っていく。拾われるコメントのタイプ、推しのリアクション、他のファンのノリ――ファンたちは自分の「推し方」を洗練させていくのだ。

 

 こうして独自の文化が芽吹き、「このVTuberでしか味わえないノリ」が生まれる。

 

 ファンが集まるから面白くなり、面白いからファンが集まる。

 この好循環を作りだすのに、事務所への所属は非常に理に適っている。最初に視聴者を集め、彼らをファンに変換していくのだ。

 

「だから、まずは視聴者を集めないとね」

「地道に配信を続けたり、Twitterを続けたりじゃ駄目なんですか?」

「駄目ではないけど、時間がかかる。バズは、狙って起こせるものじゃないから」

 

 クリスマスの配信のときに倉瀬が言っていた通り、炎上するにも登録者の数が必要だ。

 炎上芸という言葉もあるが、狙って炎上できるのはまさに芸であり、そもそもの知名度がなければ元々のファンを失望させるだけの結果に終わる可能性が高い。

 狙ってバズを起こせるのは1回バズを起こせた人間だけで、最初にバズるには運が必要だ。2009年の古いデータだが、7,400()件のツイートのうち、1,000リツイートを獲得したのは数十本、1万リツイートを獲得したのは1~2本という研究結果もある。いまのTwitterはユーザー数の増加やアルゴリズムの改善もあり、当時よりはバズりやすくなっているはずだが、それでもツイートの99パーセント以上はバズらないと考えてよいだろう。

 

「絶望的に聞こえるんですけど」

「そんなことはないよ。確実にバズる方法はある」

「そんな魔法みたいな方法が……?」

「雨乞いを成功させる方法は知ってる?」

「……オチが見えてきました」

 

 倉瀬が目に見えて落胆する。

 

 問:絶対に雨乞いを成功させるにはどうしたらいいか。

 答:雨が降るまで雨乞いを続ける。

 

 自己啓発本では擦られすぎているエピソードなので、倉瀬も知っていたのだろう。

 

 似たような文脈でTwitterでよく使われる画像に、ダイヤモンドの直前で引き返す人の絵もある。

 地下をツルハシで掘り進めていた男性が、もう少し掘ればダイヤモンドに行き着くのに、諦めてしまってトボトボと引き返す絵だ。わたしなどは、この画像を喜んで引用する人は、ギャンブルで大損しそうだとしか思わないが。

 

「倉瀬の想像通り。バズるまで続ければ、確実にバズる」

「やっぱり地道に続けるしか……」

「ううん、純粋に、試行回数の問題だよ。地道にやっていたら間に合わない。1,000再生の動画を出せば、1再生の動画を出し続けるより、1,000倍バズりやすくなる。1万再生の動画をだせば、1万倍早くなる」

「それって、もうバズってません?」

「いや、バズらないでも1万再生の動画を作ることはできるよ」

「え?」

「YouTubeの動画で収益化ができる理由はなんだっけ」

「ああ……広告ですね」

 

 その通り。

 広告は嫌われものだが、知ってもらわないことには始まらない。

 以前の個人勢の知り合いに教わったことだが、広告をだせば、動画の質にもよるが、だいたい2円で1視聴を得られる。3万円で1万再生を見込めるので、どの程度の視聴数が見込めるか予想もしやすい。

 広告で自信のある動画に誘導して、チャンネル登録まで繋ぎたい。

 

「いくつかの動画に広告をつけたい」

 

 順番に動画を見せる。

 1つめは古城葵の、2つめは古城葵と夕立夕日の掛け合いの切り抜き動画。

 最後のものは、「夕立夕日」のモデルの完成と同時に発注した「歌ってみた」動画のデモ版だ。

 

「え、いや……先輩、歌上手くないですか? 異常に」

「MIXしてもらったからね」

「MIXでどうにかなるレベルですか? これ」

 

 評価はありがたいが、あくまでもVTuberとしては上手い程度だ。

 ライブで歌ったこともあるし、歌には多少は自信があるが、プロほどの実力はない。

 

「音源もらってもいいですか?」

「いいけど、なにに使うの?」

「着信音にします」

「やっぱりやめた」

「さっきいいって言いましたよ」

「いまやめたって言った」

 

 水掛け論になり、着信音にはしないという約束で音源を送る。

 投稿者はYouTubeからダウンロードできるので、やろうと思えば、わたしが送らずとも手に入るのだが。

 

「それで広告ですけど、料金は割り勘でいいですか?」

「わたしの動画だし、自分で払うよ」

「え、いや、ふたりのチャンネルですから。私もだします」

「気持ちは嬉しいけど、今回はわたしに投資させてくれない? 古城葵のチャンネルにタダ乗りさせてもらったから、恩返しもしたいし。今後チャンネルが軌道に乗ったら、倉瀬にも負担をお願いしていいかな」

 

 こう言ってはいるものの、今年の夏ごろから、広告主の本名が表示されるようになる。倉瀬が負担を被るような事態はないはずだ。

 もちろん、代理店を経由すれば本名を明かさずに広告をだせるが、いくらお金があるとは言っても無駄なお金は払いたくない。それまでにチャンネルが自然に伸びるような経路を作るべきだ。

 

「そういうことなら、正直、助かりますけど」

「お金はあるから安心して」

「あるほうが怖いですよ。なんであるんですか」

 

 都合の悪い疑問は無視して、わたしは広告用のアカウントを操作した。

 

「え、怖いです。危ないお金じゃないですよね?」

 

 

   ◇

 

 


四月馬鹿って直訳すぎない?

519 回視聴 2023/04/01に公開済み

 

ソフトドリンクを軟水って訳すくらい無理がある

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

◎切り抜き可

 

◎関連切り抜き

・後輩の犬になる古城葵

・後輩の犬になる古城葵

 

「今日はエイプリルフールですね。最近、エイプリルフールに嘘をつくのは感度の低い企業だけ、みたいな風潮になってませんか?」

「そんなねじくれた見方をしてるのは意地悪なオタクだけだよ」

「そうですよ。あおカスは気をつけましょうね」

 

:は?

:は?

:h

 

「ちょっと、hだけですませないでください」

「そうだよ。ちゃんと責任を取ってね」

「私があおカスに捨てられた、みたいな構図にしてます? hだけですませるって、そういう意味じゃないですから。今日はですね、エイプリル・フールということで、私と先輩の立場を入れ替えて配信します」

「わたしが後輩になるってことですか?」

「うん。私は先輩をやるから、先輩は自分に好意を抱いている先輩のことを小馬鹿にしていて、時々ため口が出ちゃう後輩やってね」

「配信をイメクラだと思ってる?」

 

:先輩を負けヒロインにするな

:今日が命日でもいいや

:〝癖〟が出すぎている

 

「あっ……夕日ちゃん、休みの日ってなにしてるの?」

「……んー、ゲームですね」

「ゲーム? なんのゲーム?」

「にゃんこ大戦争です」

「あー……にゃんこ、猫がね、暴れるやつね」

「あはは、言い方ー。確かにそうですけど。先輩、面白いですね」

「猫好きなの? 猫派?」

「んー、夕日はどっちも好きですけど、強いていうならワンちゃんかなー」

「犬かー。どんな犬が好き?」

「ちっちゃいワンちゃんが好きなんですよ。柴犬とか可愛くないですか?」

「可愛いよね。でも、ゆ、ゆう」

「えー、名前忘れちゃいました? 夕日ですよ。ゆ、う、ひ。名前だけでも覚えて帰ってください」

「漫才じゃないんだから」

 

:先輩、ちょっと後輩がうますぎるな

:古城が俺たちすぎてちょっとキツい

:食いつかれないように、相手が知ってはいるけどやっていなそうなゲームを選んでる 知らなすぎると逆に話題になるから

:にゃんこ大戦争「とか」っていうと話を広げられるから、選択肢を絞ってる

:犬猫デッキに持ち込まれた時点でデートの誘いは無理

:口説かれると見るやすぐに話題を逸らした

:有識者が集まっていて怖い

:この子、この配信終わったらいなくなっちゃうの?俺許せない

 

「先輩も犬派です?」

「え、あー……うん、犬派。私も柴犬とかめっちゃ好き」

「確かに先輩ってワンちゃんみたいですもんね」

「えっ」

「ワンって鳴いてみてくださいよ」

「わ、わん……?」

「あはは、ほんとに言った」

 

:こ、このっ!

:先輩のメスガキ助かる

:マジでイメクラじゃん

:ありがとう、古城

 

「夕日ちゃんもやってみてよ」

「え? 嫌ですよ。だって夕日は、ワンちゃんじゃないですし」

「わ、私も違うけど!」

「えー? でも嬉しそうでしたよ。嫌なのに嬉しいって、先輩ちょっとマゾですね?」

「ん゙っ……」

「後輩に犬の鳴き真似しろって言われて、興奮しちゃったんですか? なさけなーい」

「興奮なんて、してないけど」

「そうなんだ? じゃあ、ご褒美は取りやめですね」

「ご褒美……?」

「はい。夕日のペットになったら可愛がってあげようって思ったけど、先輩はペット扱い嫌なみたいだし。あーあ、残念」

 

:限界化してるせいで古城のトーク力が落ちている

:よくまあ先輩もこんな口回るな メスガキ経験者としか思えん

:今日はこれで寝ます だから古城、黙ってくれ

 

「ご褒美ってなに……?」

「え、気になるんですか? でも、つよつよな先輩には関係ないでしょ?」

「……き、聞かせて」

「あははっ、夕日のペットになりたくなっちゃったんですか? ざーこ、ばーか、なさけなーい。だめだめのよわよわー」

「うう……ペットにしてください」

「うーん……ペットは人語を話しませんよね」

「わ、わん……」

「ペットって羞恥心ありましたっけ?」

「わん! わんわんわん!」

「ふふっ、バカみたいで可愛いですよ。ご褒美はなにがいいかなー。夕日に頭をなでなでしてもらえる権利とかあげようかな」

 

:あかん…効く

:俺にもくれ

:配信でプレイをするな

 

「わうわう」

「もどっていいですよ、いつまでも犬じゃ可哀想だし」

「わう?」

「……ほら先輩、もどれー」

「くぅ〜ん」

「やばい、バグった」

「ゔー!」

「獣の威嚇。なにに怒ってるんですか?」

「ばうばう!」

「こら、コメントを噛まない」

 

:コメントに噛みつくの、いつもの古城じゃん

:古城、頼むからあの先輩を返してくれ

:もっと先輩のメスガキを聞かせろ

 

「ちょっと、このまま配信続けるつもりですか?」

「わう」

「50分?」

「わんわん」

「放送事故だよ」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「それじゃあ先輩たち、また明日ね」

「わん!」

*1
ダンカン・ワッツ(2014)『偶然の科学』青木創=訳, 早川書房, Kindle 版, 位置No.1530. 作中の「7,400万件のうち~」から始まる文は, 本書の記述にもとづく.

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