二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(11)植物園_攻めと受けの……

 

 

(…)郊外へ一歩踏みださなければ、目にも耳にも触れて来ない自然の風物が、手近な小石川の植物園に見ることが出来るのである。自分は、東京の一市民として、それを幸福に思う。*1

 


 

 土曜日は今週の振り返りや、来週の予定の共有のため、早く集まることになっている。それらをすませると雑談になるのだが、今日は倉瀬がいつもより早く来たので、時間を持て余していた。

 わたしは立ち上がって、棚のうえのサボテンに霧吹きで水をやった。サボテンの棘の先端に水滴がついているのを見て満足する。

 

「そのサボテンって本物なんですか?」

「本物だよ。触ってみる?」

「え、痛くないんですか?」

「痛いよ」

「じゃあやめておきます」

 

 痛いのがいいんじゃないかと思ったが、引かれているようなのでやめておいた。痛いと、サボテンが生きている感じがする。ふつうの植物とは違い、コミュニケーションが成立しているような気がするのだ。

 もちろん、血がでるほど深く触りはしないが。

 

「そういえば、気になってたんですけど」

「なに?」

「ここ、植物園が近いんですよね」

「うん、すぐそこだよ」

 

 歩いて10分もかからないので、わたしも年パスを持っている。元を取ってから、すぐに行かなくなってしまったが。

 

「近くに植物園があるの、いいですね」

「岡山なら、周り全部、植物園みたいなものじゃない?」

「どうでしょう。植物園、行ったことないので」

「そうなんだ」

「……よかったら、一緒に散歩しませんか?」

「じゃあ、行こうか。なにか見たいのがあるの?」

「いえ、特別に見たいのがあるわけじゃないですけど……」

 

 そういうわけで、植物園に行くことになった。

 アパートから消防署の方へ向かうと、すぐに植物園の外周に突き当たる。

 

「植物園ってどういう感じなんですか?」

「ふつうに、自然公園みたいな感じかな」

 

 そんなことを話していると、正門の前につく。券売機に500円を入れて、チケットを購入する。倉瀬が財布の小銭を(さぐ)っていたので、チケットを渡して制止した。

 

「わたし年パスあるから」

「え、じゃあ払います」

「あとで何か奢って」

「絶対ですよ」

 

 入園すると、左手に大きな蘇鉄があり、由緒が書かれている。

 蘇鉄は明治時代後半ごろまでは精子がないものだと考えられていたが、この蘇鉄から発見されたという。見た目は別段、ふつうの蘇鉄と変わらないので、立ち止まることはない。倉瀬も「蘇鉄ってパイナップルみたいですよね」と言っただけで、あまり感動した様子を見せなかった。むしろ、通路を這うトカゲに注意を払っている。

 

「東京で初めて見たかもです、トカゲ」

「家と大学を行き来するだけなら、土は踏まないしね」

「そうですね。最近は自転車移動なので、ゆっくり歩くこともないですし」

 

 自転車はしばらく乗っていないな、と思う。もう乗れなくなっているかもしれない。

 曲がりくねった坂道を登ると、引率された幼稚園児たちがかごめかごめをして遊んでいた。

 

 ソメイヨシノの林を右に折れ、温室に向かう。

 メンデルの実験場にあったブドウと、ニュートンの生家にあったりんごが分譲・接ぎ木され、横並びになっている。ブドウもりんごも、果実はなっていない。

 わたしは見飽きていたが、倉瀬はまじまじと観察していた。

 

「この木を見て万有引力を思いついたんですね……」

 

 わたしは接ぎ木を見ても感動しないので、倉瀬が感動しているのを見て不思議に思う。

 日本中のソメイヨシノは、ひとつの原木から派生したクローンのようなものだが、同じ木とは思わない。

 もちろん、そんなことを直接口にしない程度のデリカシーは、わたしにもある。

 

「意外と低いですね」

「この距離だとあっという間に落ちそうだよね」

「私なら、もうちょっと高くないと、万有引力は思いつけないです」

「どういう理屈?」

 

 冷温室に入ると、倉瀬が不思議そうな顔で「暑いです」と言った。

 

「今日は涼しいからね。もっと暑くなったら、涼しく感じると思うよ」

「北極の植物とかがあるのかと思ってました」

 

 北極に植物はあるのだろうか。

 温室はいくつかあり、一番奥にサボテンがある。ヒトデのように肢を広げたサボテンを、倉瀬は気味悪そうに眺めていた。わたしは可愛いと思うのだが。

 

「先輩って、どうしてサボテン好きなんですか?」

「あんまり手がかからないから」

「じゃあ、手間を考えなければなにが好きですか?」

「……サボテンかな。なんだかんだで、愛着が湧いてきているし」

「つき合ってるうちに好きになってくるタイプですね」

 

 そうかもしれない。

 つき合っているうちに嫌いになる、というケースはあまり経験がなかった。そういう人とは早めに距離を置いてきたせいかもしれない。

 暑いので足早に出、両脇に躑躅(つつじ)(うわ)っている道を歩いていく。前を幼稚園児の集団が歩いていた。ちょうど昼時なので、シートを敷けるエリアへ向かっているようだ。

 

「……あっ、熊蜂ですよ。先輩、下がって」

「後ろにもいるよ」

「うわ、ほんとだ。先輩、土に潜って」

「どうやって」

「その手はなんのためにあるんですか」

「土に潜るためではない」

 

 襲ってくるわけではないので、過度に恐れる必要もない。倉瀬も本気で恐れているわけではないので、ふつうに進んでいた。倉瀬は虫につよい。さすが山育ちなだけある。

 賑やかに花が咲くエリアを抜けると、広葉樹のエリアに入る。急に人気が減り、ちょっとした森にいるようだ。

 

「ちょっと休みます?」

 

 少し進むと、わたしが息切れしているのに気がついた倉瀬が、近くのベンチを指さす。素直に厚意に甘えて、ベンチに腰をかけた。

 向こうで、幼稚園くらいの子どもたちが木の棒を持ってはしゃいでいる。

 

「やっぱり子どもって木の棒とか好きですよね」

「チケットには『動植物の採取および傷つける行為』は禁止ってあるけどね」

「じゃあ、あれは違法……?」

「やらないほうがいいことではある」

 

 そんなことを話していると、男の子が転び、大泣きした。倉瀬がすぐに立ち上がり、次いでわたしも立ち上がった。

 

「わたしは水を買ってくるね」

 

 子どもの相手は倉瀬のほうが得意そうだ。

 自動販売機で水を購入して、戻ると、子どもはすでに泣き止んでいた。

 

「お願いします。ねえ、保護者の人か、先生を呼んで来られる?」

「見つけたら、23番の(くすのき)の近くにいるって教えてあげてね」

 

 周りの子どもたちに頼むと、彼らは頷いてすぐに散り散りになった。

 

「ちょっと痛むかもしれないけど、洗うね」

「大丈夫だよ。いま洗っておけば、治りが早くなるからね。ほら、お姉さんが背中をさすっててあげる」

 

 わたしがペットボトルの水で膝の擦り傷を洗浄すると、男の子は顔をしかめたが、泣くことはなかった。

 ちょうど処置を終えたあたりで、べつの男の子が先生を連れて戻ってきた。

 

「連くん大丈夫? 絆創膏あるからね」

 

 彼女は絆創膏を貼りながら、わたしたちに「ありがとうございました」とお礼を言った。

 

「じゃあ、連くん。またね」

 

 倉瀬が言って離れようとすると、連くんと呼ばれた男の子が、木の棒を差し出してきた。

 

「……なに? これ、くれるの?」

「うん。ねーちゃんありがとう!」

「でも、連くんの大事なものじゃないの?」

「大事だけど、ねーちゃんにやる!」

「……そっか。ありがとね」

 

 倉瀬は断ろうとして先生を見たが、ニコニコとするばかりで、止めようとはしない。結局、倉瀬は木の棒をリュックに入れることになった。

 

「どうしましょう、加担してしまいました……」

「その辺りに置いておけば?」

「連くんが見つけたらショックを受けませんか……?」

「木の棒はたくさんあるし、厳密に言えばルール違反だしね」

「それもそうですね」

 

 倉瀬は人影がないか、何度も辺りを確認した。挙動不審で、かえって不審者のようだった。

 倉瀬は木の棒をそっと地面に置いた。歩みを進めていたわたしのほうへ、小走りで近づいてくる。

 

 

   ◇

 

 


【あおセン?】攻めと受けの見分け方【センあお?】

1,822 回視聴 2023/04/08に公開済み

 

このおぞましいタイトルは葵が考えました。

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

◎関連切り抜き

・先輩をデスゲームに誘う女

・先輩をデスゲームに誘う女

 

「二人でデスゲームに巻き込まれたとき、どっちが相手を殺すかでカップリングの攻め受けって決まるじゃないですか」

「知らない前提から話が始まった」

「攻めが涙ながらに殺しますよね」

「受けが殺すパターンもよくない?」

「いい……」

「じゃあ今日の配信は終わりってことで」

 

:おつゆう~

:おつあお~

:おつこじょ~

 

「最後のあいさつは知らない子ですね。じゃなくて! 今日は、攻めと受けを見分ける方法をマシュマロで募集しました。これで攻めか受けかで迷わなくなりますよ」

「公益性の高い配信になるわけだね」

「そういうことです。じゃあ、さっそく最初のマシュマロ。ででん」

 

 

 

受け攻めと書くのがネコ

攻め受けと書くのがタチ

 

 

「おおっ、ちょっと納得できる解釈ですね」

「その解釈だと、葵は攻めだね」

「確かに、攻めと受けって書いてますからね。カップリングの左右で表記しただけですけど」

「じゃあ納得はできないじゃん」

「じゃあ納得はできないです」

 

 

 

優等生はタチ、ギャルはネコ

 

 

「ただの願望ですよね。逆もありです」

「優等生のギャルはどうなるのかな」

「ギャルの性質が受け継がれます」

「ギャルって顕性遺伝なんだ」

 

 

 

うっかり彼氏を◯してしまうのが攻め

隠蔽工作を提案する友人が受け

 

 

「これは逆です。インターネット没収」

「逆カプを提案しただけなのに」

「桐山橙里とマネージャーだったら、どっちが殺すと思います?」

「橙里ちゃんは人を殺さない」

「あっ、はい」

 

 

 

先輩が受けで後輩が攻め

 

 

「この話やめない?」

「絶対にカップリングを認めない先輩の話」

「Twitter漫画にするな。結局、それも受けだろ」

「じゃあ、攻めってことですか?」

「受けでも攻めでもないよ」

「リバですか?」

「そもそもカップリングじゃない」

 

:古城が攻めは解釈一致

:全然手を出してこない古城にしびれを切らせて襲ってほしい

:普通に古城が攻め 先輩は無表情で夜空を眺めている

 

「なんで外でしてるんだよ」

「無表情で夜空を眺めている、って尖った音楽のタイトルみたいですね」

「『10時間くらい天井を見ている』?」

 

 

 

海派×山派

 

 

「どっちも攻めって感じがするな。アウトドアだし。部屋派の総受けじゃない?」

「ちなみに、先輩は山派ですか? カワイですか?」

「ピアノの話だったんだ」

「私は海派です」

「第三勢力」

 

 

 

きのこ派は受け、たけのこ派はカス

 

 

「ただのヘイトだった」

「あおリスたちは、当然たけのこ派ですよね?」

 

:は?

:は?

:は?

:待て…これはきのこ派による巧妙なプロパガンダだ!

 

 

 

握り飯のことを「おにぎり」というのが攻め、

「おむすび」というのが受け

 

 

「大抵の人はおにぎりって言いませんか?」

「むしろおむすびって言う人のほうが、己を貫いている気がする」

「というわけで、インターネット没収です」

「贄にしたり没収したり、リスナーを減らそうとするのはなんなんだ」

「私と先輩、二人だけの世界に浸りたいので……」

「配信の意義が消えちゃった」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「明日は、先輩がおまみえします」

「意味はわからないけど、下ネタという信頼がある」

*1
山田肇(1927)「小石川植物園礼讃」『植物園往来』本間笑楽堂, 2.

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