二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(13)妹②_えっ 今日は……

「倉瀬さんって、お姉ちゃんのこと好きなの?」

「……え゛。ど、どうしてそう思ったのかな?」

 

 タメ口はやめなさいと言ったのだけど、倉瀬が寛大なので、結乃は相変わらずの口調だ。

 倉瀬が気にしていないならいいのだが、このまま大人になったら、どうするつもりなのだろうか。もう高校生なのだから、そろそろ、敬語くらい覚えてもよい頃だ。

 前もこんなに遅かっただろうかと考えて、すぐにその思考を追いだした。

 

「えー? だって……」

「結乃、今日は晩ごはんはどうするの?」

 

 わたしは落ち着かない様子の倉瀬に、助け舟を出した。

 

「うーん……どうしようかな」

 

 結乃が、倉瀬をちらりと見る。

 

「あ、どこかお外で食べますか? 結乃ちゃん、私、奢っちゃうよ」

「じゃあお寿司がいい。回らないやつ」

「え」

「インスタで見たやつ。ほら、この炙りえんがわ美味しそう」

 

 初対面の人に高級寿司を奢らせるほど、結乃も厚かましくはない。

 無茶なことを言って、追い出される口実を探しているのだろうと想像がついた。結乃はちらちらとわたしを見ている。

 わたしは面白いので放置しておくことにした。

 

「……ワァ……い、いいね、美味しそう……」

 

 倉瀬はちいかわのような歓声をあげたあと、値段を見たのか、魂が抜けかかった声で応じた。

 だが、すぐに気を取り直して、

 

「……いいよ。行こう、このお寿司」

「えっ」

 

 目が据わっている。今度は結乃が動揺する番だった。

 

「いや、でも……あっ、予約とか取れないかもだし……」

「あと2席だって」

「うう……お姉ちゃんは? 今日はなに食べたい?」

「今日はサイゼリヤの口かな」

「私も! えんがわ見てたら、チーズインハンバーガー食べたくなってきたし!」

「どういうマジカルバナナ?」

「認知をシャッフルしようとしてる?」

「チーズインハンバーガーはチーズバーガーじゃない?」

「チーズインハンバーグならガストだし」

 

 倉瀬とわたしが2度ずつツッコミを入れると、結乃が頬を膨らませる。3周目に突入したら「パブロフの駄犬?」と言おうかと思っていたが、その機会は訪れなかった。

 

「そんなに言わなくてもいいじゃん」

「ごめんね、つい癖で」

「つい癖で?」

「さすが先輩の妹……」

 

 結乃が問い返すと、倉瀬はなにやら感心していた。

 

「それにしても、部屋、きれいになったね。倉瀬さんが来るから?」

 

 倉瀬が来るからといえば、そうなのだが。

 わたしが答える前に、結乃が窓枠に指を這わせて、昔のドラマの小姑のように指についた埃を眺めた。

 

「でもここは掃除が甘いね」

「うう、先輩……すみません。掃除が甘かったです……」

「いや、え? ごめんなさい、私もそういうつもりじゃなくて……倉瀬さんに言ってるわけじゃないから。……お姉ちゃん? 倉瀬さんに掃除させてるの?」

「私が勝手にやったから……」

「じゃなくて! そもそも掃除してたら、倉瀬さんだって掃除する必要がないわけだし」

「そうだね。ごめんね、倉瀬」

「お姉ちゃんがごめんなさい」

 

 結乃は自分の責任を完全にわたしになすりつけた。だが真理をついてもいたので、姉妹揃って、倉瀬に頭を下げる。

 

「いえ、全然。掃除、好きですし」

「お姉ちゃんに見習わせたい趣味だ。聞いてくださいよ。お姉ちゃん、掃除もしないし、料理もしないし、定職にもつかずにブラブラして……」

「う」

「倉瀬さん?」

「私もフリーター……」

 

 倉瀬の場合は、上司が嫌になって仕事を辞めただけなので、わたしと違って定職についたことがないわけではない。

 

「結乃? まだ墓穴を掘り足りない?」

「うう……ごめんなさい」

「結乃がごめんね」

「ごめんなさい」

 

 わたしと結乃は、再び揃って倉瀬に頭を下げた。

 

 

   ◇

 

 


【ASMR】えっ 今日は全員ASMR聞いていいのか!!

 

3,015 回視聴 2023/04/15に公開済み

 

ああ…しっかり聞け

 

・台本(ゆるボイ!)

 あなたを飼っているペットショップのお姉さん

 https://x.com/yuru_voi

 https://yuruboi.com/script/11570

 

・台本制作者

 古城 葵

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

「ふ~っ……」

 

:!?

:念のためスピーカーで聞いてるんだけど、今日はマジのASMR?

:タイトルと概要が不穏すぎる

 

「今日はね、ASMRの機材を買ったから」

「お互いに、相手に読ませたい台本を書いてきました。まずは私ですね」

「うん。葵の台本はこれね」

「え。……ちょっと、これ本当に読まなきゃだめですか?」

「そういう約束でしょ」

 

:急に左右から話しかけられてびっくりした

:ASMR初見だけど、ぞわぞわするな、これ

:古城のささやき声落ちつくな

 

「リスナーのみんな。いつも応援してくれてありがとうね。大好き、だよ……」

 

:可愛い

:破壊力ある

:こんなの古城じゃない

:古城はね デレなんてしないし 言葉を喋らないし やること全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの

 

「言葉は喋ってますよね?」

「お似合いだったよ」

「く……まあいいです。これが先輩の台本です」

「ねえ、ちょっと待って。わたし、1~2行って聞いてたんだけど」

「はい。1~2行でお願いしますって言いましたけど、お手柔らかにって意味で、行数にとくに制限はありません」

「ずるくない? これ何行ある?」

「130行くらいです」

「130行?」

 

:さすが古城、俺たちの期待を裏切らない

:それだけでASMRできるだろ

:まじで?先輩のASMR聞けるの?

 

「――あ、ちょっと、動かないの。大丈夫、お客さんだよ。

 いらっしゃいませ。っと。すみません、いま、この子のお世話をしていて。

 ――ほら、お預け。待て。待てだよ。

 え、このままでいいんですか?

 でも……

 すみません。では、お言葉に甘えさせていただきます。

 どうぞ、お店の中を見て回ってくださいね。

 この子、かなり変わった子で……耳かきされると、喜ぶんです。

 いやがる子も多いんですけど、この子は耳かきが大好きで。ほら、眠そうでしょう? こうしてお昼寝するのが大好きなんですよ。お昼寝が好きなのは、この子だけじゃないですけどね。あっちも、お昼寝中の子たちです。この時間帯は、みんなまどろんでることが多くて。陽がちょうどよく入るんですよ、この窓際。あたたかくて」

 

:最高だけど何このシチュ

:本格的だ

:古城、疲れてるのか?

:新しい扉、開いちゃった

:こっちに意識向いてない感じ、いい…

 

「わぅ〜ん」

 

:ピザにパイナップル乗せるタイプ?

:そこをどけ

:頼むから、もう犬はやめてくれ

:いくら払えば黙ってくれる?

:二度と邪魔するな

 

「こうして耳かきしてると、うとうとしてきて。普段は耳をパタパタさせて危ないんですが、こうしてとろんとしてるときは動かなくて。でも、よく見るとしっぽがふるえているでしょう?

 ――眠いねぇ。

 たぶん、触られると幸せホルモンが出るんでしょうね。言葉はわからなくても、ほら、目を細めて気持ちよさそうにしています。

 ――かりかり、かりかり……」

「わうっ! わうわうっ! わふっ! くぅ〜ん!」

 

:とろんとしてろ

:プライドとかないのか?

:犬はやめろって言っただろ

:古城、俺恥ずかしいよ

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ありがとうございました。今日はぐっすり寝られそうです。……さて、つぎは私の番ですね。仕方ないけど、あおリスのために読み上げてやりますか。

 ……『ふふっ、おはよう。寝顔、可愛かったよ。写真撮っちゃった。消してほしかったら、今日はデートしようね』。

 なんですか、このセリフは」

「こっちのセリフだけど?」

「あ、いまのセリフ読んでくれるってことですか?」

「そういう意味ではない」

「はい、つぎは先輩ですね。これ」

「明らかに労力が釣り合ってないんだけど?」

 

:古城のセリフ、先輩に言ってほしい

:先輩の台本もいいな

:配信準備にどれくらい時間かかったんだろ

 

「はーい、どうしたの? って、きみか。本当は先生がこんなこと言っちゃだめなんだけど……きみで、ちょっとよかったかも。ううん、いいのいいの。保健室登校でも全然。先生だって、毎日保健室通勤だもん。

 あれ、目の下にクマできてるね。どうかした? ……あ、そのゲーム新作でたんだ! 面白いんだろうなぁ。きみの顔が、なによりの証拠。でも、ちゃんと寝ないとだめだぞ?

 不安で寝られない? そういうこともあるよね。そっか、じゃあさ、先生が耳かきをしてあげようか。よく言うじゃん、ASMRでよく眠れたー、とか。あはは、冗談冗談。……え、やってほしい? ……きみ、そういうところあるよね。……いいよ、言っちゃったしね。それじゃあ、横になって?」

「ありがとうございます」

「こんな養護教諭、セクハラで懲戒でしょ」

「ASMRの世界では、耳かきが法律よりも上なので」

「憲法にあたるんだ」

 

:続き…続きくれ…

:古城が聞いてるASMRの種類がわかる

:耳かきは宗教勧誘にも尋問にも使えるからな

 

「つぎの私のセリフは……

 『ん……ASMRってこうやるのかな。ゾクゾクするから気をつけてくださいね。DLsiteの履歴、親に知られてるよ♡』」

 

:ゾクゾクした

:やめてくれ

:ユウカとミユのASMRしかないワイ、高みの見物

 

「つぎの先輩のセリフはこちらです」

「相変わらず長いな……」

「ほらほら、順番は順番ですからね」

「ん……人間、起きた。……やっぱり人間。珍しい。急に起き上がると、体に悪い。そのまま寝てて。この森に人間が来るのは……200年、ぶり? 私はエルフ……森の番人。……悪いけど、帰すわけにはいかない。人間に、場所を知られるのは……困る。この里に住んでもらうことになる。もちろん、死ぬまで。当然でしょ? 人間はエルフを襲った。森を焼いて、子供たちを殺した。殺されないだけ、ありがたいこと。……それがどうしたの? まだ340年しか経ってない。エルフは人間の罪を忘れていない。

 人間には、誓ってもらう。絶対に逃げないこと。エルフの森にとどまること。……これ? 耳かき。エルフの世界では、耳を触らせるのは服従の証。そのまま横を向くか、魔法で向かされるか選んで」

「はい」

「横向かれても耳かきしないからね」

「もっとクーデレのエルフのお姉さんっぽく」

「しないって言ってるでしょ」

 

:ほんといろんな声出るな

:このASMRの解像度は何?

:これを聞いたあとに無声のASMRを聞くと本当に耳かきされてるみたいになるからおすすめ

 

「さて、つぎの私のセリフは……。えっ、いま書いたんですか?」

「どうしたの? 早く読んでよ」

「……『もう二度と先輩を騙すような真似はしません。反省しますので、配信は終わりにします』」

 

:あの古城がここまで嫌がるセリフ?

:どんなセリフだったんだ…

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