二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(14)収益化目前_相方が借金……

 

 

恋愛には幸せな結末など決してない。あるのは幸せなプロセスだけなのだ。*1

 


 

「1,000人が目前ですね」

 

 アナリティクスを見ていた倉瀬が、うきうきした様子で言った。来週には収益化できるかもしれない。

 箱に所属していたときは、3度目の配信で収益化していたが、個人勢だとこうもかかるものなのだと道のりの厳しさを再確認する。このままでは、広告費を償却する前に死にかねない。

 

「収益化したらどうする?」

「うーん……正直、お金がたくさんもらえるわけでもないですよね」

「それはそうだね」

 

 最初はご祝儀で多少の投げ銭があるかもしれないが、2か月目には小学生の小遣いよりも少ない金額になるだろう。最初のうちは、1か月で1食分になれば十分だと思う。わたしたちの場合は折半なので、手取りはさらに少ない。

 

「理想は広告収入で食べれることですよね」

 

 投げ銭の金額が読めないのに対し、広告収入はある程度予測できる。そのため、倉瀬の言うとおり、広告収入で食べられるようになるのが理想だ。

 

「そこまで行けると安定するよね。広告収入に頼りすぎると、YouTubeから追い出されたり、収益化停止したときに食べあぐねるから、広告収入とグッズの二本立てにするとか、YouTube以外の収入源を確保しないと怖いけど」

 

 YouTubeだけを生命線にするのは心許ない。

 わたしが歌を練習したのは、ライブのためもあるが、サブスクでの収益を得たかったからでもある。運動神経がないのか、それとも金にならないという潜在意識が邪魔しているのか、いまだにダンスは苦手だ。

 

「グッズと案件と……他は何がありますか?」

「Ci-enやnoteはやってる人が多いね」

 

 それも広義のグッズ販売かもしれないが。

 

「お金になるんですか?」

「広告収入で食べられるようになれば、副収入もそれなりの収入源になるよ」

「おおー!」

 

 倉瀬が手を掲げた。

 

「そこに行くまでが大変なんだけどね」

「おおー……」

 

 倉瀬が掲げた手を力なく下ろす。

 

「スパチャの方針はどうする?」

「方針?」

「うん。積極的に呼びかけるか、節度を守ってお願いするか、そもそも切っておくか」

「うーん……正直、あんまりスパチャには頼りたくないですね。おしゃべりしてるだけですし」

 

 その気持ちはよく分かる。

 スーパーチャットがあると、配信を100パーセントで楽しめなくなるのだ。

 

「お金をもらうと責任感が出てくるからね」

「そこなんですよね」

「ガチ恋とかもでてくるかもしれないし」

「私にはこないと思いますけど」

「いや、夕立夕日より古城葵のほうがくると思うよ。視聴者との距離が近いから」

 

 わたしは、できる限りガチ恋を増やさないような距離感を心がけている。コメントしてくれた人のことは全員覚えているが、それを表に出したことは一度もない。

 対して、古城葵はリスナーを「認知」する。これは企業勢ではあまり見られない特徴だ。あまりリスナーがいないときは少人数で完結するので、誰がどのようなコメントをしたか、記憶しておくことができる。リスナーが増えても、その癖が残るのだろう。

 スパチャを投げてもらいやすいのは、もちろん後者だ。その分、恋愛感情を抱く視聴者、いわゆるガチ恋も増える。

 

「スパチャは……当分は欲しいですね。初期投資は取り返したいですし」

「そうだね」

「でも、ガチ恋にお金を投げられるのは困ります」

「ガチ恋はスパチャ禁止って言っておく?」

「なるほど、それはいいかも……」

 

 体感としては、お金をかけさせたほうがファンの熱意は高くなる。

 そもそも熱意が高いからお金を払うのだが、お金をかけさせればかけさせるほど、ファンの側の熱量がさらに上がっていくのだ。「これだけお金をかけたのだから、自分は推しのことが好きなのだ」と認識が強化されるのだろう。その意味で、「価値に見合わない」配信はない。視聴者が金を出すことで、それは「価値に見合う」配信になるからだ。

 だが、この方法は、わたしにはあまり向いていなかった。リスナーを騙しているような気がして嫌だったのだ。実際にリスナーはお金を払いたがっているので、騙すことにはならないと思うのだが、分不相応な額をもらっているように感じられたのだった。

 そのため、舞浜鈴音は「ガチ恋勢はスパチャ禁止」と言い、終了画面には「非ガチ恋勢の皆さん」として前回の投げ銭をしてくれた人の名前を載せていた。最初は如実にスパチャの金額が減ったが、徐々に元の金額に戻っていったので、心配はしていない。

 

「それでもスパチャする人はするけどね」

「それは仕方ないですね。完全に切るのも、ちょっともったいないですし」

「そうだね。持続的に配信を続けるためには必要だし」

 

 できるだけ早く、倉瀬のアルバイトを辞めさせてあげたい。そうすれば配信準備の時間も多く取れるようになるし、負担も大きく減るはずだ。

 

「じゃあ、来週は収益化できるように頑張ろうか」

「はい!」

 

 

   ◇

 

 


相方が借金をしていたら、先輩はいくらまで貸してくれるのか?

2,528 回視聴 2023/04/15に公開済み

 

配信が終わったら、弁護士事務所に行こうと思います

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

◎切り抜き可

 

 

「今回は、禁断の友情破壊ドッキリ。『相方が借金をしていたら、先輩はいくらまで貸してくれるのか?』です」

「わたしのいないところでやってくれない?」

「どひぇー! と椅子から転げ落ちる姿が思い浮かびますね」

「わたしってそういうイメージなの?」

「みなさん、お楽しみに!」

「みんなの輪に、わたしっていないんだ」

 

:こいつ先輩から金取ろうとしがちだな

:先輩を無視するな

:【ネタバレ】先輩はじつは幽霊

 

「先輩……」

「茶番が始まった」

「先輩……」

「お望みの反応が得られるまで繰り返すつもり?」

「先輩……」

「はいはい、どうしたの?」

 

:RPGのモブかよ

:「どうしたの?」がお姉さんすぎる

:クソガキとお姉さん

 

「じつは私、言ってなかったんですけど、借金してて……」

「不思議と聞き覚えがある」

「どうしましょう。借金ランキングで首位に躍り出てしまいます」

「なんか楽しそうだな。いくら借金してるの?」

「1億兆円です」

「バカの数字だ」

 

:1垓!?

:数字を使えば頭が良く見えるって嘘だったんだ

:うーん、これはガキ

 

「このままだと、日本やアメリカを抜いてトップです」

「相手、国だったんだ」

「だから先輩。100万円、貸してください」

「焼け石に水だろ」

「それなりに効果があるってことですか?」

「実際はそうだろうけど」

 

:一億兆円を聞いた後だと不思議と安く聞こえる

:カスのドア・イン・ザ・フェイス

:個人相手に貸す金額ではないだろ

 

「どうして、そんな借金したの?」

「呆れませんか?」

「たぶん呆れるよ」

「近所の子供と1億兆円を賭けたじゃんけんをしてて……」

「お構いなしなんだ」

「ちゃんと払わなかったら、マットに沈めるって……」

「我慢してノックアウトされなよ」

 

:そこそこ嫌な条件だ

:借金してまで返そうとしてるってことは本気の賭けだったってこと?子供から一億兆円毟ろうとしてるの怖すぎる

 

「私の無敗記録に泥を塗るつもりですか?」

「塗ればいいじゃん」

「濡れ場いいって、セクハラ親父じゃないんですから」

「セクハラ親父もそんな口調ではないでしょ」

 

:勝負しなきゃ無敗だからな

:相変わらず発言の曲解が上手いね

:古城に濡れ場って語彙があるの、なんか嫌

 

「とにかく100万円貸してください。焼肉奢りますから」

「その金の出所、わたしだろ」

「貸してもらった時点で私のですが?」

「そんなやつに貸せるわけない」

「では90万……いえ、89万円」

「端数で説得力を出そうとするな」

 

:交渉って技術じゃなくて常識なんだなって

:トイチで貸せば?

:89万ぽっちでどうするっていうんだよ

 

「じゃあいくらまでなら貸せるって言うんですか?」

「1,000円」

「はんっ、小学生じゃないんですから」

「1億兆円のほうがよほど小学生だろ」

「わかりました。1,000円でいいですよ。じゃあ行きましょう」

「どこに?」

「約束の焼肉です」

「大丈夫? 絶対赤字じゃない?」

「いまさら借金が増えたところで関係ないですよ」

「それは本当にそうかも」

 

:借金してる身で1000円に文句を言うな

:義理堅い

:豪勢にいって明日自己破産しよう

 

「ところで……先輩は、このままのペースでは2050年ごろにダイヤモンドの採掘が終わりそうなことはご存知ですか?」

「知らなかったな。取りすぎたの?」

「正確には、ダイヤモンド自体はあるんですが、コストがリターンに釣り合わなくなるんです。ですが最近、特許を取得しましてね」

「ほんと? 見せてくれる?」

「取ったんですけど、家に忘れてきちゃいました」

「宿題じゃないんだよ」

 

:胡散臭っ

:地味にありそうなのやめろ

:今から電話の特許取ろうと思ってたのに!

 

「東京きょっ……東京特許許可こく……特許庁に行けば分かるのですが」

「諦めた。ふつうにネットで確認できるけどね」

「その特許で、今まで取れなかったダイヤモンドを取れるようになるんです。ただ、ここで問題があって……」

「ダイヤモンドを採掘するための機械か土地にお金が必要なんでしょ」

「その通りです。よくお分かりで」

「典型的な詐欺だからね。あんまり知人にやるタイプの詐欺じゃないけど」

「じつはですね……この詐欺を、さる大富豪にかけようと考えていまして、一緒にどうかと思いまして」

「共犯の申し入れだったんだ。わたしにメリットある?」

「莫大な富です。5,000万円くらいは騙し取れる勝算があります」

「だから焼け石に水だって。5,000万で焼け石に水ってなに?」

 

:沈没船詐欺かな

:共犯者はこの世で最も親密な関係だからね

:本当に何?

 

「そんなに私にお金を貸したくないですか? 大事な相方でしょ?」

「大事な相方だからこそ貸し借りを作りたくないかな」

「わかりました……相方がリングに崩れ落ちるところ、指をくわえて見てるんですね」

「羨ましくはないよ」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……なーんて、じつはドッキリでした」

「知ってたよ」

 

:どひぇー!

:生配信で失言しないか心配だったけど安心!

:ドッキリ大成功だね !

 

「えっ、気がついてたんですか? いつから?」

「最初から」

「そんなに顔に出てましたかね……」

「口に出てたんだよ」

「顔に出すとか口に出すとか……先輩、破廉恥ですよ」

「一回、脳を水洗いしたほうがいい。たぶん溝に煩悩が詰まってるから」

*1
ミミ・ワインズバーグ(2024)『マッチングアプリの心理学』尼丁千津子=訳, 早川書房, Kindle版, 位置No.3991.

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