二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(23)同棲開始_美術館を作ろう!

 

 

博物館はあらゆる時代遅れのもの、死んだもの、役に立たないものの集積である。しかし、まさしくそのことゆえに、それは時代の希望でもある。なぜなら、博物館が存在するということは、終わりを迎えたことがらなど一つも無いということを示しているからである。*1

 


 

 せっかく引っ越したので「知らない天井だ」と言いたかったが、寝相が悪いせいで、知らない壁しかなかった。

 

 時刻を見ると、午前11時だった。

 わたしは基本的に、耐えられないほど眠くなったら眠るという生活をしている。時間になったら寝る、という方式だと2時間以上眠れないこともよくあるからだ。

 

 家は全体的に古く、廊下もときどき軋む。

 

 隣の倉瀬の部屋はドアが開いている。すでに起きているようだ。

 お手洗いをすませて、1階に下りると、倉瀬が正座していた。

 服にしわがよっているので、わたしが降りてくる音を察して身を起こしたことがわかる。しっかり化粧もしていた。べつに寝そべっていても気にしないのだが、そんなに怖い先輩に見えるだろうか。

 

「あ、おはようございます」

「おはよう」

 

 挨拶だけして、洗面所で顔を洗う。

 リビングに戻ると、倉瀬が電子レンジを使っていた。

 

「なにか食べるの?」

「朝ご飯、まだですよね」

「……あ、わたしの? ごめんね、ありがとう」

 

 感謝すると同時に、危機感も生じる。わたしは流されやすいので、この調子だと、倉瀬に家事を任せきりにしてしまう。それは不健全だ。家事の分担をしなくてはいけない。

 

 4人がけのテーブルに、倉瀬が料理を運んできた。

 朝食は、鮭と納豆とおひたし。それに加えて、なめこの味噌汁がついていた。

 私はあまり緑黄色野菜が好きではないのだけど、おそるおそるおひたしに箸をつけると、苦もなく食べることができた。わたしが成長したのか、倉瀬の料理が上手いのか。きっと後者だろう。

 

 ご飯を食べながら、家事の役割分担を話し合うことにした。

 

「掃除と洗濯はできるよ。あとゴミ出しとか」

「ゴミ出しは私がやりますよ。どうせバイトで外に出ますし、そのついででも。料理と買い出しも、任せてください。買い出しについては、ほら。社割で買えるので」

「それは助かるけど……生活費、いくら出せばいい?」

「月に2万5,000円で、いいですか?」

「え、安いね。この味なら、もっと取れるよ」

 

 3食の値段としては破格だ。同時に、ふたり暮らしの値段としては妥当なのかなとも思う。

 

「えへへ、そうですか? でも、一気に何人前も作るので。材料費はそんなかからないですよ」

 

 既製品だけに頼っていると、倍くらいになる。配信と家賃を除いて、お金はあまり使わないので、エンゲル係数がかなり高い。

 

「味にこだわらないなら、配信が休みの日には、わたしも料理するよ。休日は、土曜がわたしで、日曜は倉瀬でどう?」

 

 レパートリーは貧弱だが、レシピ通りに作ることくらいはできる。工程が複雑になればなるほど味は劣化していくので、シンプルな料理に偏りがちだが、作らないよりはマシだと思う。

 

「それは正直、助かりますけど……。リメイクしたりするので、週の前半は私で後半は先輩って形になりませんか?」

「あ、そっか。そっちのほうが無駄がないね」

 

 ふだん料理をしないので、そんなことにも気が回らなかった。

 

「料理を半分負担していただけるんでしたら、掃除と洗濯も半分やります」

「それだと倉瀬の負担が大きいから、自分の部屋と配信部屋の掃除はお願いしていい? 1階はわたしがやるよ。バイトしてないし」

 

 そう言うと、倉瀬が意を決したように、テーブルに身を乗り出した。

 

「あの先輩。前から思ってたんですけど、どうやって生活してるんですか? 訊いちゃ駄目なら訊きませんけど」

「訊いちゃ駄目だね」

「……闇バイトとかです?」

「訊いてるじゃん」

「気になるので」

「変なことはしてないよ。株でちょっとね」

「なるほど!」

 

 倉瀬の声が明るくなった。

 いかがわしいことで稼いでいるとでも思われていたのだろうか。いったん、倉瀬のわたしに対する認識を洗いざらい聞いておきたい。

 

「株って、ちょっと興味あるんですよね。儲かるんですか?」

「ガンガン訊いてくるじゃん」

「気になるので」

「まあ……おすすめはしないかな」

 

 適当な返事でお茶を濁す。

 実際、もうすぐ、わたしの未来の知識も途絶える。今までのように、確証をもって投資することはできない。

 

 わたしがご飯を食べ終わると、倉瀬はジャージを着て、ジョギングをしに行った。どうせ走るなら、メイクはしないでもよかったのに。

 そんなことを思いながら、わたしはシャワーを浴びた。

 

 

   ◇

 

 


美術館を作ろう!

3,819 回視聴 2023/07/02に公開済み

初めて美術館に行ったのは高校生の秋。

学割で600円。昼食を我慢して、セザンヌを見た。

君がセザンヌが好きだったから。

正直、よく分からなかった。

「思ったより小さいね」

なんて笑う君の横顔が、とても綺麗で。

 

また美術館に行こうと思う。

相変わらず、セザンヌは小さいのだろうけれど。

一人で見るセザンヌは、君と見るセザンヌとは違うだろうから。

 

セザンヌさん。

案件、お待ちしております。

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

◎切り抜き可

 

:待機

:待機

:何このポエム?

:「失恋した」で十分だろ

 

「引っ越しました。うぇーい、彼氏くん見てるー? 君たちが大好きな先輩と同棲しちゃってまーす……は? お前らは先輩の彼氏じゃないですけど。滅んでください」

「こわ」

 

:は?

:わりとガチでNTRで鬱

:先輩逃げて

:ええと…俺、頭はよくないんですが、喧嘩売られてるってことはわかるっすよ

 

「今日の配信のテーマは、もし美術館の館長になったら、どんな美術館を作る? です」

「いつになく知的だね」

「美術館って、色々なコンセプトがあるじゃないですか。例えば、現代アートに強いとか、宗教画に強いとか、彫刻に強いとか……そんなコンセプトを考えていく、教育的な配信になる予定です。小さなお子さんが近くにいたら、一緒に見てくださいね」

「どうせ同人誌を飾るとかそういう方向に行くんでしょ」

「そんなわけないじゃないですか。今からべつのコンセプトを考えるので、先輩、1分くらい場を繋いでおいてください」

「正解だったんじゃん。そうだね、美術館の来場者って、高齢者と若者が中心で、働く世代はあまり行かないんだよね。だから、経営面を考えると、働く世代が行きやすい美術館にしたいかな。みんな、『ナイトミュージアム』って知ってる? 夜の博物館で展示物が暴れまわるって内容なんだけど……やっぱり、夜の博物館ってみんな興味あると思うんだよね。時間的にも行きやすいし、夜に開いていて、怖い絵が飾られている美術館とかはありだと思うんだ。展示はそうだね……オタクはみんな知ってるでしょ、三回見たら死ぬ絵。あれは絶対に展示したい。あとはゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』。この2つを手に入れたら、いい線いきそうじゃない? 演出面だと、ときどき額が傾いたり、照明が点滅したりして……。もちろん夏休みには、肝試しとしてお化けを雇ってもいいね。Ibとコラボとかしたら、けっこう集客できそうでしょ」

 

:どうせ春画とかそういうの

:正解かい

:確かに働いてると行けないよね

:コンセプト◎

:三回見たら死ぬ絵があったら行っちゃうな

:本当に1分間もたせるやつがあるかよ

 

「すみません。まだ思いつかないので、もう5分だけ稼いでくれませんか?」

「……これは美術館のコンセプトというより展示のアイディアなんだけど、美術館ってリピーターが少なそうじゃない? だから年パスが売りづらくて、企画展みたいなものを組む必要がある。でも、それだと、常設展の需要が下がったままだよね。つねに変化する展示があったら、みんな来たくなると思うんだ。微生物とか苔とかで作るアートはあるけど、みんなは、何かアイディアない? たとえば、来場者数に応じて変化するアートとか。来場者にスタンプ式のサンダルを貸し出したら、みんなが通った道がわかって面白かったりしないかな? そうでもない?」

 

:古城、先輩に見捨てられないように頑張るんだぞ

:苔で作るアート?何それ見たい

:めちゃくちゃゴチャゴチャしそう

:リアル九相図はどう?

 

「どう? じゃないよ。九相図って、人間が土に還るまでを描いた絵でしょ。確かに変化するし、やってたら見に行っちゃうかもだけど、しっかり法に触れるから。

 でもそうだね、火とか使うのはどうかな。よく言うでしょ、放火犯は現場に戻るって。燃えてるところって、やっぱりみんな見たくなるんだよ。だから、燃えることで完成する展示とか。燃えて面白くなりそうな展示ってある? わたしはモナリザを燃やす展示なら、絶対に見に行っちゃうな。べつの意味でも燃えるだろうけど、そんなことがあったら見に行っちゃうよね」

 

:本能寺

:古城

:古城

:古城

 

「燃やしたい気持ちはやまやまだけどさ。葵が燃えたら、わたしも巻き添えを食らうから、ちょっと困るな。本能寺と並ぶと、古城も建物みたいだね。

 まあでも、燃やすのは常設だとやっぱりコストが高いかな。

 あとは、動く美術館はどうかな? 常設展に人が来ないのは、場所が固定されているからだよね。飛行船か何かで移動する美術館。これも採算が取れるかはわからないけど、大きな公園とか借りてさ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「すみません、先輩。あと10分……」

「同人誌を封じられただけでそんなに悩むことある? 同人誌1本で1時間やろうとしてたのが怖いんだけど」

「ここまで溜めたら、凄いアイディアを出さないと許してもらえないんじゃないかって……」

「凄い。完全に自業自得だ」

 

:同人誌ネタ1本で配信を続けてきた女は貫禄が違う

:お手並み拝見といこうか

 

「まあでも、ひとつ思いつきました。怪盗体験ができる美術館です」

「怪盗体験? 確かに面白そう」

「チケットが予告状で、受付に渡すと、『みんな、大変だっ!』みたいなリアクションをしてくれます」

「世界観があるタイプの美術館ね」

「飾ってある絵は全部レプリカで、額も安物。絵が趣味の人に寄贈してもらってもいいですね。誰かの手に渡るなら、譲りたいという人もいるかもしれません。だって、自分の絵が怪盗に盗まれたら嬉しくないですか? 自己肯定感爆あがりですよ」

「確かに、ちょっと嬉しいかも。ネットで募集したら送ってくる人はいるかもね」

 

:やるじゃん

:それは美術館ではないのでは?

:刑事も欲しい

:大きな絵を盗むと隠し通路が見つかる

 

「もちろん、盗むのは簡単じゃありません。警備員が目を光らせているし、レーザーも完備されています」

「レプリカなんだよね?」

「ただのレーザーじゃないですよ。触れると人体がスパッと切れます」

「バイオハザードで見たやつだ。誰も行かないよ、そんなところ」

「簡単すぎたら興ざめじゃないですか?」

「やりがいを求めるなら、本物の美術館に行くよ。失敗しても死なないし」

「犯罪を助長するんですか?」

「殺人レーザーも犯罪だけど」

「そんなに殺人レーザーが嫌なら、盗みに入らなきゃいいじゃないですか」

「コンセプトはどこに行った?」

「盗みに失敗した怪盗が館長に脅される同人誌があったら、絶対にマントをシーツ代わりにすると思いませんか? クライマックス付近で、マントをぎゅっと握って、しわを作るコマは外せないですよね」

「結局、同人誌の話をしてる」

*1
ニコライ・フョードロフ「博物館、その意味と使命」小俣智史=訳, 39. ボリス・グロイス=編(2024)『ロシア宇宙主義』乗松享平=監訳, 上田洋子ら=訳, 河出書房新社, 所収.

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