なにしろ秘密結社なので、なんでも内緒になっている。しかし、それでは欲求不満になってしまう。言いたい。悪いことしてるって。すごいことしてるって。俺たちがおまえらを支配してるんだぜって。*1
バズっていた。
それはもう盛大にバズっていた。いや、それは私たちにとってってことで、ツイッターの総和からみれば大したことはない。大したことはないが、界隈には徐々に認知されつつある感じだ。私たち単体の切り抜きもアップロードされ始めている。
先輩がカップリングを意識してファンサしたこともあるけど、
四期生は三人組で、うち二人はカップリングが成立していて、プラネさんの相手は今まで見つかっていなかったらしい。そのニッチを、先輩が埋めたことになる。
私は「#プラゆう」を検索した。「#あお先」もしくは「#先あお」以外は解釈違いではあるけど、エゴサーチの一環だから仕方ない。
ゆうプラ派が圧倒的な多数で、プラゆう派は少数だ。
でも私は、あるとしたら、プラゆうのほうなんじゃないかなと思う。先輩は人間関係に消極的だし、自分から恋愛関係に踏み込むようなことはしなさそうだ。
スクロールしていくと、プラネさんが先輩を押し倒して鼻息を荒くしている漫画にぶつかった。先輩の焦った顔が可愛いので、仕方なく「いいね」を押す。
私をダシにしてイチャついている漫画もあった。
二人がキスをしてるのを、私がドアの隙間から歯ぎしりをしながら見ている絵。これは許せない。私は激怒した。せめて、私と先輩がキスしてる絵を描いてから描け。
私はスマホをベッドに放り投げ、ふて寝することにした。
普通に寝てもいい時間だ。
隣の部屋で先輩の気配を感じる。
新しい家は最高だった。
古くても実家よりは新しいし、何より先輩がいる。
用事があるとき以外は部屋からは出てこないけど、部屋でキーボードを叩く音を聞くと心が安らぐ。ああ、隣にいるんだな、と思う。私は寝つきがいいので、騒音も気にならないし。というか、騒音が駄目なら女子寮で暮らしていけるわけがない。遅くまで起きていて心配になることもあるけど、朝は遅くまで寝てるようだし、睡眠時間は大丈夫なのだろう。
ちなみに、朝食は作り置きしてくれている。
包丁
ぺかっ、とスマホが光った。
LINE。お父さんからだ。お盆に先輩と帰省する日についての連絡だった。
最初は先輩に迷惑をかけるのではないかと思っていたが、先輩が同意してくれた以上はナイスパスだ。同居、収入の共有、親への挨拶……恋愛関係じゃないことを除けば、これって実質、結婚では?
『バスの時間決まりましたか』『決まったらおしえ』『決まったら教えてください』
車で迎えに来るのに、時間を知っておく必要があるらしい。先輩に言うと「悪いし、タクシーでいいよ」と言っていたけど、一万七千円くらいする。飛行機代をケチって夜行バスにしたのに、こんなところでタクシーを使っては元の木阿弥だ。
先輩だって投資で稼いでいるとか言ってるけど、あんなアパートに住んでいたくらいだから、そこまで余裕はないと思う。
『朝6:50に
実家は岡山だけど、岡山駅からより、鳥取の米子からのほうが近い。車で五十分もかからないし。
『了解』『
京は兄の名前だ。
兄の名前と私の名前を繋げると、京都になる。悪ふざけとしか思えないが、わざとではないそうだ。男なら京で、女なら都だと、事前に決めていたらしい。もし私が男の子だったら、
返信に迷って、兎のスタンプを返す。『OK』。微妙に噛み合っていない気もするけど、こんなものだろう。VTuberのスタンプも沢山あるが、お父さんには返せない。
お父さんがよく知るのは、中学校までの私で、その頃の私は普通のテレビっ子だった。高校に上がってからは寮暮らし、一人暮らしと、実家で暮らす時間は減り、オタク趣味については知られないまま大人になった。だから、私がオタクだというのは、お父さんは知らないのだ。
というか、私がオタクだと知っているのは、
高校は受験勉強のせいでオタ活どころじゃなかったし、大学の友達も皆無に近い。そのせいで、買い集めたVTuberのスタンプは、萌春にスタ爆するくらいの役目しか果たしていなかった。
今回買ってしまったプラネさんのスタンプにしても、使い所がない。使ったのは、ボイス付きの『酷いよぉ!』スタンプだけだ。再生すると『
今まで切り抜き以外では見たことがなかったけど、先輩と配信を見てからはハマってしまった。配信で伝わるわけがないのに、話しているときに沢山ジェスチャーをしているのか、アバターがあちこちに揺れているのも可愛い。
……そういえば、先輩が次に食事をするときは会わせてくれるって言ってたな。直接会うのって、ファンとしてどうなんだ? いや、でも、サインは欲しいかも……。
そんな取らぬ狸の皮算用で悶えているうちに、私は睡魔に囚われるのだった。
◇
タイトル:秘密結社を作るぞ!!!
「さ、気を取り直して、秘密結社を作りましょう」
「足が痺れるくらい長い説教だった」
「反省してなさそうですね」
「してるしてる」
「ならいいです」
「いいんだ」
:よかった…やっと終わる…
:もう30分だぞ
:誘い受けかな?
「秘密結社を作るには、まずは理念からですよね」
「ですよね、って確認されても知らないよ。定石があるんだ?」
「会員を集めるためには理念が必要じゃないですか。うちのリスナーだって、私たちの配信理念に共感して登録してくれているわけでしょう?」
「初耳だ。わたしたちの理念って何?」
「全力で、人を笑かす」
「笑わすじゃなくて笑かすなの、しゃらくさいな」
「初めて『く』を知った初音ミク、はつみみく」
「理念にそぐわない発言だ」
「まあ、私たちの理念はどうでもいいんです」
「どうでもいいんじゃん」
「問題は秘密結社の理念ですよ」
:一生ついていきます
:登録解除します
:初めてくを知った←何???
「せっかく秘密結社を作るなら、大きな理念がいいよね。世界平和とか、世界征服とか」
「世界征服にしましょう」
「改めてさっきの配信理念はなんだったんだ」
「では、会員を集めないとですね」
「秘密結社なんでしょ? どうやって集めるの?」
「面接ですね」
「面接なんだ」
「コンコン」
「はい、どうぞ」
:どう面接相手を選ぶんだ
:急に狐になったかと思った
:スムーズにコントに入るな
「失礼します」
「どうぞおかけください。今日は暑いですね。結社までの道は、すぐにわかりましたか?」
「はい。ホームページの地図が、わかりやすかったので」
「じゃあ駄目ですね、秘密結社なんだから。改善しておきます。私は夕立夕日と申します。早速ですが、簡単で構いませんので、自己紹介をお願いできますか?」
「はい。いっけなーい、遅刻遅刻! う~、寝坊しちゃった! 私の名前は、古城葵! 都内在住の、ちょっとドジな萌え萌えVTuber! 今日は秘密結社の面接日だけど、目覚まし壊れてさあ大変! このままだと面接官さんに怒られちゃうよ~!」
「お帰りください。あと、いま一瞬お池にハマってなかった?」
:HPはあるんだ
:就活生です!面接の見本にします!!
:うわキツ
:冷静に考えると「さあたいへん」ってなんだよ
「古城葵。VTuber、やってる」
「急にクールキャラになっても取り返せませんけどね。いちおう、続けましょうか。色々な結社が募集をしていると思いますが、なぜ、そのなかで当秘密結社を選んだのですか?」
「御社の理念に共感して……」
「御社の社が結社の社なことあるんだ。では、当社の理念の、どの辺りに共感されたのでしょう? 色々な結社が社員を募集していると思いますが」
「はい。私はもともと、この世界に希望を抱いておりました。しかし、インターネットで人の悪意に触れ、この世界を正さなくてはという強い意志が生まれました。そのためには世界を征服するしかない。そう考えたときに、御社の企業理念が目にとまりました。おっしゃるように、立派な理念を掲げる秘密結社は沢山ございます。世界征服を掲げる秘密結社もありました。しかし御社では、理念のためには粛清をも
:ビジュだけならクールキャラ
:やはりインターネットは悪
:ガチ面接じゃん
:粛清は厭えよ
「当社の活動もご理解いただいた上でのご応募ということですね。少し意地悪な質問になってしまうかもしれませんが、もし当社より理念の優れた結社があれば、心変わりもあり得るのでしょうか?」
「誤解を恐れずに言えば、その通りです。現時点で、知る限り、御社より理念にまっすぐな結社はないかと存じます。しかし、そうした結社があれば心変わりもあるかもしれません。ただし御社は、先ほどのご質問の内容からも、理念と、それに忠実な社員を大切にしておられるものと拝察します。御社に入社しましたら、愛社精神が育まれることでしょう。私は忠誠を誓った結社を裏切るようなことはいたしません」
:古城ってもしかして就活エリート?
:先輩、もっと意地悪してくれ
:返しつよ
「なるほど、実直なお答えですね。もし社内で当社の理念に反する行為を見かけた場合、あなたはどうしますか?」
「そうですね。まずは情報を正確に把握し、信頼できる上司や関連部署に速やかに報告いたします。もし私にその権限があるのでしたら、御社の方針にしたがい、厳正に〝処分〟いたします」
「冷静なご対応かと思います。では次に、スキルについて伺います。ご理解いただいている事業内容を踏まえた上で、当社に貢献できる技能はありますか?」
「はい。日商簿記では2級、MOS Excel 365ではエキスパートを取得しておりますので、事務作業は安心してお任せいただけるものと思います。また、TOEICでは890点を獲得いたしました。御社がますます発展して、海外展開をすることがあれば、その際の交渉・赴任にはぜひともお声がけください」
「勿論、世界征服を理念としておりますので、当社としても海外展開はこれからの課題ですね。もし採用が決まれば、海外展開できるよう、一緒に頑張りましょう。最後の質問になりますが、残業や休日出勤については、どう思われますか?」
:うちの職場に欲しい
:秘密結社でもTOEICはアドなんだ
:採用ルート入ったな
「絶対に定時で帰ります」
「……長時間労働はできないと?」
:あ、終わった
:終わった
:もったいない
「はい。ただしそれは最終目標です。その目標を叶えるまでは、残業や休日出勤も覚悟しております。私だけではなく、他の社員にも残業や休日出勤をさせない結社づくり。それが、何年、何十年かかけて、私が管理職となった場合に尽力することです」
「ここから入れる保険ってあるんだ。採用です」
:テクい
:これって実際どうなん?面接官やってる人教えて
:記憶には残りそう
「ええー……」
「なんで不満げなんだ」
「採用を即断をする結社って、人手が足りてなさそうで、すぐ潰れそうだなって」
「結社を見る目がある」
……
…………
………………
「次回も、この穢れた世界をほんの少しでも明るくする配信をしていきます」
「今回は明るくできた認定なんだ」