二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(28)妹③_売れっ子……

 

 

この「姿を消す」動作はそれだけで、遊戯として倦むことなく繰り返されたが、「姿を現す」動作の方が大きな快感を伴ったのは明らかである。*1

 


 

「ふっふっふ、ここが新しいお家……。お邪魔しまーす」

 

 結乃(ゆの)が遊びに来た。珍しく事前連絡があったが、結乃も、他人が絡むと常識を働かせることができるようだ。

 

「結乃ちゃん、こんにちは」

 

 わたしが降りて玄関まで行くと、倉瀬もわざわざ玄関まで来て、出迎えた。

 

「……こんにちは」

 

 さっとわたしの陰に隠れたが、結乃のほうが大きいので、はみ出ている。

 今日も倉瀬がいるときに来た。これも何かの縁かと考えてから、結乃にも学校があることに気がついた。常識を忘れているのは、わたしのほうかもしれない。

 結乃は色々と見学したがっていたが、2階をウロウロされるのも困るので、リビングでもてなすことにした。もてなすと言っても、ピザを頼んだだけだが。実家でピザにありつく機会はないので、両手で掴んで、嬉しそうに食べている。

 

「お姉ちゃん、コーラは?」

「あっ、買って来ようか?」

「……駄目だよ、倉瀬さん。お姉ちゃん全然動かないから、お姉ちゃんに買い物に行かせるくらいじゃないと」

 

 確かに、買い物は全部、倉瀬に任せてしまっているが。

 

「結乃が自分で行けばいいでしょ」

「私は動いてますぅー」

「結乃ちゃん部活やってるの?」

「あ、うん。ブラバン」

 

 結乃は、ピザにチーズを絡ませてかぶりついた。チーズの糸が、手の甲にかかったのを、はしたなく舐め取る。

 

「吹奏楽部? 走り込みあるとか言うよね」

「あるよ」

「じゃあ、体力あるわけだ」

「うん」

 

 結乃は最低限の返答しかしていない。ピザに夢中になっているふりをしているが、たぶん人見知りをしている。姉妹は似るものだ。前回は、わたしもこんな感じだった。VTuberになって、克服したが。

 

「倉瀬もジョギングするんだよね」

「ああ、はい。毎日5キロ」

「わたしは100メートル早歩きするだけで息切れするよ」

「お姉ちゃんは体力なさすぎ。しかも早歩きって、私のふつう歩きくらいでしょ」

「結乃の運動神経が凄いんだね」

「いや、先輩の体力が終わってます」

「そうだそうだ、もっと言ってやれ」

 

 二人が手を結んで、わたしを責め立てる。さっきまでの人見知りはどこにいったのか。母と妻に結託された夫にでもなった気分だ。

 第一、わたしが運動が嫌いで、苦手なことは確かだが、必要があればする。必要がないからしていないだけだ。

 

 わたしはトマトを結乃のピザに移して、自分の分をかじった。

 

「倉瀬は帰宅部だったよね。走るきっかけとかあったの?」

「え、いや、ストレス解消で……慣れてくると気持ちいいですよ」

「ストレス解消にもなるんだ。確かに、青春ドラマとかで見た気がするな。倉瀬はそういうシーンで、具体的に思いだせる作品ある?」

「倉瀬さん、騙されないで。これ、お姉ちゃんの常套手段だよ。都合が悪くなると、相手に質問して、話題をすり替えちゃうの」

 

 余計なことを。

 

「なるほど……。そういえば、心当たりがある気がします」

「気のせいだよ。たくさん話しているから、何度かそういうやり取りがあったかもしれないけど。逆に倉瀬はそういう会話のテクニックみたいなの、使ってる?」

「今やってません?」

 

 倉瀬の間髪を入れないツッコミに、結乃が「その調子」と(はや)し立てる。

 

「息ぴったりだね」

「え、そうかな……」

「二人で配信でもしたら? Twitchでゲームやってさ」

「……考えておくね」

「凄いんだよ。友だちで、フォロワー2,000人とかいってる子がいてね」

 

 わたしは、結乃に、自分から友だちと言えるような子がいることに安心した。学校で上手くやれているか、密かに心配していたのだ。

 

「それは凄いね……」

「でも、二人だとゲーム配信は難しいか。倉瀬さん、喋るの得意そうだから、一人でもいけそう」

「ゲーム配信かぁ……結乃ちゃんは、ゲームとかやるの?」

 

 倉瀬は早速、先ほど習得したスキルを使いこなした。

 

「え? うん、やるよ。最近はね……」

 

 

   ◇

 

 

 結乃が帰ると、倉瀬が「いい子ですね」と言った。

 

「姉妹仲がよくて、羨ましいです」

「なんだかんだで、わたしに構ってくれてるしね。興味がなかったら、わざわざ来ないだろうし」

 

 最初の頃は、学校でなにか嫌なことがあったのかと邪推したが、向こうは向こうで、わたしを心配してくれていたのだろう。

 正直に言えば、感謝している。

 生活に張りがないからと言って、サボテンを育てるように言ったのも結乃だ。サボテン程度では何も変わらないのではないかと思ったが、サボテンに埃が積もらないように掃除をするなど、意外と生活が丁寧になった。

 

「連絡先、交換しちゃいました」

 

 意外だった。どちらから持ちかけたのだろう。

 

「変なこと言われたら、わたしにチクってね」

「結乃ちゃんにも同じこと言われました。家訓ですか?」

「『チクってね』が家訓の家、嫌すぎるでしょ」

「でも、びっくりしましたね。配信をやったら? って」

「前の部屋にあった機材にもノーコメントだったし、あんまり詳しくはないんだろうけどね」

「そういえば……。でも、お友だちも凄いですね。ひとりで2,000人って」

 

 自慢するような口調ではなかった。

 まるで、自分ひとりでは成し遂げられなかったような口ぶりだ。

 2,000人は、確かに凄い。でも、倉瀬なら、いずれは達成できた数字だろう。

 

 (おご)ってほしいわけではないけれど、客観的に自分の力を把握することは、これからの成長にも不可欠だ。

 

「倉瀬も凄いよ」

「えへへ、ありがとうございます。でも、先輩のほうが……」

 

 馴れ合いになってしまった。

 倉瀬には、あまり向上心――というより、野心がなさそうだ。

 わたしは配信を続けられればそれでよいのだけど、倉瀬は、どうするつもりなのだろう。

 そんなことを考えながら、わたしは倉瀬の褒め言葉を聞き流していた。

 

 

   ◇

 

 


売れっ子VTuberが教える人生を一瞬で変える最高のマジック

7,295 回視聴 2023/07/29に公開済み

ビジネスマンさん、こんにちは

 

Yudachi Yuhi

 

:待機

:早速Xで遊ぶな

:百合の間に挟まるX

:先輩まだツイッターやらないの?

 

「先輩はマジシャンって信じてます?」

「サンタさんとかと同じポジションなの?」

「絶対、何かタネがありますよ」

「みんなそこは疑ってないよ」

「ええ、でも疑ったほうがいいと思うんです」

「日本語って難しいな」

 

:タネがあるのは大前提で分からないのを楽しむのがマジックなんだぜ

:今さら純情キャラで行こうとしてる?

:いま一瞬言葉の意味が取れなくて脳がバグった

 

「たとえば、鳩を空っぽのシルクハットから取り出すマジックがあるじゃないですか。あれ、考え得る可能性としては2つですよね。生命創造かテレポーテーションか」

「隠して入れる、って手もあるよ」

「なるほど。一時的に幻影を見せ、鳩を隠して入れるということですね」

「全然違うよ。それなら鳩は必要ないでしょ」

「でも、幻影魔術には強力なマナが必要です。マジシャンが幻影術士なら、強力なマナを持っているはず。しかし、マジシャンに強力なマナの気配はありません。よって、マジシャンが幻影術士でないことは明らかです」

「三段論法の無駄撃ちだ。マナを感じられるの?」

「え? 先輩、マナを感じられないんですか? VTuberなのに?」

「葵のアンチスレを建てたら書き込んでくれる人いる?」

 

:あたぼうよ

:協力するぜ

:祭りだ祭り

:【セクハラお化け】古城葵アンチスレpart510【恥】

 

「アンチを炙り出してくれてありがとうございます」

「こういうのは助け合いだからね」

 

:先輩…?どうじで…

:た、タスケ…

:嘘だ!嫌だ!死にたくない!

 

「でも、生命創造やテレポーテーションにも強力なマナが必要ですし……本当に、どうやっているんでしょう?」

「マジックっていうのがあってね」

「マジック? あのインチキですか?」

「インチキて。マジシャンは、マジックをする人のことだよ」

「えっ……インチキで鳩を出すんですか? なんで、わざわざ鳩を?」

「それはみんな分かってない」

「惰性で鳩を? 惰性で出される鳩の気持ちも考えてみてくださいよ。あー、今日も惰性でシルクハットに入れられて、何となくで出されるポッポか……めんどいポッポねぇ……」

「ムカつく語尾だな」

 

:さすが古城さん面白いです

:草超えて世界樹の苗

:神配信すぎる

:ひたすらに草

:生まれてきてくれてありがとう

:古城さん、これがあなたが望んだ世界ですか?

 

「あ! でも、切断した指が浮遊する魔術がありますよね。あれはすり替えとかできないですし、サイコキネシスですよね」

「リスナーには見せられないけど、これのこと?」

「……あはは、なにやってるんですか先輩! そんなジェスチャーしても、リスナーには見えないんだから、意味ないじゃないですか! まったく、ほんのこれっぽっちも指が切れてるようには見えないし! もう、おっちょこちょいなんだから! ……先輩。今、ミュートにしました。先輩も使い手だったんですね。配信でこれを流すのはまずいです。今はとりあえず失言をして、アーカイブを非公開にする口実を作りましょう」

「なんか凄いことに巻き込まれてる」

 

:見なくてもわかる例のやつだ

:あれれ〜、おかしいな〜 何も聞こえないぞ〜

:鼓膜ないなった?

 

「ええと、じつは私、トレパクしたことがあるんですよ。小学生のとき、漢字ドリルで、人の字をそっくりになぞっちゃったんです」

「ふつうの漢字練習だ」

「えっ、この程度じゃ炎上には不足ですか?」

「しなくてもいいからね、そもそも」

「じつは私、嘘つきなんです。一回だけお父さんに嘘をついてしまったことがあって……お父さんの料理、美味しいねって。その料理にはピーマンが入っていて、本当はピーマンなんて苦手だったんです。でも、お父さんが初めて作ってくれた料理だったから、つい嘘をついてしまって……。大切な人に嘘をつくなんて、私、最低ですよね……」

「むしろあがってるよ、好感度」

「これでも炎上しないんですか……ネットってチョロいですね。どうやっても炎上しない気がしてきたので、炎上作戦はやめにしておきましょう」

 

:茶化していいことと駄目なことの区別もつかないの?本気で悩んでいる人がいるのがわからない?

:最初は楽しんで見てたけど、ごめんこれはちょっと無理。うっすら前々から違和感はあったけど、そういう人なのね。気にならない人が多いのもがっかり。今までありがとう。自衛のために見るのをやめます

:これは常識の有無じゃなくて良識の有無の問題 普通は実行する前に止まる そこで止まらないのは単に倫理観が終わってるだけ

 

「具体性のない炎上をしてる」

「もう。こんなの、他の()にやっちゃ駄目ですからね?」

「困り顔で屈む女の子? ふつうにウチでも駄目だよ」

「マジックって、要するに『いないいないばあ』レベル30ですよね」

「さっきからインチキとか、散々な言い草だな。マジックに恨みでもあるの?」

 

:しょうがないにゃあ…

:ミステリー小説とかレベル30っぽい

:レベル10はジャンプスケア

:M1の結果発表くらい溜める人おるよな

 

「マジシャンの群れに村を焼かれて……」

「マジシャンに群れるイメージはないけど」

「ギャッ、ギャッ、ギャッ!」

「醜悪なゴブリンの群れじゃん」

「仕掛ケハナイガ、種ナラアルゼ!」

「ゴブリンは、ちょっと考えさせるタイプの下ネタを言わない」

「村ノ焼失マジック、トクトゴ覧アレ!」

「ゴブリンは人目を気にしない」

「ゴブリンの厄介ファンですか?」

「解釈違いに憤ってるわけじゃないから」

 

:マジかよマジシャン最低だな

:シルクハットを被ったゴブリンの群れ、面白い

:ゴブりんを馬鹿にするなんて許せない

 

「アト数年デ、畑ハヨクナル!」

「焼畑農業だったんだ」

「ケケケ、ソレマデ、別ノ場所デ暮ラスンダナ!」

「畑に養分が戻るまで時間がかかるからね」

「コノ種使エ!」

「下ネタじゃなくて、真っ当な支援だった」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「続きはFANBOXで」

「やってないよ」

*1
ジークムント・フロイト(1996)「快感原則の彼岸」『自我論集』竹田青嗣=編, 中山元=訳, ちくま学芸文庫, 127.

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