二周目のVTuber   作:石崎セキ

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Interlude_闇医者……

 

 

「医者かて聖人やないぜ。出世もしたい。教授にもなりたいんや。新しい方法を実験するのに猿や犬ばかり使っておられんよ。そういう世界をお前、もう少しハッキリ眺めてみいや」*1

 


 

 収録ブースから出ると、マフィンさんとプラネさんが廊下で立ち話をしていた。

 珍しい組み合わせだが、またとない機会なので、捕まえることにした。

 

「アッ、コドク様! こんばんは!」

「こんばんは~」

 

 小さな声で挨拶される。叫びでもしない限り、ブース内の配信に乗ることはないが、大きい声で話す気にはなれない場所だ。

 

「こんばんは。どういう集会ですか、これは」

 

 二人に挨拶を返すと、私は訊ねた。

 

「じつは、夕日ちゃんの話しててぇ」

「プラっちに、夕立さんの話を聞いてました。あたしのモノマネしてくれたんで、見たら凄い子でしたね~」

「ああ、夕立さん。じつは、夕立さんを使ったドッキリ企画を考えてるんですよ。まだ正式にやると決まったわけではなくて、あくまでも構想の段階なんですけど」

「夕日ちゃんを?」

「それもちょうど、お二人に関係するドッキリなんです。お時間があれば、場所を移しませんか?」

 

 スタジオを移動する。元々は、思い立ったらすぐに配信ができる場として用意された収録ブースだが、メンバーが増加の一途をたどり、今では予約をしないと使うことができない。

 コラボなどではない場合、高価な機材を使えない新人に譲るのがマナーだ。しかし、年に数回の配信のためにASMR機器を揃えるのも馬鹿らしいので、今回は予約をした。

 ライバーのたまり場として自由に使える「コモンルーム」には、幸いなことに、誰もいない。

 三人で腰を降ろすと、マフィンさんが訊ねてきた。

 

「それで、ドッキリですか~?」

「じつは、別々の話なんです。まず、プラネさんから。『天蓋プラネ、←塚コドクと付き合っているドッキリ』です」

「エッ、ワ、私とコドク様が……? 恐れ多いですぅ!」

「面白そうですね~」

「べつに、私じゃなくて、マフィンさんが相手でも構いませんが。ターゲットは、夕立夕日さんと、その相方の古城葵さんです。最初はふつうに企画の話なのですが、プラネさんが愚痴というか、悩みを聞かせます。例えば『最近、彼氏が冷たいの』とか言って」

 

 にへら、とマフィンさんが笑った。

 さすがに頭が切れる。もう気がついてしまったらしい。

 

「ン? 彼氏? 彼女じゃなくて、ですか?」

「最初は誤魔化していたほうがリアルだと思って」

「アッ、なるほど」

「それで、徐々に私と付き合っていることを匂わせて――『じつは……』と、私と付き合っていることを暴露する。そのとき、二人がどういうリアクションをするか。そういうドッキリです」

「さすがコドク様! 面白そうですね! やりたいです!」

 

 お追従ではなく、本気で言ってくれているようだ。

 

「細かい点は、あとで詰めましょう。それで、マフィンさんのほうですが、こちらもドッキリです。夕立さんのモノマネ、あれ結構、リアルですよね」

「ですね~」

「それで、マフィンさんとして新人たちに挨拶させたらどうかな、って思うんですよ。まだ新人に顔見られてないですよね? 夕立さんと楽屋で話してもらって、収録ブースに行くと本物のマフィンさんがいて、ふつうに挨拶をしている。いったい誰なんだ? って、新人たちはビビると思うんですよ」

「お~、さすがコドクさん。面白そうです」

 

 こちらはお追従かもしれない。だが、乗り気でないわけではなさそうだ。

 とりあえず、感触は悪くなさそうだ。

 

 軽くネタ出しをして、雑談をする。

 プラネが次の仕事があると言って――売れっ子なのだ――部屋を出ていったとき、マフィンさんが言った。

 

「様子見の必要は、ないと思いますよ?」

「やっぱりそう思います?」

 

 プラネさんに提案した『天蓋プラネ、←塚コドクと付き合っているドッキリ』は、逆ドッキリの前フリだ。

 本当の企画は、プラネさんが私と付き合っていることを暴露したあと。プラネの話に共感した二人は、自分たちが付き合っていることを告白。ドッキリと言いづらい空気のなか、プラネさんはどう対処するのか。

 

 冷静に考えれば、この企画は逆ドッキリでしかあり得ない。

 夕立さんと古城さんは、二人組で活動している。その片方に知らせてあるならともかく、ふたりともドッキリのターゲットにすることはできない。個人勢に無許可でドッキリなんて、トラブルのもとでしかないからだ。

 

 成功なら万々歳。

 失敗でも万歳。プラネさんなら、逆ドッキリに気づいたとき「(たばか)った? 謀ったな!?」とか言って、大暴れするはずだ。予期せぬ状況で、あの二人がどう対応するのか。それを見ることができる。

 

「あれは多分、アドリブです~」

「どこでそう感じました?」

「コメントの拾い方ですね~。あればかりは、想定できないので」

「私もそう思います。だから、様子見は、できたらいいなくらいの感じですね」

「本命は、シミュレーションです~?」

「それもありますね」

 

 私は頷いた。

 プラネさんのドッキリで学習させて、マフィンさんのドッキリを、より洗練させる。そんな目論見も、確かにある。

 

「ということは、他にも?」

「モノマネばかりさせるのも、失礼でしょう? 古城さんを無視するわけにもいきません」

 

 今後の関係を考えると、演者として軽んじていると思われるような振る舞いは、やめたほうがいい。マフィンさんの「オマケ」扱いは失礼だ。

 だから、美味しくなるような仕事も用意しておく。プラネさんの仕事は、これらの企画をWIN-WINにするための一手だ。

 

 戦略とも言えないような、当たり前と言えば当たり前の話に、マフィンさんは、

 

「それは、気づきませんでした~」

 

 と薄く笑った。

 

 

   ◇

 

 


【緊急雑談】闇医者についてお話しします

6,644 回視聴 2023/08/06に公開済み

 

【関連リンク】

・医師法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

・古城葵Twitter

 

◎切り抜き可

 

「闇医者って憧れません?」

「金次第でどんな手術でも請け負う、腕利きの闇医者ね」

「プチ整形をお願いします」

「それで闇医者にお世話になるの、指名手配されてるときだけでしょ」

「目を、ぱっちりした五重(いつえ)にしてほしくて」

「それ大崩壊だよ。プチ整形の逆」

 

:指名手配のときもプチではなくない?

:五重までいったらぱっちりはしなさそう

:プチの闇医者は普通にいるよ 日本では違法なの入れてくれる

 

「ちょっとお金がないので、水曜に行けば安くなりますかね」

「闇医者にレディースデーのイメージはないな」

「正規価格しかないってことですか」

「闇医者はすべて非正規価格だよ」

「当然お安いですよね」

「当然お高いよ」

「貧乏人は、闇医者にかからず死ねと? 見損ないましたよ」

「貧乏人も金持ちも闇医者にはかからないほうがいい。やることもプチ整形だし」

 

:もうレディースデーは廃止されたぞ

:光医者に頼るしかないか

 

「闇医者に払うためのお金が必要ですね。闇金か、闇バイトにでも行って」

「闇闇闇って、夢見りあむ?」

「闇営業をしている夢見りあむ『ねえPサマ、これ大丈夫なやつだよね? ね?』」

「本気で不安になってる」

「私たちも闇営業してお金稼ぎますか?」

「個人に闇営業とかなくない?」

「闇医者って、どう連絡取るんですかね。テレグラム?」

「ずっと闇バイトの感覚なんだよな」

 

:古城の中で闇バイトが面白ワードになってるの何?

:りあむは病む病む言うけど病み病みは言わない

:テレグラム、ちゃんとしたサービスなのに、闇バイトのせいでイメージが悪くなってて可哀想

 

「話は変わりませんけど」

「じゃあ前置きする必要はないね」

「闇医者との連絡手段って、普通に考えたら紹介ですよね」

「ひとつのルートではありそうだよね」

「繁華街の表通りを抜けて、古いビルの地下に行くと、無表情で人形みたいな看護師が瞬きもせずにこちらを見つめているわけです」

「目じゃなくて首で追尾してくるタイプだ」

「紹介状を見せると、無言で奥に引っ込んで先生を呼んでくれて、目の下に(くま)のできた中年男性が、胡散臭い笑顔で『よく来たね』と言ってくれますよね」

「フランクなほうの闇医者ね。渋いほうじゃなくて」

 

:一気にリアリティーラインを越えたな

:より厄介な闇医者だ

:なんで先輩はついていけるんだ

 

「やあ、君が古城くんが紹介した夕立くん? まあ、座って座って。今日はどうしたの?」

「色々な病院に行ったんですけど、どこも手に負えないって言われて……」

「なるほどね。まあ、彼らも腕が悪いわけじゃないんだけど、表の病院は色々制約があるからさ。こっちは新鮮な臓器とか未認可の薬とか、自由に使えるわけ。治してあげることはできると思うよ」

「本当ですか」

「もちろん、お金は払ってもらうよ。簡単に支払える額ではないけどね。でも安心して。君には素晴らしい体がある。支払いには苦労しないさ。ああ、勘違いしないでくれよ。僕が興味があるのは、君の内臓だ。内臓が必要な金持ちは多いからねぇ」

「いくら……かかるんですか」

「ざっと9万」

「簡単に支払える額ではないけど」

 

:いきなり役に入られるのも慣れてきたな

:具体的な病名を言わない配慮を他に回せないか?

:いけなかない

 

「臓器を抜いても、生活に支障はないよ。万が一、それで具合が悪くなったら、無料でアフターケアも請け負おう」

「いや、払いますよ、現ナマで」

「怯えなくてもいい。人間の体は上手くできていてね、一部がなくなっても、他の部分が補おうとするんだ。命の代価と思えば、安いと思わないか?」

「9万円のほうが安いです、命の値段としては」

「払えるというなら、それでいいだろう。消費税は負けておくよ。ただし、前払いだ。逃げられたら困るからね」

「ああ、はい。わかりました」

 

:アフターケアも万全、と

:10パーセントオフじゃん

:この医者は5500円のお茶を知らなそう

 

「なんだ、前払いに不服かい?」

「そんなことはないですけど。ただ、前払いしたらトンズラされるかもしれないとは思いました」

「ははは、正直だね。逃げるよりオペのほうが簡単さ。僕の腕が信頼できない? 僕はね、この場所で20年続けてるんだよ。充分な設備はなく、看護師も一人だけ。医療ミスがなくとも、治せなければ、クランケ諸共(もろとも)地獄行きだ。そんな世界で20年、場所を変えていない。この意味がわかるかい?」

「失敗したことがないってことですか?」

「まさか。失敗しない医師などいない。僕は、失敗したときに、正しい道に戻す方法を知っているだけだよ」

 

:めっちゃ腕利きじゃん

:俺この闇医者好きかも

:古城をカッコいいと思ってしまったの、不覚だ。殺してくれ。

 

「では、お願いします」

「承った。まあ、眼瞼(がんけん)を五重にするより簡単なオペだ」

「それはやったんですね」

「肝臓と引き換えにね」

「ハイリスクノーレバー?」

「ああ、詳しくは話せないよ。僕は闇医者だが、矜持はある。守秘義務には反せない」

「よく考えたら、べつに聞きたくもなかったです。相方が五重になったうえに肝臓を失った話」

「勿論、そうだろう。知識は乾きを癒やす薬だが、過ぎれば毒となる。何事も、中庸が大事だということだ」

「単純に聞きたくないだけです。闇に触れるからとかではなくて」

 

(まぶた)を眼瞼とか言うディティールはいいんだよ

:腎臓じゃないんだ

:いちいちカッコいいんだよな

 

「オペは3日後だ。それまでに体調を崩すことがあれば、テレグラムで連絡してくれ」

「テレグラムではあるんだ」

「緑でもいいが」

「リアルでLINEのことを緑って言う人はいないですよ。大丈夫? これ伝わる? 出会い系で、LINEって打つとアプリ側に弾かれるから、隠語を使うっていう地味なあるある」

「先輩……信じてたのに……」

「勝手にダメージ受けないでよ。べつに使ってないし」

 

:なんで詳しいんだよ

:ネットやってたら普通に分かるぞ

:古城、黄色交換しないか?

:ダメージを与えると闇医者から古城にフォルムチェンジするんだ

 

 ……

 …………

 ………………

 

「お前らに愛想を尽かしたので、実家に帰ります。来週の土日はお休みです」

「お盆だからね。動画投稿はあるよ」

*1
遠藤周作(1959)『海と毒薬』新潮文庫, 49.

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