二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(40)未来

そして未来は、いずれにしろ過去にまさる。*1

 


 

「朔乃ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫」

 

 遥が、わたしの顔を覗きこんでくる。

 

 舞浜鈴音のライブに行く前、倉瀬に付き合ってもらって練習したが、後ろから腰を掴まれたかのように足が進まなかった。

 なんとかエレベーターの前まで辿り着き、ボタンを押す。

 

 目指すのは、前の周の今日、わたしが突き落とされたホームだ。

 

 わたしは一人で行くと言ったのだが、倉瀬と遥がついてきた。

 倉瀬はともかく、遥は撤収の指示や関係者への挨拶をして、打ち上げにも参加した後だ。見るからに疲弊していたが、体には、大きなイベントを終えた充実感が漲っていた。

 

「その突き落とした人って、どんな人?」

「わからない。見てなかったから」

 

 心あたりはない。ただの通り魔だろう。

 だからこそ、行かなくてはならない。わたしでない誰かを巻き込まないために。無意味と言われようと、偽善と言われようと、それがわたしなりのけじめのつもりだった。二人を危険な目に合わせたくなかったが、人数が多ければ多いほど、ホームの色々な場所に目が届く。

 

「たぶん男だと思う。通り魔は九八パーセントが男だから」

「へえ……凄い確率ですね」

 

 予断を与える危険性はあったが、下手に範囲を広げて見逃すのは言語道断だ。三人しかいないのだから、正確性を求めるあまり、低い可能性に同程度のリソースを割くわけにはいかないだろう。

 

「それに、真後ろから突き落とされたから、前から二番目に並んでいる人。それ以外は基本的に除外していいと思う」

「それなら、かなり絞れますね」

「これは優先度低めでオーケーだけど、電車を見送った人や、スマホを見てない人、二人しか並んでいない列は危ないかも。空いているのに、あえて後ろに来るとか」

 

 無差別殺人では、無差別と言いながら、狙われるのは女子供が多い。わたしが狙われたのは単純に二分の一かもしれないが、とくに女性の後ろは気をつけたほうがいいかもしれない。そのように、いくつかの留意事項を伝える。

 

「了解。じゃあ、私は一号車のほうに行くね」

「あ、じゃあ私は最後尾って言うんですかね、とにかく後ろのほうの車両に行きます」

「いちおう緊急停止ボタンの近くで見張ってくれる? くれぐれも、壁か柱を背にして、ホームの端に近づかないようにね」

 

 わたしに背を向けて歩きだした倉瀬が、くるりと振り返る。

 

「あの……先輩。先輩もですからね?」

「わかってるよ」

 

 命の選択。

 遥や倉瀬の命と、見知らぬ他人の命とを天秤にかけた場合、前者に傾く。

 かつてのわたしだったら、自暴自棄になって、自らを囮にするくらいのことはしたかもしれない。

 

 でも、いまは大丈夫だ。

 

 いまはちゃんと、死ぬのが怖い。

 

 

   ◇

 

 

「来ないですね。いや、いいことなんですけど」

 

 グループチャットで、倉瀬が言う。

 わたしが突き落とされた時間はとうに過ぎていて、日付が変わろうとしていた。

 ホームに並んでいる人は少なくはないが、全員に注意を向けることができる程度に空いている。わたしたちが不審者として通報されないか、不安になるくらいだ。

 

 わたしたちはなおも見張りを続けていたが、日付が変わり、終電がやって来る。

 

「乗りましょう」

「そうだね」

 

 通話を切って、()め息をつく。

 

 何事もなかった。

 

 取り越し苦労に終わったことが、何よりも嬉しい。

 

 最寄駅で降りると、倉瀬が駆け寄ってくる。

 

「先輩、お疲れ様です」

「ありがとう」

 

 遥にお礼ができなかったなと思っていると、階段のほうから遥がゆっくりと歩いてきた。

 

「朔乃ちゃん、都ちゃん。もう終電ないし、悪いんだけど、泊めてくれる?」

「え。今日の主役ですし、タクシー代くらい出しますよ」

「主役タイムは昨日で終わりましたー」

「ていうか高槻さん、確かもっと前のほうの駅でしたよね」

「うん、本当はそうなんだけどね? うっかりしてて、乗り過ごしちゃった」

「わざとですよね絶対!」

「都ちゃんは嫌?」

 

 遥が、配信のときの声に切り替える。倉瀬が一気に鼻白んだ。

 

「う……今日は特別ですからね」

「やったぁ。朔乃ちゃんは?」

「倉瀬がいいなら。結乃……妹の布団でよければだけど」

「リビングをお貸ししますね」

「朔乃ちゃんのお部屋が――」

「リビングを! お貸ししますね!」

 

 倉瀬をからかい、遥は楽しそうにしている。

 

 

   ◇

 

 

 わたしたちの家に帰る。

 わたしと倉瀬はともかくとして、遥は明日も後片づけで忙しいと思うのだが、「関係者に挨拶をするくらいだから」と、妙にはしゃいでいた。

 

「ねえ都ちゃん、動画撮ろ、動画」

「えっ、動画ですか? いいですけど……」

 

 倉瀬が困惑したように同意する。

 

「やったぁ。朔乃ちゃんは?」

「どこにあげるやつ?」

「あ、もしかして、動画ってVTuberとしてですか?」

「そうだよ?」

「そんな、恐れ多いです。登録者数が違いすぎますし」

 

 言って、倉瀬はこちらを見る。

 わたしが舞浜鈴音と共演することに、気を使ってくれているのだろう。

 

「そうだね」

 とわたしは言った。「だから、十万人祝いで公開させてよ」

 

「まだ半分もいってないですね」

「本当は舞浜鈴音に追いついてからにしたいけど、すぐには無理そうだから。あんまり待たせても悪いしね」

「十万って、結構苦労したんだけどなぁ……」

「いまの鈴音なら、そうでもないでしょ」

「いまの鈴音なら、簡単に追い越せる?」

「そうは言ってないよ。越え甲斐があるなと思ってる」

「それはよかった」

 

 

   ◇

 

 

 動画を撮り終わると、遥はうつらうつらとして眠ってしまった。

 

「なんか、嵐みたいな人ですね……」

 

 すぅすぅと寝息を立てる遥を見て、倉瀬がつぶやく。

 

「いつもはこんな感じじゃないけど、ライブでハイになってたのかな」

「鈴音ちゃんっぽくはありますけど……」

「そうだね」

 

 起こさないように、静かにリビングを後にする。

 

 これからは、まったく知らない日々が続く。未来の予測ができない。それが、何よりも嬉しかった。

 

 未来はわからなくても、倉瀬とは一緒にいるだろう。きっと遥とも。

 

 わたしは自分の部屋に入り、サボテンに水をやる。

 

 今日は、よく眠れそうだ。

 

 

   ◇

 

 


【10万人突破記念】特別コラボ!

172,141 回視聴 2024/02/15に公開済み

この動画は2023年10月22日に撮影したものです

 

・古城葵Twitter

 

【特別ゲスト】

・【υPro】舞浜鈴音

・【υPro】舞浜鈴音

 

◎切り抜き可

 

「えーと……その……どうしたらいいんでしょう? ゲストを招くのが初めてなので」

「とりあえず、自己紹介から始めたら?」

「そうですね。どうも、古城葵です」

「その先輩の夕立夕日です。そしてゲストの」

「舞浜鈴音でーす! いやぁ、呼んでくれてありがとね?」

 

:初めて?

:5周年ライブの翌日じゃねーか!!!いや何やってんの?

:こう見ると古城の声けっこう変わってるな

:近年稀に見る初々しさ

 

「呼んだというか呼ばされたというか……」

「もしかして葵ちゃん、あんまり乗り気じゃない? ファンって聞いてたんだけど」

「ファンはファンでも乗り気じゃないファンなんです」

「ドライファン?」

「おー、よく配信で見る掛け合いだ」

「だって鈴音ちゃんって、先輩の昔の女なんですよね」

「言い方」

「そうそう、昔の女。高校の同級生」

「同級生と言ったら、同人誌の間女ランキングで上位じゃないですか?」

「そんなランキングあるなよ」

 

:お前が寝取った側だろうが

:高校の同級生…!?

:この2人がいる高校って何?

 

「日本はランキング王国って言うもんね」

「いつの間に王政になったんだ」

「国民は、めずらしい石のためなら滝だって登っていくこと」

「王政復古のダイゴ令?」

「メイクイーンがいるなら、その反対のメイキングもいるんですかね」

「じゃがいも農家はいつもメイクイーンをメイキングしてるよ」

「メイクイーンの反対は、ノー勉キングじゃない?」

「それはただの暗君でしょ。ノーベンバーのバーは取り外し不可なんだよ。あと鈴音にとっては、半年後が反対なの?」

「ノー勉バーって儲かりそうじゃないですか? 試験前の大学生が集う場所」

「それが儲かる国は嫌だな」

「さよならノーベンバー」

「レイ=ペンバー? うちのチャンネル、ラップバトルみたいな制度ではないからね」

 

:2人がボケだと先輩の負担がデカすぎる

:そりゃノー勉ならやけ酒したくもなるか

:ラップバトルをただの駄洒落だと思ってる先輩

 

「さよならノーベンバーって、何かの漫画にありそうですね」

「十一月を繰り返すループものとか?」

「ありそう……最終話のタイトルは、十二月一日っぽくない?」

「やりますね」

「葵ちゃんこそ」

「勝手にバトルを始めないでくれる?」

「そうですよ。先輩の負担も考えてください」

「小物だ」

 

:さよなら+カタカナはタイトル適正が高い

:なんか理解(わか)りあってる

:おまゆう

 

「負担の総量だと葵ちゃんじゃない?」

「昔のことはどうでもいいんです。問題は今ですよ」

「さっき私に、過去の女がどうこうとか言ってたよね」

「さっきはさっき、いまはいまです」

「その理屈がありなら警察はいらないんだよ」

「警察はいりますよ?」

「その理屈がなしって言ったんだけど、わからなかったかな」

「葵ちゃんは、いつもお世話になってるもんね」

「そうそう、いつもお世話に……って、なに言わせてるんですか」

 

:なんだこいつ

:古城はぶん殴っても忘れてくれるってこと?

:貴重な古城のノリツッコミ

 

「いつも街の平和を守ってくれて、お世話になってるでしょ?」

「言い方ってものがありますよね言い方が」

「私ノー勉キングだからわかんない」

「あの噂の?」

「ガリ勉クイーンの二人にはわからないと思うけど」

「ノー勉キングの対義語って、ガリ勉クイーンとメイクイーンなんだ」

「ってことは、メイクイーンとガリ勉クイーンは同義語なんですかね」

「秩序と混沌、探偵と犯人、ノー勉キングとガリ勉クイーン」

「いっちょ前に秩序の側に立とうとしてる? あとなんか葵のやり口を吸収してるね」

 

:どちらかといえばノー勉クイーンでは?

:舞浜鈴音は夕立夕日の雰囲気と古城葵のボケの二つの性質を併せ持つ

:これすずねんが古城のファンなのでは?

 

「夕日ちゃんの相方になるために勉強したんだ」

「私から先輩を奪うつもりですか?」

「葵ちゃんが私から夕日ちゃんを取ったんでしょ?」

「わたしを取り合って喧嘩するのはやめてくれない?」

「ほんとに迷惑そうにいうのはやめてください」

 

:WSS

:全然ときめいてなさそうな先輩すき

:すずねんが楽しそうで何より

 

 ……

 …………

 ………………

 

「次回は私と夕日ちゃんが……」

「なんで次回もいる気なんですか?」

*1
ロバート・A・ハインライン(2013)『夏への扉』福島正実=訳, 早川書房, Kindle版, 位置No.5113.

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