古城葵 @Kojo_Aoi
いよいよ本日!
#VTuber #VTuberお披露目
https://www.you………………c
新メンバー加入のお知らせ(だーれだ?)
1度しか配信にでたことのないわたしが、いきなりデビューをすると混乱を招く。
そのため、Live2Dを発注している間に、古城葵の配信に何度かお邪魔することになった。
こうして視聴者に慣れてもらったあとで、わたしがデビューする段取りだ。
「近々大事なお知らせがある」ことを要所要所で匂わせつつ、決定的な部分には触れないでおくことで、唐突感が閃きに変わることを期待した。予想が的中した喜びは、わたしへの反感の煙幕になる。
その間に、古城葵のチャンネル登録者数は62人になっていた。
さすがに音質は改善したが、サムネイルやタイトルについてはあえて改善しなかった。わたしが加入する前に、登録者数を増やしすぎたくなかったためだ。
これは、わたしのエゴではない。
古城葵の個人配信を気に入った視聴者が、急にわたしが加入した場合に落胆するかもしれないと考えたからだ。倉瀬は考えすぎだと言うが、わたしには個人勢のライバーに急に相方ができたのに落胆した経験があるので、そういうリスナーが一定数いることはわかる。
待機画面や配信画面、今までの古城葵の切り抜きを作り、初配信を待つ。
あとは……禁煙を始めた。
喉は大事な商売道具だ。かなりつらいが仕方ない。
3月。
そのような準備を経て、ようやくデビューが決まった。
今日がそのデビュー日だ。
正直、何回か出演しているので、今からデビューという実感はあまりない。
それでも、
この回が実質的なデビュー回として繰り返し見られることを考えると、手は抜けない。もちろん、手を抜いていい配信などないけれど。
待機画面には、すでにいくつかのコメントがついていた。
:待機画面がある…だと?
:いったい何輩が加入するんやろなぁ…
:サムネで一瞬ビビった
:待機画面のクオリティすご
案の定、わたしが加入することは筒抜けだった。
待機画面は久しぶりに作ったが、評判は悪くない。今は資金が足りないので、フリー素材を使っている。成長したら、有償で作ってもらいたい。
「もう始まりますね……」
あと1分で始まるというのに、倉瀬はうろうろと部屋中を歩き回っている。
「なんで葵のほうが緊張してるの?」
「……わかりません」
「大丈夫、天井のシミを数えてるうちに終わるよ」
「緊張感が増してきました……」
いつかのようなやり取りを繰り返す。
マイクはオフにしているが、念のため、葵と呼ぶことは忘れない。
残り30秒。
倉瀬が隣に座った。
わたしはいつでもOBSを操作できるように、マウスを握ろうとしたが、倉瀬に取り上げられた。
何か考えがあるようだ。
そして配信が始まった。
「はい、先輩が加入します。これがモデル。名前は夕立夕日。こんばんは、古城葵です」
「ネタバレが早すぎる。さすがに挨拶より先は異端だって」
「ふだんから、いただきますを言う前に食べ始めますからね」
「シンプルに行儀が悪い」
「そしてご馳走様を言う前に食べ終わります」
「ふつうだ」
:爆速発表助かる
:ついに先輩加入ですか、めでたい
:美しすぎる…
:古城!どけ!俺が後輩だ!
さすがにこの状況で水を差すリスナーはいないようだ。
ないとは思いつつも、アンチコメントを警戒していたので、ひとまず安心する。
「じゃあ、ゆっくりモデルを観賞していくんだぜ」
「急な魔理沙」
何回擦られたネタだろうか。
「イラストは、私と同じ、ひかりひより先生が担当してくれています」
「すごく綺麗な絵柄だよね。幻想的で、あたたかみがあって」
夕立夕日は、和装の女の子だ。
顎の辺りまでしかない
眼の色も、髪と同じ蓬色。
髪の向かって左には桜のヘアオーナメントがあり、桜の中心には大粒の真珠が埋めこまれている。他のアクセサリは、耳飾りの真珠と、赤縁の丸眼鏡だが、ボタンひとつで着脱可能だ。
「眼鏡過激派には申し訳ないけど、眼鏡は外せるよ」
と言って外してみせる。
チャット欄は『可愛い』で埋め尽くされた。
「ふだんは眼鏡してませんよね?」
「コンタクトだよ。眼鏡のときもあるけど」
「えっ、見せてください」
「あとでね」
「やった。あおカスは見られない先輩の姿、いっぱい見ちゃお……♡」
「チャンネル主ってBANできないんだっけ?」
「私をBANしたら先輩もBANですよ。私と先輩はヴォルデモートとクィレル先生の関係、つまりは一心同体です」
「もっといい比喩なかった?」
:俺が古城を羽交い締めにする!諸共撃ってくれ
:古城がヴォルデモートですね、わかります
「ええと、これからの配信予定ですが、わたしと先輩の個人配信が週にそれぞれ2回ずつ。土日にチャンネル内コラボを行ないます」
倉瀬が、用意していた配信スケジュールを配信画面に映す。
「うん。葵は月曜日と水曜日で、わたしが火曜日と金曜日だね。基本的には21時から」
個人配信は減らさない。わたしが加入して、個人配信が減ったら反感が生まれかねない。アルバイトで忙しい倉瀬にとっては負担だろうが、この条件は飲んでもらった。その方法なら、仮にわたしが途中で脱退したとしても、個人配信に違和感を与えることはないだろう。
もし厳しくなったら、わたしの存在が馴染んできた頃に減らせばいい。
その他、わたしの加入に伴う必要事項を手短に伝え、配信は終盤になった。
「さて、晴れてカップルチャンネルになったわけですが」
「なってない」
「えっ……?」
「だから、なってない。カップルチャンネルには」
「そんな。……わかりました。じゃあ、今回の配信タイトルは『別れました』に変えます」
「サムネイルがサムネイルだから、本当に破局したカップルチャンネルだと思われるよ」
:クリスマスに先輩のとこに泊まってたのってやっぱり…
:別れることによって事後的につき合ったことにするテクニック 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
「せっかくだし、先輩のハッシュタグとか決めるのはどうですか?」
「いいかもね」
「まずは配信用ハッシュタグをつけましょう」
「そうだね、配信用ハッシュタグの流れで企業案件が決まったりしそうだし」
「えっ、そうなんですか」
「一応、見るんじゃないかな。どれだけ拡散力があるかわかるわけだし」
単なるエゴサーチ用の文化がつづくわけがない。
トレンドに乗れば集客にもつながるし、秀逸なタグはブランドイメージも伝える。「#おいあおい」と「#古城葵定期生配信」の2つのタグがあったとき、コミカルなイメージを伝えるのは前者だし、お固めなイメージを伝えるのは後者だ。
前者は5文字なのに対し、後者はひらがな16文字分もある。どちらのほうが効果的なハッシュタグかは一目瞭然だろう。
:配信でも先輩なのか…
:さすセン、頼りになる
「私、あおカスどもに
「あんまり他のも引っかからないし、これはこれでいいんじゃない?」
「そうですよね! あおリス、ありがとう」
:熱い掌返し
:配信用タグ、「#夕日通信」はどう?
「おい。お前、『おいあおい』を決めたやつですよね。なにまともな候補だしてるんですか」
「夕日通信はいいね」
「そうですよね! いいですよね!」
いくつかの候補がだされ、結局「#ゆうやけ放送」に決まった。
「先輩のハッシュタグ、懐かしい感じがしますね」
「いいよね。そんな経験ないのに、田舎のあぜ道が浮かんでくる」
「『これで地球を終わります』って読み切り漫画があったら、誰もいない田んぼのあぜ道で、町内放送用のスピーカーから『夕焼け小焼け』が流れているコマで終わると思いませんか?」
「ちょっとわかるけど」
「では、時間もちょうどいいので、これで配信を終わります。今回の配信は、古城葵と――」
「夕立夕日でお送りしました」
「次回は先輩のメスガキASMRです」
「絶対やらな――」