二周目のVTuber   作:石崎セキ

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(06)通常配信_子どもって……

 

 

外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している*1

 


 

 わたしがデビューして1週間が経ち、チャンネル登録者数は150人を突破した。

 登録者数が倍増した形だが、わたしがデビューしたことより、わたしがデビューする前に打たなかった手が功を奏したのだ。

 

 具体的には、サムネイルと配信タイトルを工夫した。

 今までのサムネイルには、タイトルがそのまま打ち込まれていたし、古城葵の表情も真顔だった。

 これはこれで面白いが、すでに伸びて配信するだけで宣伝になる配信者がやるならまだしも、わたしたちのような収益化もしていないVTuberが取る手段ではない。

 真顔のサムネイルから、企画に沿ったアバターの表情に変える。サムネイルの文字数を減らし、アバターの顔を大きく映す。

 タイトルも文字数は30文字未満に削り、重要な情報は左に持ってくる。元のタイトルが「150人突破記念雑談!」の場合、雑談することがいちばん重要な情報なので、「【雑談】150人突破記念!」にしたほうが視聴者に親切だ。他の条件を揃えてABテストしないと、具体的な効果はわからないが、たとえ気休めでも工夫はしたほうがいい。

 

 それから、古城葵のTwitterアカウントでの投稿回数も増やした。今までは「アメニティの歯ブラシはグレるのが早い」だの「素直になれないパンダ、ツンツン」だのといった小ボケしか投稿していなかったので、あまりフォロワー数が伸びていなかったのだが、最近ではTwitter経由の動画再生も10件程度ある。

 

 だが、最も効果があったのは、古城葵の昔のアーカイブを切り抜いてショートにしたことだ。ショートの再生回数は、すべての配信の総計を優に上回っている。

 

 わたしとしては焦れったいが、倉瀬は徐々に伸びているのが嬉しいのか、暇さえあればYouTubeのアナリティクスを見て、登録者数の増減に一喜一憂していた。

 

 そんな土曜日のことだ。

 

「先輩、コラボ依頼がきてます」

「どれ?」

 

 わたしは後ろから、倉瀬のスマートフォンを覗きこんだ。髪の毛が倉瀬の首筋に触れたので、「ごめんね」と言いながら掻きあげる。倉瀬がくすぐったそうに肩をびくりとさせた。

 アイコンでは、緑髪の男性キャラクターが証明写真のようにこちらを見ている。少し引きの画像で、拡大しないとキャラクターの特徴が見えづらい。

 

はじめまして

Vやってます(プロフに詳細あります)

コラボできたらしたいです

ゲームコラボとかどうでしょう?

暇な時間教えて下さい

 

「無理かな」

「っぽい感じがしますよね」

 

 できれば控えたい文面だ。

 コラボの依頼は経験を積めば自然と改善されるので、相手がコラボに慣れていないことは一読してわかる。

 悪人ではないのかもしれないが、メリットがない。

 活動が安定してからは、明らかにこちらに利益のないコラボ依頼は、マネージャーに弾いてもらうことにしていたので、こういう手合いへの対処は久しぶりだった。

 

「そもそも相互なの?」

「いえ、DM開放してるので」

「面倒になるから閉じたほうがいいんじゃないかな。登録者は?」

「えーっと……24人です。言いづらいですけど、メリットはなさそうですよね」

「断ろう」

 

 メリットがないうえに、デメリットが多すぎる。

 人気がない相手とのコラボは、視聴者にとっては認知負荷がかかるし、慎重に見極める必要がある。

 炎上リスクが増える、ファンを取られる、視聴者の質が変わる、打ち合わせの時間が取られる、実力を発揮しづらい、とくに異性であればファンに疑念を与える……など、デメリットは挙げきれないほどある。それに、見ず知らずの相手にコラボを依頼する行動力もあるので、誰かとトラブルを起こしそうだ。

 コラボによってつながりができること自体もデメリットだ。VTuber同士のつながりは可視化されるので、チャンネル登録者数に差ができたときに、相手を切り捨てづらくなる。

 

 だから、コラボを誘うときには相手を安心させることが大事なのだけれど。

 この文面では人柄もわからないし、企画趣旨もわからない。

 そもそも、このチャンネルの特徴からいって、ゲームコラボはベストな選択ではない。古城葵に自由に喋らせるのがいちばん面白いのだから、こちらのチャンネルをちゃんと見ているのなら、そういう場を作るはず。

 これからこちらがアイディアを出して、やり取りをつづけていくことを考えたら、登録者数が同数でも確実に断る案件だ。

 

 事務所に所属していれば、こういうDMには「事務所の許可が取れましたら改めて連絡します」と受け流すことができたのだが。

 

「無視もちょっと気まずい感じがしますよね」

「じゃあ、定型文を作っておこうか。後々、必要になるから」

「すごい自信ですね」

「人を見る目はあるつもりだよ」

「……ん゙っ」

 

 倉瀬が咳き込んだ。

 おだてたつもりはないが、褒め言葉に弱い。

 

お誘いありがとうございます。

数ある選択肢の中から、古城葵と夕立夕日を選んでいただき、

嬉しく存じます。

 

ただ2人で検討したところ、

当チャンネルとはブランディングの方向性が異なるため、

お互いの魅力を引きだすことが難しいようにお見受けいたしました。

そのためせっかくのお誘いですが、

今回は辞退させていただきたく存じます。

 

このたびはご期待に沿えない結果となってしまい、

申し訳ございません。

 

今後とも変わらぬご愛顧を賜われましたら幸いです。

 

 嫌味にならないように、それでいて断っていることが明白であるように。文言に私情を挟まず、ビジネス的に断る。

 ブランディングの方向性という玉虫色の言葉は少し誠実さに欠けるが、相手よりは誠意のある対応であると思いたい。

 

「……なんか就活思い出して胃がキリキリしてきました」

「こっちが面接する側だけどね」

「でも、今後はこっちからもいくわけですよね」

「フォローしてくれたり、向こうから話題にしてくれたらね。基本的には、接点がない状態では飛びこまないようにしよう」

 

 一度拒否すると、負い目が生じてコラボがしにくくなってしまう。

 とくに、こちらの登録者数が少なかったからと拒否したあとで、こちらの登録者数が増えたからといってコラボするのは、向こうとしても負い目を感じるだろう。あとから自分のなかで帳尻を合わせるために、「もともとあいつらは気に食わなかった」と脳内で変換されてしまいかねない。

 だから数撃ちゃ当たる方式でいくのは、この場合、やめたほうがいい。やるにしても、ある程度の信頼を得てからだ。

 問題は、信頼を手に入れるためには大手とのコラボ実績を積まなくてはならないことなのだが、しばらくはふたりでの配信を続けていくしかないだろう。

 

 さて、今日も配信だ。

 

 

   ◇

 

 

「先輩とはもう何回か配信してるし、そろそろ子育てのことも考えなきゃ駄目だと思うんですよね」

「付き合うフェーズすらまだだよ」

「それは終わったことにしましょう」

「終わったことにしましょう?」

 

 わたしと話すときは下ネタを絡めなくてはいけないという掟でもあるのだろうか。

 下ネタを減らしていったほうが長期的に見たら得なのだろうが、今のノリが受けていることも確かなので悩ましいところだ。

 

「第一声はママとパパ、どっちがいいですか?」

「パパはいないでしょ」

「じゃあどうやって生まれてきたんですか?」

「知らないよ。終わったことにされたから」

「まあ、でも変わった第一声もいいですよね。『天上天下唯我独尊』か『今度は落とさないでね』のどっちがいいですか?」

「釈迦と洒落怖の二択?」

 

 倉瀬は絶妙に伝わらなそうなことを言う。

 どちらも伝わる視聴者はいるだろうか、とチャット欄を見るが、チャットには反応できた人しかいないから無意味だった。

 

「子どもが育ってきたら、自分がどう生まれてきたかとか聞いてくると思うんですよ。素直にわたしと先輩がまぐわって生まれたとは言えないじゃないですか?」

「どう生まれてきたか、わたしも知りたい。現代の科学を超越してるじゃん」

「常々思ってたんですよ。言い訳をするなら、バレない言い訳を考えるべきだと。コウノトリ? キャベツ畑? 嘘が雑すぎじゃないですか? そこで、マシュマロを募集しました」

 

 言って、倉瀬はマシュマロを表示した。

 

 


【教育】正しい子どものつくり方

 

511 回視聴 2023/03/26に公開済み

#古城葵 #夕立夕日 #切り抜き

 

性教育に関する真面目な動画です。

未成年の閲覧を禁じます。

 

◎出典

・子どもってどう作る?

・子どもってどう作る?

 

◎古城葵Twitter

@Kojo_Aoi

 

◎関連切り抜き

・古城葵ヌケニン集

・古城葵ヌケニン集

・古城葵ヌケニン集Vol.2

・古城葵ヌケニン集Vol.2

 

 

 

AirDropで送られてくる

 

 

「ただの赤ちゃんの写真でも、局部が送られてくるより怖いですね」

「そいつを罰する法ってないのかな」

「キモいだけでは罪にはできないですよ。あおカスが全滅しちゃいますし」

「キモくないよ。大事なリスナーさんでしょ」

 

:は?

:は?

:は?

:そうだぞ古城

:夕日ママぁ…ばぶばぶ

 

「ごめん、やっぱりちょっとキモいかも」

「こいつを裁く法もほしいです」

 

 

 

お隣さんが作りすぎちゃったから、おすそわけしてくれた

 

 

「じゃあ、お隣さんはどうやって作ったんだよ」

「そこはかとなくエロいですね」

 

 

 

サンタさんに届けてもらった

 

 

「これはいいかも。真実を知るのは、サンタクロースが嘘って気づくのと同じくらいだろうし」

「私は最初から信じてなどいませんでしたけどね」

「キョン?」

「夕日、じつはね……あなたのパパはサンタクロースなの」

「わたし、サンタの子だったの?」

「そう、不義の子よ」

「あんまり直接言わないでほしい」

「あれは10年前のクリスマス・イブ。一夜だけの関係だったわ」

「選ぶ一夜を間違えてるって」

「その年のクリスマスだけは、子どもにプレゼントが配られなかったの」

「案の定、大変なことになってる」

 

 

 

工作の時間で教わるよ

 

 

「保健体育で教われよ」

「保健の授業で男子だけ教室に残されていたあれなんだったんでしょうね」

「女子の側でその疑問でることあるんだ」

「このマシュマロですが、キャベツ畑と掛けているのかもしれませんね」

「……あ、耕作?」

 

 

 

なんかぬるぬるしてた

 

 

「ただの感想じゃん」

「でも羨ましいです。最近、肌がカサカサしてきて」

「ただの乾燥じゃん」

「違いますよ、先輩。正解は『えっ、全然気づかなかった! 葵ちゃん肌すべすべしてるし、気にしすぎだよー!』です」

「モテたいわけじゃないから」

 

 

 

目をつぶって触感を確認したり

何百枚何千枚と赤ちゃんを写生したりする

 

 

「クラピカの修行法。具現化系寄りの特質系かな」

「二次創作でよく見ますよね」

「オタクは特質系と両利きとAB型が好きだからね」

 

:うわぁ!急に刃を向けるな

:やめろ先輩、その攻撃は俺に効く

:先輩まで俺達を攻撃しだしたら…

 

「わたしもオタクだからわかるだけだよ」

「先輩ってそんなにオタクですか?」

「わたし? オタクだよ。ワンピとかめっちゃ読むし」

「陽キャの返答だ……」

 

 

 

子供を生みたいカップルが深夜に産婦人科のトイレで合わせ鏡をしながら行為をすると、108枚めに赤ちゃんが映る

 

 

「行為はするのかよ。無駄なホラー要素があったけど」

「この世界の助産師は、(よこしま)を散らすと書いて邪散師(ジョサンシ)と読むのかもしれません」

「ジャサンシじゃん」

 

 

 

勝手にボールに入ってた

 

 

「ヌケニンと同じシステム」

「くっ、ふふふふふ……」

「めちゃくちゃツボに入ってる」

 

:百点満点の笑顔

:こいつヌケニンが好きすぎる

:ヌケニンの登場頻度すご 準レギュラーだろ

:ちゃんとツチニンにも言及しろ

:古城葵&夕立夕日&ヌケニンちゃんねる

 

 

 

俺バカだからわかんねー

 

 

「そんな風に誤魔化す主人公、嫌だな」

「正直に、セックス! っていってほしいですよね」

「それはそれで嫌だ」

「俺バカだからわかんねーけど、AirDropで送られてくるんじゃねーのか?」

「ほんとうにバカだった」

「母さんはそうだったぞ」

「どういう原理?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「次回は『お母さんの仕事はなに?』編でお会いしましょう」

「順調に親としてのキャリアを重ねるな」

*1
穂村弘(2014)『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』小学館, Kindle版, 位置No.260-261.

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