二周目のVTuber   作:石崎セキ

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うちはまだ『この子』でやっていきたい

作戦とか手段とかじゃなくて……

うちにとっては、

もう『この子』も本物みたいなんだよね*1

 


 

 「数字を持った」ゲームがある。

 人気のあるゲームの場合が多いが、人気のあるゲームが数字を持っているとは限らない。

 

 簡単なプログラムを作成することで、「数字を持った」ゲームをリスト化することができる。

 まずはゲームタイトルのリストを入手する。つぎに、リストに含まれたゲームをタイトルに含んだ配信の再生回数を記録する。最後に、そのデータを、各VTuberの全体平均再生回数と比較する。

 たとえば、古城葵のデータで興味深いところを抽出すると、こんな感じだ。実際には、VTuberごとの属性・配信総数・活動期間など様々なデータを取得しているが、煩雑なのでいちいち見ない。

 

タイトル

動画数

動画平均時間(分)

再生数平均

全体平均

伸び率(平均)

Ib

1

166.9

201

189

+6.3

Souls of The Deceased

4

201.8

181

189

-4.2

雀凰

2

72.1

88.5

189

-53.4

 

 葵の場合、最近は動画の再生回数が増えているので伸び率自体はあてにならない。それに、動画本数自体もまだあまりないので、平均値の正確性も低い。

 それでも、表にすると色々なことがわかる。ホラーゲームには安定した人気があること、配信のパートが増えれば増えるほど平均再生数が減ること、ルールの把握が前提となる麻雀配信は伸び悩むこと、そもそも葵の場合はゲーム実況より雑談のほうが求められていること。葵の麻雀配信はとくに下劣で、「チー」と「ポン」でつねに下ネタを言っていたので、ファンでも聞くに耐えないところも少しはあったのかもしれない。

 いずれにせよ、個人の場合は正確なデータからはほど遠いので、お遊びのようなものだ。ここから実践的な教訓を引き出そうとしてはいけない。

 

 信頼のできるデータにするためには、人数を増やすしかない。

 ピンからキリまで3,000人分のデータセットを作り(もちろん自動収集だ)、プレイ人数が少ないゲームを弾き、女性の新人がプレイしたゲームの伸び率を、中央値の降順でソートする。

 

タイトル

プレイ人数

動画数

再生数平均

全体平均

伸び率(中央値)

葬送列車

42

59

192.3

122.1

+41.5

Idol's Route: Uncompleted

33

211

183.4

120.9

+36.1

Starlight Arena

109

343

208.6

145.0

+28.9

 

 3位にバトロワ系のゲーム、2位に育成ゲームときて、トップにはやはりホラーゲームが君臨した。

 

 『葬送列車』の伸び率41.5%は驚異的な数字だ。

 ファンが繰り返し見ているというより、ゲームそのもののポテンシャルが高く、外部からの流入も多いのだろう。どんでん返し的な演出があり、その部分を見にきた視聴者がいるのかもしれない。もちろん、恐怖演出としても申し分ないことだろう。

 

 わたしは、つぎにやるゲームを決めた。

 

 『Idol's Route: Uncompleted』だ。

 

 わたしが過呼吸でも起こして倒れてしまったら元も子もない。

 

 

   ◇

 

 

 『Idol's Route: Uncompleted』、通称『アンドル』はアイドル育成ゲームだ。

 スマートフォン専用アプリで、無料ゲームのダウンロード数では今年のトップ5に入っている。

 

 ファンの人数を増やし、大きな会場でのライブを成功させることが、プレイヤーの目標になる。それができなければ問答無用でバッドエンドだし、「トゥルーエンド」に到達するためには、個別に設定されたアイドルの目標も叶える必要がある。

 そのことを教えるチュートリアルをすませると、何度も引き直し可能なガチャの画面に遷移した。

 

「初見ではあるんだけど……さすがに、この子は知ってる。いつも変なTシャツ着てる子だ」

 

 『柿八年』『注意力』『当選者』『私はお皿を割りました』など、独特なワードが書かれたTシャツだ。ファンアートで、Tシャツの文字で大喜利しているのをよく見かける。

 

:草

:初見です!変なTシャツ着てますね!

:やっぱりそのイメージ定着してるんだ

:星海はいいぞ

 

 チャット欄には見覚えのない名前が増えていた。

 同時接続者数も、夕立夕日になってから2度だけ行った配信よりは多い。ゲーム自体の人気をあらためて感じる。

 

星海(ほしうみ)ちゃんも気になるんだけど、じつは今日は心に決めていた子がいてね。桐山(きりやま)橙里(とうり)ちゃん。全員そうだけど、顔がよくない? ちょっと気弱そうだけど、庇護欲が掻き立てられるというか……」

 

:逆古城

:とうりんに目をつけるとは

:ヒモとかに引っかかりそう

 

 桐山橙里に惹かれたのは嘘ではない。

 伸び率の高いゲームを選んではいるが、それと気になるゲームであることは矛盾しない。集客をあてにしているが、配信である以上、それは当たり前のことだ。プレイするゲームへのリスペクトは当然ある。

 もちろん、好きなゲームをプレイして爆発的な再生回数を叩きだす配信者に憧れる気持ちもあるが。

 

 ――『マネージャーさん……私、アイドルを続けられてよかったです』。

 

 何回か引き直し、期待感を煽るきらびやかな演出とともに、お目当ての桐山橙里を引くことに成功した。

 髪の毛が青いところは古城葵に似ているが、葵が口角を引き締めたクールな感じなのに対して、桐山橙里は頼りなさげな笑みを浮かべている。

 彼女をユニットに編成して、『育成開始』ボタンを押す。

 

 一瞬のフェードアウトののち、渋谷らしい街並みが表示された。

 主人公やモブといった、ボイスがない登場人物に声をあてながら進めていく。

 主人公の一人称や口調を、自分で設定できるのが地味に嬉しい。

 

あなた (あそこにいる子……声をかけてみよう)

あなた こんにちは、お時間よろしいでしょうか。

??? すみません、今忙しいんです。

あなた 私、アイドルプロダクションのスカウトをしておりまして、名刺だけでも……

??? 急いでいるので。

あなた 失礼いたしました……

 

「勧誘失敗かー……。工夫するなら出だしかな。わたしだったら、『急ですみません、ご迷惑ですよね?』って入る。イエスかノーで答えるしかないし、イエスって言われたら『お姉さん正直ですね、迷惑ついでに名刺だけでも受け取ってください』で話を続けて、ノーって言われたら『本当ですか? ありがとうございます。いつも邪険に断られて、自信がなくなってたんです』とでも言って断りづらくする」

 

:これやられて布団買わされた

:営業の参考にします!

:なんで詳しいの?

 

「VTuberだからね、こういうことには詳しいよ」

 

 配信は、漫然と見ているよりも、コメントを打つほうが没入感が高い。だから、経験を積んだライバーは、コメントを打ちやすい発言を心がけている。

 配信者は全員、言葉を疑問で終える、「みんなは〜」と呼びかける……など、視聴者の反応を引き出す方法を実践している。そうしないと配信が盛り上がらないことを、経験的に理解しているからだ。戦略的なものか否かは配信者によるが、これらの技法を使わない配信者はまずいない。

 さっきのようにツッコミの隙を作ることも、視聴者のコメントを促すスキルだ。

 人は間違えを訂正したくなる。漢字の読み間違えのときにコメントが加速するのがわかりやすい例だ。

 案の定、『VTuberだから???』と、コメントの動きが早くなった。

 

 感覚が錆びついていないことに満足しながら、画面をタップする。

 背景が夕方に切り替わった。

 

あなた (今日もだめ、か……)

あなた (また社長に怒られるな……)

??? あ、あのっ! アイドルのスカウトの人……ですよね。

 

 セリフとともに、桐山橙里の立ち絵が表示される。

 気弱そうな、しかし覚悟を決めた声。

 

あなた ……え? あ、はい。

橙里 桐山橙里、21歳です。私をスカウト……してくれませんか。

 

「逆スカウトだ。意外と積極的なんだね。目立ちたがりでもなさそうだし、動機が気になるな」

 

 現代のゲームは、プロがシナリオを書き、何重ものチェックを受けたうえでリリースされる。

 だから、間違いなく面白い。

 であれば、製作者が意図する「正解」を適切に汲み取り、視聴者を「正解」の感情に導くことができれば、配信者の個性がなくてもゲーム実況としては成立する。少なくとも、ゲームに惹かれて見にきた層の顰蹙(ひんしゅく)を買うことはない。

 配信者の個性をベースにしてゲームをするのではなく、ゲームをベースにして配信者の個性を乗せる。そのバランス感覚を持っていないと、ゲームのファンにとってつまらない実況になってしまう。

 

 導入部分が終わり、育成画面に遷移した。

 『トレーニング』『お仕事』『オーディション』のいずれかを選び、シーズンごとの目標を達成していくのがゲームの基本的な流れだ。

 アイドルの目標は達成しなくても問題はないが、プレイヤーの目標は必ず達成しなくてはならない。

 

「なんか、アイドルプロダクションの闇って感じがするね」

 

 プレイヤーの目標は『ファンを1,000人にする』。

 アイドルの目標は『最終オーディションに合格する』。

 最終オーディションではファンが1,000人増えるので、シーズン1は、最終オーディションでの合格を狙えばいいわけだ。

 アイドルのファンはVTuberのファンと違って、定着しづらいと思うが、ゲーム内では1か月で1,000人にしないとクリアできない。わたしたちがマネジメントの対象になっていたら、シーズン1でゲームオーバーだ。

 

 マネジメントに移る前に、わたしは桐山橙里のステータスを確認した。

 アイドルには初期値が設けられている。

 チュートリアルでプレイしたキャラクターは、『歌唱』『ダンス』『トーク』『根性』のいずれも50だった。

 それに対し、桐山橙里は『歌唱』が75、『ダンス』が70、『トーク』が35、『根性』が80。優秀な数字だ。

 

「おお……キャラクターごとに違うんだね。性格が伝わってきていいな。初期値はかなり高いし、アイドルへのモチベーションも高い。トークが気になるけど、橙里ちゃんとならテッペン狙えそうだな」

 

:はい

:そうですね

:楽勝やろなぁ…(にっこり)

 

 新規の比率が高いとネタバレが多くなるな、とわたしは思った。

 詳細はわからないが、なんらかの大きなデメリットがあるのだろう。そうしたコメントには触れることなく、ゲームを進めていく。

 

 シーズンの終わりのオーディションで合格するのに必要な基準は、『全ステータス60以上』だったので『トーク』を重点的にトレーニングしていく。

 『トーク』のトレーニングは『ビデオ分析』で、デフォルメされた桐山橙里が、部屋が真っ暗になるまでテレビを見ながらメモしていた。

 ちなみに、『歌唱』は『ボイストレーニング』、『ダンス』は『ダンストレーニング』と無難だが、『根性』は『滝行』とあり、これだけ妙に浮いている。

 

「うわ……上昇値、低くない?」

 

 さっきのコメントの理由がわかった。

 チュートリアルのキャラクターが15だったのに対し、桐山橙里の上昇値は5だ。

 1シーズンは7ターンしかないので、そのうち5回を『トーク』のトレーニングに回さなくてはいけない。

 

「まあ、根性のおかげで、体力の下がり幅が少ないし……休憩なしでシーズン終わりまでいけるか? ……ブラックみたいなこと言っちゃった」

 

:草

:慣れるの早いね

:アイドルを休憩なしで働かせるマネージャーがいるってマジ?

 

「ブラックといえば、滝行もブラックっぽいよね。逆スカウトに成功して、これからアイドルが始まります、ってときにバスで山奥まで連れて行かれるわけでしょ? それで『これからみなさんには滝行をしてもらいます』って……逆スカウトしたこと後悔しない? まあ根性80もあるから動じないかもしれないけど……周りの子たちはどうなんだろうね。

 『できない人は、いますぐ荷物をまとめて帰ってください。……帰らないということは、やるということですね。では、今から、みんなでいっせいに入ってください。最後まで残れなかった人は反省文。いいですか? 同期のなかでいちばんになって、それで終わりじゃないんです。同期のなかでいちばんになることは第一歩にすぎない。みなさんは、同期のなかでいちばんになった先輩たちと戦って、事務所でいちばんになったアイドルたちと戦うことになるんです。わかったら返事――声が小さい!』……絶対やだな」

 

:やってました?

:パワハラ上手ですね

:絶妙なリアリティ

:山奥まで連れてきておいて荷物まとめて帰れはエグすぎる

:なんで詳しいの?

 

「VTuberだからね」

 

 『トーク』トレーニングを終えると、編成していた『ユニットカード』のイベントが発生した。

 それを読みながら感想を言うのを繰り返し、いよいよシーズン最後のオーディションに突入した。

 

「……ええと、こうかな。敵の動きがよく読めないんだけど……」

 

 ターン制RPGのようなシステムで、スキルを駆使しながら、ユニット全体で敵を倒していく。ユニットのステータスは合算されるが、ユニットのリーダーのステータスは3倍になるので、育成を怠るとすぐに負けそうだ。

 スキルには余計なものも含まれているので、道中でランダムに発生するイベントで、邪魔なスキルを削除しながら進めていく必要がある。

 ライバルのユニットにより、かなり体力を削られたが、無事にオーディションに合格することができた。

 

橙里 ……はあ、はあ。マネージャーさん……やりました。合格、合格です……

あなた やったね、おめでとう!

あなた これで橙里のことを知ってくれる人も増えるよ。

橙里 ……これで、アイドル……

橙里 アイドル、できますよね……!

あなた もちろん――

 

『もう、アイドルだよ』

『これで始められるね』

『凄いアイドルになろう』

 

 選択肢が表示される。

 

「もしかして……アイドル、諦めたことがあるのかな。あ、ネタバレ禁止ね。色眼鏡をかけたくないし。自分の網膜で直接、橙里ちゃんを捉えたいから。初期値が高かったのって、すでにトレーニング済みだったからとか? まずいな、ちょっと沼ってきた。

 まあ、でも、考察はあとにしよう。いまは選択肢のこと考えないと。『もうアイドルだよ』……は、実際そうなんだけど、本人の自意識がアイドルじゃないっぽいから、本人としては、はぐらかされたような気になっちゃうんじゃないかな。『これで始められるね』は、マネージャーっていうより、橙里ちゃん側の心情のような気がする。深読みかもしれないけど、これが本人の心情なら、いままでどんなことがあったのか気になるな……その本人の気持ちに、寄り添ってもいいんだけどね。最後の『凄いアイドルになろう』は……正直、これに近いことを言いたいんだけど、すでに立派なアイドルなんだよって言いたい気持ちもある。マーク式じゃなくて、記述式にしてほしい」

 

 結局、わたしは最後の選択肢を選んだ。

 

橙里 そう、ですね……凄いアイドル……

橙里 目指します。

橙里 夕立さんと一緒に、凄いアイドル……!

 

「始まったって感じするな……。二人称、夕立さんに変わったし……やっと心を開いてくれたというか、いままではアイドルに集中していたけど、こっちに目が向いてきた感じ。期待に応えるためにも、頑張ってマネジメントしたいよね」

 

 ゲーム画面の『目標』に、『達成』の花丸スタンプが押される。そのスタンプが、画面右上の『親愛度』ゲージに吸い込まれ、1だった親愛度が2になった。

 シーズンごとの目標をすべて達成すると、親愛度が上昇する仕組みになっているようだ。

 今期の目標が表示される。

 

 プレイヤーの目標は『ファンを5,000人にする』。

 桐山橙里の目標は『マネージャーに秘密を打ち明ける』。達成条件は、『歌唱・ダンス:共に??以上で、両方のトレーニングを終了』だった。

 シーズン終わりのオーディションではファンが3,000人上昇するだけなので、条件はよりシビアになっている。ファンが3,000人も増えるイベントがあるなら、わたしもぜひ、オーディションを受けたいが。

 

 桐山橙里の目標を達成するために『歌唱』を押したわたしは驚いた。

 

「えっ……0? 0ってなに?」

 

 歌唱のスコアが、まったく上昇しなかったのだ。

 

:まったく効果ないw

:ようこそこちら側へ…

:これどう達成するんだ?

 

「ダンスも0かー……」

 

 ダンストレーニングもまったく効果がない。

 ファン人数が上昇の条件になっているのだろうか、と考えたところ、イベントが挟まった。

 

トレーナー 夕立さん。

あなた あ、はい。お疲れさまです。

あなた どうですか……うちの桐山の調子は。

トレーナー よく頑張っています。でも、少し変な癖があって……。

あなた 癖?

トレーナー はい。何か、トレーニングを積んだ形跡があります。

トレーナー 桐山さんの経歴について……夕立さんは、心当たりがありませんか?

あなた いえ……本人に確認しておきます。

 

「変な癖か……足音を殺して歩くのかな」

 

:桐山橙里キルア概念

:家庭の事情で電気を浴びてそう

:こんなに可愛いのに、スカウトのときにマネージャーに気づかれてなかったのって…

 

 場面が暗転して、夜の事務所に切り替わる。

 不安そうな顔の桐山橙里に、マネージャーが切りだした。

 

あなた 最近の橙里について、トレーナーさんと話した。

橙里 ……。

あなた よく頑張っているって、褒めていたよ。

あなた それで、どこかでトレーニングしたことがあるのか、私に聞いてきた。

橙里 ……っ!

あなた 橙里が言いたくないなら構わない。でも、

 

『信じてる』

『いつか教えてほしい』

『教えてくれたら嬉しい』

 

「『信じてる』って……疑ってるときの言葉じゃない? いや、マネージャーにも思うところはあるんだろうけど……。『いつか教えてほしい』……うん、そうだね。これがいちばん本人に寄り添ってる気がする。『教えてくれたら嬉しい』は、ちょっとズルい気がするからな……」

 

 わたしは『いつか教えてほしい』を選択した。

 

橙里 いつかではなく、いまお話させてください。

橙里 じつは……

橙里 じつは私、アイドルをしていたことがあったんです。

橙里 トレーナーさんがおっしゃったのは、そのときの癖だと思います。

橙里 頑張ったんですけど、才能がなくて。当時の社長さんから、辞めるようにって。

橙里 それが悔しくて……大学を卒業する前に、やり残したことはないかなって考えたんです……。

橙里 オーディションに何度も落ちて……でも、またアイドル、やりたかったから。

橙里 夕立さんに声をかけました。

あなた 教えてくれてありがとう。橙里の熱心な思いが伝わってきたよ。

あなた アイドルにひたむきなところも。

あなた 悔しい思いをして、いままで努力してきたことも。

あなた アイドルとしての、橙里の魅力だと思う。

あなた だから、止まらずに歩いていこう。

あなた 凄いアイドルになるためにね。

橙里 ……はいっ……!

 

 それは。

 アイドルという居場所を失い、

 オーディションにも何度も落ちて。

 それでもまた、アイドルを目指そうとする女の子の話だった。

 

:先輩泣いてる?

:意外と涙もろいの可愛い

:初見の反応か?これが…

:この段階で泣いてたら最終話どうなっちゃうんだ

 

「……泣いてないよ。ちょっと言葉につまっただけ。君たち、ちょっとデリカシーないな……。こういうときはそっとハンカチを渡すんだよ」

 

:泣いてんじゃん

:先輩の「君」呼び効く……

:ハンカチ渡すから住所教えてくれ

:先輩の涙を拭いたハンカチ、ください

:古城いて草

 

「葵も見てるの? やだな」

 

 わたしに活動を見られた倉瀬もこんな気持ちだったのだろうか。

 舞浜鈴音のときは、VTuber仲間に活動を見られたことはあったが、知り合いには活動名義を伏せていた。

 倉瀬はVTuber仲間としてよりは、大学の後輩としての印象のほうが強いので、個人配信を見られるのは恥ずかしい。

 

 しかし、配信を中断するわけにもいかない。

 画面をタップすると、桐山橙里の『マネージャーに秘密を打ち明ける』という目標に『達成』のスタンプが押され、『歌唱・ダンス:共に70以上で、両方のトレーニングを終了』と『??』の部分が明らかになった。

 

「これ、どうやって育成すればいいんだろう? 歌唱トレーニングは……やっぱり0か……。たぶんダンスも同じだよね。……あ、トークはまだ伸びる。根性も……少しなら伸びるね」

 

:バラドル路線か?

:初見で桐山橙里選んだ人ってこうなるんだ

:アンドル1ピーキーな性能だからな

 

「ステータスの低さをスキルで補うしかないかな……。直接攻撃のスキルを削って、トークと根性にパラメータを振る。『食いしばり』で体力を保ちながら、『ハツラツトーク』で『食いしばり』分のSP(スキルポイント)を稼いで、『リベンジ!』でダメージ分の攻撃を相手に与える。……もしかして、自傷スキルと組み合わせろってこと? アンドルさん、これがあなたのやり方ですか?」

 

:そうですが…

:一瞬で最適解だしててすごい

:アンドル運営は悪魔

:タンク役…ってコト!?

 

 これより適切な手段がないなら仕方ない。

 スキルを削るイベントで『リベンジ!』以外の攻撃手段を削除しながら、シーズン2を終えた。

 ようやく半分に到達した形だが、すでに配信開始から1時間が経っている。

 わたしは水分補給をして、後半戦に備えた。

*1
Bandai Namco Entertainment Inc.「【いるっしょ!】和泉愛依」『アイドルマスターシャイニーカラーズ』https://shinycolors.enza.fun/

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