デュエルマスターズ~クソゲーハンター、クソカードを駆る~ 作:Saz_a_Nami
不利をひっくり返して勝つ。
王者たるにはどちらも狙えることが大前提である。
黄昏が覗く。遠くの空は茜に染まり丘陵を風が撫でる。窪地の底、森に囲まれた開けた広場は足元に薄く水が広がっている。大地の広さを感じさせる風景を前に俺たちは息を整える。俺たちの間には静かな緊張感に満たされている。
どこからか現れた見覚えのある魚人と菌類染みた生物、そして武装した牛男が周囲を取り囲む。現れたそれらはじわじわと包囲を狭めるようにこちらに迫ってくる。
「おい、カッツォ。まだなのか。結構増えてきたぞ」
一人先走ってきた牛男の攻撃を受け止める。膂力はこちらが上だ。弾き返して無防備になった脇腹を斧で切り裂く。呻く牛男に上段蹴りを食らわせ転ばせたところを脳天に一発いれてカチ割る。
っち。微妙に手数を割かされる上に足元に張った水のせいで体力が余計に持ってかれる。
「まだだ。頭数を減らすのにマナを使い過ぎたら一気に食い破られる。やるならできるだけ多く巻き込めるようにぶつけたい」
ドゥエカッツォは広場の一角、
「まぁ落ち着きなよ、サンラク君。頭が犬になったのに待てもできないのかな?」
あぁ?得体の知れねぇ魚もどきが犬様に雑魚の狩り方を講釈垂れようとしてんのか?おぉん?
突沸しそうになった思考を押さえつけてクリーチャーの包囲を見る。取り囲まれているが密度でいえばまばら。確かに一度に巻き込んで倒すには不満がでそうなぐらいだ。
「でもよ、少しずつこっちは削られてるじゃねぇ。あっちは徐々に戦力を増やしてきてる。アクアハルカスの水弾が鬱陶しくねぇか」
「それは確かにそうだねぇ。防御の用意はできていても、向こうの攻撃の用意の方が早かったら苦しくなーい」
近寄ってきたキノコに少し手間取りながらも溺れ死なせたペンシルゴンがカッツォに投げかける。張り付いたようなにやけ面は何かあくどいことを思いついた時のものだ。言葉を待つカッツォにペンシルゴンが言う。
「サンラクを突っ込ませない?」
は?
「いいね」
は?
「ならスクラッパー打つからそれに合わせてサンラクを射出してやって」
「オーケイ」
俺を置き去りに話がトントン拍子に進んでいく。待てや。確かに急かしたのは俺だが射出するってのはどういうことだ。それで通じるってことは事前に打ち合わせもしてやがったな。
見るとカッツォとペンシルゴンがいやらしい笑顔でこっちを見てきている。
「いくぞ、ペンシルゴン。削り殺せ、地獄スクラッパー!」
「よし来た、飛んでけーサンラク!」
スプラッシュクイーンという種族はアストラルリーフやアクアハルカスと同じ水文明の種族である。あれらもそれほど強力ではないながらも、ある程度の水を扱う術を持っていた。話は変わるがスプラッシュの大ボスに当たるマーシャルクイーンは津波を生み出すことができる。つまりどういうことか。
比較的貧弱なプレイヤーの能力でも
「ちょ、待てまて、説明しろ。何をするかは分かるが説明しろ!」
「犬の蛮族一名様、空の旅(放物線軌道)にご案内ー。着地にご注意くださーい」
「ぬぐぅぉ」
腰に絡みついた水が俺を持ち上げ投射する。これ放物線どころか低空弾道ミサイルとかそっち系じゃねぇか!
顔に急激なGがかかる。人間魚雷さながら真っすぐにすっ飛ぶ俺をクリーチャーたちが呆然と見上げている。包囲を飛び越えて湯気の方へと一直線なわけだ。これ捨て石にされたわけじゃねえよな?
途中俺を撃墜させようと飛び上がってきたアクアハルカスに似たサーファーを迎撃して撃ち落とし、空中で体を半回転させて足から着地する。水飛沫が上がり無様に転がるがダメージは最大限抑えられた。ヘリから飛び降りて鍛えた受け身術だ。仕込みが違う。
心の中でどや顔を決める俺はふと気が付いた。
「湯気がでてるからそこだけ沸騰するぐらい熱くなっていると思っていたんだが、思ったほど熱くないな。これは、なんというか…温泉か?」
湯気の中に影が見える。湯から上半身だけだして縁に背中を預けている、極めてリラックスしたような姿勢だ。
影の目に当たる部分が光ったような気がした。
「うげ、やっべぇ」
湯があふれ出てくる。慌てて距離をとり洪水のようなあふれた水を躱す。しかし、でかい。クリスタルランサーもでかかったが、それよりも一回り大きく且つ流麗なフォルムをしている。その強大さを直観させた。
「今の今まで温泉でくつろいでやがったってのか、ボルバルザーク!」
闘志を漲らせる。シンプルにむかついたね。こっちはじわじわ押される状況に苛立たされてたってのにこいつはトカゲのくせして悠々とくつろいでいたってのか。しかし、そんな俺の気勢とは裏腹にボルバルザークは俺を見ていなかった。俺の後方、地獄スクラッパーが唸りを上げる包囲網の方に意識を向けているようだ。
あぁ、そうかい。俺は脅威じゃねぇってのか。ならお前もを苛立たせてやるよ。鬱陶しい子犬が絡みついて、じわじわと嬲ってやる!
「大地よ、記憶を起こし、顕現させよ」
へ?やたらと渋い声が聞こえた。今、ボルバルザークが喋ったのか?
シャンフロでは当たり前のようにNPCたちが軽口やら事前に設定されていないようなことを喋る。しかしそれはシャンフロが極めて特異な軍事用コンピュータにも匹敵する三幹七枝でもってNPCの性格、行動をシュミレートしているからであり、シャンフロには全然及ばないこのゲームではキャラクターが喋るのはいくらかの条件が定められておりその内容も限定的である。
例えばイベントムービー時、怯んだときや形態変化時、あるいは
「来たか。ペンシルゴン、はやく雑魚を片付けるぞ」
神秘的な気配が満ちる。地面からマナが湧き出し海ボタルのような光が立ち上る。足首までが浸かるほどの水が張る広場、そんなものが森の中に自然に存在する訳がない。ここは自然文明の儀式場、母なる大地の力を呼び起こす。
「少し残すことになりそうだね。カッツォ君、いけそうか?」
苦い顔のペンシルゴンにカッツォも顔を歪ませる。彼の見立てでは中々に苦しいものがあるらしい。
「少し厳しいな。もう少し減らさないと耐えきれないかもだ」
だよね、と同意しながらギガ・ホーンにとどめを刺す。溢れるマナに導かれ双砲の翼竜や白鎧の竜など強靭なクリーチャーの加勢が現れるだろう。それらと処理しきれなかった雑魚を並べられたときに、猛攻を跳ね返すのは厳しいだろう。
カッツォの頭にレガシーモードの隠し要素に当たるフレーバーテキストが思い起こされる。
曰く、無双の竜が力を振るうのは負けを跳ね返すときか、勝ちを確実にするときかだ、と。
「最初から勝てるとは思ってないさ。ただ、最後に勝てれば問題はない」
基より厳しい戦いになるのは分かり切っていた。トライ&エラーが大前提なのだと。悠然と構えるヒューマノイドにペンシルゴンはどこかつまらなさそうな目を向けていた。
鉄砲玉は違和を感じながら花火になった。
プロは湿気てしまっている。
愉快犯は刺激を求めている。
愉快犯は脇役だけでは満足しない