デュエルマスターズ~クソゲーハンター、クソカードを駆る~ 作:Saz_a_Nami
でも真面じゃないので
無果洛耀の古城骸を思い起こす薄暗い石畳。通路を僅かに照らすのはマナの残滓で、スノーフェアリーたちが遊んだ名残だ。ここはシャンフロではない。苔蒸したような臭いもせず石畳のひび割れはいくらかのパターンをランダムにつなぎ合わせたもの。シャンフロのリアリティーとは比べるほどでもないが、しかし危険なミステリアスさは十分に感じられる。
そんな遺跡の中を、俺たち旅狼メンバーはペンシルゴンを先頭に奥を目指して進んでいた。
「サンラク君、もしクリーチャーを見つけてもヴォーパルバニーみたい突っ込まないでね。もし勝手に戦い始めたら私たち、置いて先に行っちゃうから」
「あ、あの、ペンシルゴンさん。その、わざわざ言わなくても大丈夫だと思いますよ?」
ペンシルゴンの軽口にヒトに成り損なった女性のような見た目のアバターが俺を伺うように見ながらとりなすが、刀を腰に提げた狐のぬいぐるみのようなアバターが茶々を挟む。
「いや?どうだろうね。サンラクってばかなり狂暴で卑怯なハイエナみたいな奴だから、都度言って聞かせないと急に走り出すかもしれないよ?」
あ?幕末では漁夫の利天誅は基本だろうが。郷に入っては郷に従う。あそこに適応したお前が言っても薄っぺらいぞ。
「確かに!サンラクさんって脈絡のない行動を時々しますよね!なにか考えあってのことだと思いますが」
秋津茜の言葉に苦笑いを浮かべるカッツォとペンシルゴン。興味無さげなルストとその隣のモルド。レイさんはあせあせとメンツを見回し京極は愉悦をこらえているのが見える。
だれもフォローを入れない。やはりこのクランは光属性には勝てない属性:悪、混沌なのだろうか。おのれカッツォ、今度魔境に泥酔した写真を載せてやろう。
何か嫌な予感を感じたのかカッツォが口を開く。
「まぁ、真面目な話、ここではサンラクの出番はないからね」
カッツォの言葉と同時にルストが担いでいたレーザー兵器が火を噴く。曲がり角から顔を覗かせた妖精が撃ち落とされ、モルドの追撃によりとどめをさされる。ここまで何度か繰り返したことだが俺とカッツォは顔を見合わせる。
しばらく近接の仕事はなさそうだ。
非力な雑魚を払い、時折次元の裂け目から現れるクリーチャーを近接メンバーで袋叩きにしながら俺たちは遺跡の深部へと足を踏み入れる。
そもそもがこの邪帝遺跡ボアロパゴスは先日挑んだバトライ閣の同類であるドラグハートとよばれるものらしい。その割には道中の圧力というかなんというか、強敵感がなかった。ただそれは同時にボス戦前の
ちょっと前に戦ったボルバルザークのように、序盤、中盤、終盤のどこでも隙がないように構える王道とも言えるステージではなく、序盤、中盤を一足飛びに駆け上がりいきなり終盤へと差し掛かろうとしているのだろう。その証拠とでも言うべきか、目の前に聳える遺跡の最深を塞ぐ扉は禍々しい邪悪な龍を象り、先に進もうとする者を拒んでいる。
「さて、ボス戦に入る前に今回のおさらいと行こうか」
例によって巨大サイズな扉を前に、自然と横一列に並んだ俺らを振り返ってペンシルゴンが言う。
「秋津ちゃんとレイちゃんと京極ちゃんは知らないだろうけど私たちはバトライ閣に挑んだのね。そこで手も足もでないくらいにボコボコにされたので、類似した体験で慣れていこうかと思います!」
「京アルティメットだよ」
「ゼロです」
ペンシルゴンの宣言にはいっ!と元気よく手を上げる秋津茜。約二名からの不満は聞き入れない。
「どうしてここで練習するんですか?」
「うん、いい質問だね。ここまで来たときも思ったと思うんだけど、ここって最深部に来ること
秋津茜に続いて京極が手を上げる。
「どうして慣れる必要があるんだい?君たちが弱かっただけじゃないのか?」
「うん、落第だね。ということでみんなー、突入ー!」
まばらに返事を返す俺らを後目にペンシルゴンは洋々と扉を押す。質量差を超えてゆっくりと扉が開いていくのはゲーム的都合だろう。京極の泣き言を意図的に無視して俺らは前を向く。
果たして扉の先に現れたのはいかにも原住民たちの儀式場とでも言わんばかりの儀式場であった。自然素材で飾り立てた爬虫類肌のヒト型が祈りを捧げるように部屋の中央で跪いている。そいつの先に見える祭壇の上には雑多な服装の魔術師と妖精の亡骸が載せられている。見たまま、生贄に捧げられようとしていた。
爬虫類肌は静かに立ち上がり、横に寝かせていた邪悪な斧を持ち上げると奇妙な音を呟き始める。文明的な、規則だった言葉ではない、獣が扱うような唸り声。途端に亡骸から怪しい光が沸き上がり始める。各文明の色を煮詰めたようなくすんだ白色。爬虫類肌も浮かび上がりこちらへと向き直る。
「来るよ!」
ペンシルゴンが気を引き締めるように声を張る。徐々に大きくなる唸り声と共に祭壇に眠る妖精の亡骸が動き出す。まさしく邪法と呼ぶにふさわしい、生物がもつ能力への毀損を感じさせる。宙に浮く光が集まり、クリーチャーの形をとる。
戦いが始まった。
斬り、薙ぎ、蹴とばす。無尽蔵に襲い来るクリーチャーを一定のラインを踏み越えさせない京極の働きは見事と言えた。しかし、見事ではあるものの状況の打開には寄与しない。クリーチャーを進ませないということは、言い換えれば押し返せていないということでもある。反撃を恐れず愚直に襲い掛かる集団への対処は殲滅以外にあり得ない。
「く、っそ。キリがないじゃないか!」
こんな悲鳴をあげてしまうのは京極の未熟さが原因ではない。彼女の視界の隅で、倒したクリーチャーの死体がくすんだ白の光へと還り、新たなクリーチャーを作る光の一部になっているのが見えたからだ。故に押しも押されぬ攻防を維持する京極の働きは見事と言える。
しかし、時間の経過と共に不利は大きくなっていく。
「あぁ、もう!ペンシルゴン!バフが切れた、掛けなおして!」
「無理!
そんなバカな、と呪文を早口で唱えるも発動する素振りを見せない。視界の隅に移るマナの量を示すゲージがいつの間にかゼロではないものの灰色に染まっていた。
デュエルマスターズサーガは本質的にはアクション、というよりもアクションタワーディフェンス、と表現するのが適切なジャンルと言えるゲームである。自身の体力をクリーチャーの召喚や呪文の行使により守りながら敵の殲滅、あるいは目標の達成を目指す。故にマナの行使がシステムによりロックされる、というのはゲームデザインに致命的な破綻をもたらす仕様と言える。
これを公式の用語で
「京極ちゃん!そのままで頑張って!ほら、サンラク君とカッツォ君のバフはとっくに切れてたけど凌いでるよ、だから大丈夫だって」
うおおおお、死ぬぅうう!だとか、ループって、どう考えても仕様としておかしいでしょっ!といった悲鳴が聞こえる。どう考えても平気そうではない。クリーチャーを蹴散らす合間に再びペンシルゴンの方を向くとサムズアップをこちらに向けていた。
「恨むぞペンシルゴンーー」
阿鼻叫喚の戦いはもうしばらく続いた。
疲れた。もうすっごい疲れた。こんなに疲れたのはいつぶりだろうか。打倒ゴルドゥニーネに向けた年末強行軍以来か?いや流石にあっちの方がしんどかったが。
あれから繰り返して挑むこと三回。すっかり疲れ果てた京極はしなびたほうれん草のようになっているし秋津茜も普段の元気さが陰っているような気がする。ルストに至ってはは自身の体を鑑賞して恍惚としている…いや、ルストはちょっと違うな。
ともあれ中々にしんどいと言える負荷の戦いだった。途中ガラムタに片手で投げられて頭からクリーチャーの群れの真ん中に刺さったカッツォの死にざまには笑えた。
「ねぇ、サンラク。君たちが挑んだバトライ閣ってこれよりしんどかったの?」
「まぁそうだな。無限ループに入った後はこれよりもでかくて強いやつらが同程度の量襲い掛かってきたらしいぜ」
「らしい?サンラクは戦ってないの?」
俺は首を振り、空を指さす。
「あいつ⤴?幕末じゃないのに?」
「いや、星が凍てつく波動(解除不可の石化バージョン)を放ってきたらしい。知らずに脱落」
うへぇと漏らすと京極は胡坐を解き立ち上がる。狐のぬいぐるみだから、てちてちと音が鳴りそうだ。
「サンラク、せっかくだからこの後幕末しない?レイドボスさんに挑みたくなっちゃってさ」
凛々しく誘う京極に俺は笑顔を浮かべながら答えた。
「おう、やってやろうぜ。今ならいけそうな気がするぜ!」
さて、丁度いい憂さ晴らしが見つかったな。
「サンラクはどこだーー!」
幕末は今日も平和です。
デュエキング足る実力なれば、反撃を許さず抑え込むことも能う。
え?ヒロインちゃんのセリフ?
知りません