人外Vtuber達とギリ人間スタッフさん   作:ヤミナギ

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第6話 集合

 

 食事をご馳走してくれるという後輩の言葉にほいほいとついて行くが、案内されたのは普通にビルの中だった。

 

 スタジオがある階の二つ上の階。

 

 そこにある一室に入ると、そこは食堂だった。

 

 社食? 等と考えていると、楽しげな声が聞こえる。

 

 そしてそちらに視線を向けると、白黒の天魔コンビが仲良く料理をしているところだった。

 

 

「今日は二人が担当だったかしら」

 

「そうだよ楓。今日は白いのと私」

 

「トワ。白いの呼ばわりは辞めて下さいと何度言えば……」

 

「配信中でもないのに、お前と仲良くする義理はない」

 

「配信中でも仲良くされた記憶はありませんが」

 

「当然。お前といつだって仲良くするつもりはない」

 

「ええ、私もです。ですが、天拳様の前でそのようにはしたない姿をさらすのはどうかと」

 

「魔拳だって私たちが仲良くしているのを見たら自分の正気を疑うだろうから、これで良い」

 

 

 訂正。全く仲良く料理していない。普通に仲が悪かった。

 

 それでも、お互いの事をよく理解しているのは間違いないらしく、手際よく調理を進めている。

 

 料理と言えば男料理しか出来ない僕にとってしてみれば、鮮やかな手並みは憧れそうになるが、ちょくちょく挟む小競り合いのような喧嘩が、その憧れるという感情を相殺していた。

 

 そんなことよりもだ。

 

「天拳だの魔拳だの恥ずかしい二つ名はやめない?」

 

「……えー。真っ当に事実だからいいじゃん」

 

「こればかりはトワに賛成です。天拳様を天拳様以外にどうお呼びすれば良いのか、私の中の語彙力では表現する手法がありません」

 

「いや、普通に田中なり勇なり、僕の名前を呼べよ。何の為の名前だよ」

 

「ふむ」

 

「普通すぎてやだ」

 

「普通で良いんだよ、普通で。何を求めて特異な名前で呼ぶ」

 

「ですが、私たちの配信にも出ていただく以上、本名をぽんぽん出すというのはどうかと」

 

「いや、あんまり出る気はないんだけど」

 

「アクターとしてはともかく、スタッフとしては出て貰う機会なんて幾らでもあると思いますが?」

 

「それにしても天拳とか魔拳とかやめて欲しいんだけど」

 

「むむむ、強情だね魔拳」

 

「強情にもなる。恥ずかしいからな」

 

 

 そういう僕の言葉に二人は理解できないという風な顔をした。

 

 いや、二つ名で呼ばれるとか恥ずかしいに決まっているだろうに。

 

 スタッフとして出演する時が来ても、天拳とか魔拳なんて二つ名で呼ばれたら、僕は出演を取りやめて家に帰ること間違い無しである。

 

 

「いいから、そう呼ぶのはやめてくれ」

 

「えー」

 

「そう言われると余計に呼びたくなってしまいますね」

 

「天使が人のいやがる事をするんじゃない。天使だろ、お前」

 

「人の嫌がる事を進んでするようにと習いましたので」

 

「意味が違うんだよなぁ」

 

「私も習ったよ」

 

「お前の場合はあってるから始末に困る。……とにかくやめてくれ」

 

 

 ぐだぐだと会話している中でも手を止めない二人を見ながら僕はやめるように懇願した。

 

 いや、呼び方くらい良いだろうに。何で二つ名呼びにこだわるのかよく分からない。

 

 

「それじゃあ、配信中はなんて呼べば良いの?」

 

「何でも良いよ田中さんでも勇さんでもそれこそ呼び捨てて貰っても構わない」

 

「ちなみに私は先輩呼びです」

 

「燃えそう」

 

「まあ、燃えるでしょうね。ですけど、男のスタッフなんて確実に燃える案件なのでその辺りは織り込み済みです。現にもう燃えてますし」

 

「早いよ。僕が出演したのってこの二人と狐の時だけなのにもう燃えてるの? しかもやったの仲裁と突然吹っかけられた無茶ぶりだけなんだけど?」

 

「それでも燃えるのがこの世界です」

 

「ふふふ、人の悪意の粋が集まるのがこの世界。この悪意を煮詰め黒き漆黒となりて降臨したのがこの私、魔霧永劫様なのです。あ、私の分からはピーマン抜いてねシロ」

 

「故に滅ぼさねばならない。この世の悪意に対するカウンター。純真無垢たる光の具現。それがこの私、天上白亜です。ピーマンは体に良いので全員の分に入れますよ、トワ」

 

「ころちゅ」

 

「やりますか?」

 

「火を使っているときに暴れるんじゃない。火事になったらどうする」

 

「既に炎上しかけている魔拳には言われたくない」

 

「ふふ、そう言ってはなりませんよトワ。天拳様だって燃えたくて燃えているわけではないのです。その傷ついた心を癒やしてあげるのが我らの役目。違いますか?」

 

「付け入るの間違いじゃない?」

 

「似たような物です」

 

 

 こいつら。

 

 握り拳を作ると二人はそそくさと厨房のコンロの前に仲良く並んだ。

 

 そして火を扱い出す。

 

 IHではなく、普通のガスコンロをこのキッチンでは採用しているらしい。だから、僕は彼女たちに拳を振り下ろす事が出来なかった。

 

 火を使っているところに手を出すのは危険だから仕方ない。

 

 仕方のない二人にため息をつくと、二人はクスクスと笑いながら中華鍋を振るっている。

 

 

「……え? 洋食じゃないの?」

 

「青椒肉絲だよ。ピーマンと豚肉千切りにしてる時点で気付くでしょ」

 

「殿方は料理をしませんから、気付かなくても仕方ないのです。あまり攻めないであげましょうトワ」

 

「いや、そういう意味じゃなく。お前ら天使と魔人なのに?」

 

「ぷぷぷ。魔人だからって洋食しか作れないわけないじゃん。料理くらい勉強すれば誰でも作れるよー」

 

「天使に対して偏見とはひどいですね天拳」

 

「もう、何でもいいや」

 

 

 二人の相手をするのに疲れた僕は、こちらを見てにやにやしている後輩のとなりに腰掛けた。

 

 だだっ広いテーブルで頬杖を付きながらこちらを眺める後輩の視線に対して、どういうつもりかとがめる視線を送ると、彼女は肩をすくめてその視線をやめた。

 

 いや、そもそも何であの二人が料理なんてしているのか、社食だったら料理人雇えよとか色々と言いたい事はあるが、その全てがどうでも良くなってきて冷たい机の感触に身を任せる。

 

 

「聞かないんですか?」

 

「どうせ、適当な思いつきだろう? 俺に何かしらの関係があるのか?」

 

「勿論。スタッフとしては知っておいて欲しいです」

 

「仕事がらみか」

 

 

 ならば仕方がない。

 

 僕は机に預けていた体を起こして、後輩の目を見る。

 

 その様子を見た彼女は満足げに笑みを浮かべて、僕に向かって言葉を紡ぎ出した。

 

 

「まず第一に知っていて欲しいのはうちの会社の社宅についてです」

 

「社宅まであるのか。福利厚生は充実しているんだな」

 

「と言うよりも、社宅完備させてプライベートまで管理しとかなくちゃ怖くて仕方がないというのが本音です」

 

 

 その言葉に僕は苦笑をもって返答とした。

 

 そりゃまあ、そうだろう。

 

 そこの白黒天魔も狐、犬にいたってもまともな生活が出来るようなタイプではない。

 

 むしろまともな生活を破壊するタイプ。非日常系の存在だ。そこにあるだけで日常が狂い出すタイプと言うべきか、類は友を呼ぶのか超常存在は超常現象を引きつけるのか、理由は知った事ではないが、ともかくまともな生活なんて送れるはずもない。

 

 

「なので、この子達を全員一箇所でひとまとめにして、徹底的に監視、管理する必要がある。そこまでは納得してもらえますよね」

 

「まあな。そうでもなければ国が動くだろう」

 

「ええ。実際に既に動いて接触されました。なのでこのビルの監視カメラの映像は陰陽寮に直通です」

 

「そりゃそうか」

 

 

 国一つどころか、世界を滅ぼしかねないような超越存在が集まっている場所。監視して置かなければ、国としても不安で仕方ないだろう。

 

 僕は陰陽寮に所属する知り合いが、胃を痛めてここの監視カメラの映像をチェックしている姿を思い浮かべ、今度あったとき胃薬でも差し入れてやろうと考えていた。

 

 

「そして、国からの条件としてもう一つ条件が出ました」

 

「もう一つ? ヤバイ奴らを全員ここで纏めて生活させることでの一元管理以外に何を求められた?」

 

「先輩です」

 

「……はい?」

 

「だから先輩ですよ。ここを社寮として運営するなら中の連中が暴れても制圧できるだけの武力的根拠を用意しろって条件が出たんです。新しいアクターを雇い入れて拡大するなら尚更」

 

「それで、僕か」

 

「はい」

 

「はいじゃないが。僕が断ったらどうするつもりだったんだおまえ」

 

「まあ、先輩なら断らないと信じていましたし」

 

 

 信用されているのか、それとも良いように扱われているのか。

 

 こいつの事だからどちらでもあるのだろう。

 

 確かに断らなかったわけではあるが。

 

 

「それで? 僕にどうしろと言うんだお偉いさんは」

 

「国から提示された条件は二つです。一つはアクターが一斉に蜂起……この場合は暴れ出したときにそれを即座に鎮圧できる人材の用意」

 

「それが僕だというのは分かった。それで、もう一つは?」

 

「その人材の常駐」

 

「えぇ……つまり、僕にここへ住めと?」

 

「理想的にはそうなりますね」

 

 

 しれっと言いやがるが正直嫌だ。

 

 僕にだって自宅……大学の頃から住み続けいるアパートがあるし、ご近所づきあいだってある。それに、後輩の話を信じるのであれば、このビルにはアクターが住んでいる。

 

 そのアクターが住んでいる場所に、男のスタッフが一緒に住んでいるなど、視聴者が許すはずもない。絶対に燃える。自信を持ってそう言い切る事が出来た。

 

 なので断りたいのだが。

 

 

「契約書に判押しちゃったしなぁ」

 

「ええ。押しましたね」

 

「そこにその内容書いてあった?」

 

「社寮に入寮する事は義務として記載してありましたよ」

 

「読んでないんだよなぁ」

 

「まあ、そのために態々百ページ超える分量用意しましたし」

 

「厚かったもんなぁ契約書」

 

 

 何でこんなに分厚いのかと思ったけどこういう理由だったか。

 

 表十ページ、裏十ページ読むのが限界だった。

 

 長い文章を読むのは得意じゃないのだ。

 

 

「……分かった。つまり僕も社寮に住めば良いと言う事だな」

 

「そうです。無論先輩の部屋も手配済みです。なんと一番エレベーターに近い最高の立地条件を用意してあります」

 

「それはつまり、日頃から脱走を防げと」

 

「ははは。そんな事は言ってませんよ。ただちょーっと陰謀を見抜いて良からぬ動きをしている子がいたら、その陰謀を打ち破って欲しいだけです」

 

 むちゃくちゃ言いやがるぜこの女。

 

 とは言え一度契約書に判を押した以上、それを反故にするのは僕の信念に反する。と、考えるだろう事まで目の前の女に読まれている事は承知の上で、渋々了承の意を返すと、彼女はにこやかな笑みを浮かべて白黒コンビに声をかけた。

 

 

「終わったから配膳してー」

 

「わかった」

 

「無事に済んで何よりですね」

 

「決して無事じゃないけどなぁ。僕、社長に嵌められてるんだけどなぁ」

 

「契約は絶対」

 

「契約書を読まない方が悪いのでは?」

 

 

 僕の抗議ををさらりと流す二人。

 

 そういえばこの二人天使と魔人だった。

 

 なるほど、そりゃあ契約には厳しいはずである。

 

 味方がいない事を察した僕はこれ見よがしにため息をついてみるが、完全に無視される悲しい。

 

 そうこうしているうちに配膳が終わり、調理を終えた二人も席に着く、四人分にしては随分と量が多いなと考えているうちに、食堂のドアが開いた。

 

 現れたのは狐と犬の動物コンビと心桜さんだった。

 

 

「良いタイミングね。食事も出来たし呼ぶつもりだったのよ」

 

「まあ、見計らいはしたからのう。それよりも、主殿の部屋準備できましたよ?」

 

「そう。ありがとう。これで先輩もここに住めますね」

 

「……いないと思ってたら僕の部屋の準備をしてくれていたのか。ありがとな。とりあえず礼だけは言っておくよ」

 

 

 ありがたいかどうかは微妙なところではあるが。

 

 逃げ道を完全につぶされている気がしないでもない。

 

 契約書に判を押した時点で、僕に逃げ道がなくなっているのは事実だが。

 

 

「なに、主殿の部屋を見れて役得という思いもないわけではない。礼は不要ですよ」

 

「え? 僕の部屋?」

 

「アパートの部屋からのお引っ越し。私も手伝ったんですよ、主様」

 

「……何それ聞いていない。どういうことだ後輩」

 

 

 僕の問いかけに後輩は目をそらした。

 

 そして、明後日の方を向きながら問いかけに答える。

 

 

「……ここに住むならアパートいらないし」

 

「……いや、そうかもしれないけどさ。僕が断るとか考えなかったのか?」

 

「考えましたけど、既成事実さえ作ってしまえば断れないかなーって」

 

 

 その言葉に僕はため息をつく。そのため息を見て僕の心情を察したらしい後輩は、なにやら気まずそうな雰囲気を出していた。

 

 

「もう少し信用しろ」

 

「してますけど、情で揺らぐ人じゃないでしょ先輩」

 

「揺らがないけどさ、考慮はするぞ僕だって」

 

「……」

 

「お前、僕を冷徹人間だと思ってないか?」

 

 

 これでも結構情には厚い部類だと自分では思っているのだが。

 

 大学時代、さんざん無茶ぶりに付き合ってやったつもりだったのを忘れたのだろうかこの後輩。

 

 そんな事を考えていると、テーブル越しに話し合っている他のメンバーの声が聞こえてきた。

 

「天拳様は世界の危機には無条件で力を貸してくれそうですけど、社長だからと言う理由ではその力を貸してはくれなさそうではありますね」

 

「それには同意。魔拳、陰謀は破壊するけど、利益の為には力を貸してくれなさそうと言うか」

 

「良くも悪くも現世利益に頓着しない質には見えますものね、主殿は」

 

「その上で主様の戦い方を見るに、無情冷徹。くふふ、これは冷徹人間」

 

「正直、情を考慮して動くという勇さんの言葉だけでも、結構衝撃的です」

 

 

 好き放題言ってくれる、後輩以外の第一期生メンバープラス心桜さん。

 

 うーむ。これは僕も少し反省するべきなのかもしれない。

 

 なんてことを考えていると、後輩は何故かどや顔である。

 

 

「ふふ、意外でしたか? 先輩はああ見えて存外に情に厚いんですよ」

 

「その僕の情を疑ってた奴が何か言ってる」

 

「先輩は少し黙って下さい。ここは私がマウントをとるべき時なのです」

 

「何のマウント?」

 

 

 意味不明な事を言い出して急に元気になった後輩。

 

 そしてその後輩を悔しそうに睨め付ける他の第一期生。

 

 全くもって状況が読めない僕に、心桜さんが声をかけた。

 

 

「勇さんマウントは後にして、食べません? 冷めちゃいますよ」

 

「確かに。お腹空いたし下らない事は後にしようや、社長」

 

 

 僕は渡りに船とばかりに、その言葉に乗っかったのだった。

 

 

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