思ったよりも早く書けたから投稿します。
早くも感想頂きありがとうございます。
全部読ませて貰ってます。
力になります。
彼に会った事で私の栄光は幕を開けた。
私の名前は、足利楓。
どこにでもいるごく普通の魔女だ。
この世界の理より少しだけ外れた法に従い、魔の術をなす者。
それが私で、それ以外に特に取り柄のない、冴えない魔女。それが私だった。
少なくとも彼に会うまでの評価はそうだった。
容貌は端麗で、頭脳明晰で、スタイル抜群で、財力を持ち、権力さえも手中に収める完璧超人。等と、あの先輩は私を持ち上げたが、魔法使いの一族においてはそんな奴はどこにでもいる。
私の一族の大半の存在は、容姿端麗で、頭脳明晰で、スタイル抜群で、財力も権力も持っているような、そんな一族だ。そう有る以上先輩、田中勇の言う事は的を射ていない。的外れな賞賛で、聞き飽きた言葉だった。
私はどこにでもいるごく普通の魔女だった。
少なくとも、一族の中での私は特段優れた存在などではなかった。優れた存在というのであれば、私の妹の方が遙かに優れている。魔法の腕前において既に私を遙かに上回る実力を持つあの少女こそ、勇先輩の言う完璧超人という言葉にふさわしい。
だから。
私は、私の事を何も知らずにそう言った彼に対して、好感を持つ事はなかったのだ。
所詮はうわべだけ。
その程度の付き合いを彼とはするのだろう。そう思っていた。
あの時までは。
それが覆されたのは、大学教授のフィールドワークに付き合わされていたときの事だ。
この教授というのも実は魔法使いである。
それも私ごときとは比べものにならないほどの力量を持つ、優れた魔法使いで有り、老いて尚各地の伝承を精力的に調べて回る、実践派の魔法使いとして名を馳せている存在でも有る。
その彼の助手として私は共にフィールドワークに向かう事を許されたのだ。
そのことがどれだけ私にとって光栄な事だったか、そのことがどれだけ私にとって救いだったか。
しかして、その救いの日にあの先輩の姿があったのである。
眠そうな、面倒くさそうな表情を浮かべて、半袖、ジャージというラフな格好で教授に付き従う彼の姿を私は、二度、三度と繰り返して見つめたものだ。
しかしいくら見つめてもそこに彼がいる事に変わりは無い。
何故、どうしてという問いかけを私は教授にしようとする前に、先輩が先に言った言葉に絶句した。
「ああ、お前も魔法使いなのか?」
うさんくさそうに、それとも面倒な事になったとでも言わんばかりの彼の言動に、私は言葉を失ってその場で立ち尽くすしか出来なかった。
基本的に魔法使いであるという事は同族、あるいはこのことを知っている物にしか伝えてはならないという暗黙の了解がある。
科学万能のこの時代に、魔法使いなど詐欺師扱いされても仕方なく、また同時にそういうことを隠している機関に、記憶を改竄されてしまうために、バラす意味が無い。だと言うのに、この先輩は一体どうしてこんなことを知っているのか。
興味がわいた。
有象無象の一人だと思っていた青年。
彼もまた魔法使いのひとりなのか。あるいはそれとも別の違う種族の者なのか。
教授の車の中で私たちはいくつもの会話を交わした。
結果分かったのは、彼が何かしらの武術を修めているだけのごく普通の一般人であるという事。教授のフィールドワークに参加しているのは、これに参加すれば授業に出ていなくても単位をくれると教授が約束したからという事。
そして……
「極論言えば僕は君と教授のお守り役というわけだ。いや、連れて行ってくれるのは教授だし、宿取ってくれてるのも、飯食わしてくれるのも教授だけど、護衛的な意味でな」
その言葉が、どれほど私を打ちのめしたか。
ああ、つまり教授は私に期待してではなく、私の力を認めてと言うわけでもなく、目の前のこの先輩がいれば、私という足手まといがくっついてきても問題ないと判断したというわけだ。
つまり、私が認められたわけではなく、目の前のこの先輩の力量に絶対の信頼を置いているだけで、この男の力量があれば、私程度の足手まといなど些事なのだと。そう言われたような気がして。私は目の前の男に激昂した。
まあ、激昂したと言うよりも癇癪を起こしたという方が正しいのだろう。
子供の癇癪。手の施しようのない下らない事。
今思えば、顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。本当に子供じみた癇癪で私は先輩にくってかかって、術比べを申し込んでそして。
負けたのである。
負けに負けた。
完敗という言葉すら生ぬるいほどに、私は完全無欠の敗北を喫したのである。
いや、手加減されている事を理解させられながら、一方的にぼっこぼこにされた上で、涙が出るほどにありがたいアドバイスまで先輩は私に施したのである。
ぶっちゃけ、死ぬほどむかついた。
プライドというプライド、鼻っ柱という鼻っ柱。全部が全部へし折られて、立てるかどうかさえ怪しい状況下で私は、理解させられたのである。
目の前の男は強かった。
尋常の力量ではない。
本当に人かどうか怪しむレベルの力量。そんな者を目の当たりにして、私は超越者としてのかすかな自負さえ砕かれた。
だから。
「本当に強いんですね先輩」」
「だろう? これだけは自慢でね。これのお陰で単位ももらえる。……最も、これを誰かに勧める気は無いけどな」
「おや、どうして? これほどの力。誰かに継がせるのは本意でしょう?」
「いや、これ極めるのに僕、物心ついてから大学に来るまでの十年以上鍛錬に費やしてるし、何なら今でも鍛錬には時間取ってる。そんな、人生かなぐりすててまでこれを極めろなんて、誰にも強制なんざ出来ないよ」
「ふむ、頼まれる分には構わないと?」
「ああ。ま、お前に教える気は無いけどさ」
「おや? どうしてですか?」
「これ、幼い頃からひたすらこれのみに人生を捧げる勢いで鍛えなきゃ習得できないからな。魔法使いとして二足の草鞋を履こうとするのはやめておいた方が良い」
その言葉は図星だった。
その身に付けた武術のみで、私の魔法全てをたたき伏せ、その上で私に一切の傷を負わせないその力量。それに私は魅せられた。あるいは魅入られたと言っても過言ではないのかもしれない。
そのくらい、彼の魅せる輝きは強烈で、私の目を焼いた。
だから……
「な、なら……」
「その代わり、まあ可愛い後輩の頼みを聞いてやるくらいの事はする。僕の力が必要なときはいつでも声をかけてくれ。僕としても、武術を振るう場面ってのはあった方が勉強になっていい」
その言葉は私にとって望外の言葉だった。
私は魔女である事を目の前の男は知っているはずだ。
だと言うのに、警戒心を一切抱かずこうまで簡単に自分の力量の振るう先を与えられるとは考えてもいなかった。
魔女。
即ち魔に傾倒した女。
そんな女が、まともなはずもないのに。
だけど。
その言葉は私にとっての救いでもあった。
その言葉は、私にとっての栄光の始まりでもあった。
だから、私はとてもとても悪い顔をして彼に向かってこう言うのだった。
「その言葉、後悔しても仕切れないくらいにこき使ってやりますよ、先輩」
「は……。何だ、優等生ぶっていたのは演技か。そっちの笑みの方がよっぽど魅力的だよ、お前」
精一杯悪ぶった笑みを浮かべた私に対して先輩はただ苦笑してそう褒めた。
それが、始まりの第一歩。
契約の最初の最初。
きっと先輩は思い出す事さえないのだろう、私とあの人の大切な記憶。
巡る年月はそこから三度の冬を迎え。
そして三度目の春が来るまで続く。
この縁を先輩は腐れ縁などと言う。
だが、それは違うと私はやんわりと去れど確固たる決意をもって否定させて貰おう。
これは必然だ。
偶然だったとしても私はこの三年間で偶然を必然に塗りつぶした。
だから。
「何をしているんでしょうかね、あの先輩は」
彼の落ちぶれた姿を見たときに、私はそこぼす事しか出来なかった。
それは不満だ。
彼を認めない世間に対する不満で有り、あるいはその状況に置かれている事をよしとしている先輩への不満でもある。
彼の栄光を知っている。
彼の栄華を知っている。
彼の偉業を知っている。
だからこそ、今の不遇な状況なんて認められるはずがない。
先輩はその力を示し続けた。
私と共に過ごした三年間。
いかなる相手にも敗北する事無く、常に勝利と共に有り続けた我が栄光。その華の極み。
万物万象、一切合切は彼の前に意味を失い、ただ頭を垂れるのみ。
あらゆる超越存在でさえ、彼の前では有象無象に成り下がる。その光景を見続けてきたからこそ、今の彼の状況を誰よりも否定する。
環境が悪い、世間が悪い、世界が悪いとわめく負け犬の姿をよく見る。
だけど、本当に世界の方が悪い状況は、寡聞にして見た事がなかったが、現実として見てしまえば、これほど吐き気のするような状況もない。
あれほどの力を持つ先輩も、世間という視線の中にあっては無力なのかという諦観がこの身を満たしそうになって。
「認めない」
ぽつりと本心からの言葉が漏れ墜ちる。
ああ、だめだ。
この言葉は本心の決壊における一番最初だった。
一度漏れ出た言葉は、もう飲み込む事は不可能で、一度漏れ出た感情をもう一度封じ込めとく事もまた不可能だった。
そして何より、何より許せないのは、あの先輩が今の状況を受け入れている事だろう。
ただの凡庸な人間として扱われている事を許容している。
その光景こそが、私には絶対に許せない。
先輩は私の栄光だ。
先輩と過ごした三年間こそが私の中で絶対だ。
その栄光が、その栄華が、その大輪が泥にぬれてその光を、その輝きを汚されているのを許せるはずなんて無かった。
それからの私の行動は早かった。
先輩が輝ける場所を作る。
そのために、三年間で築き上げたコネも力も立場も利用して。
そしてそして、私は。
アルバイトへ行く前に何時ものように木の上に上っている先輩へと近づいていった。
「武術なんて物は極める物じゃない」
「極めた貴方が言うと、感慨深いモノがありますねぇ」
彼のその言葉を否定するためだけに私は、貴方に会いに来たんですから。