人外Vtuber達とギリ人間スタッフさん   作:ヤミナギ

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思ったよりもよいペースで書けてるので投下します。

このペースが続くと良いなぁ。


第2話 白と黒

 

 仕事とは毎日の糧を得るために渋々として続ける物だ。

 

 少なくとも、僕にとってはそうだ。

 

 だから、後輩の持ってきた仕事なんて言うのはアルバイトみたいな物だと僕は思っていた。

 

 だが、とれてこられたのは都会のど真ん中にある摩天楼。それもその上位階層にエレベーターが止まったときは、言葉を失うしかなかった。

 

 黒ずくめのこいつはこういう場所にいても案外似合っている為、やはり美女は得なんだなとぽけーっとした顔で見ていると、彼女が急に僕に向かって不機嫌そうに声かけてきた。

 

 

「あのですね先輩。少しは緊張感を持って下さい。一応、これから面接ですよ?」

 

「え? 面接有るの? バイトでしょ?」

 

「正社員だよ。ここに来る道すがら説明しましたよね? 何度もスタッフとして正社員扱いで雇うって」

 

「つっても僕、機械関係さっぱりだぜ?」

 

「そこも言いましたよね? 先輩には先輩にしか出来ない仕事をして貰うって」

 

 

 すねたような言い方で彼女は僕に向かってそう言うと、これ見よがしにため息をついて魅せた。

 

 私、呆れていますと言わんばかりの様子だが、此方としても信用できないのは理解して欲しい物だと思う。

 

 

 確かに大学四年間の三年間はパートナーしてた仲ではあるが、だからといって特段の技能持ちでもない僕を正社員待遇で雇うとか、流石に信じがたい。

 

 契約書まで用意した壮大なジョークと言われた方がまだ信憑性があるもんだから仕方が無い。

 

 

「先輩のその技能は、お金を払う十二分の価値があります。……って、なんで私が先輩の力量について力説しなくちゃいけないんだろう。私もこれに分からされた立場なのに」

 

「そもそも武術に金払われても困るんだよなぁ。そういうつもりで身に付けた物じゃないからなこれ」

 

「それじゃあ、何の為に身に付けた物なんですかぁ?」

 

「いや、普通に武術を身に付けるのが楽しくて、夢中になった結果だから、最強だとは思っていても、金稼げる物では無いと思っている。基本的にも応用的にも人殺しの技でしかないわけだからな、これ」

 

「先輩ほどの力量を持っている人を雇うのって、それなり以上にお金がかかるんです。それを少しは自覚して下さいな。暗殺者とか割と今でも普通にいるんですから」

 

「令和のこの時代に?」

 

「令和だろうが何だろうが、有る場所には普通にあります」

 

「ふーん」

 

 

 僕の相づちを聞いた僕に対して彼女は深々とため息をついた。

 

 あまり理解していない事がばれたのだろう。だが、まあ、そんな事はどうでも良い。そんな事よりも重要な事があった。

 

 

「お前のオフィス、まだつかねーの?」

 

「いや、んなわけないでしょ。エレベーター降りてすぐにつきます」

 

「俺とお前がこんなにくっちゃべってもつかないけど……?」

 

「っ!? 結界!! ってか、違和感抱いたなら言って下さいよ」

 

「違和感なんてお前がこのビルにオフィス構えてる時点で有りまくりだっての」

 

「そういう意味じゃないです。結界。気付いてたんでしょ、先輩!!」

 

「いや、ほら、天使の奴を隔離するのに結界の一つや二つ用意するかなって」

 

「そりゃまあ、確かにそれはそうなんですが……その、なんと言いますか……」

 

「……え? なに? マジモンの天使を結界なしで運用してたの、お前」

 

「……」

 

 

 沈黙とは抗弁よりも雄弁な肯定だった。

 

 いや、構わないけど剛毅な事をやってるなぁ。等という場違いな感想が浮かぶ。下手をすれば、この場所が聖地になっていてもおかしくない。

 

 だと言うのに、この場所はごく普通の空気が支配している。あれほど神聖な存在がいるのだから、場の力がそちらに傾いてもおかしくないと思うのだが。

 

 それこそ、大聖堂じみた空気を感じてもおかしくない。

 

 なのにそれがない。

 

 となれば、おそらくはそういうことなのだろう。

 

 

「悪魔でも呼んだか?」

 

「正確には魔人ちゃんですよ。……覚えてませんか先輩?」

 

「まあ、いちいち殴り飛ばした奴を覚える趣味はないんだが」

 

 

 彼女が言った奴は別枠だ。

 

 この世の罪を、この世の悪を、この世の死を背負った少女。

 

 その少女の姿を幻視する。

 

 どこまでも醜悪で、そうであるが故にあまりにも美しくある少女。

 

 人の器に悪魔の魂を詰め込んだ、人の罪の形。

 

 無垢で有りながら穢れ、汚濁に染まる悪辣の究極。

 

 

「え、何そいつもスタッフなの? 流石に同僚にあれがいるのはあまり気が進まないんだけど」

 

「えへへ、残念ながら外れです先輩」

 

「ほーん? それじゃ何やってんのあの子」

 

「アクター。つまり、我が社の売れっ子Vtuberのひとりなのです」

 

「呪詛チャンネルでもやってんのかそれ」

 

 

 まともに見れる気がしない。

 

 見たら呪われるか発狂しそうなチャンネルである。

 

 そんなのをどうやってプロデュースしているのか。こいつの手腕がいつになく気になった。

 

 正気じゃ無いにも程がある。

 

 

「まあ、正確にはカップルチャンネルって形を取って、百合営業させてます。先輩も好きでしょ? 美少女同士が百合百合してるの」

 

「まあ、遠目に見てる分には嫌いじゃ無いが……あの二人を? 悪魔絶対殺す天使ちゃんと、この世の清浄は全て敵と見なしてるような魔人ちゃんを組ませてるの?」

 

「ええ、白黒コンビ。天上白亜(てんじょうはくあ)と魔霧永劫(まきりとわ)。登録者百万人を超える喧嘩ップルチャンネルです」

 

「ふーん」

 

「うわー。心底どうでもよさそう。一応、貴方がこれから面倒見る子達なんですけど?」

 

「は? スタッフでしょ?」

 

「ええ、スタッフです。スタッフの仕事にはこの子達の世話も含まれてますから」

 

「世話」

 

「まあ、世話と言うよりも喧嘩の仲裁というか……殺し合いの仲裁と言いますか」

 

「……よくこの二人揃えて、喧嘩程度で収まっているなぁとは思っていたけど」

 

「収まって無いから、よく配信中断してスタジオ内に結界張って殺し合いしてるんですよねぇ」

 

 

 この結界はそれで張られているのかと納得する。

 

 そして、戦う前にはこんな風に結界を張る常識を持ってくれるようになって、少しだけうれしかった。

 

 

「出来損ないの子の成長を見守る親みたいになっている」

 

「うるさい。別にかまわんだろう。あんなにやんちゃだった二人が、一応の社会的常識を学んでいると知って、感慨にふけるくらい。……そんな事よりも早く結界解けよ」

 

「あれ、私が解くんですか? 先輩なら一撃なのに」

 

「下手なタイミングで解くと、臨戦態勢の二人に全力で殴られかねないから、結界砕きはお前に任せたいんだよ。……いや、殴られても俺は平気だが、お前まで守れる気がしないから、自分の身は自分で守って貰う事になるだけだが」

 

「はいはい。解きますよ。解けば良いんでしょ、ちょっと待って下さい」

 

 

 そう言いながら渋々と結界の解除に取りかかる彼女の姿を見て僕は少しだけ昔の空気を思い出した。

 

 こんな馬鹿みたいな会話を繰り返しながら全国、津々浦々の怪異に喧嘩を吹っかけに行っていた三年間。得るものなんて何も無く、後に残るのは無敗だったったと言う結果のみ。

 

 それでも、楽しかった。

 

 その事実は消せはしない。

 

 だからこそ、今でも僕はこの生意気な後輩に付き合っているのだから。

 

 

「あと三秒で解けます」

 

「了解」

 

「二、一、解除」

 

 

 言葉と同時に地獄と天国が混じり合う混沌空間がビルの中に顕現した。

 

 地獄のような雰囲気を身に纏う黒と赤の少女と、天界がごとく空気を身に纏う白と蒼の少女。

 

 どちらもが互いの両極端に位置するであろう少女が、漆黒に輝く剣と、金色に輝く剣をぶつけ合っている。

 

 それは神話の世界の戦いだ。

 

 人知の及ぶそれでは無い。

 

 高速で空を駆け巡り、一撃をもって世界を砕く剣を相手に向かって解き放つ。

 

 当たれば即死は免れないだろう絶死の一撃を、互いに一切の防御姿勢を魅せる事無くぶつけ合う物だから、それが奇妙にかみ合って互角の様相を呈している。

 

 つばぜり合いながら、二人の視線が此方に向いた。

 

 急に解けた結界の理由を探ったためだろう。

 

 結界を解いた後輩に視線を向け、仕方が無いと言わんばかりに二人は殺気をおさめようとして、僕と目が合った。

 

 ばっちりと、しっかりと、完璧に。

 

 ぶり返す魔力。呼び戻される殺気。

 

 どう考えても、先ほどまでまき散らしていた殺気よりも濃度が濃いそれに、僕の頬が引きつるのを感じた。

 

 

「お久しぶりです天拳」

 

「久しいわね魔拳」

 

「「ああんっ!?」」

 

 

 自身で生み出したのであろう、金色に輝く聖剣と漆黒に輝く魔剣を此方に向かって振り抜きながら、二人は当然のようにいがみ合った。

 

 僕はとりあえず迫ってきた聖剣と魔剣を受け流すようにして互いをぶつけ合わせる事で、二人のつばぜり合い状況に持って行く。

 

 後ろで後輩がため息をつきながら結界を張ったことを認識しつつ、僕もため息をついた。

 

 

「何が天拳だ。この男は人の身で有りながら、人ならざる領域に足を踏み入れ、その技巧を持って、魔の頂に立つ男だ。その二つ名は魔拳こそがふさわしい」

 

「何をおっしゃっているのですか、トワ。このお方は至上の拳をもって人々を救い、人々を導く救世の拳を持つお方。ならば、その二つ名は天拳こそ、でしょう?」

 

「下らない。いかなる栄華すらもうち捨てて、ただ力のみを求める魔人がごとくの男に、天拳なんて二つ名が似合うはずも無い」

 

「あらゆる栄華にさえ、興味を示さない高潔さ。まさしく聖人がごとし。そんな人に魔拳なんて二つ名が似合うはずが無いのです」

 

 

 僕を挟んで口論する二人。

 

 恥ずかしいから、二つなんて付けて欲しくない僕の意見が、こいつらに通らない事は、過去の交流でよく分かっている。

 

 なので僕が彼女たちにするべき事はたった一つだ。

 

 

「いいから、その口を閉じろ二人とも」

 

 

 言葉と同時にげんこつを二人の頭に落とす。

 

 割といい音が響き、二人はオフィスの床に崩れ落ちた。

 

 

「いたひ」

 

「なんでそんな事するの。私たちは貴方の事を思って……」

 

「いや、二つ名なんて恥ずかしい物を付けようとするな。と言うか何で喧嘩した? お前らにはみだりに人と殺し合いをしないように、誓約を結ばせたはずなんだけど」

 

「「いやだってこいつ人間じゃないし」」

 

「オーケー。これからは人間じゃ無くても禁止だ」

 

「横暴です。私はこの世の悪を断罪しているだけなのに」

 

 

 もう一発殴る。

 

 防御させる気のない、されど痛みはほとんど無く音だけ派手に響くようにぶん殴った一撃は、気持ちの良い音を立てて見事に天使の脳天に着弾した。

 

 着弾した衝撃で首がねじれている彼女の事を放置して、で、お前は? と言う視線を魔人に送ると、彼女はそっぽ向いて下手くそな口笛を吹き始めたので、喧嘩両成敗と言わんばかりに不可視のデコピンをたたき込む。これまたいい音がして彼女の頭が跳ね上がった。

 

 

「いたひ。何もしてないのにぶたれた」

 

「ついさっきまで天使チャンを殺そうとしていたのは事実なのでだめです。喧嘩するなら仲良く喧嘩しろ。殺し合いにまでエスカレートするな」

 

「どうせ、首撥ねた程度じゃお互い死なないのに?」

 

「スプラッターな事は辞めろ。掃除するの大変だし」

 

「それじゃあ、架空腕作ってハクアの心臓を握りつぶせば……」

 

 

 物騒な事を言い始めた魔人に僕はチョップを入れて辞めさせる。

 

 ズビシィ。と、またとてもいい音が周囲に響き渡り、魔人が涙目になりながら僕を上目遣いで見てきた。

 

 いや、そんなに痛くしてないだろう。

 

 僕がそう思っていると、魔人はらしからぬ態度を取ってきた。

 

 

「痛いよぉ。やめて……、ね? 魔拳」

 

 

 その姿はとてもかわいらしい。これで世界を三度滅ぼす足る力を持つ人型の魔とは思えない。いやまあ、魔の種族である以上、誘惑とか、堕落への誘引とか得意分野なんだろうけど、こいつがそういう事をしているのを初めて見たので、割と驚きである。

 

 こいつは性能からして他生物をぶっちぎっている。

 

 それこそ並ぶのは、あっちの方ですごい顔をしている天使ちゃんくらいだろう。後輩? いや流石普通の超越者と比べてやるのはかわいそうだ。生物としての位階(レベル)が違う。

 

 そんな彼女が見せる堕落への誘いは、とても新鮮で、だけど僕の心には全く響かない。

 

 うーむ、明鏡止水の心持ち万歳。可愛いなとは思っても、墜ちてやる気が一切起きないので、精神防御としては最高位なのである。それこそ、邪神のSAN値チェックにもこれで対抗できるし。

 

 

 なので、とりあえず魔人ちゃんの頭に強めのげんこつを一発。

 

 悶絶している彼女を放っておいて、天使ちゃんに笑顔で問いかけた。

 

 

「お前も、もう一発食らう?」

 

「あ、私配信中でしたので、魔人ちゃんと一緒に配信に戻りますね」

 

「あ?」

 

「うう、天拳様にボコられてしまった事をトワちゃんと一緒にリスナー様に慰めて貰わないと」

 

「へ?」

 

 

 そう言うと彼女はとてとてと、無事だったパソコンの前に座り、ヘッドセットを装着し、なにやらしゃべり始めたのだった。

 

 

「……え?」

 

「音声だけとはいえ、動画デビューおめでとう御座います、先輩」

 

「……カットとか無いんですかね?」

 

「生だし、無理でしょ」

 

「あ、そういう物なんだ」

 

 

 ため息をつく。

 

 どうやらこの後輩に嵌められたらしい事を理解して、とりあえず僕は彼女の頭をひっぱたく事にした。

 

 

「あいたーっ!?」

 

 

 気持ちの良いくらい、いい音がした。

 

 

 

 

 

 

 

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