人外Vtuber達とギリ人間スタッフさん   作:ヤミナギ

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第2話 白と黒 裏

 誠に不愉快な事ではあるが、私と目の前の魔人は似通っている。

 

 その有様が、では無い。

 

 その生まれがでも無い。

 

 ただ単純明快に、心の持ちようが、私と彼女を類似に見せる。

 

 無論、そのベクトルは大きく違う。

 

 そのベクトルは真逆と言っても過言では無い。

 

 人を守護する為に生まれ落ちた、私と、人を滅ぼすためだけに生まれ落ちた悪辣なる魔人。

 

 されど、その根本にはそれ以外に無いという共通項を抱えている。

 

 私は、人を守護する事以外に一切の興味は無く、彼女は人を滅ぼす事以外に一切の興味が無かった。

 

 生まれ落ちての本能。それこそが私たちの生きる意義で有り、生きる意味。そして同時に、生まれ落ちた理由でもあった。

 

 そう、あった。

 

 既に過去形である。

 

 悲しいかな、私たちはまるで同じような心根をもって行動し、そして全く同じ男にその有様はかなわない事をまざまざと見せつけられたのである。

 

 田中勇。

 

 ただ人にして、ただの武芸者にして、同時にどこまでも一般的な感性を持つ彼に、私たちは諸共にぼこぼこにされ、現実問題私たちの生きる理由は叶わない事をたたき込まれた。

 

 人の守護における究極、我が身を中心とした千年王国の建国も、人を滅ぼすための人類殲滅計画の成就も、その道の途中でこの男が立ちふさがるという一点において不可能である事を悟る。

 

 何度でも言うが彼はただの人だ。

 

 そこに嘘は無い。

 

 魔法的精査をいくら行っても帰ってくる答えは残酷なまでに彼を人だと示したし、科学的分野による調査を用いても彼を、人以外に判定する事は出来なかった。

 

 だからこそ彼はただの人である。

 

 そのただ人が、この身を当然のように凌駕する力量を保有するなど、私自身考えられなかった。

 

 これでも天使だ。

 

 人によって生み出された人造のそれではあるが、その位階は座天使にすら匹敵する。

 

 その私をして一切の抵抗許さず、一撃で沈めてしまうあの男の武術は、狂っているとしか言いようが無い。

 

 これは決してうぬぼれなんかじゃ無い。

 

 だって、私と五分の力を持つ、世界を三度破滅させてあまりあるあの魔人、トワであってさえ彼を相手に三秒持たなかったのだから。

 

 本人に曰く、自身の武術が人外に対する特効武術だからとか言ってはいたが、正直なところそんな言葉でかたづけて欲しくない程度には彼の武術はぶっ飛んでいる。

 

 いや、ダイヤモンド並みの強度を誇る結界を三重で張った状態の私相手に、一撃で聖剣ごと結界砕いて意識飛ばされるとか流石に気がついたときは信じられなかった。しかも私を殺さないように、後遺症だって残らないようにしっかり、きっちり手加減していたのだから、もはや言葉さえ出てこなかった。

 

 ちなみにトワも同じ事をされた経験者である。

 

 基本的に不倶戴天の敵ではあるのだが、この一転において、私と彼女はわかり合った。

 

 理不尽な存在って有るんだね。

 

 そんなまあ、彼だが基本的には善人だ。善人と言うよりも性善説を信じすぎている人間といった方が正しいのかもしれない。

 

 何せ目の前の魔人を一度へこませた後はそのまま放置するなんて事をしでかしたのだから。

 

 しょうが無いので、私が監視をしているが、この女世界を滅ぼそうとした事が一度や二度では効かない。

 

 私が防ぎきれなかった状況だけで考えても三回は世界を滅ぼすのに成功しているはずだ。

 

 まあ、もちろんそのたび、我らが天拳が颯爽と現れ、彼女をボコる事で世界は救われるのだが。それでも月に一二度のペースで世界を滅ぼそうとするのは、趣味としてどうかと思うので辞めて欲しいと願う。切に。たまに私まで止められなかったから同罪だとか言う理由で殴られるのは勘弁していただきたいのだ。

 

 もちろん、彼女の世界破滅計画が成った後に、世界を救う者として降臨するなどという計画は1ミリも立てていないし、たとえ立てていたとしても胸の中にしまっているのでたぶんセーフなのは明らかであると私は主張する。

 

 とまあ、あの男が大学生であり続けていた間、私たちはそれなりに迷惑な事を引き起こしてきたという自覚がある。

 

 そもそもからして私の本質は天使だし、トワの本質は悪魔そのものだ。

 

 そう有る以上、救世に進むか破滅に向かうか、そのどちらに傾くのは仕方の無い事と言える。

 

 そして極論を言ってしまえば、救世も破滅も一緒だ。

 

 そのベクトルが違うと言うだけで、世界の在り方を一変させると言う意味では全く同じ事なのだ。

 

 世界を神の教えで染め上げ、神の国を作り上げるという思想も、世界を恨みこの世界の全てを破滅で覆い尽くそうと言う思想も、結局は世界の変革を目指す思想である以上根本は同じなのだと男は言った。

 

 そしてその上でこう語ったのだ。

 

「ま、ガス抜き程度に喧嘩しな。どうしようも無くなったら止めてやるから」

 

 その言葉はあまりに軽く、現況を理解していないのかと最初は思っていたが、その言葉を二人そろってボコられた後で言われたのであれば意味合いが大きく変わってくる。

 

 この男は本気でそう言っている。

 

 私とトワが殺し合い、世界全てを破壊するような破滅的な殺し合いをしている事でさえ、この男にとってしてみれば、ただのガス抜き程度の喧嘩なのだ。

 

 そのことが無性に腹が立つ。

 

 故に。

 

 

「トワ?」

 

「何よ白いの?」

 

「あの男に一泡吹かせてみたくない?」

 

「ふぅむ」

 

 

 私の提案にトワは思い悩むようなふりをして見せた。

 

 そうふりだ。

 

 そう有る以上、彼女の答えは決まっている事を私は知っている。

 

 そもそも、彼女としても業腹なのは間違いないだろう。

 

 講も何度もぼこぼこにされていれば、プライドが傷ついておかしくは無い。だから

 

 

「わかった。のってあげる」

 

「本当は待ち望んでいたくせに」

 

「ふん。そっちだって本当は私の方から言い出さないかと待ち構えていたくせに」

 

「でも貴方素直じゃ無いから私から折れないとこの提案は結ばれないでしょう?」

 

「それは事実。その点においてだけは貴方に感謝してあげる」

 

 

 そして私たちは策を練った。

 

 天使と魔人の共謀なぞおそらく有史以来初めてである。

 

 その目的が人間ひとりを打ち倒す為などと言うのは、勿体ないを通り越してオーバーキルも良いところだ。

 

 だけれど、私たちには予感があった。

 

 この作戦がうまくいかないという予感が。

 

 ……あるいは信頼だったのかもしれない。

 

 どれほど策をこらそうと、どれほど策を弄しようと、あの男の前には無意味に伏すという信頼が確かにそこにはあって。そしてその信頼は裏切られる事無く肯定された。

 

 

「いや、お前らプライドとか無いのか?」

 

 

 共謀し二人がかりで挑んでぼこぼこにされた後、呆れたように呟いたあの男の台詞である。

 

 世界をほろぼす為の布石も、世界を救う為の布石も、全て本物を用意した上で最終的に目の前の男を打倒する為にその力を用いたというのに、それさえあっさり砕かれるとか。

 

 

「貴方本当に人間ですか?」

 

「科学的な精密検査でも、魔法的な精密検査でもきっちりかっちり人間とでてるが?」

 

「信じられない。シロも私も全力を振り絞った。策を講じ、その策も完遂し完全な状態で全霊の力を貴様にぶつけたはずだ。それを受けて無傷どころか押し返すなど……」

 

「まあ、確かに威力には少し焦ったがな、威力だけならどうとでも受け流せるし、何なら防ぐ手段もある。何なら、真っ向正面からぶち抜く事も可能だったと言うだけの事驚く事じゃない」

 

「いや、驚く事です。聖なる力と魔の力。混じりて原初のカオスにほど近いその力。それは創造の力です。神代の始まりの力です。無論再現率が低かったというのはありますが、その始原の力を打ち破るなどどうやって」

 

「混じりきってなかったからそこの境界を切裂いただけだが?」

 

 

 いうは易く行なうは難しの典型だった。

 

 絶句する二人の頭を軽くなでながら勇は言う。

 

 

「ま、もう少し仲良くして連携を深めれば何とかなってたかもな」

 

 

 もちろんその言葉はそんな事があり得ない無い事だと知っての言葉だ。

 

 それでも、その言葉一つで自分たちの喧嘩が少なくなればそれでいいと思っている事もまた確かなのだろう。

 

 週間……は言い過ぎだが、月間に一度の割合程度で自分たちは世界を滅ぼしかけているのだから。

 

 でもそこには彼に対する絶大な信頼がある。

 

 彼がいれば、必ず私たちの企みは阻止されるという絶対の自信だ。

 

 たとえ、どれほど致命的な殺し合いをして、たとえどれほど間に合いそうに無い泥沼の殺し合いをして、世界を滅ぼすか、あるいは世界を救済するか。その直前には必ず彼が立ちはだかると信じている。

 

 だから。

 

 我慢の限界はもう既に通り過ぎていた。

 

 Vtuberなんて物になったのも、あの魔女の口車に乗ったからだ。

 

 私たちを使って彼をつなぎ止める。なんてことを言っていたが、あの女にそんな殊勝な考えなんてあるはずが無い。

 

 あの女にあるのはただひたすらに勇に対する執着心だ。

 

 彼女はあらゆる栄光を手に入れた。彼女はあらゆるステータスを手に入れた。

 

 神話的危機を乗り越えると、人としての位階が上がる。わかりやすく言うとレベルアップだ。これは、そのレベルに到達していなければ決して越えられないはずの状況を越えてしまうという矛盾を解決する為に、世界が人としての位階をあげる事で整合性を取るという現象なのらしいが、そんな事はどうでも良い。

 

 問題は、あの女が大学の後輩としてその立場を利用し尽くしたという事実だ。

 

 それは、あまりにも理不尽じゃ無いか。

 

 私たちは、人で無いが故に封印され、放逐され、かすかにたまるエネルギーを用いて再臨することでしか、この世界に干渉できなかったのに。あの女は常に、勇と共にあって恩恵を受け続けてきたのだ。

 

 それはずるい。

 

 あまりにもずるい。

 

 だって、私たちだってあの男の輝きに目を焼かれたのに。

 

 だから。

 

 目の前の魔人を殺す。

 

 どうせ殺し尽くす事は出来ないが、殺してしまえばあの女のもくろみはぱぁになる。

 

 捕まるような事は無いだろうけど、それでも、この商売を続ける事は出来無くなるはずだ。

 

 だから。

 

 目の前の魔人を全力で殺そうとして……結界が砕けた。

 

 一応の配慮。私たちのぶつかり合いで世界が壊れないようにする為のそれが秒も持たずに砕け散る。

 

 こんな事が出来る人なんて一人しかいない。

 

 だから。

 

 あらゆる全ての優先順位が一つ下がり。

 

 私たちは、配信中だというにもかかわらず、結界を砕いた相手、勇に全力で殴りかかった。

 

 もちろん、結果なんて理解した上で。

 

  

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