人外Vtuber達とギリ人間スタッフさん   作:ヤミナギ

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第3話 狐 裏

 

 

 思うに、私に対しての敬意が足りないのだ。

 

 それは無論、あの魔女についてもそうであるし、主殿と呼んでいる凄まじき男の子に対してもそうだ。

 

 この身はかつてこの国を裏側から操ろうとした存在の転生体である。

 

 その妖力は並の妖を越えて、神の領域にまで至っている。

 

 少なくとも私自身はそう自負している。

 

 つまりこの私は人の子に嘗められて良いような存在では無いのだ。

 

 九尾狐。

 

 あるいは天狐。

 

 そう称される、人にとっての災厄の極。

 

 それがこの身の正体である。

 

 だと言うのに。

 

 目の前の男の子は私に気がついているというのに、声をかける事さえしない。

 

 それは、私の方から絶対に声をかけてくるだろうという信頼にも似た感情から来る物では無い事くらい私にだって理解できている。

 

 この男はもっともっと単純明快に、私の事に興味が無いのだ。

 

 おそらくは一切合切に。

 

 そのことについて腹立たしいという思いがこの身には渦巻いている。

 

 故にこそ、この男について主殿なんてしおらしい呼び方までしている。

 

 ほんのひとかけらでも、この男が此方に興味を持つように。

 

 されど。

 

 

「僕が悪いか。特段あいつらの恨みを買った覚えは……まあ、世界を救う為になら仕方ないよな?」

 

「世界と私、どちらを取るの? と言う問いに躊躇いも無く世界と答えるような貴方でありますから、そりゃ恨みも骨髄という物。むしろ殴りかかられるだけで済んでいるのは御の字なのでは?」

 

 

 本当に腹立たしい。

 

 態々私から声をかけたというのに、主殿なんて言う屈辱的な呼びかけまでしたというのに、目の前の男はまるで動揺した風を見せない。

 

 本当に此方の事なんてどうでも良いのだろう。

 

 この身を、十把一絡げの存在として、どこにでもいるような妖と同一視している。

 

 そのことがとてつもなく悔しい。

 

 だが、それは事実なのだろう。

 

 この男にとって、私という存在はそれこそ、十把一絡げの存在でしか無いのだろう。

 

 天使も、魔人も、そしてこの私もこの男にとってしてみれば、知り合いの分類以外には含まれていない。

 

 例外があるとすればあの魔女だけ。

 

 あの魔女だけは、この男の特別だ。

 

 特別と言っても、この男が恋愛感情を抱いているとか、そういう物じゃ無い。

 

 あの女がこの男に対して特別な執着心を持っている事は分かりきっているが、この男があの女に抱く感情もまた、特殊な物なのだろう。

 

 少なくとも、この男が対等の友人と認め、その異能において頼りにしている女は、私が知る限り、あの魔女殿だけなのだから。

 

 まあ、そんな事はどうでも良い。重要な事では無い。

 

 私が主張したいのは、この男にしてもあの魔女殿にしても、私に対する敬意とか感謝とかが足りないのでは無いかという不満だ。

 

 不満である。不服で有り、不足である。

 

 目の前の男には感謝をしろとは言わない。

 

 さりとて、敬意を抱くくらいの事はしても良いだろう。

 

 これでも私は。

 

 ……思考がループしている。

 

 そうじゃない。

 

 私が思っているのはそんな事では無い。

 

 とはいえ、この状況においてこの男が私に敬意を抱くような事は無いだろう。

 

 むやみやたらと他人を見下す性格はしていないが、逆に何かに積極的に価値を見いだすような質でもない。

 

 その在り方を魔女殿は純粋無垢と称したが、そんな生ぬるい物では無いと私は睨んでいる。だが、一つだけ魔女殿と意見を一致させる事と言えば、この男が無敵の武勇を抱いているという事実のみ。

 

 無敵の武勇。

 

 笑えるような単語だが、その内実は全くもって笑えない。

 

 真実だからだ。

 

 この男がうちに内包している武勇が極まり、まさしく無敵と呼ぶほかに表現のしようが無いくらいに完成しているという事柄が、誰にも否定できない事実としてあるから、本当に笑えない。

 

 あんな風に慎ましく隠れ住んでいた私を、それでも力量はかつての栄華を取り戻した私を、ただの一撃をもって動けなくするほどの力量は、神話の世界の力量さえ越えている。

 

 そんな男が飄々と何もなせずして生きている。

 

 のうのうと、あるいは淡々と。

 

 その生き様さえ私を馬鹿にしているのでは無いかと疑ってしまいたくなるほどだ。

 

 認めない。

 

 そんな生き様は認めない。

 

 主殿。

 

 貴公は私にそう呼ばれるだけの男だ。

 

 そう呼ぶに足る、そう呼ぶしか無いほどの男で有り、英雄だ。

 

 英雄で有り、英傑で有り、俊英で有り、そしてそれを否定する事は誰にも許さない。

 

 貴公は歴史の片隅で埋もれていく事なんて許さない。だから。

 

 私は協力したのだ。

 

 あの魔女殿の術式に足りない物を足して、あの魔女殿が必要とした幻術をこのカメラに加えていく。

 

 今は黒子の存在だ。

 

 黒子の存在として、何物でも無い男でしか無い。

 

 その状況であってなお、極天の使いと絶魔の混じり人を同時に押さえ込むような男では有るが、それでもまだ貴公は何物でも無いのだ。

 

 許せるものか。

 

 許すものか。

 

 主殿、貴方は私を打ち倒す神代の存在なのだ。そんな貴方様がただ朽ちていく事など私には決して許せない。

 

 だから。

 

 

「そういう事で、今もまだカメラ回っております」

 

「……放送事故じゃ無いの?」

 

 

 放送事故などであるモノか。

 

 あの二人の戦いは一応、ただ人にでも視認できる程度のそれに加工してある。

 

 加工と言っても、単純に二人の容貌を少しデフォルメをかけて、その速度を遅くして撮しているだけだが、それでも十分見栄えは良い。

 

 最もそのせいで二人の言っている事は、速すぎて何を言っているか理解できなくなっているが、それでも唐突に始まる二人の殺し合いは、見応えもあって割と受けが良い。

 

 喧嘩ップル等と言われている様は、あれを見てどこが喧嘩程度で済んでいるのか理解しがたいが、極端に実力が伯仲している為、大概の場合において両者ともに戦闘不能となり、予定調和で終わるところからの想像なのだろうか。

 

 まあ、今回は全く別の存在が入り込んだのだが。

 

 それが主殿である。

 

 基本的にあの二人が殺し合いをしているのを止める手段は無い。

 

 いや、無かったとでも言うべきか。

 

 共に現世に存在しているのが奇跡、あるいは悪夢と呼ぶべき隔絶した超越者二人だ。それが互いを憎み合って、互いを殺すべき存在と認識し合っている状況下で、あの二人を一緒に連れてきたあの魔女の思惑は理解しがたい。

 

 その程度にあの二人の殺し合いは、凄絶であまりにも惨い。

 

 それを一つの見世物として、二人のVtuber活動における一つの持ちネタとして、ギリギリ均衡を保っていたのは、まさしく二人の実力が伯仲していたからの奇跡だ。あるいは悪夢か。

 

 ともかくとして、その状況はまずい状況でもあった。

 

 均衡は保っていたが、その均衡いつ崩れるか分かった物では無く、そしてあの二人を無傷で止められる物もまた存在しない。

 

 この身とて神代の領域にその実力はある。

 

 されど、真実神代に語られるような存在二人の仲裁など、正直御免被る。

 

 無論、何度かやった事はあるが、こっちだって死にそうになりながら魔女殿含めて何人かがかりでようやく止める事が出来た、と言う程度の物でしか無かったのだ。

 

 ちなみにその時の視聴者の反応は好評だった。

 

 もう一度やって欲しいとか、本当に勘弁して欲しいので辞めていただきたい。

 

 案件だったのに喧嘩を始めた二人をどうにかこうにか止める為に、犬っころとも協力しなければならなかったのは、この身をして割と屈辱的な事でもあるのだ。

 

 そんな相手を二人、容易く鎮めるこの男の腕前にもはやため息を漏らす事さえ出来はしない。

 

 天賦の才。

 

 そんな表現が陳腐に墜ちる。

 

 それほどの才覚を持ちながら、何故それを誇らないのか。それが私には理解できない。

 

 その力を使え。その力を持って自身がそこにいる事を証明しろ。

 

 そんな事さえ考えて、その考えはあっさりと本人に否定されたのだから

  

 

「俺は、武術を見世物にする気は無い。その契約でこの場にいるんだぞ」

 

 

 でもそんな事が私に関係があるモノか。

 

 私は見たいのだ。あるいは見せつけたいのだ。

 

 この男がどれほどの力を持ち、この男がどれほど非凡で、この男がいかに素晴らしいのかを。

 

 そうで無ければ、私はただ無名の男に一撃で沈められた、調子に乗ったただの獣であるという事になってしまう。

 

 それで良いと、きっと目の前の男は言うのだろう。

 

 間違っていないじゃないかとからかうように笑うのだろう。

 

 そのことがこの身にとってはどうしても許せない。

 

 だから。

 

 

「それでは、曲芸見せて下さいませね」

 

 

 見せろ。

 

 隠すな、ここで世界に主殿の力を見せつけてくれ。

 

 神代の時代にさかのぼってまでも、ここまでの力をおさめた男なんていなかった。

 

 その事実を大勢の前で見せつけるんだ。

 

 そのために魔女殿とは協力し、術式を作り上げた。

 

 事実を映し出している動画を、アニメチックにデフォルメしながら、それでもその凄さだけは伝わるように。

 

 この技術は決してあの二人の喧嘩ップルの為に組み上げた技術では無い。

 

 この術式はただ、主殿の為だけに……

 

 炎を放つ。

 

 回避すればこのビルを丸ごと焼失させてあまりある威力。

 

 触れれば即座に人を蒸発させる火力を内包した炎を生み出して、それをただ人にぶつけてやる。

 

 そんな八つ当たりにも似た数十の焔火は、狐火という狐の化生であれば誰もが使える単純なそれ。

 

 しかし、その威力と精度は並の物じゃ無い。正しく神代に触れうる究極のそれだ。それを数十。普通の人間なら死ぬ。普通で無くても死ぬ。当然のように人を殺す威力のそれを、私は主殿に向かって叩き付けた。

 

 

「ふっ!」

 

 

 回答はたった一閃。

 

 ただの一度の蹴りをもって全てをかき消されるという事実に、ああ笑みがこぼれて止まらない。

 

 ああ、これだ。

 

 この武芸だ。

 

 この武勇だ。

 

 この武術だ。

 

 これこそが我が主にふさわしいと認めた男の持つ力量だ。

 

 そう世界に言って回りたくなる程に鮮やかな一撃で、私の望んだ世界は目の前に展開されたのだ。

 

 どこの誰が、数十もの炎の塊を一瞬で鎮火できるというのか。

 

 どこの誰が、これほどの武術をおさめられているというのか。

 

 どこの誰が……

 

 

「狐」

 

 

 呼びかけられた。

 

 ああ、そんなに感情を起こした風を装わないで下さいまし我が主殿。

 

 違うのです。

 

 違わないのです。

 

 ああ、ああ、ああ。

 

 私はただ。

 

 

「狐」

 

「……はいはい。悪ふざけはここまでにしておきますとも。主殿の仕置きは厳しい事、身をもって知っておりますので」

 

 

 ニコニコと笑いながらそうやって答える。

 

 嘘では無い。

 

 だって、私が主殿に向けて行なう行動の全ては、その全てが、真摯に主殿を想っての事なのだから。

 

 

 

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