人外Vtuber達とギリ人間スタッフさん   作:ヤミナギ

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遅くなりました。

更新再開します。


第4話 駄犬

 

 と言うわけで、僕は後輩を問いただす為に彼女を追った。

 

 先ほどまでいたスタジオから出て、あの後輩の気配を追う事十数秒。

 

 それほど時がたたないうちに追いついた。

 

 後輩がいたのは社長室。

 

 自室に戻って、だらけているのであろう彼女を想像しながら、部屋にノックも無しに入ると、そこには後輩ともう一人少女がいた。

 

 見覚えのある少女だ。

 

 銀髪に近しい白髪に人耳ならぬ犬耳を持ち、吸い込まれそうな程に黒い瞳を備えた少女。

 

 その少女の瞳が僕をとらえると、彼女は随分とうれしそうな笑みを浮かべて僕に向かって飛びついてきた。

 

 その飛び込んできた彼女をデコピンで迎撃、地面に足をつかせると彼女は不満そうに僕を見上げてきた。

 

「何を不満そうにしているんだ駄犬。噛みそうな犬が飛びかかってきた迎撃するのは普通だろうに」

 

「むー。噛まないもん。噛むにしても、噛む相手は選んでるもん」

 

「ほう。で、僕は?」

 

「噛む相手」

 

「やっぱり噛むじゃないか」

 

 

 僕はぶち切れそうになるのを押さえて、こいつをどうにかして欲しいと言った意味を込めて後輩を睨む。

 

 しかし後輩は僕たち二人を交互に見比べると、ため息をつきながら背後の窓へとイスごと向き直った。

 

 そして、創作物に出てくる悪役のように、ビルの下を走る車を眺め始めた。

 

 なるほど、係わる気が無いらしい。何とかするのは貴方の仕事ですよ。と背中が語っている。

 

 

「なあなあ、楓しゃちょーばかり見てないでもっと私の事を見てよ主様」

 

「お前のような駄犬を飼った覚えは無い。……と言うか、狐と言いお前と言い何故僕を主扱いするんだ」

 

 

 絡みつくように腕を取ってきた駄犬をふりほどく。

 

 相も変わらず力が強いが、振りほどけないほどでは無い。

 

 神代の存在の二重覚醒者では有るが、肉体自体は少女のそれだ。肉体構造を理解していれば、力の差があっても振りほどくくらい楽勝である。

 

 もっとも、そのことが目の前の駄犬には不満らしいが。

 

 

「えー。いいじゃんいいじゃん。私に勝ったんだから、私を飼ってよ。そして絡ませて、噛ませてー」

 

「嫌だっつーの。何が悲しくて、世界を噛みちぎりかねないお前に噛まれなきゃいけないんだ。後無理繰りからもうとするな。お前力強いから、受け流すの大変なんだよ」

 

「嘘つき。余裕のくせに」

 

「嘘じゃねーって。余裕ではあるけど、面倒ではあるからな」

 

 

 と言うか、普通の人間なら、腕がねじ切られるくらいの力で絡んでくるとかマジで辞めて欲しい。

 

 相手が美少女でスタイル抜群だったとしてもその力を受け流し続けながら対応しなければならないのは、本当に面倒くさいのだ。

 

 

「面倒とか言わないで欲しいな。私だって女の子なんだよ」

 

「爆笑」

 

「噛むぞ?」

 

「顎かち割るぞ?」

 

「む、顎かち割られると再生が大変なのでやめとく」

 

「そうしろ、そうしろ。そして出来れば僕から離れてくれ、駄犬」

 

「むー、どうしよっかなぁー?」

 

「どうしよっかなぁ。じゃない。さっさと離れろ」

 

 

 僕はそう言うと駄犬の額の真ん中に中指が来るように彼女の顔を右手で押さえる。

 

 そして間髪入れずに、中指を彼女の額に叩き付けるという、変則デコピンをたたき込んだ。

 

 額を押さえて悶絶する駄犬。

 

 手加減したとはいえ、それなりに痛いはずだ。

 

 

「ひどいよー。演者に暴力を振るうのは反対だよー」

 

「そうか。ならして、その文句はそこの社長に言うんだな。僕が雇われた理由はその暴力を買われてのことだから」

 

「主様の武勇をただの暴力と言うには、完成度が高すぎるとは思うけど?」

 

「どれだけ完成度が高くても暴力は暴力だ。今みたいにな。……しかし、聞き捨てならない事を聞いたが、お前もアクターなの?」

 

「うん。そだよー。このアウタープロダクションの第1期生」

 

「そうか。向いてなさそうな人選だ」

 

「あはは。白亜や永劫よりはマシだと思うんだけどなぁ、私」

 

「ああ、あいつらも向いてないとは思う」

 

「ふふ。でも大丈夫。これでも崇拝されるのは得意分野だ。そういう意味じゃ、アイドルとして活躍するのに慣れていると言っても過言じゃない。それなりにファンもついてくれたしね」

 

「世も末だな」

 

「世紀末と言うには、少しばかりタイミングがずれてるけど?」

 

 

 そう言ってどや顔を向ける駄犬。

 

 その表情にいらっとする。

 

 この女に言葉で負けると、自分が情けない気分になる。

 

 が、此方は明鏡止水。苛ついた感情を胸の内でコントロールして、ため息としてはき出して、もう一度駄犬に向き直った。

 

 

「殴って良いか?」

 

「まってよ明鏡止水。今の余裕はどこに消えたの?」

 

「いや、別に。明鏡止水の領域に踏み込んでいるからとはいえ、物事にむかつかないわけじゃないし」

 

「自分の感情をコントロールできてないじゃないか」

 

「いや、した上で殴ろうという結論に至ったんだが?」

 

「余計にひどいよ。私をなんだと思っているのさ」

 

「頑丈な駄犬」

 

「ひどい」

 

 

 そう言うと駄犬は僕から距離を取って少し涙目になっている表情を向けてきた。

 

 が、その尻尾がぶんぶん揺れているので本気で嫌には思っていないのだという事はあからさまだった。

 

 ため息が漏れる。

 

 マゾヒズムに目覚めたわけでもあるまいに、何故僕のぶん殴る発言で尻尾を振っているのか全く分からない。

 

 が、まあ、どうでも良いかと切って捨てる。

 

 元々この駄犬にかまいに来たわけじゃ無い。

 

 僕がこの社長室に来たのには理由がある。

 

 

「おい、そこの後輩………いや、社長殿?」

 

「あ、じゃれ合いは終わった?」

 

「終わってないよ」

 

「そう。それじゃあ、終わってから呼んで」

 

 

 茶々を入れてきた駄犬を今度は少し本気でグーで殴る。

 

 何かがつぶれたような声を発して悶絶する駄犬を横目に見ながら、僕は再度後輩に声かけた。

 

 

「終わったぞ、社長」

 

「そう、それで、何か言いたい事があるみたいですけど?」

 

「分かってるなら聞かなくても良い。だが、こういうだまし討ちはどうなんだ?」

 

「だまし討ちでもしなくちゃ、先輩出てくれないでしょう?」

 

「それは、そうだが」

 

「それに契約通り、アクターとしてでは無く、スタッフとしての出演ですからね。本来はこのプロダクション、最初の男性アクターとして雇わせて貰うのが理想だったんですけど、それを先輩が拒むから、スタッフとして出て貰うという変則方法をとるしか無くなったというのが実情です」

 

「最初から出演はさせる気だったと?」

 

「勿論。それくらいの事をこなすに足る力は十二分にあると信頼していますので」

 

 

 そう言った後輩の言葉に僕はもうため息しか返し事が出来ない。

 

 信頼されているのは知っているが、こういう信頼のされ方は不服だ。

 

 そしてまあ、僕がそれほど怒らないだろうという後輩の判断も間違いでは無い。

 

 スタッフとして雇うと後輩は言った。

 

 しかしそれは、出演させないという意味では無かった。

 

 ただそれだけの事。契約に抜け穴を作るのは魔女の常套手段で、それを理解していたのに見抜けなかった以上、まあ、僕が悪い。不意打ちではあった。だまし討ちではあった。だけれど、その策略は見抜けない方が間抜けなのだ。

 

 そして僕は自分の間抜けさを棚に上げて、目の前の後輩を問い詰めるような、たわけた人物ではありたくないと考えている。

 

 だから。

 

 僕が漏らしたのは舌打ちだけだ。

 

 この舌打ちだって後輩への苛立ち故の物では無く、こんな簡単な仕掛けに気がつかなかった僕自身への物だ。少なくとも、後輩とバリバリに動いていた大学の頃では考えられない失策だ。武術を磨く事を停滞させたつもりは無かったけれど、油断はしていたのだろう。言い換えるのであれば。

 

 

「鈍った物だ」

 

「ん? 主様の武練は鈍っていないぞ?」

 

「武術の腕前では無く、その覚悟、あるいは心意気がだよ。……これじゃあ、お前の事を駄犬と呼んでもいられないな。どちらの方が駄目なのか」

 

「お、それなら私の事もついに名前で」

 

「うるさい。調子に乗るな駄犬。やはりお前は駄犬で十分だ」

 

 

 すり寄ってきた駄犬の提案を僕は一息で切り捨てる。

 

 こいつが僕たちにしでかした事を考えれば、あるいは今の現状しでかし続けている事を考えれば、こいつの事を駄犬と呼ぶ以外になんと呼べば良いのやら。

 

 

「しょぼーん」

 

「口で言うな」

 

 

 しかも表情は笑みを浮かべたまままるで変えず。

 

 だからこそ僕はこいつの事を駄犬と呼ぶのだ。

 

 

 目の前のこの少女の事については、つかみ所が無いというのが本音だった。

 

 無論、今まで恋人なんて言う存在とは無縁だった僕に、女の子の心の内を見通せというのがどだい無理な話だったとしても、この女に関しては本当に理解できない。

 

 多分内心を隠しているのだろうなぁ、と言う推察は出来ても、その推察が合っているのかでさえ定かでは無かった。

 

 だから僕は彼女のことを警戒し続けているのだ。

 

 嘘の中身を見抜く事は出来ずとも、嘘をつかれている事くらいであれば、鼓動の変化、声質の変化、発汗の変化などで見抜く事は出来る。

 

 嘘つきのプロフェッショナルで有れば分からないだろうが、この駄犬はそのプロフェッショナルと呼ぶにはほど遠い。どのタイミングで嘘をついているのかは丸わかりだった。

 

 だから僕は理解している。

 

 

「ねね、主様」

 

「何だよ、駄犬」

 

 

 主様などと僕を呼んでいるが、この呼び方でさえ不服に感じている事を。

 

 あるいは少しでも油断すれば、本気で僕の事を噛み殺す気である事を。

 

 その位の事は女心に疎い僕でも理解している。

 

 そもそも、このくらいの推察は女心なんて関係なかったか戦闘に携わる者としての観察力。

 

 それで当然のように見抜ける。

 

 

「主様はスタッフとして雇われたんだよね?」

 

「ああ。契約書にはそう書いてあったな」

 

「と言う事は、私たちのお手伝いさんと言う事で間違いないの?」

 

「一応、そういう説明を受けたけど、間違ってないよな、社長?」

 

 

 僕がそう問いただすと後輩は苦笑しながら答えを返した。

 

 

「マネージャー業務をアクターのお手伝いと定義すれば、まあ、間違ってはいませんね」

 

「だ、そうだ」

 

「あ、そうなんだ。それじゃあ、散歩いこ散歩。……はいこれ」

 

 

 そう言うと駄犬はリードを取りだして首輪を自身に嵌めると、もう片方を僕へと差し出してきた。

 

 そんな物を渡されても僕は困る。

 

 ええ……本気でマゾヒズムにでも目覚めたのかこの女。

 

 そういう目で見てやると、駄犬はクスクスと笑みを浮かべるだけ。らちがあかない。

 

 そう判断した僕は、後輩の方へと再び視線をやった。

 

 すると後輩は、至極当然のように言葉を続ける。

 

 

「行くなら屋上から行きなさいよ、夕日」

 

「はーい。それじゃ、行こっか主様」

 

「ええ……マジで行くのか? 僕にはそういう趣味は無いんだけど」

 

「屋上伝って、この町を案内してあげる。……あ、下の方が良いって言うなら私はそれでも良いけど」

 

「ははあん。なるほど、これは脅しだな駄犬。主様なんぞと持ち上げておいて、結局はそれか。自らの望みを通す為にならば、手段を選ばない」

 

「くふふふ。お散歩は飼い主の義務だから仕方ないね。と、言うわけで早く早く」

 

 

 その言葉に僕はため息をついた。

 

 そしってしぶしぶながら駄犬の言葉に従う。

 

 社長室を出て、向かう先はこのビルのエレベーターだ。

 

 にこやかな笑みを浮かべているとなりの駄犬とは対照的に僕はため息を隠す事さえしなかった。

 

 ついたのは屋上一つ下のフロア。

 

 そのまま階段で屋上に上がってみれば、暖かい日差しとビル風が吹き抜けて気持ちが良い。

 

 

「それじゃあ、行こうか、お散歩」

 

「はいよ」

 

 

 ため息しか出ない。

 

 飛び降り防止のフェンスに飛び乗って、そのまま駄犬は空中に身を投げ出した。

 

 それを追うようにだけの後に続く。

 

 着地するのはとなりのビルの屋上だ。

 

 渡されたリードを緩ませるでも無く張らせるわけでも無い適度な距離感を保ちつつ、駄犬の散歩コースに付き合う。

 

 ビルの屋上から屋上へ。

 

 そして、あるいはビルの壁と壁を蹴って、小さな足場を無理矢理足場にしてビルの合間を縫うように走り抜けていく。

 

 

「流石。私のお散歩にこうも簡単についてこれるなんて」

 

「いや、結構ぎりぎりだ。だからさっさと事務所に戻りたいんだが?」

 

「えへへ、やだー」

 

 

 言うと駄犬はさらに速度を上げた。

 

 それに合わせて僕も速度を上げる。

 

 犬を散歩するときのコツはリードの長さを一定に保つ事。

 

 と言うわけで僕はそのコツを実践する為に、この駄犬との距離をきっちり完璧に保って見せていた。

 

 タンタンタンと軽い音が響き渡る。

 

 リズムよくテンポよく、一糸乱れず、僕はこの駄犬の散歩に楽しむだけ付き合わされたのだった。

 

 

 

 

 

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