ゲームが上手いコミュ障底辺配信者が成り上がる話 作:グラタン二世
「…は、嘘だろ、」
音が、聞こえない。昨日まではしっかりと聞こえてたのに。
「…片方は聞こえるな」
両耳が聞こえないわけでなく、片方──左耳が聞こえない。
「病院に行った方がいいのか…?」
普通ならすぐに病院に行くが今は大会前だ。メンバーに迷惑はかけたくない。けど、これを放置したらどうなる…?ずっと聞こえなくなるかもしれない。……なんでこんな時になんだよ。
「…1回、abcxやるか」
この状況でabcxをやれるのか、とりあえず起動してみる。
◇
「一応、片方でもなんとかなりそうだけど…」
1回やってみた結果、ランクマッチで7位を取れた。一発目にしては上出来な順位だが──
「違和感しかないな…」
いつも通りにやったつもりだが片方聞こえないのは違和感が凄い。普段なら聞こえる足音を聞き逃したりしたし。
「もう何回かやってみるか…」
─1時間後
「…やればやるほど下手になってる」
初戦よりも良い順位を取ることはなく、自分がミスをする場面の方が多かった。
「最悪だ…」
◇
「…もうちょいで集合時間か」
あの後、ただ悩むだけで行動には移せず病院には行けなかった。
「このこと、話した方が良いのかな…」
分からない。もし俺が公表して治療に専念するためにこの大会を辞退することになってしまったら、迷惑しかかからない。
「やめとくか…」
話すメリットもあるだろうけど、デメリットも多分あるだろう。だから、話さない。
◇
「こんちゃ〜」
「お疲れ様です。ひかりさん」
「お疲れ〜ひかりちゃん」
「あれ?如月さんは?」
「まだ来てないよ〜」
「珍しい。SKさんの方が早いことあるんだ」
「まるで私が遅刻してばかりみたいな言い方ですね…」
「そこまで言ってない!」
カイが来る数分前、イツキ達は既に集合していた。いつもはSKが試合前ギリギリに来ることが多いが、今日はイツキ→SK→ひかりの順でサーバーに入室した。
「そろそろ来ると思いますからアップしておきましょう」
「やる?タイマン」
「いいよ〜」
カイを待っている間にイツキとひかりのタイマンが始まる。
「まぁ、僕が勝つけどね」
「いーやアタシが勝つね」
武器はタイマン御用達、ハンドガン。シールドは赤。キャラはどちらもレイサー。
「じゃあ、いきますよ」
「はい!」
「かかってこいやー!」
「始め!」
SKのかけ声により、2人が動きだす。距離はそこまで開いてない。──開始直後、一発ずつどちらも直撃。レイサーだと大体5発当たれば敗北となる。既にどちらも一発ずつ受けたため、後、4発ずつ。
(…よし、後2発!)
イツキはひかりの移動する場所を予測し先にエイムを置いた結果、2発当てることに成功。この2発は大きいが──
(痛ぁ…ヘッドショットだ)
ひかりはすぐに撃ち返して、ヘッドショットを一発撃ち込む。ヘッドショットは1回当てたらダメージが大きい。それ故に一度当てたら逆転できる可能性もある。
(あ、当たった)
「えー今の当てんの〜!?」
「当たっちゃった」
「もう1回!」
もう一度、ひかりが移動しようとしたところでイツキが2発当て、タイマン1回目は終了。ひかりの一瞬の移動に当てていけるイツキは多分結構エイムがおかしくなってきている。
「じゃあ、2本目開始!」
「今度は勝つ!」
「いーや今度も僕が勝つ!」
◇
「行こ…」
時間的にそろそろサーバーにはいった方が良いだろう。結局俺はどうするべきなのか分からない。
「…がんばろ」
とりあえず耳のことはバレないように今日は立ち回ろう。
「すいません遅れました…」
俺がサーバーに入った瞬間、聞こえてきたのは──
「もう1回!もう1回!」
「そろそろ試合始まるので…」
「あ、カイさん来た〜」
おそらく、星乃さんの声だった。タイマンでもしてたのだろうか。
「タイマンして待ってたんだけど、ひかりちゃんが中々負けず嫌いでさ」
「あと少しで勝てそうなのに〜」
ほんとにタイマンしてたらしい。結構長い間待っていたらしくて申し訳ない。
「遅れたのほんとに申し訳ないです」
「まぁまぁ間に合ってるし問題ないよ〜」
「そうね。まだもう少し時間あるから如月さんもアップしよう」
アップを開始したが、俺は1回しか勝てず心配された。とりあえず寝起きだからと、嘘をついた。
◇
「さ、行くよ〜!」
「お〜!」
20時過ぎ。いつもと同じ時間に今日もスクリムが始まる。既に4日目。スクリムは後1日しかない。
「…うわ〜結構外れたね」
「とっとと移動しちゃおう」
第1収縮のためにかなり移動しなければならなくなった。あまり物資を揃えられてないので移動中に揃えていかなければならない。
「キツいですね…」
「まぁ行こ〜」
収縮開始一分前、移動を開始する。
「最近安地運悪いよね〜」
「確かにあんま良くないね」
スクリムを通してあまり安地運が良くない気もする。それはまぁしょうがないことだ。運だからね。
(この安地の傾向は知らないな。とりあえず中心の方に行きたい)
今回の安全地帯は俺が全く知らない傾向なので移動が後手後手になる可能性が高い。だから中心に行って移動を簡単にしたい。
「安全地帯の中心に向かいます…!」
「了解!」
「ほい!」
◇
「…大丈夫でしょうか」
3人が移動している画面を見ながら、SKは呟いた。昨日のカイ君は始まる前は何か思い詰めてそうだった。昨日のスクリムで1位を取れてからもちょっとだけ消極的な感じがした。
そして今日はいつもより遅れて来て、発言もそこまで多くない。何かあったのかもしれない。
「判断は大丈夫そうですね」
中心への移動の判断は問題ない。
「な、気づいてない…?」
移動中、近くに敵がいるのをカイ君が気づかなかった。幸いにも他の2人が気づき事なきを得た。これでキルポイントは3。カイ君がダウンさせられたが蘇生できたので無問題。
あの距離で気づけなかったのはどうしてだろうか。いつもなら
真っ先に感づいていそうだけど。
まさか、耳が聞こえてないとかないだろうか。もし、そうなら私は……
◇
「ありがとうございます…」
「倒せたし、おっけーおっけー」
敵がいることに気づけず倒されてしまった。少しはダメージを与えていたので水無瀬さんと星乃さんが倒してくれた。
本当にただただ気づけなかった。2人の声に集中し過ぎていたのだろう。普通は片方で会話を聞き、もう片方でゲーム音──足音や銃声を聞く。それが今はできていない。
こんな状態でスクリムに出ている。良くは、ない。
「なんとか入れたね〜」
「よかったよかった」
戦闘があったので少し遅れて安地内に入った。本来は収縮終了の30秒前には入れる予定だったが15秒前になってしまった。
「…次の安地は──」
「…このまま中心まで行きましょうか」
第1収縮が終了し次の安全地帯が決定する。このまま中心まで行っても大丈夫そうだ。
「さ、行くよ〜!」
「了解です」
◇
第2収縮開始まで残り、40秒。彼らは予定通り中心の方に寄ることができていた。
「近くにはいるけど大丈夫そうだね」
「そだね。ここは取られてなくて良かった」
今回の安全地帯の中心は住宅街。既に3部隊ほど居たが、中々良さそうな家が空いていたのでそこを取ることに成功する。
「…近くに敵多いので警戒はお願いします」
「はいはいもちろん!」
「ほいさ〜」
ポジション的には良い場所を取ることができているので警戒は怠れない。この家は他の家屋よりも少し大きいサイズで屋上に行けば射線も通しやすい。だがそれ以上に侵入されやすいような構造をしている。
「うわ〜めっちゃ足音する〜」
「こわー」
「あんま怖いって思ってなさそうな声じゃない?」
「そんなことないよー」
「ほんとに怖くなさそうですな」
「まぁ来たら戦うしかないしねー」
「それもそうだね」
そして第2収縮開始から数秒、多くの部隊がこの住宅街に集まりつつあった。屋上には水無瀬さんが居り、上からの侵入にはおそらく気づけるだろう。ちなみに二階から入られると面倒なので俺と星乃さんが居る。
「予想は合ってたね。ラッキーだ」
「このまま膠着するかもね」
第2収縮が終了し、第3収縮の安全地帯が表示される。予想していた通りこの住宅街が最後まで安地になりそうだ。
「…グレネード来ました!」
「一階から2人来てます!」
「…下は俺が抑えます」
屋上にグレネードが投げ込まれたようだ。おそらく牽制。それと同時に一階から足音が聞こえた。星乃さんが言うには2人来ているらしい。
「二階に1人来た!コングフィスト!」
階段の近くにキーランウルトを炊き、一階からは入ってこられないようにする。
「…今二階行く!───痛!」
そう水無瀬さんが言った瞬間、レイサーのアーマーが破壊された。スナイプされたのだろう。この家は狙われまくっている。
「下、降りた!」
俺が星乃さんのところに戻る前に、コングフィストは下に降りた。──他の場所からも銃声がする。安全地帯が少し狭くなったのでポジションを取るために戦闘が加速してるのだろう。
「──な、」
「アタシが相手する!」
数秒後、もう大丈夫だと思っていた階段のところから敵が現れた。
(…なんで防壁が破壊されることを頭に入れてねぇんだよ)
防壁の耐久値は高いと言っても何百発と撃たれれば破壊される。そのことを頭に入れておらず、完全に油断していた。
2人が同時に入って来ていたのでかなり体力を削られる。その間に星乃さんが撃ち返し、水無瀬さんもグレネードを投げる。それらによって一度階段に居た2人は退いていく。
「…カイさん!後ろ!」
「え──」
後ろにコングフィストが立っていた。体力がかなり減っていたので瞬殺される。そしてそのまま星乃さんにハンドガンの銃弾が放たれる。
「…まっずい」
「ちょ、それは無理」
俺が落とされたことにより人数不利になったのと、コングフィストの驚異的なキャラコンとエイムで星乃さんが撃破される。そして一階にいた2人も二階に戻ってきたので、水無瀬さんは3対1となり、倒されてしまった。
(俺がコングフィストに気づかなかったから……)
だから、負けた。全部俺のせいだ。
「わードンマイドンマイ!」
「しゃあないね。次はちゃんと対策しないと」
「ん?てか今のSuRarさんじゃん」
「あーマジか。そりゃ無理だよ」
──なんで、すぐに切り替えられるんだ。
「……みなさん」
「うん?どしたんですかSKさん」
「ダメ出しかな?やさしくお願いするわ」
「いえ、スクリムが終わったら話があります」
「…おっけーです」
「はいよ〜」
「…わかり、ました」
気付かれた、のか?それなら、ヤバイ。どうにかして誤魔化せないか…?
「あ、2試合目はじまるよー」
「あ、トイレ行っとけば良かった」
◇
「今日は全然だったね〜」
「結構運も悪かったし、しょうがないよ」
2試合目以降も俺は思うように動くことができなかった。
スクリム4日目の結果は惨敗に終わった。
「……じゃあ、みなさん配信切りましょうか」
「はーい。みんなまたね!」
「おつかれーまた明日ー!」
各々がリスナーに挨拶し、配信が切られる。
「さて、なんとなく分かってはいると思うんですよね」
「…まぁ、ね」
「……」
あぁ、やっぱりバレていたじゃないか。
「カイ君」
「………はい」
「なんかあるんだろう?」
俺は、ただ怖いだけだ。彼らになんと思われるのか分からないから。
怖い、けど。話すしかない。それが俺のできること、だと思うから。今更そう思うのはあまりにも傲慢だけど──
俺には、ここしかない。だから、やるんだ。
「………言えなくて。すいませんでした。けど、今から話します」
「……あぁ」
もう、戻れない。
「……今、俺の耳が片方聞こえてないんです」