ゲームが上手いコミュ障底辺配信者が成り上がる話 作:グラタン二世
「…ありがとう。言ってくれて」
「…え、」
なんで、感謝されてるんだ?
「そして、すまなかった。すぐに気づいてあげてれば…」
「な、なんで謝るんですか!俺が全部悪いのに!」
「いや、コーチとして気付いたときに話すべきだった」
俺が、全部悪いのに、謝られた。
「…とりあえず経緯を聞こう。話してくれますか?」
「…はい」
そうして、俺はみんなに全てを話した。
「…なるほどね。多分だけどこれは突発性難聴だ」
「アタシもそう思う」
「…心当たりがあるんですか?」
「うん。空色ライブのメンバーになったことがある人がいるんだ」
「その人って……」
「あおいちゃんだよ」
「あおいだね」
俺が知っている人だった。あの人も──
◇
「ふぅ…」
青空あおいはスクリムが終わった後、残っていた仕事を終わらせていた。彼女の仕事は歌唱メインだが、歌の仕事以外にもやることは多い。
「…通知」
仕事が一段落着き、休憩していると通知が来た。それを送ってきたのは──
「イツキ?」
水無瀬イツキだった。そこそこ遅い時間なのに連絡、しかも通話もしたいと言ってくるというのは何かあったのだろうか?
「まぁ、行きましょうか」
とりあえず指定されたサーバーに入ることにした。そして通話に入ると──
「あ、あおいちゃん」
「おつかれーあおい」
「えぇ、お疲れ様」
イツキとひかりがいた。そしてもう2人。この2人は──
「……お久しぶりです」
「初めましてSKです」
如月さんと、このチームのコーチか。
「…用件は何でしょうか?イツキ?」
「…相談があるんだ」
「お、俺が話します」
◇
「…なるほど。事情は理解しました」
まさか如月さんの耳が聞こえなくなるとは。すぐに病院を受診した方が良い。と、言いたいところだけど──
(…今はスクリム中。そしてもう2日したらRaising cupも始まります。)
もし、彼がいなくなったら、辞退したのなら、減ったメンバーをどう埋めるのか。もう大会の2日前だ。時間がない。
(でも、辞退でもしなければ耳の状態は悪化してしまう)
あるのは2つの選択肢。1つ目は如月さんが大会を辞退し、耳の治療に専念する。そしてすぐに新たなメンバーを探す。2つ目は自身の耳を捨て、大会に強引に出場する。
どちらを選んでも、必ず後悔する選択肢。 でも私が選んであげられるのは一つだけ。
「私は…今すぐにでも病院に行って、Raising cupを辞退すべきだと思います」
「…!」
如月さんには酷だが耳を壊してまでやるべきではないのだ。もちろん辞退すれば色々な方に迷惑がかかる。けど──
(…あんな風に苦しむのは私だけでいい)
自身が身体を壊した時、様々な方面に迷惑がかかった。耳が聞こえないのは大変だ。いつもなら聞こえる声が聞こなくなり、ストレスも溜まる。そのストレスでまた悪化してしまうこともある。…悪循環だ。
「そう、ですよね……」
「辛いのは分かります。この大会を諦めるというのは酷ですけど、あなた自身のことを考えてください」
「………」
◇
「あおいちゃん。ほんとにどうしようもないの?」
「…えぇ。これしかないです」
「そっか……」
あおいさんはRaising cupの辞退を勧めてくれた。そりゃそうだ。このまま強引に出場したら耳の状態は悪化するのは確実だろう。
(でも、俺はこのままでいいのか…?)
この大会を諦めてしまったら俺は何も成長できないまま終わるんだ。それも多くの人に迷惑をかけて。
──それだけは嫌だ。
「…俺はRaising cup出ます。出たい、です」
「本当に言ってるんですか?このまま強引に出れば取り返しがつかなくなりますよ!」
「それでも俺は出たいです!」
俺の耳のせいで何もかも諦めるなんて、嫌だ。嫌なんだ。
「俺の耳がどうなったっていい!」
「…あなたはそれで良いんですね」
「はい…!」
「カイさん!やめとこうよ!耳がずっと聞こえなくなるかもなんだよ!?」
「如月さん…!」
これは、ただのワガママだ。
「…俺はこのチームで優勝したいんです」
「ぇ…」
「…あ」
最初で最後のワガママ。俺は諦めきれない。
「お願いです!みんなと一緒に出場させてください!」
「…ほんとにワガママだね。カイさん」
「…そ、それは」
「分かった。このまま行こう!」
「そうね。この大会終わったらクソゲーの刑だね」
「…ありがとうございます!」
2人は俺の選択を信じてくれた。…ありがとう。
◇
(……如月さんにはこの大会を諦めるという選択肢はなかったんですね)
如月さんは耳を壊す覚悟を持っていた。
(私は如月さんのことを知らなかった)
そこまでの覚悟を持っているのは知らなかった。
彼の心の内を何も、知らなかった。
だからRaising cupの辞退を、勧めてしまった。
(…酷いことをしてしまいましたね。あとで謝っておきましょう)
◇
「…本当にありがとうございました」
「いえ、如月さんの覚悟を知らないで話してしまってすいませんでした」
「あ、謝らないでください。俺の選択は多分…間違ってるんですから」
俺の選択──耳を壊してでも大会に出るという選択は普通ならおかしいものだ。
──俺はただこのチームで勝ちたいんだ。
「…選択というのは結果論です。正解なんて多分ないんですよ」
「…!」
「私達も今回の大会勝ちにいきます。負けませんからね」
「はい…!俺達も負けません…!」
「ひかりちゃん!来てくれてありがとう!」
「…後輩の頼みだもの。来るのは当然よ」
「いい先輩だなー」
「ひかりは…後輩なんだっけ…?」
「なに!?アタシはどうでもいいってこと!?」
「冗談よ」
空色ライブ組と少し話したら仕事が残ってるから、とあおいさんはサーバーを抜けていった。仕事が残っているのに来てくれたのは感謝しかない。
おかげで覚悟が決まった。
「…みなさんちょっと頑張っといてください」
「なんかあるの〜?」
「少し話合いしに行かなくてはならないのです」
「あ〜なるほど」
「そうだ、カイ君」
「は、はい。な、なんですか?」
「耳のこと、公表しといてね」
「…大丈夫なんですか?」
「大丈夫です」
「分かりました」
俺の耳のことは公表することになった。元々公表する気はなかったけどSKさんに言われたらするしかない。
「じゃあ…abcxやりましょうか」
「おっけー!」
「ほいほ〜い」
SKさんが抜けたあと、俺の今の状況を慣らせるためにabcxを始めた。
「さて、どしたん?話聞こか坂本くん?」
「…それキモいからやめてくれ」
私は今回のRaising cup主催。Raisingのオーナーであり──
「…で、結局何の話なんだ?」
「水無瀬イツキのチームのメンバーのことだ」
「ほう…」
私がプロゲーマーだった時からの友人のヤマト通話を開始していた。
◇
「まぁ、簡単に言えばアクシデントがあった」
「なるほど。ヤバそうなタイプか?」
「あぁ。メンバーの1人……如月カイの耳の異常だ」
「…突発性難聴か?」
「おそらくな」
「…彼はこの大会をどうしたいと言っているんだ?」
「耳を壊してでも出ると言っていた」
「マジか…すげぇな…」
「だろう?正直言えばカイ君の覚悟を舐めてましたよ」
「ぼくとしては辞退して療養に努めてほしいんだけど…」
「私もそう思っていたさ」
そうだ。私は知っている。身体の不調でどうしても大会に出れなくなってしまった人を。だから、この人生で悔いのないように生きてほしいのだ。
「だが…彼は諦めないという強さを持っていた」
「…大会が終わってからは絶対療養させろよ」
「もちろんだ。……そこで提案がある」
「何だ?」
「彼の状況をそちらからも伝えてほしい」
「……分かった。あとで公表しておく」
「ありがとう」
「友人からの頼みだしな」
「じゃあ、また大会が終わったらな」
「いや、待てよ。久しぶりに少しは話してこうぜ」
「……分かった」
◇
「…今日はお疲れ様でした」
「うん!カイさんもお疲れ様」
「ゆっくり休みなさいよー」
何回かabcxをしたあと、今日は解散することになった。多分俺のことを気遣ってくれたのだろう。
「じゃあね〜」
「バイバイ!」
「ありがとうございました」
サーバーを抜け、パソコンの電源を切ったあとベッドに身体を放り込む。
「結構みんな反応してるな…」
先ほど公表した、俺の耳の案件。俺のリスナー以外からも反応が多くなってきている。
炎上するかもしれないと思ったが大丈夫そうだ。大体のリスナーからは「頑張ってください!」と送られて来ている。
(…みんな優しいんだな)
いつの間にか、涙が頬を伝う。
(絶対に勝たないとな…こういう選択をしたんだから)
涙を拭いながら俺はそう決意した。
◇
「…ん」
いつの間にか眠ってしまっていたらしく、太陽の光がカーテンの隙間からチラチラと溢れている。朝は早い。
今日、7月29日はスクリムの最終日。大会前日だ。
「あれ…?通知?」
俺が眠ってしまったあとSKさんから通知が来ていた。
『カイ君。設定のところにある『サウンドエフェクト』ってところをONにしてみてください。この設定はゲーム音が画面上に出てくる機能だそうです。SuRarさんから聞きました。
是非試してください』
SKさん…ありがとうございます。俺の為にここまでしてくれるなんて。
「勝つしかなくなったな」
選択したんだ。このチームで勝つって。
「慣れねぇとな…」
そう呟いて、俺はパソコンを起動してabcxを始めた。
◇
カイが起きる数時間前──
「…ありがとうSuRar」
「イイヨ」
「じゃあ、また大会で会おう」
「オウ!仲間バンゼンにしとけよ!」
「…もちろんだ」
ヤマトと話終えたあと私はSuRarに連絡を取り、どうすれば良いか相談した。彼はabcxのプロ。このゲームを知り尽くしている。私が知らない設定を知っていると踏んだら案の定知っていた。……流石プロ。
彼が教えてくれた理由はただ一つ。大会の場なのでみんなが万全の状態で戦ってほしいからだ。みんなが強い状態で戦いたい。それだけなのだ。
要するに──戦闘狂。稀によくいる戦闘狂だ。
「これで良かったんだな…?」
これが私の選択。彼に背負わせるのはまだ不安だ。けど──
「いや、彼なら大丈夫だ。カイ君なら大丈夫」
これは私の覚悟。これから何があっても全て私が責任を取る。
そして───
これが私の選択だ。