ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM   作:MOZO

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其の二

 

 その頃、シグレは饅頭にかぶり付きながら街の散策をしていた。

 ふと、城の方から雑踏に混じり悲鳴が聞こえてくる。

 

「む? やけに騒がしいでござるな」

 

 前方に目を凝らすと、豚顔の怪人が土煙を上げて周囲の物を破壊しながら猛進してくるではないか。

 

「退け退け退け! カバトン様のお通りなのね~ん!」

 

 「奴が騒ぎの元凶か」と思い至ったシグレは残りの饅頭を頬張ると、道のど真ん中で立ち止まり、右手を前へ翳して制止を呼び掛けた。

 

「そこの豚の御仁(ごじん)、待たれぃ!」

 

 いきなり行く手を遮られ、カバトンは急停止する。

 

「な、何なのねん!?」

 

「どういった事情かは存ぜぬが、これ以上の阿漕(あこぎ)な真似は━━ッ!」

 

 シグレがカバトンの脇に抱えているものに目をやると、シャボン玉のような球体の中に赤ん坊が閉じ込められており、その目には涙の粒が溜まっていた。

 それを見た途端、事の次第を察したシグレに怒りが込み上がる。

 

「お主、その赤子をどうするつもりでござるか?」

 

「お前には関係無いのねん。さっさとそこを退くのねん!」

 

「断る! もし、その赤子を利用して悪事を働こうというのであれば承知せぬでござる!」

 

 シグレは愛刀「ハルサメ」の柄を握り締め、抜刀の構えをする。

 

「ケッ、お前に構っている暇は無いのねん!」

 

 カバトンは踵を返し、元来た道を逆走していく。

 

「待てぃ!」

 

 シグレはすぐさまカバトンの後を追跡する。

 猛烈な勢いで爆走するカバトンに撒かれまいとシグレも懸命に足を動かし疾走する。

 

「ったく、しつこいのねん!」

 

 カバトンはシグレの追跡から逃れようと周囲の物を手当たり次第に後方へ投げ付ける。しかしシグレは、飛んでくる障害物を縦横無尽に躱していく。

 進行方向に門が見えると、兵士たちが塞ぐように待ち構えていた。が、カバトンはスピードを緩めることなく強行突破で兵士たちを蹴散らして都の外へと出てしまった。シグレも追走を続けるが、一向に距離が縮まらない。

 

()くなる上は!」

 

 シグレは走るのを止めると、鞘から「ハルサメ」を抜刀する。その刀身はまるで、雨上がりの雲間に射し込む光芒(こうぼう)のように白く輝いていた。

 柄を両手で握り、刀身を左横へ回して静かに構える。

 

「スカイランド剣術、一の型━━」

 

 シグレが「ハルサメ」を横一文字に振り抜いたと同時に生じた風圧が斬撃となって飛んでいく。

 

切空斬(せっくうざん)!」

 

 風の刃は刹那の内に前へと飛躍していき、カバトンを捉える。

 

「ッ!?」

 

 身の危険を感じ取ったカバトンは仰向けに仰け反り見えない刃を回避した。かに見えるが、モヒカンの毛先が僅かに斬られていたのだった。

 

「あ、危ないのねん! 頭が斬れていたらどうするのねん!」

 

「これは失敬。しかし、ようやく足を止めさせたでござる!」

 

 シグレはカバトンと対峙し、ジリジリと間合いを詰めていく。

 ふと、カバトンは背後からの気配を察し振り向いた。そこには、仁王立ちをする青い髪の少女、ソラの姿があった。

 

「お前もぶっ飛ばしてやるのねん!」

 

 カバトンはソラに向かって突進していく。

 一方のソラは姿勢を低くし、両手を地面に着けて身構えた。

 

「よーい・・・・・・ドン!」

 

 ソラは弾丸のように走り出し、カバトン目掛け疾走する。カバトンと接触しそうになる間際、地面を思い切り蹴り跳躍した。

 

「馬跳び!」

 

 ソラは飛び抜き様にカバトンの頭を蹴飛ばし、バランスを崩したカバトンは抱えていた赤ん坊の入ったシャボンを放ってしまう。透かさずソラがキャッチ。シャボンも破れ、赤ん坊は解放される。

 

「るぅ~?」

 

 赤ん坊はキョトンとした表情でソラの顔を眺める。

 そんな彼女にシグレが拍手を称賛の送る。

 

「見事な身の(こな)しであった。感服致したでござる!」

 

「わたしにできることをしたまでです。あなたの方こそ、この子を助けるために追い掛けていたところを見てましたよ」

 

「いやいや。拙者はたまたま居合わせただけでござるよ」

 

「申し遅れました。わたしはソラ、ソラ・ハレワタールです!」

 

 ソラはペコリとお辞儀をして自己紹介をする。

 

「おっと、これは拙者も名乗り申さねばならぬでござるな」

 

 シグレは屈むと地面に左の膝と拳を付け、意気揚々と名乗りを上げた。

 

「拙者、名はシグレ、姓はアマヤドゥーリ。世界一のサムライを目指し津々浦々(つつうらうら)、修行の旅をしている者でござる!」

 

 とても礼儀正しく名乗るシグレにソラは呆気に取られてしまう。

 

「コラァ! オレ様を差し置いて呑気に挨拶してるんじゃないのねん!」

 

 すっかり忘れ去られたカバトンが地団駄を踏んで怒鳴り散らす。

 シグレがソラと赤ん坊を庇うように一歩前へ出る。

 

「こんな幼気(いたいけ)な赤子を連れ去るなど不届き千万。拙者が成敗してくれる!」

 

「ソラ、そしてシグレ、お前たちの名前は覚えたのねん。なぜなら、お前たちの墓石に刻む名前が必要だからなのねん!」

 

 どういう意味かと問おうとした時、突然カバトンは背を向けてシグレたちへ尻を突き出した。

 

「ウェルカム・トゥ・ヘブーン!」

 

 カバトンが放屁をかまし、視界が黄色い煙幕に包まれた。その強烈な臭いにソラとシグレは悶絶する。

 

「くっさぁー! 何食べたらこんなに臭うんですか!?」

 

「ゲヘッ、ゲホッ! おのれ、なんと卑劣な!」

 

 あまりにも下品な奇襲に不意を突かれてしまった二人。やっと視界が晴れ、ソラの懐に目をやったシグレは仰天した。

 

「ソラ殿、赤子が!」

 

「しまった!?」

 

 今の今までソラが抱いていた赤ん坊の姿は無く、振り返ると放屁の隙にカバトンが再び赤ん坊を奪い、彼の背後には謎の穴が広がっていた。

 

「いずれお返しに行くのねん。今日のところはさよオナラ~♪」

 

 最後屁(さいごっぺ)を残し、カバトンは赤ん坊を連れて潜り込むように穴の中へと入っていく。

 ソラとシグレは開いたままの怪しげな穴を見詰める。中はどのようになっているのか皆目わからない。だが、赤ん坊を放って置く訳にはいかなかった。

 

「ソラ殿、拙者と考えていることは一緒でござるな?」

 

「はい。行きましょう!」

 

 覚悟を決め、ソラとシグレは穴の中へ飛び込んでいった。

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