ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
「オレ様、完・全・復・活!」
昼下がりの空き地でカバトンが声を張り上げ、その周りでクロボーズが無機質に拍手を送る。
前回の戦闘で、電車ランボーグを生み出すために身体中のカロリーを消費して痩せ細っていたカバトンであったが、今では体格も調子も元通りとなっていた。
「準備もバッチリなのねん! 今度こそプリキュア共をぶちのめすのねん!」
「そのセリフを何度聞いて、何度失敗しただろうな」
塀に寄り掛かっていたクワガオーガが絶妙なタイミングでダメ出しをする。
「ヘン、オレ様のことをネチネチと言える立場なのねん? お前だってこの前はアイツらにしてやられたくせに」
いつもならクワガオーガの指摘に逆上するカバトンであるが、嫌味な口調で彼をイビるのだった。
「まぁ~、今日のカバトン様は機嫌が良いのねん。ついでに汚名を返上しといてやっても良いのねん!」
気前良く仇討ちをしてやろうと言うカバトンではあるが、その実クワガオーガの弱みを握って借りを作らせようという魂胆なのだ。
「という訳で、またお前んとこのクロボーズを貸すのねん!」
「汚名を返上してやろうという相手に助力を請うてどうする?」
「堅いことを言うなよ~。オレ様の立てた作戦とお前んとこの戦力を合わせてプリキュアを倒し、プリンセスを奪う。そして、オレ様はあの御方に誉められてお前は体裁を保てる。これぞウィンウィンなのねん!」
意味を履き違えているが、カバトンはお構い無しに両手でピースサインをして指をくいくいと折り曲げて見せた。馬鹿馬鹿しく思えてならないクワガオーガは何度目かの溜め息を吐く。
「貴様に期待してなどおらん。やるなら勝手にやってろ」
クワガオーガは愛想を尽かし、クロボーズを置いて立ち去っていく。
「こちらも思案のし時だな。場合によっては、
去り際にボソリと呟くクワガオーガだが、その言葉はカバトンに聞こえなかった。
「オレ様の成功に感服して平伏す姿が目に浮かぶのねん。お前たち、気合い入れていくぞー!」
残ったカバトンは意気揚々と右の拳を高らかに掲げると、クロボーズも続いて拳を上げるのであった。
* * *
ヨヨのお使いのため街を巡るソラとシグレ。渡されたメモには、『マシュマロ。たこつぶ。フクロウの羽根。ボタン電池。ノート2冊』と何に用いるのか想像し難い代物ばかり。
「これもトンネルを繋げるための?」
「どのように使うのか皆目分からぬでござるな」
いくらメモを確認しても謎は解けないまま。二人の頭に疑問符が浮かんでいく。
(あれ? 今、わたしとシグレさんは二人でお買い物━━)
ふと、ソラは自分たちが置かれている現状を把握する。シグレと二人だけで外出。そう意識すると再び胸の鼓動が早くなり、顔が赤くなっていく。
(また心臓がバクバクしてきちゃいました! わぁ~、顔が近い!)
メモを見るシグレの顔がソラとたった数cmの距離にある。意外にまつ毛が長かったり、シュッとした鼻筋であったりと、細かな発見についつい見入ってしまう。
「ソラ共、拙者の顔に何か付いているでござるか?」
自分の顔をジーっと覗いてくるソラにシグレが問い掛ける。
「うぇっ!? いえいえいえ何も!」
ソラは誤魔化しながら視線をシグレから外すと、丁度『Pretty Holic』のショーウィンドウに目が移る。どれも可愛らしいデザインの小物が並べられていた。
「かわいい! こういうのましろさん好きそう!」
「さようでござるな。ましろ殿なら喜ぶやもしれないでござる」
「ねぇ、ましろさ━━」
思わずましろの名を呼ぶソラであったが、その姿は
「あぁ、そうであった。ましろ殿は今、学校に・・・・・・」
ましろは二人がソラシド市に来た時から常に行動を共にしていて、傍らにいるのが自然だと思っていた。しかし、いざいないとなると言い知れない虚しさを感じてしまう。
ソラとシグレが表情を暗くしていた時だ、
「ソ~ラちゃん、シ~グ~レちゃん!」
何者かが二人の名前を呼び、背後から飛び付いた。
「はい!?」
「うぉっと!?」
反射的に飛び退く二人。彼女たちに近付いてきた人物の顔には覚えがあった。
「あげはさん!」
「コンちゃ!」
あげはが右手で狐の形を作って茶目っ気たっぷりに挨拶をした。
「拙者たちに気取られずに近付くとは、中々の御仁でござる」
「それもそうですけど。あげはさん、どうしてここに?」
「学校帰りでさ。それより二人共どうかしたの? なんか浮かない顔してたよ?」
明らかにテンションが低くなっていた二人を見つけたあげはが声を掛けたのだ。またも落ち込むソラとシグレにあげはは
「OK! とりあえず気分アゲてこう!」
あげはは景気良くソラとシグレの手を引いて『Pretty Holic』の店内へと入っていく。
* * *
『Pretty Holic』には販売スペースの他にカフェスペースも併置されている。あげははパフェを二つ注文し、ソラとシグレの前に置かれた。飾りには花火が刺さっており、華やかに火花を散らしていた。
「良いのでござるか? このように高価そうな菓子を馳走になってしまって?」
「良いの良いの。今日はお姉さんの
あげはからの厚意を無駄にするのも失礼だと、二人は遠慮無くパフェを堪能。あっという間に平らげたのだった。
「元気出た?」
「はい! でも・・・・・・」
確かにパフェは美味であったが、空虚な気持ちは晴れないままだった。
「それは、まだ悩みが解決してないって顔だね」
二人の表情を伺い、あげはは年上として相談に乗ることにした。
「今日はどうして二人だけなの?」
「その、ましろさんは今日から学校で・・・・・・」
「拙者たちはヨヨ殿に頼まれて材料の買い出しに・・・・・・」
「ふーん。なるほど」
ソラとシグレの話を聞いたあげはは何かを納得したかのように頷く。
「つまり、ソラちゃんとシグレちゃんはましろんと一緒じゃなくて寂しいんだ」
「・・・寂しい?」
「そう、なんでしょうか・・・・・・」
今の今まで自分たちに宿る心境に自覚が無かったらしい。
「分かるよ~。ましろんの優しさってお日様のポカポカ陽気みたいでさ、側にましろんがいないと途端に寂しくなる!」
「そうなんです! 今日はいつもとなんか違うなって思ってたけど、それはズバリ! ましろさんと一緒にいないから。だったんです!」
ソラは前のめりで立ち上がり、あげはの言う通り自分の抱えている気持ちに合点がいったようだ。
「そうです。シグレさんと一緒にいると緊張してしまうのは、きっとそれが原因だったんです。うんうん」
「ん?」
何やら一人でブツブツと呟くソラにシグレは首を傾げた。
「でも、それ伝える相手が違うんじゃない? ましろん本人に言ってみたら?」
「言えません。ましろさんに言うのは何だか照れ臭くて・・・・・・」
「ましろ殿が学校に行くのは致し方ないこと。寂しいなどとワガママを言って困らせる訳にも・・・・・・」
踏ん切りが付かない二人にあげはがまた呼び掛けた。
「ソラちゃん、シグレちゃん。もうちょっとだけ付き合ってくれない?」
あげはに連れられ、今度はメイクの試行スペースのドレッサーに座らされるソラとシグレ。
「あげはさん。わたし、メイクは・・・」
今までメイクなどしたことがないソラは少々不安気。第一、メイクをする気分でもない。
「メイクはさ、ただ美しくなるだけじゃない。ちょっとの勇気が足りない時、力を貸してくれるんだ。なんつって!」
あげはは二人の唇にリップを塗り、頬にパフを当てる。
「仕上げにもっとキラキラ」
最後にシャイニーパウダーを当てて完了。鏡に映る可愛く見違えた顔にソラは見惚れた。
「すごい・・・キラキラです。それに・・・良い香り」
「キラキラってアガるよね!」
気分を前向きにさせることができたことにあげはは満足。そして、シグレの出来映えはというと、非常に美しく魅力的な顔立ちになっていた。
「うっそヤバ、シグレちゃんめちゃくちゃ美人さんじゃん!」
「本当、キレイです・・・」
元々の素顔が端麗だったこともあり、ソラとメイクを施したあげはが絶句するほどの仕上がりとなっていた。
「さようでござるか? 化粧をしたことがない故、よく分からぬでござるが」
シグレもお洒落を
ともあれ、あげはに勇気付けられたお陰で二人はいつもの元気を取り戻した。
「今なら何だってできそうな気がします!」
「よーし。じゃあ、ソラちゃんたちのさっきの気持ち、ちゃんとましろんに伝えて!」
「はい! 行ってきます!」
急ぎ店のドアに向かって行こうとしたソラとシグレだったが、踵を返してあげはの許へ戻って来る。
「あげはさん、ありがとうございました! では!」
「誠に、かたじけなかったでござる!」
深々とお辞儀をした二人は今度こそ店のドアを開け、駆け出して行った。
「青春だね!」
あげはは二人を見送った後、意味有り気にニンマリと笑みを浮かべていた。
(ソラちゃんには、もう一つの気持ちにも気付いてほしいんだけど)
実は、あげはが二人に声を掛ける前にソラのシグレに対する反応を見ていたらしく、二人の今後の関係に僅かな期待を寄せるのであった。