ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
ソラとシグレは宣言通り、目立った行動をしないように注意を払った。
国語の授業では、以前ましろから教わった『千里の道も一歩から』ということわざが出題され、意味を知っていたソラは挙手しそうになるもすぐに自制した。
体育のスポーツテストにおいても、二人は目立たないために可もなく不可もない平均的な記録を狙うと言い出した。
ところがソラは、徒競走中に転んで擦りむいた生徒を助けようと全力ダッシュをして学園の新記録を叩き出したり、幅跳びで後ろの生徒のくしゃみに驚いて宙返りを決めてしまったり、ボール投げでも周囲の応援に調子付いて場外に投げてしまったりと、完璧に目立ってしまったのだった。
「結局、全ての記録で学園の新記録を出してしまいました・・・・・・」
「まぁ、落ち込まなくてもいいと思うな。すごいことなんだから」
「そう言ってくれるのはましろさんだけです・・・・・・」
想定していた結果とは違ってしまい項垂れるソラ。
一方のシグレは、有言実行で中間の記録を出していた。が、意識するあまりグッタリしていた。
「拙者はもう、一杯一杯でござる・・・・・・」
「シグレちゃんもあまり無理しない方が良いよ。二人共、元気出して!」
励ますましろだが、二人の表情は曇ったままだった。
ふと、シグレは元来た廊下を戻ろうとする。
「申し訳ないが、
そう言い、シグレは行ってしまった。それにしても、あの言葉遣いはどこで覚えたのやら。
用を済ませたシグレが廊下に出ると丁度、何やら騒ぎが起きていた。
「おい、どこ見て歩いてんだよ!」
「先にぶつかってきたのはそっちじゃないか!」
同じクラスの軽井沢あさひが他クラスの男子生徒三人に難癖を付けられ絡まれていた。
「オレたちがわざとぶつかったって言いたいのか?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!」
放って置けばあの三人があさひに何をするか、シグレはいても立ってもいられなかった。まるであの三人がカバトンとランボーグ、そしてクワガオーガのように見えた。
気付けば、シグレはあさひを庇い三人の男子に立ち塞がっていた。
「見ない奴だな。誰だ、お前?」
「弱い者いじめは止めるでござ・・・いませんこと? こちらの方はやってないと言っておる・・・おりますし」
「関係ない奴は引っ込んでろ! それとも、お前も痛い目に合いたいのか?」
「女だからって手加減しないからな!」
三人の内の二人が脅すが、そんなものに屈するシグレではない。正義感に燃え、受けて立とうと構えた。
一人の男子が突進してくるも、シグレはヒラリと避け、間際に足払いをして転倒させる。直後にもう一人の男子が殴り掛かるがそれも余裕で躱し、右の拳を男子の顔面へ打ち込むと見せて目前で寸止め、怯んでいるところを額にデコピンを食らわせて尻餅を付かせた。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
最後に残る一際背の高い男子が右ストレートを放つが、ランボーグに比べれば造作ない。シグレは難無く回避すると右腕を掴み上げ、見事な背負い投げを決めて男子を伸した。
「一人相手に寄って
男子三人をたった一人で伸してしまったシグレ。一部始終を傍観していた生徒たちは唖然とし、周囲を見渡したシグレはハッとする。
「・・・・・・し、しまった!?」
大いに目立ってしまったシグレは冷や汗を滴り落とす。
シグレと男子三人と職員室に呼ばれ、事情を説明してお咎め無しとなった。それからすぐにソラとましろが迎えに来たが、シグレの顔は絶望一色となっていた。
「やってしまった・・・・・・」
「気にしないでシグレちゃん。あれは隣のクラスの意地悪トリオって有名な三人組で、みんなを困らせてたの。けど、シグレちゃんのお陰で反省しただろうって」
「しかし、代わりに拙者が皆を怖がらせてしまったのではないかと思うと・・・・・・」
思い詰めるシグレに連鎖してソラもまた気落ちしてしまう。
「きっと皆さんは、わたしたちのことを変だと思っています。もしこれで別の世界から来たことまでバレてしまったら、もう皆さんとは友達には・・・・・・」
「友になるどころか、ここにもいられなくなってしまうやも知れぬでござる・・・・・・」
「じゃあ、目立たないようにしてた一番の理由はみんなと友達になりたかったから?」
二人は力無く頷いた。せっかくましろと同じ学校に通えたのに、クラス中から爪弾きにされてしまったら二度と立ち直れないかもしれない。
「それなら気にすることないと思うよ」
ソラとシグレの
「ソラちゃん、すっごくカッコ良かったよ!」
「みんな、宙返り教えてほしいって!」
体育の時間でのソラの偉業につむぎとるいは大絶賛する。
「シグレもスゲーカッコ良かった。助けてくれて本当にありがとう!」
シグレに窮地を救ってくれたあさひは絶大に感謝の言葉を送る。
意表を突かれたソラとシグレは一瞬呆気に取られていたが、褒め称えられたことで少し元気を取り戻した。
三人が教室へ戻っていくと、今度はましろがソラとシグレの手を引いた。
「ソラちゃん、シグレちゃん。ちょっと付いて来て」
ましろに誘われ辿り着いたのは屋上であった。今は誰もおらず、三人の貸し切り状態だった。
「ましろさん、ここって?」
「わたしのお気に入りの場所だよ」
澄んだ青空に春の陽気。麗らかな日和が居心地良い。
「ほら、見て」
ましろに促されてソラとシグレが柵の向こうを見ると、薄紅色の花を満開に咲かせた木が中庭に生えていた。
「綺麗でしょ?」
「はい。何ていう木ですか?」
「あれは━━」
「サクラでござるな!」
「シグレちゃん、桜知ってるの?」
初めて見るだろうと教えてあげるつもりだったましろだが、シグレが名前をピタリ言い当てて驚いた。
「拙者の故郷にも同じ名の木が生えていて、なんでもスカイランド剣術の創始者が持っていた種を植えたものだとか」
『侍』といい、『桜』といい、こちらの世界の言葉をシグレが知っているのが不思議でならない。そもそも、スカイランド剣術の創始者とは一体何者なのか謎が深まる。
今はそれよりも、ソラとシグレに伝えるべき言葉があるのだ。
「ソラちゃん、シグレちゃん。クラスでもっと自分のことを出していいんじゃないかな?」
素性を隠そうとするあまり空回りしていたソラと、こちらに合わせて不自然な喋り方をするシグレ。窮屈そうにする二人をましろの柔らかな言葉がほぐしていく。
「実はわたしもね、入学した頃新しい友達と上手く話せなくて、どうしようどうしようって気持ちばかり焦っちゃって・・・・・・。そんな時、ここに来たらあの桜に元気をもらって、何だか肩の力が抜けたんだ」
あの桜がましろに勇気をくれた。そうして今、つむぎたちと友達になることができた。
「ソラちゃんとシグレちゃんは今のままのわたしで良いって言ってくれたよね? 二人ももっと肩の力を抜いて、いつものソラちゃんとシグレちゃんで良いと思うな」
以前ましろを励ました言葉が、今度はましろから自分たちに返ってくるとは。二人は忘れていた自分らしさを思い出した。
「ましろさん、ありがとうございます。お陰で吹っ切れました!」
「拙者も胸中に渦巻く悩みが晴れていったでござるよ!」
もう迷いは無い、普段の元気な二人に戻っていた。
「ここからはいつものわたしたちにチェンジします!」
* * *
その頃、不信な集団が校舎を
「ニッヒヒ、あの衝撃に導かれて来てみれば、何だか良い予感がしてきたのねん!」
学ランを着込んだ見覚えのある豚顔の男に同じく丈の長い学ランを来た集団が後を付いていく。
すると、食欲をそそる芳しい香りが男の豚鼻を刺激する。
「クンクン、良い匂いがしてきたのねん。あっちか!」
匂いに釣られ、男はその源へと引き寄せられていった。