ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
ニャシュランの一人称を「あっし」に変えましたのでご了承ください。
「宿題良し。学校の準備良し!」
その日の夜。ソラは明日の学校に備えて指差し確認をしていた。
「あとはシグレさんとましろさんに、おーやーすーみーなーさーいを」
そう言ってソラは部屋を出ていってすぐ、昼間の少年が再び姿を現すと揺りかごで眠っていたエルが目を覚ました。
「ごめん。起こしちゃったね」
エルは少年を見ても怖がっている様子はなかった。
「心配で見に来ちゃった━━」
「誰?」
突然声がしたかと思えば、ドアの隙間からソラが般若のような形相で睨んでいた。部屋から出たと思わせて待ち構えていたのだ。
「あなた、誰ですか!?」
「ボ、ボクは・・・・・・」
「泥棒? 人拐い? ニンジャ? それとも・・・カバトンの仲間!?」
問い詰めるソラの気迫に圧され、少年は慌てて窓から飛び出した。地面に落下するが尚も逃走を図ろうとする。
騒ぎを聞きつけたシグレが部屋に入ってきた。
「何事でござるか!?」
「シグレさん、知らない男の子が部屋の中に。たった今外へ逃げていきました!」
シグレはソラが指差す方向に少年の姿を視認する。
「おのれ、くせ者!」
逃がすまいとシグレも窓から飛び降り、少年の上に覆い被さり押さえ付ける。
「な、何の音?」
あまりの大捕り物にましろも自室の窓から顔を出した。
「怪しい人を捕まえました。日中忍び込んだのも、きっとこの男の子です!」
少年はもがいて抵抗するも、シグレが体重を掛けて身動きを封じる。
「もう逃げられぬでござる。神妙に致せい!」
「イタタタタ! 潰れる潰れる!」
すると、少年がオレンジ色の煙に包まれ、馬乗りになっていたシグレの視界が奪われてしまう。
「ゴフッ、ゴホッ、煙幕で逃れるつもりでござ━━?」
シグレは少年を押さえている手の感触が変わったことに気付く。言うなれば、つきたて餅のようにプニプニと柔らかい。
煙が晴れると、シグレの手には少年━━ではなくオレンジ色の羽毛に覆われた一羽の鳥が捕まっていた。
「その子を放してあげて、シグレさん」
唐突にヨヨが割って入ってきた。
「私のね、知り合いなの」
鳥と知り合いとは一体どういうことなのだろう。疑問に思いつつ、シグレは鳥を解放した。
その鳥は皆の前に向き直すと、
「ボクは、ツバサ・・・」
「鳥が・・・喋った!?」
先ほどまで少年の姿をしていた鳥が、インコやオウムよりも
「言葉を話し、人間に変身できる鳥さん!」
「さてはお主、スカイランドに住まうプニバード族でござるか?」
ソラとシグレには鳥の少年の正体に見当があった。プニバード族と呼ばれるスカイランドにしかいない知性ある鳥類だ。
* * *
家の中に戻ったソラたちはツバサからこれまでの経緯を聞くこととなった。
「一年ちょっと前、ボクはこの世界に落ちてきました」
嵐が来るとスカイランドとソラシド市が異次元のトンネルで繋がることがあり、ツバサはそこを通ってこちらの世界に落ちてきた。怪我をしていたところをヨヨに保護されたのだという。
「それから、ずっとここでヨヨさんのお世話になっています」
「一年前って、わたしがこの家に越して来た頃だよね? ずっとただの鳥のフリをしてたの?」
「信じてもらえないと思って・・・・・・」
ツバサがそう思うように、にわかに信じられる話ではない。ソラたちと出会う前のましろであれば尚更であっただろう。
「ターイム!」
不意にソラが大声を出したものだから、驚いたツバサが煙と共に少年の姿へと変わってしまった。
「わたしとシグレさんとエルちゃんがこっちに来た後なら、いつだってスカイランドのことを話せたはずです! なのに黙ってた、どうしてですか!?」
自分たちにまで内緒にしていたツバサに対してソラは納得がいかず唸りだす。
「怖い顔になっちゃってるよ、ソラちゃん」
「何も犬のように唸らずとも」
「ワン!」
本当に犬みたいに吠えてどうするのやら。
「おばあちゃんにトンネルを作ってもらえば、とっくにスカイランドに帰れてるはずだよね?」
「もしくは、こちらの世界に残らなければならない事情でもあるのでござるか?」
「それは・・・・・・」
ましろとシグレの質問にツバサは歯切れの悪い反応をして口を閉ざしてしまう。
「ヨヨさん、エルちゃんの側に信用できない人を置いておく訳にはいきません。きちんと説明してください!」
ソラの追及にも沈黙したまま。はぐらかそうとするツバサの態度にソラの我慢は限界に達した。
「もう、いい加減にしてください! 何を隠してるんですかー!」
「え・・・、えるぅ~!」
ソラの度重なる大声に驚き、エルがとうとう泣き出してしまった。狼狽えるソラにシグレが落ち着かせようと声を掛ける。
「ソラ殿も思うところはあるかも知れぬでござるが、今晩はこの辺りにして明日改めて話を聞けばいいでござろう?」
シグレの説得にソラはコクリと頷く。エルを寝かしつけるため今宵はここでお開きとなった。
* * *
翌朝。ましろがリビングに降りてくるも、いるはずのソラの姿が見当たらない。
「あれ、ソラちゃんは?」
「今日は学校休むって。寝ないでエルちゃんの側にいたみたい」
未だにツバサのことが信用できないソラはエルの傍らで一晩中寝ずの番をしていたらしい。
揺りかごで眠っているエルを見つめながらソラは自身の不甲斐なさに苛まれていた。
(もしあの子がカバトンの仲間だったら、今頃エルちゃんは連れ去られていました・・・・・・。未熟!)
最悪な想像が頭から離れず、膝を抱え悶々としているソラの許にシグレがやってくる。
「あまり気を揉まない方が良いでござるよ」
「シグレさん、学校は?」
「ソラ殿が心配で拙者も休む旨をヨヨ殿に伝えてきたでござる」
シグレが左隣に座り寄り添うと、ソラは気が緩んだのか心に凝り固まった弱音を吐露した。
「わたし、油断していました。もしもカバトンたちにこの家のことがバレて、エルちゃんが拐われてしまっていたらと思うと・・・・・・」
「それはソラ殿だけの責任ではないでござる。一人だけで思い悩み抱え込む必要はないでござるよ」
こればかりは誰か一人を責め立てることはできない。エルの身を預かっている以上、全員で守ってやらなければならないのだ。
「昨晩から一睡もしておらぬのでござろう。少し休むでござる」
「でも・・・・・・」
「根を詰めすぎて体に大事があっては元も子もないでござる。拙者が代わりに姫を見ているでござるから」
シグレの温もりのある言葉にソラは睡魔に誘われ、シグレの右肩に頭を
しばらく見張りをしていると、エルが目を覚まして自力で揺りかごから降りてドアへと這っていく。シグレは寝ているソラをベッドの縁に寄り掛けるとエルの後を追った。
廊下に出た直後、少年の姿をしたツバサに出くわした。
「あ、あの・・・・・・」
ツバサはばつが悪そうにしていると、シグレが穏やかに語り掛ける。
「お主も、姫の身を案じていたのでござろう?」
てっきり批判されるのではと思っていたツバサは、シグレからの予想外な言葉に黙ったまま頷いた。
「拙者たちがいない間、姫のことを見守ってくださり誠にかたじけないでござる」
「ボクのこと、信じてくれるんですか?」
「お主からは悪意を感じられぬ。もしカバトンやクワガオーガたちの仲間であったなら、拙者たちがいない隙に姫を拐う機会などいくらでもあったはずでござろう?」
ツバサは敵ではない。シグレは彼の人柄(?)をとっくに見極めていた。
「何より、姫がお主を見ても怖がっていないのが証拠。赤子は周囲の人間の心根を敏感に悟ることができるでござるからな」
「・・・・・・・・・・・・」
「お主がどんな理由でこの世界に留まっているのかは分からぬが、拙者たちのことを信頼し得てくれたのならいつでも話してくれて構わぬでござる」
信頼するというシグレに今まで強張っていたツバサの表情が少し和らいだ。
二人が話をしていると、エルが壁を支えに再び掴まり立ちを試みようとする場面を目にし、シグレとツバサは会話を止めて静観をする。
「エルちゃん!?」
「「しーっ!」」
起きたらエルの姿が無く慌てて部屋から飛び出してきたソラに、二人は左の人差し指を口元に当てて静黙を懇願。ソラは両手で口を押さえ声を塞き止め、エルの様子を見てすべてを察した。
エルはよろけながらも両足を踏ん張りバランスを取ろうとする。三人は固唾を飲んで見守っていると、エルの両手が壁から離れ、完全に直立を果たした。三人がその光景に感激しているのも束の間、エルが後ろへ倒れそうになるところを透かさずスライディングしながら受け止めた。
たった数秒ではあったが、確かにエルは一人で立って見せた。感動したソラはエルを強く抱き締める。
「頑張ったね! 諦めなかったね! 偉いね!」
ソラは涙を流しながらエルの成長を大いに喜んだ。
「立派でござったぞ姫、よくぞやり申した!」
シグレもエルの頭を撫でて称賛する。
彼女たちの誠実さを垣間見たツバサは決意の言葉を口にする。
「ソラさん、シグレさん。一緒に来てもらえませんか?」